滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ミセス・ペレットの楽しみと憂い

2010-01-28 20:25:50 | 再生可能エネルギー
今日は私が勝手に「ミセス・ペレット」と呼んでいる友人の女性、アニータについて紹介します。彼女はフリーランスとして、長年、雑誌「再生可能エネルギー」の編集長を勤める傍ら、同時通訳者、ジャーナリスト、企業広報の仕事をこなし、2人の愛娘の子育てにも、夫ペーターとのパートナーシップにも、趣味のサクソフォンと柔道にも、惜しみなくエネルギーを注ぎきる45歳のパワフルウーマンです。 (写真は自宅のソーラー温水器と愛娘と)


そんなアニータが昨年からネット上で独自に始めたのが、「再生可能エネルギーニュース(EE-News)」です。
http://www.ee-news.ch/
最新の再生可能エネルギー関連ニュースが、ソーラー、風力、小型水力、バイオマス、その他に分けて、ほぼ毎日のペースで更新されています。掲載されているのは、彼女の編集事務所に日々届けられる、エネルギー庁や県や自治体、再生可能関連の企業、国内外の業界連盟やNGOなどからのプレスリリースから選りすぐったもの。これらの情報の全てを本職の雑誌では紹介できませんし、雑誌が出るまでには古くなってしまうものもあります。新鮮な素材を、新鮮なうちにエネルギーに関心ある市民たちに提供する、貴重なサイトになっています。

もう1つ、アニータがこの数年情熱的に取り組んできたのがペレットというテーマ。彼女自身が数年来のペレットボイラーの利用者で、昔の灯油タンク室をペレットタンク室に改造して、二年分のペレットをまとめ買いしています。ペレットの納入の際には、タンカートラックからホースで直接タンク室にペレットを注入します(一般的なシステム)。写真は左がペレットタンク室への注入口。葉っぱに隠れていますが、もう1つの穴があって、それは埃吸出し用になっています。右が機械室のペレットボイラーとソーラー温水器の蓄熱タンクです。



そんな背景もあって、アニータはスイス全国のペレット供給会社から毎月価格の統計をとり、それを二つ目の自分のホームページ「ペレットプライス」で公開しています。ペレット販売会社にとっても、ペレット利用者にも、貴重な情報です。
http://www.pelletpreis.ch/
購入トン数ごとの平均的なペレット価格の変動グラフを見ると、この一年のペレット価格は税・輸送費込みでtあたり410フラン前後で落ち着いているのが分かります。 http://www.pelletpreis.ch/de/index/preise/entwicklung.html
また、ガス・石油価格とのkWhあたりの生産コスト比較では、灯油とペレットが同じくらいでガスよりも少し低いくらいなのが分かります。
http://pelletpreis.ch/de/index/preise/brennstoffvergleich.html

地域ごとのペレット供給会社のページを見ると、チューリッヒ市ガス会社や農協が、ペレット供給に携っている点が興味深いです。チューリッヒ市ガス会社は、バイオガス、ペレット、ソーラー温水器、エネルギー・コントラクティング事業を積極的に展開しているそうです。
http://www.pelletpreis.ch/de/index/anbieter/nach-firma.html(供給会社)
http://www.erdgaszuerich.ch/de/produkte-preise/holzpellets.html(チューリヒ市ガス)

そんな彼女が、一番危惧しているのが、CO2削減目標を手軽に達成するためにEUの1部の国(ベルギーやオランダなど)の効率の悪い石炭発電で、ペレットという高品質燃料が混ぜられて、燃やされているという現実です。CO2の帳尻を短期的に合わせるだけで、持続可能な資源利用に繋がらないこのような乱用は禁じられるべきでしょう。大型発電所でのペレット利用が拡大すれば、エネルギー効率が高く、ペレットが適した市街地の小規模な建物の暖房といった熱用途にも使えなくなったり、途上国の森林資源がペレット作りに犠牲になることも考えられます。

アニータがドイツの大手エネルギー会社のE・On社を取材した記事の1部を要約すると、「E.ON社では将来的に同社の23GWの石炭発電所の10%にペレットで発電することが考えられ、それは750万トンのペレット消費に相当する。それ以外にも同社はペレット発電施設の建設を考えており、そうするとE.ON社のみでのペレット年間需要量は1000万tに及ぶだろう、と同社はいう。しかし、2008年度に世界全体で生産されたペレットの推定量は1000万tである。」とあります。(出典www.ee-news.ch 12月16日付け記事"9.Industrieforum Pellet", Anita Niederhaeusernより)
彼女と対談されていた、日本の木質バイオマス専門家の方も日本で同様な目的でチップが火力発電所で燃やされている現状を嘆いていました。

木質バイオマスの利用にあたっては、地産地消を基本に、効率の高い熱利用を中心に据えるべき、と森を知る木質バイオマス専門家たちの多くが考えています。日本の事情については、深澤光さんの新著「薪暮らしの愉しみ」(創森社)に、日本での木質バイオマス利用政策の提言として書かれていますので、是非ご参照下さい。それ以外にも、日本の「ミスター薪」と名付けられそうな深澤光さんの新著には、いつもながら楽しく新しい薪話題が満載です。


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ドイツの電力マイナス価格についての記事を読んで

2010-01-21 17:29:14 | 再生可能エネルギー

すっかりご無沙汰しています。

先週まで、連日のマイナス気温と霧、雪にもめげずに木質バイオマスと省エネ建築の視察に日本から来られた方々を、案内していました。そんな季節だからこそ、パッシブハウスやミネルギー・P建築の快適性やエネルギー性能を説得力をもって感じることができました。

  

それで久々に家に戻り、久々にスイスの環境NPO「スイスエネルギー基金」のHP(http://www.energiestiftung.ch/)を見ますと、昨年末にドイツで電力が供給過剰により、マイナス価格になった「事件」の記事リンクを見つけました。ドイツのジャーナリスト村上敦さんのブログにはもうずっと前にその事件について的を射た解説をされています。

http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/

  

とはいえ、スイスに住む一般人として、とても気になったので、かなり遅ればせながら私の読んだ記事を紹介します。新聞「Zeit Online」の1230日付けの記事(http://www.zeit.de/2010/01/Kommentar-Stromで、タイトルは「調整の利かない過剰生産により電力市場の価格をゼロ以下に押し下げる」で、内容は要約すると下記の通り:

 

 

「祝日122526日にかけての嵐により、ドイツでは夜212時にかけて、風力発電により100GWh(1億kWh)が発電、送電された。これは20基の原発をフル稼働する発電量に相当する。これによりライプツィガーエネルギー市場における電力価格がkWhあたりマイナス20セントへ。26日の日中になっても価格はマイナスが続いた。」

優先送電される風力が低需要時に大量に発電ししているのに、石炭や原子力の大型発電所がそれに応じて出力を調整できないことが問題です。

このことについてZeit誌は大手電力コンツェルンの間違った投資方針の責任を問います。要約すると、「大手電力会社はこれまであまりにも長い間、風力の快進を無視し続けてきた。風力の発電量の上下に合わせて調整できる賢い送電網(スマートグリッド)や蓄電体の充実への投資に力を入れず、調整の利かぬ原発の寿命延長や大型発電所の計画に現を抜かし続けてきた」、というもの。(賢い送電網の推進は企業の責任というより、国家的課題だと思いますが・・)

 

先進的な固定価格買取制度によって分散型の再生可能電力の供給が順調に増えているドイツ。このようなスイスから見ると羨ましい(?)事件は滅多に起こることではないとはいえ、風力や太陽光電力の増産と同じくらいのペースでのスマートグリッドによる多種電源の連携制御や、それに必用な蓄電設備や臨機応変に出力を変更できる分散型電源を充実させることの重要性を改めて実感しました。またその際に、スイスなどの揚水水力が蓄電装置としてどのような役割を中央ヨーロッパで担っていくのか興味のあるところです。


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あけましておめでとうございます

2010-01-07 17:37:03 | お知らせ
皆様、あけましておめでとうございます。
今年もマイペースでブログを続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。

今年のスイスの大統領は1963年生まれの女性弁護士のドリス・ロイトハルトさんです。2006年に経済大臣になった、中道保守派のキリスト教民主党出身の政治家です。今年の、と書くのはスイスでは、毎年順番で、大臣の一人が大統領を勤める制度になっているため。そのため大統領といっても、特別な権限はありません。それでも、若く、そして統率力の優れた彼女によって、スイスの閣僚に新風吹くことを期待します。

スイスの家庭には毎週、生協コープが無料配布する広報誌が届きます。そのお正月号に載せられたロイトハルト大統領のインタビューの中で彼女は、今、スイスの経済を持続可能な方向に導いていく上で、スイスの銀行産業は今後小さくなることが予測されるが、その分を再生可能エネルギー技術といったクリーンテクノロジーの分野で職場を増やしていくことが重要だ、と語っていました。そして、スイスが今後より努力する課題については、生活の質を今日も未来にも保っていくために、気候保全、教育、研究、そして賢いモビリティ(交通)のコンセプトを挙げています。

ロイトハルトさんの新年の抱負を見て、私は2010年は改めて、「長持ちする日本やスイスづくり」に尽力する女性の活動を、意識的に応援したいと思いました。昨秋の日本での講演ツアーの時にも感じたのですが、女性は日本の資源利用や環境との付き合い方を持続可能にしていく上で、男性とは違った意味で、まだ巨大なポテンシャルを潜ませていると思います。

日本の女性は、あまり会社組織や既得権に縛られない柔軟な考えをもち、そして温暖化や環境対策に関して前向きな姿勢が強い人が多いように感じられました。聴衆の中でも、女性の方々は特に一生懸命聞いて下さっていました。そういった関心の高い女性たちが、専門や家庭においてレベルの高い実践・選択を行ってくれたら、「長持ちする日本」づくりは、もっと早く進むのではないかと思います。

そんな実践を行う女性の1人に、岩手県で活動される知人の若手建築家の片岸弓枝さんがいます。昨秋に、彼女が岩手県滝沢村に住むお施主さんのために設計したH邸を訪問する機会がありました。年明け第一号のブログにふさわしい、美しく、環境面において大変優れた住いです。

岩手の家H邸 設計 かたぎしゆみえ建築設計事務所(写真提供:片岸さん)







かたぎしゆみえ建築設計事務所のHP(HouseA)www6.plala.or.jp/katagishi/
片岸さんのブログ 
http://pub.ne.jp/mominoki/

この岩手の家は2009年にはエコ・ハウスコンテストいわての大賞を授賞しています。躯体には地場産の無垢材が用いられていて、屋根には43㎝のセルロース断熱材(U値0.08)、壁は23.5㎝(U値0.20)、窓は木製サッシの三層ガラス(U値1.4~1.6)、熱交換式の換気設備を入れています。Q値は0.97だそうです。暖房は居間にあるストーブ1つで行い、薪は一日2~3本を一回焚くだけ、というお施主さんの話でした。給湯はエコキュートです。

空間の印象は、暖かく、居心地の良く、家事・収納が機能的。自然素材の質感が、強さと安定を感じさせると同時に、洗練されていて、品があります。芯の通った、それでいてしなやかな片岸さんの人を見るようです。そして80㎡という面積(暖房面積)を感じさせないゆとりがある空間でした(2人暮らしには十分な広さですが)。建設コスト面でも優れています。経済性・環境性・快適性、そしてデザイン性において、東北の普及型の省エネ住宅プロトタイプとしてふさわしい家と感じました。このような住いが、『当たり前』になる未来を願います。

さてさて、話は変わりますが、「建設技術」誌の2010年1月号に拙筆の「スイスの省エネルギー建築政策の今~規制・ミネルギー・省エネ改修」が掲載されています。特集は、「『省エネ住宅新時代』さらなる省エネ要求にどう応えるか」。南雄三さん監修の興味深い記事が満載ですので、是非ご覧になってください。日本で初めてパッシブハウス認証を受けた家を設計したパイオニア、森みわさんの記事も掲載されていますのでお楽しみに。



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