滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

川の生態系への負荷が少ない小型水力の新技術

2011-02-26 10:57:05 | 再生可能エネルギー

「金のワット賞」は小型水力発電の新技術へ
スイスのエネルギー庁は5年前より毎年一月に、優れたエネルギープロジェクトに対して「金のワット賞(Watt d’Or)」を授与しています。今日は、2011年度に授賞した6つのプロジェクトのうち、「再生可能エネルギー部門」で表彰された、アールガウ州シェフトランド町の小型水力発電プロジェクトを紹介します。

昨年9月末より運転を開始したこの発電所は、スーレ川の再自然化事業と一緒に実現されました。そこには、川の生態系への負担が少ない「水渦発電(Wasserwirbelkraftwerk)」という新技術がスイスで初めて採用されています。英語では「Gravitation water vortex powerplant」というそうで、直訳すると「重力水渦発電機」となります・・。

水渦発電とは?
「金のワット賞」の資料では、この技術の原理を次のように説明しています:
川から自然な落差により水を引き、ローターの設置された円筒形のコンクリートの水槽に導く。水槽の底の中心には穴が開いていて、お風呂から水を抜くときのように、水の重力で渦が生じる。その力によりローターが回転、発電する(下記のヴィデオを見るとよく分かります)。

ローターは一分に20回程、ゆっくりと回転するので、魚が傷つく事なく上下流を行き来できます。驚くほどシンプルな作りであるため、メンテ要らずで、長寿命(50~100年)であるとのこと。さらにスイス水渦発電組合によると、渦により水の中に酸素が沢山取り込まれるので、水を浄化する効果があるそうです。落差70㎝で毎秒1000ℓの流量があれば利用できます。

ニュースヴィデオ(装置の全体、再自然化された川が良く見えます。)
http://www.youtube.com/watch?v=OAuX8I2zgmA

スイス水渦発電組合のヴィデオ(大学の実験装置が見れられます)
http://www.youtube.com/user/thedstgroup


地元住民が設立した水渦発電組合が実現
非常に興味を持ったので、スイス水渦発電組合の代表者の1人であるダニエル・シュティーガーさんに電話で話しを聞きました。

プロジェクトのきっかけは、アールガウ州のシェフトランド町にあるスーレ川の洪水。この川に接する敷地にある建設エンジニアのアンドレアス・シュタインマンさんの自宅は、浸水してしまいます。そこでシュタインマンさんは、溝と化していたスーレ川を再自然化することにより洪水防止機能を高め、生態系を回復させることと、新しい水力利用を同時に実現するプロジェクトを立ち上げます。

そのためにシュタインマンさんは、同じくアールガウ州出身の電気エンジニアのクラウディオ・ウルバーニさんとマーケティング専門家のダニエル・シュティーガーさんと共に、スイス水渦発電組合(GWWK)を設立。発電所と再自然化のための資金を集め始めました。同時に有限会社WWKEnergieを設立し、こちらが設備の実現を手がけます。

そしてスイス水渦発電組合は、大学や企業、環境団体等の協力を得て、僅か19ヶ月という猛スピードで、設備の運転開始に漕ぎ着けました。同組合は現在260名の組合員を持ち、技術の普及活動を行なっています。組合員にはスイスばかりでなく、ドイツやイタリアからの個人、企業や環境団体も参加しているそうです。

固定価格買取制度を利用、25世帯分の電力を生産
シェフトランド町の水渦発電設備は、スーレ川の1.5mの落差のある場所に設置されています。コンクリート水槽の直径は6.5m。出力は水量次第で10~15kWで、年8万~13万kWhの電気を生産します。これは20~25世帯分、あるいは50~60人分の電力消費に相当します。

設備建設の費用は、組合によると34万フラン(約3000万円)で、これには発電所だけでなく、スーレ川の再自然化の費用も含まれています。費用は主に組合費でまかなわれましたが、再自然化には州と国から助成金が出ています。また、売電には国の再生可能電力の固定価格買取制度を利用。25年間に渡り、1kWhあたり0.34フラン(約30円)での買取りが保証されています。

シュティーガーさんによると、水渦発電の価格はプロジェクトによって大きく異なり、経験からは小さな設備では20万フラン、大きな設備では100万フラン程度だといいます。この価格には、常に川の再自然化費用が含まれまれているのが興味深い点です。

メイドインスイス
水渦利用は100年前に発明され、その後オーストリアのフランツ・ツォルテラー氏が実用化しました。ですが、水力発電装置として洗練させたのはスイスの技術であると、シュティーガーさんは語ります。

「スイスの水渦発電では、水を貯水しないため、川の水位が常に変動します。そのため15分おきに水位の変化に対応して運転できるコンピューター制御ソフトが、企業秘密の部分なんです。」(シュティーガーさん)

もちろんシェフトランド町の設備はプロトタイプなので、今もシステムを改良する研究が続けられています。アールガウ州の大学研究所では、1対8の模型による実験が行なわれており、改良案は水渦発電組合のプロジェクトに反映される体制です。シェフトランド町の施設はコンクリートの水槽でしたが、スチール製のモジュール式水槽や、木製の水槽のプロジェクトもあるそうです。

再自然化事業と小型水力発電は常にセットで
シェフトランド町では、水渦発電が設置されたスーレ河の区間200mが再自然化されました。5つの堰が外され、川幅は4mから広いところでは40mに広げられ、自然な流れを取り戻しています。スイス水渦発電組合のメンバーでもある地元の自然保護団体が作った河原のビオトープと共に、再生された川は地元住民のオアシスとなっている、とシュティーガーさんは語ります。

シェフトランド町の水渦発電設備の脇には、一応、魚が上下流を通行するための魚道も設けられています。ですが、この魚道を用いなくても、魚が直接にローター水槽の穴を抜けて、通行する様子が観察されているそうです。

ポテンシャルとしては、スイスにある再自然化工事が必用な1.7万箇所に、水渦発電設備を組込むことができ、それにより100万世帯分の電気を生産できるそうです。実際には、スイス水渦発電組合は現在30箇所でのプロジェクトを進めており、さらに100箇所以上でもプロジェクトの準備をしています。

山国のスイスは水資源の豊かな国で、発電量の6割が水力により作られています。同時に水系再自然化の先進国として、何十年もかけて障害物のある河川区間を再自然化していくことを目指しています。そのため、水力設備の改修や新設は、必ずと言って良いほど再自然化工事とセットで考えられています。

それでも従来的な小型水力発電に対しては、役所や環境団体などから川の生態系に与える影響を憂慮する声が少なくありませんでした。ですが、環境への負荷の少ない水渦発電という新技術により、水力利用と川の自然再生の両方が得する関係が生まれます。

水渦発電には、スイスの輸出技術として、そして小型水力発電の推進力としてのこれからが期待されています。


参照:
www.gwwk.ch(スイス水渦発電組合)
energaia 1/2011


■ 2011年度「金のワット」授賞プロジェクト
(社会部門)
ジュネーブ市営エネルギー会社の貧困層を対象とした省エネ促進
(エネルギー技術部門)ツューリヒャーオーバーランド地方のゴミ焼却場と農家との協働による排熱利用の野菜栽培温室
(再生可能エネルギー部門)スイス水渦発電組合によるシェフトランド町の小型水力発電
(省エネ交通部門)スウォッチ子会社のBelenos Clean Power(株)とパウル・シェラー研究所、水素燃料電池によるモーター開発および家庭用水素生産に関する開発
(建物部門)バーゼルシュタット州営エネルギー会社によるシュトゥッキ地区の廃熱利用の地域冷暖房
(審査員特別賞)ソーラーインパルス、ソーラー飛行機プロジェクト


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先週末の国民・住民投票結果より

2011-02-18 12:02:13 | 政策
ベルン地方は温暖な2月が続き、マンサクや蝋梅が満開です。
先週末のスイスでの国民・住民投票で、私が注目していた案件の結果は下記の通りになりました。

ミューレベルグ原発の更新への住民意見~僅差で賛成が過半数
まず、法的拘束力はありませんが、ベルン州の古いミューレベルグ原発の更新への賛否を問う住民投票。更新に賛成が51.2%、反対が48.8%。僅差で賛成派が過半数です。投票率は51.7%。

新聞DerBund誌に掲載された投票結果の分析地図を見ますと、ベルン州の中でも人口密度の高い都市部はおしなべて反対(赤色)が過半数なのに対して、人口密度の低いアルプスやプレアルプス地域がおしなべて賛成(青色)。環境意識の高い都市部と保守的な田舎の対立構造が明らかになりました。(ちなみにミューレベルグ原発は都市部の近くにあります。)


出典:DerBund、2月14日付


特にベルンの山岳部は、原子力推進派で国粋・保守的なスイス国民党の勢力が非常に強い地域。例えば観光地として有名なグリンデルヴァルドでは65%以上が賛成しています。対して、首都ベルン地域では65.3%が反対、それを取り巻く自治体でも反対が過半数となっています。立地自治体であるミューレベルグでは61%が賛成です。

ベルン州政府はこの住民の意思を受け入れることを表明。しかし、本当に更新するか否かは、2014年の法的拘束力のある国民投票で決められます。まだ3年の時間があるので、反対派・賛成派共に余裕を見せています。反対派はそれまでに再生可能エネルギーの普及と価格低下が進むことに期待し、賛成派はそれまでに放射性廃棄物の処分地問題に進展があることに期待します。ちなみに、完全に2分したベルン州民の意見は、これまでの経験からスイス国民の意見とおよそ一致するそうです。

新聞DerBund誌では、今回の投票運動にかけられた資金額を、分かっているものだけでも次のように試算しています。人口100万人のベルン州での投票運動の資金額としては、高いのだそうです。
賛成派:賛成委員会約3000万円、国の原発促進団体AVES約1700万円、ベルン州電力約2900万円。合計7650万円程度。
反対派:WWFが1300~1500万円。ベルン州産業の団体が1300万円。グリーンピースも数百万~1千万円以上。バーゼル・シュタット州も数千万円。合計2550~4250万円程度。

ベルン州の自動車へのエコタックス法案と住民案~僅差で環境にとって恐怖の結果
ベルン州ではさらに、自動車税のエコタックス化の投票が行なわれました。ベルン州議会による法案は、自動車税を環境性の高い車に大幅に安く、環境性の悪い車へに大幅に高くするものです。これには、投票した州民の52.71%がJa(賛成)と答えました。

しかし、この法案に反対する自動車業界が出した住民イニシアチブ案も同時に投票されたのです。このイニシアチブ案は、ベルン州の自動車税を全体として33.3%低くし、環境に良い車への税金は安くするが、環境に悪い車への税金は高くしないというもの。つまり、環境に悪い車へも減税されるのです。気候やエネルギー・環境政策と正反対の方向に進むこの州民案には、ベルン州議会もスイス国民党を除いては大反対していました。そして住民投票の結果、この法案も50.4%のJa(賛成)を得ました。

投票者は、両法案が可決した場合にはどちらを優先するか、という項目にも答えます。そこで16万5728人がエコタックス案を、16万5862人が住民イニシアチブ案を優先させると投票しました。そして2万339人もが、この追加項目を無記入で投票したのです。その結果、134票差で住民イニシアチブ案が勝ちました。誰も予想しなかった結果です。この偶然とも言える僅差により、州の税収が年約100億円減ることになりました。ベルン州議会では、無意味な減税への責任を巡って、しばらくは熱い議論が続きそうです。

ニドヴァルデン州は最終処分地を拒否し続ける
ニドヴァルデン州では、放射性廃棄物の地層処分地の立地を巡って、過去20年間で5度目の住民投票が行なわれました。そしてまたしても、80%が反対という結果になりました。投票率は50.7%。ニドヴァルデン州はスイスに6つある地層処分地の候補の1つで、国には同州を候補地から外すことを求めています。

とはいえ、ニドヴァルデン州は2010年9月の住民投票で、(最終処分地の立地には反対でも)原子力の利用には賛成していましたから、自分勝手とも言えます。こういう行動をスイスでは、火を司る聖人フロリアンに護りを請うことわざと比べて風刺します。「ああ聖フロリアンよ、我が家を(火事から)お護り下さい。代わりに別の家に火を放って下さい。」というものです。

 ノイエンエッグ村は、学校の省エネ改修に大多数が賛成
また私の住んでいる自治体ノイエンエッグでは、学校を省エネ改修するための予算について投票が行なわれました。いくつかの省エネ改修のバリエーションの中から自治体議会が選んだのは下記の対策です。

①平屋根を改修し、断熱強化して、屋上緑化する
②窓と窓胸壁については、コンクリートを改修し、断熱強化する。全ての窓は断熱三層ガラスに交換する。既存の日除けシャッターを交換する。
③コンクリートのファザードを断熱強化する。

この改修対策は、国の建物省エネ改修プログラムの助成を得ることができるそうですから、改修後の外壁・屋根はU値0.2以下(断熱材18~20cm程度)、窓ガラスはU値0.7以下(断熱三層窓)であるということです。投票資料にあるコスト計算は下記の通り。(1フラン=0.85円で計算)

・ 準備費 297.5万円
・ ファザード・窓改修 6783万円
・ 屋根改修 1742.5万円
・ 周辺 85万円
・ 報酬 493万円
・ 建設付帯費 127.5万円

総改修費用は9528.5万円。そこに国からの助成金603.5万円が出ます。
これを差し引いた投資費用は8925万円。
これを人口5000人の自治体ノイエンエッグでは、87%の賛成票で可決しました。ノイエンエッグはスイス国民党の勢力が強い保守的な村です。それでも省エネ改修については、国の助成金プログラムのおかげもあり、非常に幅広い理解と支持があることが分かります。



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原発周辺の昆虫の奇形を調査する科学画家、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん

2011-02-12 10:30:07 | その他

スイスは毎日のようにお日様が輝き、東京の冬のようにぽかぽかです。
2月7日はスイスでは女性参政権40周年記念日でした。スイスの国全体では1971年になってやっと、(男性の)国民投票により女性参政権が認められたのです。直接民主主義は、政治に住民が直接参加できて、社会に大きな変化をもたらせる可能性があるという利点もありますが、時としては物事の決定に非常に時間がかかったり、社会にとっては最善ではない選択されうるというデメリット
あります。同じことが、エネルギー政策に関しても言えます。

原発更新の投票戦 ~ 自腹を切って新聞広告する市民
今回でこの話は終わりにしますが、ベルン州の原発更新に関する住民投票がいよいよ明日に迫っています。昨土曜日の「Berner Zeitung」新聞には、たくさんの意見表明の広告が出ていました。反対の広告は7つ。企業や団体の広告のほかに、自腹を切って1個人で出しているものや、100人近くの住民が集まって出資しているもの、50世帯の農家たちのものなど。いづれも全員の実名入りです。

写真:左が地元住民の広告、右が一個人の新聞広告の例


対して、賛成の広告は4分1面を使った大きなものが1つ。こちらも百人以上の実名入りです。スローガンは「ベルンで電気が消えないように」というもの。街頭ポスターと同じデザインで、これには「24時間電力?」「気候に良い電気?」というバージョンもあります。
下:原発更新に賛成派のポスターの1つ(出典:www.muehleberg-ja.ch)

  
上:原発更新に反対派のポスターの1つ(出典 www.atomabfall.ch)

特に駅空間ではポスター広告が盛んです。
私の住むコンサバな村の駅前にもこんな広告が。

ベルン州の再生可能エネルギーと省エネルギー産業に携る60社が結託したキャンペーンのものです。「再生可能エネルギーはベルン州の企業が建てる。原子力発電は違う。新しい原発にはNein(否決)を」と訴えています。これらの企業にとっては、今回の投票結果は死活問題です。原発が更新されるとなればこれらの企業にとっての国内市場は小さく留まり、更新しないと決まれば巨大な仕事量が待ち受けているのですから。

2月5日の生協が家庭に配布する新聞には、スイスの有名なアンケート調査機関であるリンク研究所の調査結果が掲載されていました。「スイスに新しい原発が建てられるべきだと思いますか?」という質問に対して、「44%がNo,19%がどちらかというとNo。13%がYes、12%がどちらかというとYes」と答えています。興味深いのは、女性の方が男性よりもずっとNoと答える割合が多かったという点です。(出典:Coopzeitung „Die Umfrage“, 5.2.2011)

とはいえ、このようなアンケート結果があっても、明日の結果は蓋を開けてみなければ誰も予測できません。

科学画家コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん
今日は上記のテーマとも関連して、スイスの科学画家でアーチストコルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんについて紹介します。ホネッガーさんは、25年間チューリッヒ大学の動物学研究所で科学画家として勤務した後、マインツとベルンの大学で教鞭をとっています。透明感があって美しい彼女の動物や昆虫、植物の絵は、博物館に展示されているだけでなく、高級シルクのテキスタイルデザインにも取り入れられています。

こういった仕事の傍ら、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんはヨーロッパの原子力施設周辺における昆虫の奇形について、長年にわたりフィールドワーク調査を行なってきました。ご本人の許可を得ましたので、その水彩画の中から数点をこのブログに掲載させて頂きます



(図)ベルン州ミューレベルグ原発周辺の二匹のホシカメムシ。左の個体は左の羽が曲がっている、右は矮小。©Pro Litteris

(図)ソロトゥーン州ゲスゲン原発近くの奇形のメクラカメムシ。©Cornelia Hesse-Honegger

(図)ゲスゲン原発近くのメクラカメムシの頭部。左の目が奇形。© Cornelia Hesse-Honegger

コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんは、これまでに1.6万個体のカメムシの調査を行なった結果、通常の奇形率が個体群の1~3%なのに対して、原子力施設の周辺での奇形率は異常に高く、場合によっては30%に達していることを観察しました。彼女の意図は自らのフィールドワークをきっかけとして、原子力発電所から出る放射能が環境や人間に与える影響について中立な調査が行なわれることです。
★ コルネリア・ヘッセ-ホネッガーさんのホームページ(英語) http://www.wissenskunst.ch/en/schweiz.htm


最後に、原子力物理学者でミュンヘンのマックスプランク物理研究所の元所長であるハンス・ペーター・デュール博士の言葉を引用します。
「原子力物理学者として、原子力への絶対的なノーを意味する理由を一つだけ述べる:我々人間は、最大可能な事故において、我々が責任が負えない被害を及ぼす技術は、一切開発すべきでない。この要求は、どのような確率が事故発生に関して計算されたかに一切関わらず、有効でなければならない。」
( Prof.Dr.Hans-Peter Dürrの著書 „Warum es ums Ganze geht – Neues Denken für eine Welt im Umbruch.“より, Oekom-Verlag, 2009)


お知らせ
 
ドイツは本当にFITで失敗したか」~村上敦氏が語る
日本の知人より、ドイツではフィードインタリフ(再生可能電力の固定価格買取制度)が失敗した、という意見が広まっているという話を聞いて驚きました。私がスイスから見る現実は、そのような噂とはかなり異質だからです。下記のサイトでは、ドイツで活躍されているジャーナリストの村上敦さんが、ドイツのフィードインタリフの状況を現場から報告していますので、興味のある方は是非読んでみてください。
「ドイツは本当にFITで失敗したか」(ジャーナリスト村上敦さんのブログ)
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
スイスでもドイツ型のフィードインタリフは、再生可能電力を増産するためには、非常に有効であると認識されています。

● 木質バイオマスエネルギーを使う暮らしの入門ハンドブック
1月に岩手木質バイオマス研究所により、木質バイオマスエネルギーの普及書として「森のエネルギーで暮らす」が出版されました。B5判で図版や写真が豊富で、木質バイオマスの初心者にとっても分かりやすい内容となっています。作成したのはスイス-日本エネルギー・エコロジー交流の方々です。私もその中で10ページほど、スイスの木質バイオマスエネルギー事情を紹介しています。このハンドブックは一般販売はされていませんが、別タイトルの販売用バージョンを下記で購入することができます。作成チーム一同、特に女性に読んで頂きたいと思っています!


「薪ストーブで暮らす」河北新報出版センター
スイス-日本エネルギー・エコロジー交流会編
http://www.kahoku-ss.co.jp/makistove.htm


短信

●2050年までに100%再生可能エネルギーによる世界は可能
エネルギーコンサルタント事務所のEcofysGermany社とWWFが、報告書「The Energy Report」を発表した。その中では、全世界のエネルギー需要は2050年までに100%再生可能エネルギーで持続可能に供給していけることが示されている。Ecofysは、省エネ・再生可能エネルギー分野での25年来の経験をもとに、世界中のエネルギーシステムの全セクター、全地域、全エネルギー源の技術的、社会的、経済的な発展を調査した。その結果、再生可能エネルギーは十分にあることを証明。既存の技術を用いて、厳しい持続可能性の基準を満たしながら、世界のエネルギー需要の95%を、2050年までに再生可能エネルギーで担っていくことができるという。しかし、いくつかの生産プロセス(例えばセメントや鉄の生産)だけに関しては、化石エネルギー源の特性が必要であり、今のところ再生可能エネルギーでは代替できないという。このレポートは下記のサイトから英語版PDFをダウンロードすることができる。
http://www.ecofys.de/
参照:ecofys社プレスリリース

 ●フォルクスワーゲンが1ℓカーを発表
フォルクスワーゲン社がカタールのモーターショーで2013年から生産予定の1ℓカー「XL1」を発表した。100kmを0.9リットルのガソリン消費量で走る二人乗り、プラグインハイブリッドカーだ。昨日、ベルン市でドイツの著名のジャーナリストであるフランツ・アルト氏の講演を聞いた。その中でアルト氏は、フォルクスワーゲンは2003年には既に1ℓカーを開発していたが、販売されず、博物館行きになったと話した。技術はとっくにあっても販売されないのは、ドイツの自動車業界が石油産業の大きな影響下にあるためだ、とアルトさんはいう。また、今回の1ℓカーも、2013年度の一年の生産予定台数がたったの300台ということで、アルトさんはこれは単なるイメージ戦略、「グリーンウォッシング」に過ぎないと批判した。
参照:
www.ee-news.ch


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ベルン州、原発更新を巡る住民投票前の攻防戦

2011-02-01 10:54:52 | お知らせ

早くも2月1日、裏山の森ではきつつきのドラムリングが聞こえるようになりました。そして、国民・住民投票の日曜日まで、2週間を切りました

昨11月末には、ベルン市が2039年までに原発電力をなくす法律を住民投票で決めたばかりです。対して今回の目玉は、ベルン「州」の原発を巡る投票です。首都ベルンの西20kmにあるミューレベルグ原発は、2020年頃に廃炉が予定されています。その隣に新しい原発を建てるか否かを州民に問う投票が行なわれるのです。

そのため私の住むベルン州では、 この一ヶ月というもの、原発更新への賛成派と反対派の間で、熱い攻防戦が言葉と戦略の上で繰り広げられています。ベルン州の新聞「Der Bund」には、ほぼ毎日のように双方の意見が載っています。あちこちの地域で討論会や説明会が開催されては、正反対の意見を持つ教授たちや研究者や、政治家や企業家がパネルディスカッションし、教会や労働組合もそれぞれの意見を表明しています。

とはいえ、今回の投票は住民の意見を聞くためのものであり、法的拘束力は持ちません。しかし2014年ごろに、国レベルで原発新設の可否を問う(拘束力のある)国民投票が行なわれる予定です。ですのでベルン州での投票は、この「本番」へのシンボル的な意味を持つものとして重視されています。また、住民投票で反対票が多ければ、ミューレベルグ原発の更新は不可能とされています。

更新(新設)への賛成派も反対派も「長期的」には再生可能エネルギーしかないという意見では一致しています。問われているのは、すぐに再生可能エネルギー時代型の電力供給構造に転換していくために全力・資金を注ぐのか。あるいはこれまで通りの「水力+原子力」という供給構造を次の50年間続けるのか、ということです。それは、技術的・経済的な問題というよりも、政治的な意思の問題です。

原発更新への賛成派は、「原子力も新再生可能エネルギーも行う」と主張していますが、それは供給構造的にも、経済的にも矛盾していることです。ですので、結局は「再生可能エネルギーか原子力か」という問いであることに、多くの市民は気がついています。今日はローカルな話で恐縮ですが、この投票を巡るベルン州での選挙戦の一月を追ってみましょう。

攻防戦の幕を切ったのは、ミューレベルグ原発を運営し、その更新を目指すベルン州電力です。1月頭に「100%安定供給」というタイトルのカラー刷り新聞が、州の全家庭に届きました。「再生可能エネルギーもやってますが足りません、だから安心でクリーンなミューレベルグ更新を」と勧めます。これだけで1000万円近くかけたそうです。ベルン州電力では昔の社員を動因したり、大々的な施設見学のバスツアーも実施しています。

ベルン州の再生可能・省エネルギー産業も負けてはいません。この業界の地元中小企業60社が団結して「ベルン新エネルギーグループ」を結成。1月頭から、「Aber Sicher(そりゃもちろん)」キャンペーンを開始。ベルン州やスイスに豊富にある再生可能な資源を利用すれば、「そりゃもちろん」原子力なしで雇用と豊かさを創出できる、と呼びかけます。こちらも広告、メディア、ネット、ポスター、講演会など盛んに活動しています。

1月10日にはベルン州電力が突如として、再生可能エネルギーへの投資予定額を60%減らすと発表。スイスの政府は2030年までに再生可能電力に関して、現在の電力消費量の10%に相当する量を増産することを目標にしています。ベルン州電力は、それ達成不可能だから投資しないと一方的に言い放ったのです。理由は、フィードインタリフを利用した風力・小型水力・バイオマス発電プロジェクトへの市民の反対が大きく、プロジェクトが進まないというもの。もちろんこれは解決すべき問題ですが、投票前にこのような発表を行なうことは、市民への圧力であるというブーイングが全党派から聞かれました。

そんな矢先の1月14日。EUのエネルギー委員がスイスとエネルギー協定を結ぶ条件として、スイスが総エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに31%に上げることを譲れないとしている、と「DerBund」誌が大きく取り上げました。(現状は19%で、2020年までの国の目標は27%。)このEUからの要請を考えれば、ベルン州電力は国の目標を放棄することはできないはずです。というのもスイスの大手電力会社はヨーロッパとの電気取引で大もうけしており、この取引を続けるためにはEUとのエネルギー協定の締結が欠かせないのです。

さらに1月16日には、「不都合な真実」が発覚。「ミューレベルグ原発を新設する際には、敷地に高度放射線廃棄物の中間保存庫が建設されることになっている」。という事実が、州の発行する住民向け投票資料に一言も記載されていなかったのです。これまで高放射性廃棄物は、別州にある中央の中間保存庫で一括して保存されていたのです。でも既存の中間保存庫の容量は、既存の原発から出るゴミだけで一杯。だから、ミューレベルグ原発を新設する場合には、隣に中間保存庫がつく。しかも最終処分場の問題は未解決ですから、相当長い間「中間保存」が続くだろうという側面を、住民は初めて知り、慌てました。

1月18日には、ベルン州内閣が「原発更新を否決することを市民に勧める」というプレスリリースを発表。その言葉は次のように驚くほどきっぱりとしています。
「ベルン州内閣は、そのエネルギー政策を再生可能エネルギーと省エネルギーに据える。このため内閣は州議会とは反対に、ミューレベルグ原発の更新を拒否する。州政府の視点から、原子力発電は時代遅れで、危険で、高く、不必要である。・・(中略)・・州エネルギー大臣のバルバラ・エッガー・イェンツァーは『州内閣はベルンの市と地域を必要以上にこのリスクに晒す準備はない』
と明言する。」そして、20年以内に電力供給を原子力なしで行なうことが可能であると確信している、と続けます。
しかし、
ベルン州政府と州議会は、この問題に関して意見が違うのです。州議会は原発推進派の方が過半数。そのため州政府のこの行動には、議会から激しい批判が寄せられました。

この頃、ミューレベルグ原発に近い自治体Wohlenで社会民主党(SP)が主催した討論会を訪問しました。パネラーは更新を拒否する社会民主党(SP)と賛成する自由民主党(FDP)の政治家、ベルン州電力の経営陣、エネルギー庁の副長官、ソーラーエネルギーの教授、司会は地元紙の編集者。満場でした。質疑応答の時には、「数年後に太陽光発電の電力が原子力の電力よりも安くなったら何が起きるのか」、「事故が起きたら、我々は何週間どこの核シェルターに篭っていればよいのか」、「保険が十分に掛けられていないのに、不動産などへの被害は誰が支払うのか」、等々という素朴な住民からの質問に対して、ベルン州電力や村長が満足に答えられなかったことが印象に残りました。

1月23日には、ベルン州のソーラーエネルギー会社のMegasolがベルン州電力に対して、(新原発の竣工予定年である)2025年までに新しい原発と同じ価格で同じ電力量を供給する太陽光発電設備を設置する見積もりを送り、メディアでは話題になりました。さらに月末には、スイスの省エネ・再生可能エネルギー機関AEEの科学顧問委員の6人の教授が連名で、ミューレベルグ原発の更新は無駄であると発表しています。

ベルン州の住民はどのように投票するのでしょうか。原子力利用をめぐる住民の意見は、過去10年間では基本的に五分五分で、推進派が僅差で勝つというパターンが多くありました。ただし、10年前と今日とでは再生可能電力や省エネ技術の発展は、天と地の差です。2~3年前まで原子力は不可欠という考えだった知人でも、最近、原子力はもうやめて再生可能エネルギーと省エネに集中して投資しようという意見に転向した人が身近にも何人もいます。この変化には個人的にも驚いています。

しかし、ベルン州の投票が済んでも、スイスには原発の更新の候補地がまだ2箇所あります。それらにけりがつくのは2014年の国民投票。その時まで、スイスのエネルギー政策の議論が原発Yes・Noという側面に集中してしまうのは、非常に不毛で、残念なことです。というのも、とっくに脱原発を決めたドイツや、もともと原発を始めなかったオーストリアといった隣国では、その先のエネルギー議論が進められているからです。例えば、スイスに接するフォーアールベルグ州政府は、2050年までに全てのエネルギーを再生可能エネルギーで自給していくことを決め、そこに向かって既に進み出しているのです。


短信

省エネ改修と再生可能熱源の促進に熱心なサンクトガレン市
前回のブログでサンクトガレン市の深層地熱水による地域暖房・発電プロジェクトを紹介した。その際に、地下資源を利用する前に、地上の省エネルギーやソーラーエネルギー利用を最大活用して欲しいと書いた。その後、スイスの自治体エネルギー政策の専門家からサンクトガレン市では、既に盛んな建物の省エネ改修や再生可能熱源の促進が実施されていると聞いた。スイスでは建物の省エネルギー化への助成は、国と州のレベルで行なわれている。サンクトガレン市は、それに追加する形の助成を実施している。例えば断熱改修に関しては、1kWhの熱の省エネにつき50ラッペンの追加助成が出る。灯油1ℓを節約する対策で5フラン(約425円)が出るという計算になる。その他にも、省エネ改修の総合計画作成費、再生可能熱源(太陽熱温水器、地熱ヒートポンプ、地域暖房接続、熱回収型換気)に追加助成を出している。サンクトガレンの市営エネルギー会社の収益から、毎年約1.7億円を省エネルギー基金に入れており、それを助成資金に当てている。

●ソロトゥン州の住民も原発更新に反対のアンケート結果
スイスの大手電力会社Alpiqは、ソロトゥン州のゲスゲン原発で原発更新を検討している。この地方の住民がゲスゲン原発更新と放射性廃棄物の最終処分場に反対しているという調査結果が発表された。社会・経済学的な調査で、依頼したのはアーラウとオルテンの間の人口3.28万人を持つ15自治体の村長・市長たち。アンケートに答えた住民の45%がゲスゲン原発の更新に反対、賛成は38%。国が計画する中~弱放射性廃棄物の最終処分場については、71%が反対で、全ての15自治体で拒否が多数派。原子力施設は地域のイメージに否定的な効果をもたらすだろうと答えたのは、原発更新に関しては市民と企業の6割、最終処分場に関しては市民の84%、企業の77%である。
参照www.blick.ch, 27.1.2011


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