どんぐりころころ どんぶりこ
お池にはまって さあ大変
どじょうが出て来て 今日は
ぼっちゃん一緒に 遊びましょう
ご存知、童謡「どんぐりころころ」である。昨年、「日本の歌百選」に選ばれた。この歌詞に出てくる「どんぶりこ」は、ドングリが池に落ちた音の擬音語であるが、‘どんぐり’に引かれて「どんぐりこ」と間違えて歌う人の、なんと多いことか。
幼稚園で新卒の先生を採用する際、突然、この歌を歌ってもらい、正しく「どんぶりこ」と歌える先生は、採用してまず間違いがない。
ころころ転がる団栗は、子供たちの大の仲好しだ。
柏・楢・樫・一位・クヌギ・椎などブナ科に属する木の実は、同じブナ科でも、栗の実とは大違いの不出来な従兄弟たちで、ドングリと一まとめに呼ばれている。
橡栗(とちぐり)の転かともいわれるが、‘まるい栗’の意で、団栗と書くようになったらしい。
団栗は、渋くて生ではとても口に合わない。それだけに、好んで食べられる栗とは違って、棘の恐ろしい毬をまとって、外敵を防ぐ必要はない。
いかにも鄙びたお猪口に乗って、艶々としたかわいいふくらみを見せている団栗は、秋の山に遊ぶ子供たちを、夢中にさせずにはおかない愛嬌ものである。
団栗やころり子供のいふなりに 一 茶
とか、
笠敷いて着ること知らず小楢の実 乙 二
などの句は、その童心の世界を詠んだものである。
芭蕉に団栗を詠んだ句はないが、橡(とち)の実を詠んだ句が、一句だけある。
木曽の橡浮世の人のみやげかな 芭 蕉
木曽の山奥で拾った珍しい橡の実を、世の営みに追われて山奥を知らぬ
人々への土産としよう。
「浮世の人」という言い方は、浮世の外にいる自分の身のありかたを意識した言い方である。俗人への土産にしようという意に解すると行き過ぎで、浮世の外の旅の土産として、世の常の生活をする人に、珍しがられ喜んでもらおうという、和らいだ気持だととりたい。
水楢や白樫の団栗が、半分以上も深々とお猪口の中に収まって、まるまるとした頭をのぞかせているところは、山形あたりの郷土玩具にある、籠の中に収まった人形を思わせる愛らしさがある。
また大粒の団栗の中心に軸を通して、独楽遊びをしたり、いろいろ細工を加えて郷土人形を造るなど、なかなか楽しみの多いものである。
秋、実る木の実を‘木(こ)の実’と総称するが、やはり小粒で色彩の地味な、そしてこぼれやすい団栗・樫の実・椎の実などが、ほんとうの木の実であろう。
その木の実でつくる木の実独楽――も美しい夢のある季語である。
さかんに降りこぼれる木の実の音を、木の実しぐれ・木の実雨ともいう。
秋はロマンの時候であり、その精髄が、この一群の季題でもあろうか……。
掌にのつてさみしくないか木の実独楽 季 己
お池にはまって さあ大変
どじょうが出て来て 今日は
ぼっちゃん一緒に 遊びましょう
ご存知、童謡「どんぐりころころ」である。昨年、「日本の歌百選」に選ばれた。この歌詞に出てくる「どんぶりこ」は、ドングリが池に落ちた音の擬音語であるが、‘どんぐり’に引かれて「どんぐりこ」と間違えて歌う人の、なんと多いことか。
幼稚園で新卒の先生を採用する際、突然、この歌を歌ってもらい、正しく「どんぶりこ」と歌える先生は、採用してまず間違いがない。
ころころ転がる団栗は、子供たちの大の仲好しだ。
柏・楢・樫・一位・クヌギ・椎などブナ科に属する木の実は、同じブナ科でも、栗の実とは大違いの不出来な従兄弟たちで、ドングリと一まとめに呼ばれている。
橡栗(とちぐり)の転かともいわれるが、‘まるい栗’の意で、団栗と書くようになったらしい。
団栗は、渋くて生ではとても口に合わない。それだけに、好んで食べられる栗とは違って、棘の恐ろしい毬をまとって、外敵を防ぐ必要はない。
いかにも鄙びたお猪口に乗って、艶々としたかわいいふくらみを見せている団栗は、秋の山に遊ぶ子供たちを、夢中にさせずにはおかない愛嬌ものである。
団栗やころり子供のいふなりに 一 茶
とか、
笠敷いて着ること知らず小楢の実 乙 二
などの句は、その童心の世界を詠んだものである。
芭蕉に団栗を詠んだ句はないが、橡(とち)の実を詠んだ句が、一句だけある。
木曽の橡浮世の人のみやげかな 芭 蕉
木曽の山奥で拾った珍しい橡の実を、世の営みに追われて山奥を知らぬ
人々への土産としよう。
「浮世の人」という言い方は、浮世の外にいる自分の身のありかたを意識した言い方である。俗人への土産にしようという意に解すると行き過ぎで、浮世の外の旅の土産として、世の常の生活をする人に、珍しがられ喜んでもらおうという、和らいだ気持だととりたい。
水楢や白樫の団栗が、半分以上も深々とお猪口の中に収まって、まるまるとした頭をのぞかせているところは、山形あたりの郷土玩具にある、籠の中に収まった人形を思わせる愛らしさがある。
また大粒の団栗の中心に軸を通して、独楽遊びをしたり、いろいろ細工を加えて郷土人形を造るなど、なかなか楽しみの多いものである。
秋、実る木の実を‘木(こ)の実’と総称するが、やはり小粒で色彩の地味な、そしてこぼれやすい団栗・樫の実・椎の実などが、ほんとうの木の実であろう。
その木の実でつくる木の実独楽――も美しい夢のある季語である。
さかんに降りこぼれる木の実の音を、木の実しぐれ・木の実雨ともいう。
秋はロマンの時候であり、その精髄が、この一群の季題でもあろうか……。
掌にのつてさみしくないか木の実独楽 季 己