こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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2010-03-22 23:33:11 | 訪問看護、緩和ケア
あまりにも痩せて、白い布に包まれた彼の身体は、本当はそこにいないのではないかと思わせるほどに、軽々とストレッチャーに乗せられました。

部屋のなかは、先ほどまでヘルパーさんや看護師がかたずけてくれていましたが、今はもう私しか残っていません。

ヘルパーさんは、本当によく見てくれました。
食べられないのに、食材を買ってきてほしいと言われれば、買ってきていつでも食べられるようにセッティングしてくれていましたし、トイレに行きたいと言えば、抱えて連れて行ってくれました。もう喉を通るはずのないお酒も、苦しくて吸えるはずのない煙草も、見えるところに置いてくれていました。
独り身の彼のベランダには、いつも洗濯物がヒラヒラと揺れていましたね。

だから私も先生も、なるべくならヘルパーさんを第一発見者にはしたくなかったのですが・・・

それでも、一緒にかたずけものをしてくれて、ゴミもまとめ、冷蔵庫の中もきれいにかたずけてくれていました。
死亡確認も、一緒に聴いてくれました。
ここのヘルパーさんには、こういうケースばかりをお願いして、申し訳ないと思いつつ、安心してお任せできるので、いつも無理を言ってお願いをしてしまいます。

隣のおばさんの、数回会っただけの近所の人もお顔を見に来てくれました。

先生がお別れのあいさつを言って帰られてからも、一緒に身辺整理をしてくれてから、名残惜しそうに帰って行かれました。

葬儀社の方が二人、暖かな春先の小道をストレッチャーで運びます。

紺色のバンの後部ドアをバタンと閉めました。

「独居の方、多いんです。」葬儀社の方が言います。
「でも、こんなにいろんな方が関わってくれて、お幸せだったと思いますよ。本当に誰にも気ずかれない方もたくさんいらしゃいますから。そうしたら、まず警察が入りますし、監察医務室ですから・・。あとは、責任もって私たちが納骨までいたします。ありがとうございました。」

私は、その小道の真ん中で頭を下げ、こん色の車が角を曲がって見えなくなるまで、立っていました。

私が、最後まで、ちゃんと、見送らなければ、イケナイ。

そう思っていました。
彼は、旅立ったのです。
砂利道が、妙に白く明るく見えました。

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4 コメント

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胸いっぱいの愛を感じて…! (魚になれる日。)
2010-03-23 18:39:40
ありがとうございました。


何故か見ず知らずの彼なのにかわりに感謝の言葉を言わなければ…!

そんな気持ちになりお邪魔します!

きっと幸せな旅立ちだったと思います!


本当にありがとうございました!


彼に関わった無償の愛を授けて下さった皆さんにも心から感謝いたします。

どんな生い立ちでどんな人生だったのかはも~どーでもいいことで…!

最後良ければ全て良し…とか?


貴女に出会えた事で彼の人生は最高の幸福だったのではないでしょ~か

きっとありがとうの笑顔で天国のお花のアーチをくぐりこれからは爽やかな風となって私達を見守って下さるのでは…?

ご冥福を祈りながら!

貴女の人は最後まで人らしく生き逝く姿勢を教えられ今後の介護の糧にしてゆきます


本当にお疲れ様!ソシテありがとうございました!

合掌!
どうもありがとう。 (こぶた部屋の住人)
2010-03-23 22:00:53
一緒に見送ってもらえたような気がします。

本当に満足だったのかどうかは、彼にしかわかりませんが、少なくとも関わった人たちみんなが、彼の事を親身にお世話していた事は事実です。

彼の過去に何があったかはわかりませんが、彼は私たちには礼を尽くしてくれましたし、とても穏やかな人柄でした。

ただ、いろいろと考えさせられた出会いであり、別れでした。

一緒に祈っていただいてうれしいです。
Unknown (ナル)
2010-03-23 22:36:10
こんばんは。
また書き込みさせて頂きます。
おつかれさまです。
ご冥福をお祈りします。
最後が近いときに人とふれあうことが出来たことは暖かい物を感じて旅だだたれたのではないでしょうか。
最近思います。別れがあるけど何か私にに残しているんだと。
何かできたかもと思いながらも別れてからホッとしてこれで良かったとも
いろんな思いが出てくる。
つらいけど悲しいけど素敵な仕事と再確認できる
またがんばろうと思うエネルギーを頂いてるのかな(感謝)
そうですね・・ (こぶた部屋の住人)
2010-03-23 22:55:22
一期一会・・・ですね。

毎回、いろんなものを頂きます。

心の中で、咀嚼しきれない事も含めて、きっと考える時間を与えられているのかもしれません。

それでも、次々にいろんな事が起きてきて、実は考える間もなく雑務に追われていくのが、なによりも辛いと思います。

ただ、患者さんとの出会いは、やはり私に与えられたものなのだと、真摯に受け止めたいと思います。

気持ちを前に向けて行かなくては・・・。

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