滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

垂直・両面発電パネルによるソーラーシェアリング

2020-10-30 03:25:25 | 再生可能エネルギー

 スイスの山の上の集落では、紅葉も終盤に差し掛かっています。

 最近はオンライン会議・セミナーばかりで、人との出会いや交流の場が乏しい日々ですが、10月には久々に現場での視察に参加する機会がありましたので、今日はその様子を報告します。

 参加したのは我が家から30㎞ほど離れた南ドイツの町ドナウエッシンゲンで運転を開始した、新しいタイプの野建てソーラー設備の見学会です。東西向きの垂直・両面発電パネルでソーラーシェアリングというのが新しい点です。

 

ドイツの新しいタイプのソーラーシェアリング

 ソーラー設備の事業者は、ドイツ全土で活動する市民エネルギー協同組合のSolverde。

 設備の設計は、新しいソーラーシェアリングのコンセプトを追求して独自システムの開発を行っているフライブルク市のNext2Sun社です。

 設置出力は4.1MWで、投資費用は320万ユーロ。市民エネルギー協同組合のメンバーのうち112人が出資することで実現されました。発電量は年4850MWh、1400世帯分の電力消費に相当します。


  敷地は、高速道路に隣接した14haの農地で、都市計画上、草地利用が指定された場所になっています。農地への野立て太陽光建設については、州によって多少の差がありますが、基本的には高速道路や線路脇などの限られた場所でしか行えません。そういった条件を満たす農地となっています。

 パネルは東・西向きの列で配置され、裏表両面で発電する「バイフェイシャル」タイプが採用されています。Next2Sunのハイコ・ヒルデブラントさんの説明によると、ここで使われているのは、表面の発電量が100%、裏面が85%という中くらいの性能のものだそうです。

 

 列の間隔は10mで、日当たりや大型農機での作業を配慮しています。現代的なトラクターはGPS制御で草刈りを行うので、パネル列のすぐ脇まで効率的に草を刈ることができます。その様子を下記のヴィデオから見られます。


垂直・両面パネル、東西向きを選んだ理由

 ヒルデブラントさんは垂直両面・東西向きを選んだ理由として、一つはより需要に近い発電カーブ、朝・夕・冬に発電量の多いソーラーパークを実現したいと考えたことを挙げます。2014年から買取制度で義務化されている直接販売・FIPのもと、より収益性の高い設備を実現するためです。

 もう一つの理由は、ソーラーシェアリングです。垂直パネルにより、敷地の90%を農業に利用し続けることが可能になります。

 

 同事例では草地指定の農地という事もあり、農業は飼料用の草の収穫のみです。複数の農家から土地賃借し、別の農家に農地を無償で貸しています。他の農作物の栽培については実証はこれからだそうです。

  垂直パネルでは、通常の傾斜したパネルよりも強い耐風構造が必要となります。そのため風上側の一列目の杭は、太く、また深さ2m以上も地面に食い込ませています。二列目以降でも1.5mというお話でした。

 

発電コストは6セント以下

 この事例で驚いた点は(よく考えれば当然のことなのですが)、発電コストが通常の野立てソーラー並みに低いということです。ドイツでは750kW以上の設備は入札制度に参加し、落札しなければ、買取(FIPのプレミアム)を受ける事ができません。

 

 この設備はもちろん入札制度で落札し、1kWhあたり約6セントの買取価格で、20年での利益率4%を実現しています。もちろん私の住むスイスの農業では考えられないほど広大な農地により実現されている価格ではありますが。

  Next2Sun社の技術を用いた大型のソーラーパークはこの事例でまだ2軒目だそうです。

 日本と異なりドイツでは、ほとんどソーラーシェアリングの例がありませんが、それには経済的条件(買取価格など)がより厳しいことと、そして農業助成制度面での条件が厳しいことが理由にあると言われています。


 このシステムがドイツで今後どれほど普及できるのかは分かりませんが、遅くとも2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、ドイツでも太陽光と風力をまだ大幅に拡張する必要があります。そういう意味で、経済性の高いこちらのソーラーシェアリング・システムは、野立ての分野では現実的な手法の一つになりうるのではないかと感じました。

 

有機農家協同体ヘッゲルバッハのソーラーシェアリング

 ドイツのソーラーシェアリングといえば、ボーデン湖近くの有機農家の共同体ヘッゲルバッハで、2016年末から稼働しているパイロット設備が有名です。こちらでも両面発電パネルを利用しており、出力は194kWです。ドイツらしい頑丈な作りで、架台の高さは6mもあり(高価で)、大型トラクターや脱穀機も普通に作業できる仕様になっています。通常の機材で輪作ができること、収穫量が8割以下に減らないこと、という農家側の要求に応えた結果でもありました。架台の柱は基礎を用いず、木の根状の杭で固定する技術が導入されています。


 遮光率は3割で、収穫量はその年の天候により、遮蔽物のない農地よりも少ない年もあれば、日照りの続いた2018年の夏には通常の農地よりも多かったそうです。

 農家協同体ヘッゲルバッハでは、太陽光の他、小型木質バイオマスガス化設備、蓄電池などを取り入れており、発電した電気の大半は農家の家庭、加工所、冷蔵施設で利用しています。

 ヴィデオ:ヘッゲルバッハ農家協同体でのソーラーシェアリングの設備と耕作の様子

 

https://hofgemeinschaft-heggelbach.de/






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