滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

バイオマス発電は熱利用の産業クラスターで

2010-07-28 05:12:10 | 再生可能エネルギー

この間までの猛暑が嘘のように、ここ数日は23度くらいの真夏にしては肌寒い天気です。満開のひまわり畑がなんだか空々しいくらいです。

先週スイスで起きた氷河特急の事故で被害に合われた方々の、一日も早い心身のご回復をお祈りしています。


さて、今日はバイオマス発電の話です。バイオマス発電は熱利用から計画する、というのが効率的な設備運営の基本だと思います。最近のスイスの例では、下記のような面白い熱利用の産業の共生構造を形成しているバイオマス発電熱設備があります。

●リュイェール村の木質バイオマス発電施設

7月上旬、西スイスのリュイェール村に、地方最大の木質バイオマス発電施設が創業しました。

施設を運営するエネルボワ社は、地元のZahnd製材所と地域のエネルギー会社RomandeEnergieのジョイントベンチャー。イニシャルコストは約33億円、熱と電気の両方を作る蒸気タービン式の電熱併用設備です。発電所は製材所に隣接しており、製材所で出るバークや端材を燃料に年2800万kWh、約8000帯分の電気を発電します。

生じる熱は、敷地内の建物やお隣の製材所の建物や材木の乾燥に利用しています。面白いのは、エネルボワ社では、製材所で生じるおがくずを用いてペレットを生産する業務も行っている点。おがくずの乾燥やペレットの生産にも、チップ発電設備で作られた熱や電気が使われています。

ペレットのグレーエネルギー(生産・輸送にかかるエネルギー)は、どこから原料をとりよせ、どのように作るか、中でもどのエネルギー源で乾燥させるかによって大きく変わってきます。リュイェールのペレットは100%再生可能エネルギーで作った、生産のための輸送ゼロのペレットとなります。エネルボワ社は西スイス最大のペレットメーカで、約5000世帯分の暖房をまかなえる量を生産していく予定です。

他方、作った電気はフィードインタリフ制度を利用して、地元電力会社に高額で買い取ってもらっています。スイスのフィードインタリフ制度の場合、木質バイオマス発電施設が買取制度を利用するためには、設備のエネルギー総利用効率が最低でも約60%であることが条件となります(発電効率に応じて、一定の熱利用率が条件となります)。だから発電だけでなく、安定した熱利用から、設備を計画することが重要になります。

製材所、チップ発電、ペレット工場を一箇所にまとめることで、余分なチップやオガクズのトラック輸送が不要となり、年2000台ものトラック輸送が節約できるそうです。資源とエネルギーをやりくりしあう賢いコンセプトです。

建物のデザインの景観への収まりもなかなか綺麗です。下が施設のサイトで、写真も見られます。
http://www.enerbois.ch/


ワウヴィルのバイオガス発電施設

最近興味を持ったバイオマス発電所の2つ目の例が、中央スイスのワウヴィル村に現在建設が進むバイオガス発電施設です。

生ゴミや緑のゴミから高品質の堆肥とバイオガスを生産するコンポガス技術の設備で、運営するのは大手エネルギー会社Axpoの子会社AxpoKompogas。今年末より約800世帯分の電気を供給する予定です。(スイス生まれのコンポガス技術のライセンスは日本ではTAKUMAという会社が持っています。)

このバイオガス発電施設が建設されているのは、スイス最大のキノコ栽培会社「ワウヴィーラー・シャンピ二オン」の敷地の中です。

この2社も、資源とエネルギーをやりくりし合う仲。バイオガス発酵炉では、周辺自治体で生じる生ゴミや緑のゴミのほか、キノコ栽培会社で生じる培養土や生ゴミを発酵させます。そして発電の際に生じる熱を、お隣のキノコ栽培会社に売るという仕組みです。

キノコ栽培には通年してコンスタントな気温が必要であるほか、夏には除湿にも熱を使うそうです。 このキノコ栽培会社では、ほとんどの熱をバイオガス発電からの排熱によりまかなうことができるため、年2500tのCO2を削減できるそうです。またキノコ栽培会社にとってのメリットは、ゴミ処理費とエネルギー費が10%減るほか、製品であるキノコのヨーロッパ市場でのイメージ向上も狙っているとか。バイオガス発電施設の運営側の収益は、ゴミ処理費とエネルギー販売が半々ずつです。

バイオガス発電では排熱の1部を、バイオガス発酵炉を温めるのに使うのが通常です。スイスのフィードインタリフ制度では、生ゴミや汚泥、家畜の糞尿を用いたバイオガス発電に関しては、一定の発電効率を満たした上で、発電の際に生じる排熱で発酵炉を温めることを買取条件としています。

スイスでも1部のバイオガス設備では様々な事情から熱利用が十分にできていないところもあります。ワウヴィルのバイオガス発電施設は、熱と電気をくまなく使うコンセプトが興味深いですが、今後、実際の経済性や効率も注目されます。

参照:
www.ee-news.ch


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センパッハ鳥類研究所の木造&省エネ新オフィス

2010-07-20 14:48:25 | 建築
スイスもまだ暑い日が続いています。日中は暑い空気を室内に入れないために窓を閉めているため、涼しい風の入る夕方が待ち遠しい毎日です。夕べには窓からコオロギの声と牧場で眠る牛のカウベルの音が聞こえてきて、スイスの夏の風情を感じさせます。

先日、中央スイスのナーサリーに植物を選びに行った帰りに、センパッハ鳥類研究所のオフィス建築に寄りました。この建物は、ルツェルン州で初のミネルギー・P・エコ認証を受けたオフィスビルで、木造プレファブパネル構法の三階建て。昨年の秋に竣工しました。

中庭を囲むようにL字型に2つの真っ赤な箱を並べた形をしています。 5000㎡の室内は、大空間オフィスやカフェテリア、ラボ、セミナールーム、図書館、倉庫などに利用されています。木造3~4階建てのオフィスや集合住宅はスイスでは珍しくはなくなりましたが、ミネルギー・P・エコの木造高層オフィスはまだ多くありません。

センパッハ鳥類研究所は80年の歴史を持つNGOで、80人の研究員のほか、数多くのボランティアと共に、鳥類の研究や調査を行なっています。スイスでは知名度も、評価も高い団体です。その研究所が次の100年に備えて新築したこのオフィスでは、2000W社会のビジョンを追求すべく、「ミネルギー・P・エコ基準」が選ばれました。



「ミネルギー・P・エコ」とは、スイスの省エネ建築基準の「ミネルギー・P」と、エコロジー建築基準の「ミネルギー・エコ」の両方を満たす建物のことです。今のところ「ミネルギー・P・エコ」は、スイスでは最も高度な省エネ・エコ性能を持つ建築の認証基準となっています。しかし認証作業に手がかかるため、まだスイスでは83 棟しかありません。ちなみに「ミネルギー・P基準」は682棟、普及型の省エネ建築の「ミネルギー基準」は1.7万棟あります。

まず、ミネルギー・Pはドイツのパッシブハウス基準に相当するスイスの基準です。オフィス建築では、暖房・給湯・換気に必要とするエネルギー消費量の制限値が25kWh/m2年です。その他、照明、オフィス機器にもトップ効率の機器が求められますし、気密性能もパッシブハウス基準と同様の性能が求められます。

センパッハ鳥類研究所の新オフィスでは、U値(W/m2K)は、外壁が0.09、屋根が0.10、窓が0.63~0.84、地下室(非暖房)に対する床が0.13、地面に接する床が0.22となっています。

またミネルギー・エコ基準は、ライフサイクルに渡り健康と環境に害のない建築を認証する基準です。同研究所では、例えば建材はFSC認証を受けたスイス材と南ドイツ材で、出来る限り地域の建材を選んでいます。

同オフィスは設備面では、熱交換式の機械換気設備の給気を、地下に敷いたヒートチューブを通して取り入れています。ヒートチューブの数は34本×30m(!)だそうで、冬の間に給気を暖めるだけでなく、夏の間に穏やかに給気を冷やす効果も狙っています。また暖房設備は低温床暖房を使っており、この冬は非常に快適だったとか。床暖房の設備は夏には必用があれば高温床冷房に使うことができます。

熱源は木質バイオマスのチップボイラーを使っています。これは小規模な地域暖房として、隣の敷地に新築された集合住宅地と共有しています。そして最後に屋根の上に設置出力20kWの太陽光発電が年間約1.9万kWhを生産する計算です。



コスト面では㎥あたり約600フラン、総額1400万フラン(約11億4800万円)。その半分以上が州、スポンサー、様々な基金、市民からの募金により出資されたそうです。

年1万人の来場者があるというセンパッハ鳥類研究所。その新オフィスは、スイスの鳥類保全・研究活動の中心地としてだけではなく、市民への環境教育の場としても重要な役割を果たしていきそうです!



こちらで、建設の様子が見られれます。
http://www.vogelwarte.ch/home.php?lang=d&cap=thema&subcap=seerose&titel=Ein%20neues%20Nest%20f%FCr%20die%20Vogelwarte#fortschritt


短信

●6月にビオシティ45号「遊びのエコロジカルデザイン」が発売されました。
拙筆の記事2本「スイス・モビリティ~国全体をスローツーリズムのパラダイスに」と「柳の建築~遊びのソーシャル・エコデザイン」が掲載されています。どうぞご覧になってみて下さい!
http://www.biocity.co.jp/



●また、日本初のパッシブハウス認証を受けた住宅「鎌倉の家」(設計:キーアーキテクツ)についての共著記事が、スイスの建築雑誌TEC21と雑誌「再生可能エネルギー」で掲載されました。スイスの人たちからも日本のパッシブハウス建築の動向は注目されています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1502:das-erste-passivhaus-in-japan-wuestenblume-oder-pionierpflanze&catid=14:news&Itemid=34


チューリッヒ在住の近自然学の専門家である山脇正俊さんが、スイスの森林官ロルフ・シュトリッカーと共に日本各地で9月末~11月にかけて講演会を実施するそうです。近自然の森作りや木質バイオマスエネルギー利用の話なども期待できそうです。
http://web.me.com/masatoshiyamawaki/homepage/info-jp.html


ニューヨーク在住のファッションビジネスコンサルタントの田中めぐみさんが、昨年「グリーンファッション入門」という本を出版されました。学生への教科書として考えられただけあって、フェアで環境負荷の少ない、サステイナブルな衣料産業のあり方について、体系的、総合的に解説されており、お勧めです。 http://www.senken.co.jp/book/respective/m_green.htm



ベルン州にあるミューレベルグ原発は40歳近い高齢原発ですが、昨年末スイスの環境交通エネルギー通信省より、無期限の運転許可を得ています。その安全審査書類がが、他の原発の書類とは異なり、なぜか一般公開されませんでした。それに対して、市民が告訴、国立行政裁判所で勝訴しました。しかし隠さねばならなかった理由は、まだ分かっていません。ミューレベルグの無期限運転の取り消しを求める団体を支援する委員会には、原発利用に反対し、既に脱原発しているジュネーブ市も参加しています。
http://www.ee-news.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=1513:bahnbrechender-erfolg-der-muehleberg-gegner&catid=14:news&Itemid=34

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スイスより暑中お見舞い申し上げます

2010-07-11 17:30:32 | その他
暑中お見舞い申し上げます。
先週末に、2週間の日本滞在からスイスに戻ってまいりました。
短いながら日本の(私にとっては)気持ち良い蒸し暑さと豊かな自然、食事、家族、友人、同志との時間を満喫することができ、とても幸せでした。

戻ってみるとスイスには1ヶ月の夏休みシーズンが到来し、村も町もリラックスモードです。そして、日中は30度以上、今日など35度近い暑さが続いています。干上がるような感じの暑さで、連日のように大気中のオゾン含有値が制限値を上回っています。オゾンは粘膜を刺激しますので、そのせいかスイスに戻って以来、花粉症のようなクシャミに悩まされています。

今回の日本滞在中でも、日本の大自然の豊かさに心を打たれました。
岐阜県の加子母にある、伊勢神宮の材を育てている美しい国有天然林に訪れた際には、ツキノワグマの子熊やカモシカに出会いました。(加子母の森林ツアーについては後日報告します)。また、日光那須国立公園では、真っ白なシーツを広げたような満開のヤマボウシや巨大なモミ、五葉ツツジやモミジ、林縁にはマタタビやヤマアジサイなどの多様な種の森が広がり、植物好きには狂喜したくなるような場所でした。

ヨーロッパの中でもスイスは小さな面積の中に、高度差が大きく、複雑な地形があり、様々な気候帯が入り混じっているため、自然の多様性は豊かな方です。しかしスイスと比べても日本には、里山や奥山に圧倒的に豊かな多様性のある自然があります。

ただ東京周辺に関しては、日常に近い自然の質が貧しいことを、今回改めて痛感しました。日本滞在中は千葉県船橋市の実家から東京に通う生活をしていました。便利ですが、移動時間が長く、そして緑の絶対量と興味深い緑地や自然があまりにも少ないのです。社会人も子供も日常的に、一般常識であるべき、普通の自然体験を得ることができません。

スイスの自宅に戻ってきて、そんな普通の自然体験がスイスの生活の質であると感じます。首都から鈍行電車で20分の我が家では、朝にはヒバリやズアオトリの歌声が聞こえ、ベランダに出れば家の前の農地に立つ木にアオゲラ(緑色のキツツキ)のカップルが実をつつきに飛んできます。歩いて10分ほどのブナの森に涼しい空気を吸いに行けば、林業の現場が目の前にあります。また休日に近くの湖に泳ぎに行けば、葦林に縁取られた浅瀬の澄んだ水辺に何千、何万もの小魚が群れ泳いでいるのを観察することができます。 日本でも田舎では当たり前な環境ですが、町に近い場所で、ちょっと良い自然が身近にあることが、スイスではとてもありがたいことです。

さて、おしゃべりが長引きましたが、スイスに帰ってきて、目に留まったニュースを以下にアットランダムに挙げます。

●日本ではほとんど報道されていないのが不思議でしたが、スイスではほぼ毎日、アメリカ史上最悪の環境汚染事故として、メキシコ湾の石油流出事故の経過や処置、現地社会の様子が報道されています。

ベルン州電力は送電と発電設備の更新の資金づくりのために、電気代を6%高くする予定だそうです。同社は新しい原発を建てて、そこでできた電力を西スイスに売りつけたいので、このような投資を必要としているのです。しかし、西スイスの州はベルン州電力が計画している高圧電線新設計画を住民投票で・否決しています。

●7月7日~8日にかけて、スイスのソーラー飛行機「ソーラーインパルス」が26時間の昼夜飛行テストに成功しました!!!翼に設置された太陽光発電パネルで日中に上空で発電し、電池に貯めた電気で、夜間飛行するのです。2013年には大西洋横断を目指します。ソーラーインパルスは一人乗りであり、この技術が本当に実用化できるのかは疑問ですが、エネルギーを自給するソーラー飛行機の夢への一歩は踏み出されました。

●スイスの大手の新聞「ターゲスアンツァイガー誌」は、7月8日の朝刊で「サステイナビリティ」という付録号を配布しました。その中で編集記事として、新築ではパッシブハウスやミネルギー・Pを勧め、省エネ改修が元が取れることを解説しています。一般読者向けの新聞でも、こういったテーマが日常的に扱われる時代になったことを実感します。ちなみに本文記事の方でも、チューリヒに竣工した2000W社会対応型の木造5階建て賃貸住宅が紹介されていました。

●7月9日には、スイスの環境・交通・エネルギー・通信省を担当する大臣モリッツ・ロイエンベルガーさんが年末をもっての退職を表明しました。環境派、脱原発、再生可能エネルギーへ転換を主張する社会民主党出身のロイエンベルガーさんは、15年間も大臣職を務められています。継続性を持ってサステイナビリティを軸とした環境・交通政策が実践されてきたには、彼の功績です。「貨物を道路から鉄道へ」というモーダルシフト政策が代表的な仕事です。環境・交通・エネルギー・通信省の管轄には、道路や鉄道政策やエネルギー政策、あるいは原発問題なども含まれているため、後継者のポストを巡って、各政党の間で既に様々な画策が計られています。

●7月1日にスウォッチ・グループの会長であるニコラス・G・ハイェック氏(82歳)が亡くなりました。スイスの時計産業を立て直したカリスマ経営者として有名な同氏は、人と技術を大切にする企業哲学から、金融危機にあっても1人として解雇せず、ものづくりの国としてのスイスにこだわりつづけました。最後の日まで現役で働き続けたハイェックさんが、スイスの労働組合の新聞に語った最後のインタビューには、彼が携っている最新プロジェクトについて触れられています。それが、水素燃料電池、効率40%の太陽光発電パネル、1万フラン(83万円)の価格で車を700km走らせられる高効率バッテリーの開発を全力で進めているとのこと。同グループのエネルギー分野での今後の活動が楽しみです。

●スイスソーラー連盟が2009年度のスイスのソーラー市場の成長を発表しました。前年度比で太陽熱温水器市場は29%成長しています。うち3分2が一戸建てに設置され、3分1が集合住宅に設置されています。太陽光発電市場については前年比で139%成長しました。ですが2009年度のドイツの1人頭の太陽光発電の設置出力はスイスの10倍だそうです。それは、スイスのフィードインタリフがドイツの制度と比べると効力の薄いものに終わっているからです。

帰国後のブログ第一号の報告はとりとめがないものとなりましたが、これからもマイペースで更新していきますので、時々クリックしてみて下さい!
それでは皆さんも良い夏をお過ごし下さい。

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