滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

太陽光発電が電力の20%を担う、スイスの現実的未来

2012-06-01 16:31:13 | 再生可能エネルギー

PV20%は可能、でもいつまでに・・?

スイスのソーラーエネルギー産業連盟であるスイスソーラーでは、福島第一原発事故の後より、2025年までに太陽光発電の電力生産に占める割合を20%に増やすことを目標に掲げています。その目標を言い換えると、2025年までに、現在スイスが5基の原子力発電所で生産している電気の半分に相当する12TWhを、設置出力12GWpの太陽光発電により生産するというものです。これは2022年頃までに廃炉になる予定の3基の原発の発電量に相当します。つまりスイスソーラーでは、脱原発の過程を大型のガス発電を用いずに、太陽光発電と省エネを中心として実現していくことを目指しています。

スイスでは、太陽光発電は、増産のポテンシャルが一番大きな再生可能電源です。このことについては専門機関の間でも意見が一致しています。連邦のエネルギー戦略2050でも、チューリッヒ工科大学のエネルギーシナリオでも、太陽光発電のポテンシャルはスイスソーラーと同レベルかそれよりも高いくらいに見積もられています。ただ異なるのは増産の速度です。スイスソーラーが2025年に成し遂げたいとしている目標(12GWp)を、国は2050年に成し遂げるようなエネルギー戦略を立ててます。

九州ほどの大きさのスイスで2011年に新規設置された太陽光発電の出力は100MWで、電力消費に占める割合はわずか0.27%です。残念ながらスイスはFIT導入に出遅れ、しかも不完全な形で導入したため普及が遅れているのです。スイスと比較できる大きさのバイエルン州では、既に8%を達成しています。ドイツ全体だと4%で、2011年度の新規設置出力は7500MWでした。国の大きさがスイスの10倍あるとはいえ、ドイツで1.5年程度で設置できた出力を、スイスは40年もかかって設置しようと計画しているのです。スイスはドイツよりも日射量が豊富なのにも関わらず・・。

エネルギー庁のソーラーエネルギー担当者は、3月に開催された全国太陽光発電会議でのプレゼンでスイスのソーラー産業に対して、「あなた方の数字は正しく、技術的には可能だ。だが政治的にはそれは望まれていない。」、と断言していました。現在行き詰まったままで放置されているスイスのFITの改善が、政治により速やかに進められなければ、このポテンシャルを2025年までに発揮することは難しいでしょう。

PV20%のスイス

具体的に2025年までに太陽光発電20%を達成するためには、年間7㎞2の増設が必要です。合計した設置面積は90㎞2、一人頭では12㎡になります。スイスにはソーラーエネルギー利用に適した屋根面やファザード面だけでも200㎞2ありますから、場所的には建物の表面だけでも十分にあるというわけです。

また、スイスソーラーの中間目標は、2018年までにPV10%を達成することです。スイスの太陽光発電のパイオニアであるトーマス・ノルドマンさんによると、この程度のレベルであれば、スイスの場合、日夜の電力需給のバランスはダム水力だけで十分に調整できるそうです。送電網の強化は地域供給網のレベルで必要です。

対して、10%以上になると、夏-冬間の蓄電が必要になりますが、これは既存およびに現在建設・計画中の揚水発電(既存が1.75GW、合計すると6.16GW分)や、電力の消費ピークである冬季の省エネ対策(建物の断熱強化や電気暖房廃止義務など)、そしてアルプス地域への重点的な太陽光発電の増設などで対処することができるといいます。というのもスイスの中でも西スイスや南スイス、そしてアルプス山間地では、冬の日射が「スペイン並」と言われるほど非常に豊富で、一年の発電量のうち40%が冬に生じるからです。またこの時点になると高圧送電網の適応も必要と言われています。

FIT、買取待ち設備の発電予定量は原発3基分

では、ポテンシャル実現のスピードを左右するスイスのFITの今後の改善の予定はどうなっているのでしょうか。
これまでのスイスのFITでは、太陽光発電の買い取り予算に何重もの制限(蓋)がかけられていました。一つは買い取り予算を捻出するために一般電気代に上乗せする賦課金の額。これは現在法律でkWhあたり0.6ラッペン(約0.5円)までとされており、実際には0.45ラッペンしか徴収されていません。来年からは法律が変わり0.9ラッペン(約0.8円)まで法律上は徴収可能になりますが、実際にはその一部ほどしか徴収されない予定です。

二つ目は、発電コストがkWhあたり25ラッペン以上(約22円)の技術については、買い取り予算が技術別に分配されていることです。そのため、すぐに実現できる太陽光発電には予算の10%しか充てられていません。これにより慢性的予算不足が生じて、買い取り希望者のウェイティングリストは1.5万件に上っています。ウェイティングリストの物件数の大半は太陽光発電(530MWp)です。

現在FITのウェイティングリストにある物件と既に実現された物件を合わせると、発電量は合計9TWhになります。これはスイスで2022年頃までに廃炉にされる3基の高齢原発の生産量を既に上回っているのです。本気でスイス政府が脱原発を考えているのならば、すぐにでも二重の蓋を外すべきですが、昨年決められた議員立法による決議にも関わらず、その計画は遅々としています。

全ての申請プロジェクトを買い取ったとしても、kWhあたりの賦課金は2.0ラッペン(1.8円)にしか上がらないそうです。また、2025年までに太陽光発電20%を実現するために必要な賦課金は、スイスソーラーによると最大でもkWhあたり2.4ラッペン(2.1円)。一世帯あたり、月5~9フラン(450~810円)と予測されており、ドイツの現在のそれよりも随分と低く抑えられるようです。

しかし、エネルギー大臣のドリス・ロイトハルド氏によると、「エネルギー戦略2050」が決まる2015年までは現行FITの根本的な改善は起こらないということです。大臣によるとその時には、10kW以下の小型設備は「ネットメータリング」式の自家消費モデルに移行するそうです。消費分の電気メーターと生産分の電気メーターを差し引きする余剰買取制度です。そして中型~大型設備には買取り期間を短くし、「蓋」をとったFITを適用する予定だそうです。

このような状況の中、スイスソーラーでは「2025年PV20%」の目標を達成するために、次の要求を国や州に対して行っています。

・FITのウェイティングリストを即刻に解消すること。
・建物省エネ改修の速度を倍増し、2%を達成すること。断熱改修と同時に節電・太陽光発電設置も改修助成に組み合わせとして入れること
・CO2税の増加:建物省エネ改修の財源であるCO2税を増加
・全ての新築で太陽光・太陽熱利用が行われるような助成制度
・研究費用を倍増
・州のエネルギー法で新築における太陽光発電の義務付け
・州の土地利用計画上、建物以外の場所での太陽エネルギー利用への規制緩和


参照:Swissolar、第10回全国太陽光発電会議

 

◆ エネルギー自立を目指す自治体より

~本「100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域」で掲載できなかった部分を掲載します


フォーアールベルク州のエネルギー研究所☆自治体のパッシブハウス作りをサポート
2050年までにエネルギー自立を目指して、計画を進めているフォーアールベルク州には、多くの先進的なエネルギー政策を実施する自治体がある。そういった地域では、公共建築や公共の土地の販売の際に、パッシブハウス基準での建設を義務付けている。ただ、自治体は省エネ建築の専門家ではない。そのため、同州のエネルギー政策の開発と実施のシンクタンクであるエネルギー研究所が、自治体に対して「自治体におけるサステイナブル建築」というコンサルタントプログラムを提供。同研究所にはパッシブハウスとエコ建築の専門家が働いているので、この人たちが自治体のパッシブハウス作りを手取り足取りサポートする。フォーアールベルク州の多くの地域では、公共建築の公募条件が「エコロジカルなパッシブハウス」であること。そうなると、そこに応募する地域の建築事務所もいやおうなくその手法を学ぶようになる。こういった規則により同州では一部の環境派の建築家だけでなく、建築界のメインストリームがレベルの高い環境建築に取り組んでいるのが特徴的だ。

 

◆ ニュース

★エントレブッフ村、風車が一番美しい建造物

ユネスコ生物圏保護区に指定されているスイスのエントレブッフ村。この村でチューリッヒ工科大学ETHが行ったアンケート調査によると、住民が「農家エッガーさん宅にある風車」を「地域で一番美しい建物」と考えていることが分かった。同村では、2011年12月に自治体の風力建設総合計画が住民議会で全会一致で可決された。これは州の風力コンセプトに基く計画で6~9基の風車を予定するもの。利便性と景観の側面を考慮した立地を選択している。村民の風車への受容度が高いのは、村で一番初めに風車を立てた農家の設備が美観的に納得のできるものであり、住民に愛されているためであるという。同村では住民の69%が風車は観光的アトラクションでもあると捉えており、73%が「ポジティブ~とてもポジティブ」なものであると考えていえる。また風車が見える場所に住む住民の方が、見えない場所の住民よりも風車をポジティブに評価した。

出典:Swisseoleニュースレター

 

★森林地域での風力利用を簡易化する方向へ

持続可能な森林利用が行われているスイスだが、国会が森林での風力利用に関する規制を緩和する方向で動き出している。国民議会の環境エネルギー委員は基本的に、森林地帯での風力設置を可能にしたいという意見で、上院も賛成している。スイスではアルプス地域での森林面積が増えていることから、再生可能電源を設置するための森林伐採については規制を緩和する。森林地域における風力利用や許可過程の簡易化については多くの議員立法案が国会に出されている。ただスイスの風力協会では、既に林道の整った地域での厳密な環境調査に基づいたプロジェクトのみ可能とすることを求めている。

出典:Swisseoleニュースレター

 

★2011年度電力消費量が2%減る

2010年度は景気回復で電力消費量が4%増えたスイスだが、2011年は2%減った。2011年には国民総生産が1.9%増え、人口も約1%増加したにも関わらず。低減の理由の一つとしてエネルギー庁は、温暖な冬を挙げている。2011年度の冬は暖房温度日数が前年度比で18%も減った。スイスの電力消費量の10%が暖房に使われていることから、温暖な冬の影響が大きいとみられる。このことは、電気暖房の禁止と建物の高断熱化が、スイスの電力需要に及ぼす影響の大きさを示している。スイスの脱原発とエネルギー戦略の最重要分野が建物の熱消費低減であることも納得できる。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース

 

★大ヒット、建物省エネ助成プログラム

2010年からスイスでは灯油・ガスに課税されているCO2税収の3分1を資金として、建物の省エネ改修を10年間にわたり助成するプログラムを展開している。助成の対象は断熱改修と再生可能熱源への交換だ。以来48000件の申請が許可され、断熱改修については4.4億フラン(約375億円)の助成金が許可された。これは予想以上の反響で、2年間の予算2億4千フランを上回る規模であった。そのためプログラムの運営主体である国と州は、4月末から助成金額のレベルを下げた。屋根・窓・外壁の強化には、これまで㎡あたり40フランから30フランの助成金。大人気の窓交換については、今後はファザードあるいは屋根改修と同時に行う場合にのみ助成が行われる。スイスではCO2法の改訂により、2013年以降CO2税額が引き上げられる。それをきっかけに、建物改修の助成資金も3割増やされる予定だ。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース

 

★スイスの新車市場、目標を3年遅れで達成

スイスは新車の重量は、ヨーロッパでも一番大きい方に属する。国と自動車輸入業界は毎年、燃費向上の協定を結んでいるが、2008年度の目標が3年遅れで守られた。2011年度にスイスで販売された新車の平均燃費は100㎞あたり6.39リットル、CO2排出量は㎞あたり155gである。昨年度比で3.5%減った。ただし新車重量は27㎏増えて、1483㎏である。エネルギー効率向上分が重量増大により相殺された形だ。改訂されたCO2法ではEUと同様に、2015年までに新車のCO2排出量を㎞あたり130gに下げることを義務付けている。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース

 

★会社別の電力ミックスをチェックできるサイト

スイスの20の市営エネルギー会社たちの集まった会社スイスパワーネットワーク(株)では、スイスで営業するほぼ全ての電力供給会社(約600社!)の電力ミックスを簡単にチェック・比較できるサイトを作った。www.strommix-schweiz.ch
スイスでは、電力市場が完全自由化されておらず、現在は大型消費者以外は電力会社を選ぶことができない。だが2014年には完全自由化される予定であり、これに備えてスイスパワー社はクリーンな電力供給を望む顧客獲得を狙う戦略を展開している。スイスパワーは、スイスの脱原発だけでなく、2050年までに脱化石することを求めている。

参照:スイスパワーネットワーク(株)プレスリリース

 

★太陽熱で工業用蒸気生産、アルプスの乳製品工場で

スイスでは工業熱への太陽熱温水器利用も増えている。2011年末にエンガディン地方の乳製品メーカLatariaEngiadinaisaSA(LESA社)では太陽熱温水器を屋根に設置。設備はチューリッヒ市営電力が所有・運転し、蒸気をLESA社に販売する。これにより年間70MWhの化石燃料が節約できる予定だ。導入されたのはパラボラ鏡を利用した新しいタイプの温水器で、100~300度蒸気を生産できる。スイスアルプス地方の日射はスペインに相当するため、太陽熱・太陽光利用のポテンシャルが特に大きい。

参照:LESA、EWZプレスリリース

 


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