滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

機能不全に陥るスイスのフィードインタリフ

2010-09-28 15:12:58 | 政策
スイス初、大臣の過半数が女性に

朝方の気温が6度にもなり、ブナ林が黄色に紅葉し始めています。曇りの日には昼間でも室温が20度を下回るようになってきたため、大家さんが日曜日から温水全館暖房のスイッチを入れてくれました。(省エネ型住宅ならこれが1~2ヶ月遅いのですが、我が家は残念ながら従来建築です。)

先週スイスでは2人の大臣の退職に伴い、新しい大臣が選ばれました。長年、環境・交通・エネルギー・通信省の大臣を勤めた社会党のモリッツ・ロイエンベルガー氏は、アルプスを縦断する鉄道の基底トンネルや灯油へのCO2税といった業績を残しました。その後任として選ばれたのが、社会党の女性議員のシモネッタ・ソマルーガ氏です。消費者保護団体での経験が豊富で、党派を越えて支持される人気政治家です。それにより7人の大臣の中、4人が女性というスイスの歴史上の快挙となりました。

そして誰もが、ソマルーガ氏が新しい環境・交通・エネルギー・通信省の大臣になると思っていた矢先。昨日突然、4人の大臣が担当省を交換するというのです(スイスでは4大主要政党が内閣に参加する全党政府)。古参の大臣から先に省を選べる仕組みだそうで、キリスト教民主党の経済大臣ドリス・ロイトハルド氏がこの省を真っ先に選び、それが内閣内の多数決で認められたのだそうです。

ブルジョア派の手に移ったエネルギー・環境大臣

スイスの内閣は7人の大臣の合議制を取っていますが、伝統的に5人は既得権派の「ブルジョア」と呼ばれる大臣で、2人が社会党大臣なので、「ブルジョア」勢力が多数派です。これが環境やエネルギーに関しては、先進的な政策を実施し難い状況を作っています。

環境や交通というイメージとあまり結びつかないロイトハルド大臣が、なぜこの省に鞍替えしたのでしょうか。私はその背景には、「国として原発を進めてして欲しい」勢力が、何としてもブルジョアのエネルギー大臣を欲しかったのだ、と推測します。同大臣は以前、原発を進める電力会社の経営代表委員でしたし、今は「ニュークリアフォーラム」という原発産業のPR組織の会員です。

スイスでは今後、数年間で原発新設の可否が国民投票で決まるため、彼女が送り込まれた、と読むのは環境団体スイスエネルギー基金も同じです。環境・交通・エネルギー・通信省という幅広い課題の中でも、原子力というテーマがこんなにも政治的にも大きな意味を持つのか、と改めて驚きます。しかし、原子力の推進と再生可能電力の大幅な増産は供給構造的に矛盾することですから、スイスの再生可能電力にとっては、さらなる茨の道が待ち構えていることが危惧されます。

ドイツの再生可能電力増産の快挙

そんな中、友人の発行するEE-Newsで、お隣の国のドイツでは今年の上半期(1~6月)の間、太陽光発電パネルによる電力生産量が、総電力生産量の2%を達成したというニュースを読みました。こちらも素晴らしい快挙で、ドイツの再生可能電力の固定価格買取制度(フィードインタリフ)の実力を裏付けるものです!ちなみにドイツの再生可能な電力は、電力生産量の19%をまかなっているそうです。(水力3.7%、風力7.1%、バイオマス6.3%、ソーラー2.0%)。出典:
www.ee-news.ch

昨年ドイツで設置された太陽光発電の1人頭の出力数は、スイスの10倍です。スイスは水力が豊富なので電力生産に占める再生可能な電力の割合は56%になっていますが、水力を除くと2.04%と悲しい結果になっています(2009)。太陽光発電は0.1%にも満ちません。日射条件はドイツと同じか、ドイツより良好な地域もあるくらいなのに。
これはスイスでの国レベルでの再生可能電力の固定価格買取制度(フィードインタリフ)の導入が非常に遅かったことと、そしてそれが機能不全になっていることが原因です。

機能不全に陥るスイスのフィードインタリフ~理由(1)1つ目の蓋

スイスの再生可能電力の固定価格買取制度の募集は2008年に始まり、2009年に買取スタートしました。そして募集の数日後には太陽光発電からの電力買取が、予算上限に達してストップ。その後、全ての再生可能電力の買取が予算上限に達してストップしました。2010年6月1日までに9838設備が申請し、うち2889件に買取許可が出て、実現されたのは1880件です。ウェイティングリストは7000件で、うち5200件が太陽光発電。なんと4年待ちだそうです。

スイスの固定価格買取制度が、機能不全になっている理由はドイツにはない「2つの蓋」がスイスの制度にかけられているからです。 1つ目の蓋は、「法律で一般電力にkWhあたり最大0.6ラッペン(約0.4円)まで上乗せすることができる」とされている点。それによりドイツと異なり買取予算に上限がつくられており、遅かれ速かれ市場の成長に好ましくない「ストップ&ゴー」の状態になります。しかも、長いウェイティングリストがあるのに、実際には買取予算はkWhあたり0.45ラッペンしか徴収されておらず、2011年末まで0.45ラッペンが続きます。

理由(2)~2つ目の蓋

2つ目の蓋は、発電技術ごとに予算に占める%が分配されていること。特に、最も応募数の多い太陽光発電パネルは予算の5%しか充てられておらず、発電コストが下がったら、その割合を10%まで増やすという規則です。そのため他の技術で予算が余っていても、太陽光発電にはお金は回されません。

さらに、太陽光発電設備の電気の買取申請には、既に設備の建設許可が降りていることが条件であるため、すぐに実現できるプロジェクトばかりです。対して、風力・バイオマス発電・小型水力といった他の発電技術は、申請の時点で建設許可が降りていなくても申請することができます。

そのため、大手電力会社が実現する目処の立っていないプロジェクトを申請して、買取の許可をとりつけておくという事態が起こっています。ですので買取許可を受けていても実現されるとは限りませんし、実現されるまでに2~3年の時差があります。しかも、大手電力会社は1つのプロジェクトのバリエーションをいくつも申請しており、それにより買取予算をブロックしていることが非難されています。

蓋がある限り当分は減らないウェイティングリスト

このままでは、2030年までに5400GWhの再生可能電力(電力生産量の10%)を増産する、という控えめな政府の目標を達成することは無理だとされています。国会では2013年から買取予算のための上乗せ価格を0.9ラッペンまで値上げすることを決めましたが、たとえ0.9ラッペンになっても、ウェイティングリストは短くならない。とエネルギー庁も予測しています。

スイスにもドイツ型の「蓋なし」フィードインタリフが導入される日が来るのでしょうか。というか、スイスでは分散型電力供給を望まない大手電力会社の政治的圧力が大きく、このような制度が選ばれたと言えるでしょう。いづれにしても、スイスの再生可能電力の業界にとっては、「耐え忍ぶ年月」が今後もしばらくは続きそうです。あるいは、2013年に原発新設が国民投票で決着してからでないと、この議題に関しては政治的に進展しないのかもしれません。


短信

●講演会のお知らせ:
10月にいくつかの講演を行ないますが、下記のものは一般公開されています。興味のある方は是非詳細をご覧下さい。 10月30日13時30分~東京、東京建築家協同組合セミナー・エネルギー最小の家「薪・ペレットストーブ」内でスイスの木質バイオマスエネルギー利用事情についてお話します。
http://www.kenchikuka-kyodo.com/tacosfile/seminer20101030.pdf

●ソーラー飛行機、チューリッヒ国際空港に無事着地
9月22日に、ソーラー飛行機の「SolarImpulse」が、パイェルンにある軍の空港からチューリッヒ国際空港を往復する飛行を無事に遂げた。片道6時間の飛行だった。この飛行機は、翼の太陽光発電池から得る電力だけで飛行する。

●2010年度のスイスソーラー大賞はプラスエネルギー建築が重点
スイスソーラーエージェンシーにより毎年恒例のスイスソーラー大賞が22の部門で個人・企業・建物・プロジェクトに授与された。今年度の目玉は新に設けられたプラスエネルギー建築部門。6つの建物がプラスエネルギー建築賞を授賞。いづれもミネルギー・Pレベルの躯体に太陽光発電や太陽熱温水器を組み合わせたもので、エネルギー自給率は110~182%を達成している。

●今年もヨーロッパで一番肥大しているスイスの自動車
Blick誌によると今年上半期に走り始めた新車の平均的なモーター馬力が、スイスは西ヨーロッパで最大の143PSであることが、ドイツのDüsburg-Essen大学の調査で分かった。対してイタリアの新車平均PSが98と一番小さい。スイスに続いて、馬力の大きい車に乗っているのがスウェーデンとリュクセンブルグだそう。スイスではSUVは一時期と比べるとかなり減ったが、今でも新車5台に1台がSUVだという。不名誉な記録である。ちなみにスイスではガソリンにはCO2税が導入されていないため、ガソリン価格が安い。

●景気対策で地域暖房網が増える
2009~2010年度の景気活性化対策として国は5500万フラン(約45億円)を、再生可能エネルギー源や排熱を熱源とした地域暖房網の助成に認可した。それにより46の地域暖房網が実現され、265億円の投資が市場に誘発された。とはいえ申請は116物件もあったため、いかに多くの地域暖房網が今すぐにも実現したいと考えられているかが明確になった。実現されたプロジェクトの熱源は33件が木質バイオマス、5件がヒートポンプ、7件がゴミ焼却場となっている。またこれにより1.52万軒の一戸建ての熱需要に相当する熱が供給され、年8.6万トンのCO2削減に繋がる。(エネルギー庁プレスリリース)

● 州のエネルギー助成制度、景気対策で効果増進
2009年度、国と州は建物・熱源分野のエネルギー助成金の額を景気対策として大幅に上げた。国は8000万フラン(2008年度1300万フラン)、州は1億1200万フラン(2008年5500万フラン)。これによるCO2削減効果は10.8万トン(昨年6.9万トン)。エネルギー分野への投資4億4500万フランを誘発し、2300人の雇用創出に結びついた。最も大きな助成先は建物の断熱改修とミネルギー認証、自動木質燃焼装置、太陽熱温水器と太陽光発電。助成金の効率は1kWhを省エネするのに、1.1ラッペンの助成金が用いられた。2010年度からはこの助成総額は灯油へのCO2税の税収を用いて、さらに30%増す。(エネルギー庁プレスリリース)

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エネルギー農家④~木のエネルギーで起業する農家

2010-09-16 15:12:44 | 再生可能エネルギー

村の霊園に植えられている萩が見事な季節になりました。遠い昔に日本からヨーロッパに来たこの秋の花を見ると、何となく故郷が懐かしくなります。そして、いつまで今日のように石油を大量に消費して飛行機で日本に帰れるのかな、とふと考えてしまいます。先週は日本の自治体で働かれている方々と、スイスの自治体の交通政策の視察しました。皆さんハードなスケジュールにも関わらず、とても関心が高く、勉強熱心で居られて驚きます。

講演や視察の折に、日本の方から時々寄せられる素朴な質問に次のようなものがあります。一人頭CO2排出量1トンを目指す自治体や、建物の省エネ化政策について話すと、「何が最大の目的でそこまでする?気候温暖化?」という疑問です。気候温暖化は確かに大きな問題ですが、最大のモチベーションはスイスが依存しているウランや石油資源が、いつかは枯渇するということかと思います。

遅かれ早かれ起こる大幅な価格高騰を考えたときに、国として、地域としてどう生き残るか、また市民にどう一定の生活レベルを保障するかということではないでしょうか。また、自治体であれば、エネルギー自立により、エネルギーの安定供給と地域の競争力を高め、地域の税収を増やし、住人や企業へのサービスが充実した自治体を作ることに繋がります。あるいは建物を省エネ改修しなければ、灯油価格が高騰したとき、それらの不動産価値は低下し、現在のような生活の質も保つことができません。

さて、今日は先延ばしにした木のエネルギー農家の話をしましょう。
最近ブログでも紹介したようにエネルギー起業家としての農家が増えています。太陽光発電設備やバイオガス発電が多いのですが、中には木のエネルギーの分野でも、これまでとは違った一工夫加えた事業に乗り出す農家が少なからずあります。

農家型地域暖房というモデル、メルヒナウ村の場合

一つは居住地から遠くない農家からチップボイラーで地域暖房するというモデル。
農家の敷地にチップのサイロとボイラー施設を作り、そこから地域暖房網を引っ張って行って、近くの公共建築や商業建築、集合住宅などに熱を販売します。地域暖房の契約の雛形は木質バイオマス協会が提供していますし、エンジニアが農家をサポートしますので、農家でもできます。農家の強みは場所があること、そして自身が管理人で、どちらにしても自宅で働いていること。もちろん自分で森林を持っていることもあり、経済性が高い設備ができるそうです。

何件かの農家が団結しているケースもあります。例えばメルヒナウ村。
村の小さなチーズ工場の灯油熱源の交換にあたって、地元の4件の農家が団結して簡単な組織を立ち上げ、地域暖房センターを2009年に運転開始しました。この冬見に行きましたが、すごい人たちです。農家の組合が所有するチーズ工房の敷地の一部を99年の借地契約で借りて、そこに地域暖房センターを建設。計1.7kmの熱供給網の埋設工事の1部は、農閑期に自ら行いました。


写真:メルヒナウ村のチーズ工場の敷地に建てられた地域暖房センターの建物。建物の手前にチップサイロの蓋が見える。


 熱供給するのは、チーズ工場のほか、学校、団地、高齢者ホーム、幼稚園、銀行、レストラン、集合住宅、一戸建てなど30棟。資金作りが問題でしたが、お金の少ない農家ということもあって、CO2オフセット団体「マイクライメート」が10年間に渡りCO2削減量を買い取ってくれることになり、さらに州から助成金が得られて無事実現に漕ぎ着けました。

写真:地域の農家組合が運営するメルヒナウ村の小さなチーズ工場。左端に地域暖房センターが見える。



写真:メルヒナウ村のチーズ工場の中のチーズ売り場。エーメンタールチーズが特産。

地域暖房センターの運営者であるハンス・ドゥペンターラーさんは、農家の人とはいえチップボイラーの制御コンピュータを操り、機械技師の息子さんと一緒に設備の運営をこなしており、熱販売はビジネスとしても興味深いと言います。

この地域暖房センターの屋根は70㎡のソーラー温水器で覆われていて、夏の間のチップ消費量の節約に貢献しています。ソーラー温水器の資金は住民から、一㎡1000フランの出資を募り、実現。面白いのはこの資金の払い戻しがチーズで行なわれるという点です。出資者は12年間に渡り、毎年、村のチーズ工場の商品券100フラン分を受け取る、という農村ならではのユニークな発想です。


写真:地域暖房センターと隣接するガレージの屋根には70㎡のソーラー温水器が設置されている。年3500ℓの灯油に相当する熱をソーラーで節約。チップボイラーからの熱と組み合わせて使っている。

ペレット製造に進出する農家、ベストペレット社の場合

もう1つの例は、私の住む村に近いビュージンゲン村の農家シュノイブリさんです。この人は森の木からペレットを生産、販売する会社「ベストペレット」を2003年に起業したパイオニアです。スイスではペレットは通常、製材所のおがくずを原料としており、森林材からペレットを作るメーカはこの農家を含めて2つしかありません。
www.bestpellet.ch

地元の森の木を使ったペレットを生産する際に、シュノイブリさんは一切接着剤を使わない生産方法を開発。またペレット原料のチップを乾燥する際には、100%再生可能エネルギーを使っています。乾燥には二重になった納屋の屋根裏に集まる熱くなった空気を利用します。悪天候の日には自宅のチップボイラーの熱で乾燥させています。そのためペレットの中でも輸送距離と生産エネルギーの小さな、環境性の高い製品になっています。また 樹皮入りペレットながら、最高品質のスイスペレットの規格に合格しています。

シュノイブリさんのベストペレット社は、地元30km圏内で十分な顧客を持ち、スイスでは唯一黒字を出している森林ペレットメーカです。 このシュノイブリさんは現在、パートナーの農家と共同で、家畜の屎尿を発酵させるバイオガスのコージェネ設備を建設中。生じる電力は売電、熱は地域暖房とペレット用のチップ乾燥に使います。夏の間の熱需要が少ない時には、ペレット原料の乾燥をフル稼動で行う。冬の熱需要の多い時には、熱をより高く売れる工場に売るという計画です。バイオガス発電設備の90%は電力会社の出資ですが、熱の販売会社は100%農家たちの出資です。

エネルギー起業家としての農家の実力、底力、ポテンシャルを見せ付けられます。



短信

●スイスのカーシェアリングの会員数が93700人へ
スイスのカーシェアリング組合「モビリティ」の会員数が93700人になった。今年上半期だけで3.2%増えたことになる。上半期の売上げは4.9%伸び、3180万フラン(約26億円)。順調な成長に応じて、共有車の数を50台増やした。現在モビリティが共有する車の数は2350台となり、それが1200箇所(450の立地)に配車されている。上半期で利用者数が20%も増えているのが、駅から利用する「クリック&ドライブ」サービスだそう。これは会員以外でもスイス国鉄の駅から簡単に1時間単位でレンタルカーとして、モビリティの共有車を利用できるサービスだ。また、企業によるビジネスカーシェアリングの顧客数も半年で8%増加。モビリティ社では、会員カードを利用して、ドイツ鉄道のカーシェアリング社の1500台を利用することもできるようにした。また、オーストリアのレンタルカー会社DENZELとと共同出資した会社により、オーストリアの25駅に進出している。
www.moblility.ch

●ドイツの脱原発延長をスイスから見ると・・
先週ドイツの脱原発延長のニュースがスイスでも大々的に流された。脱原発のスケジュールが遅れるのは残念で、すぐに嘆願のサインを集めるメールがドイツのどこからの団体からかスイスの私にも届いた。自然エネルギーへの供給構造の転換を妨げるという理由から、脱原発延長の決断に対して大きな反対運動が各地で準備されているという話しもドイツの同僚から聞く。ただ、原発更新を考えているスイスの方から見ると、たとえ延長されたとしてもドイツの意識とスイスの意識は天地の差。第一に、ドイツは脱原発することには変わりなく、新設など考えられず、核燃料税により原子力が高くなり(安いエネルギーではなくなり)、寿命延長期間はスイスが古い原発に許している延長期間よりも短い。

●スイスのCO2オフセット団体「マイクライメート」が日本進出
6月末に自発的なCO2オフセットNPOのマイクライメートが日本に進出した。現地パートナーとなるのは、2008年より日本でオフセット販売を行なっているeconos社。マイクライメートとの協力により、日本でも質の高い、持続可能なオフセットプロジェクトを認証する「ゴールドスタンダード」印のオフセットが販売されるようになる。これで9カ国目の進出となる。今後、どのような企業がマイクライメートのオフセットサービスを利用していくのか、楽しみだ。
www.myclimate.ch

●映画「第四の革命~エネルギー自律(Energy Autonomy)」がスイスでも公開
ドイツでは3月に公開されたカール・A・フェヒナー監督の映画である。「エネルギー自立する地域。100%再生可能エネルギーによる世界は可能であり、経済的であり、クリーンである」というメッセージの作品だ。資金集めも分散型で、数多くの個人や企業といったサポータたちの募金により作られたというユニークな背景を持つ。スイスでは公開が遅れに遅れ、9月13日にヴィンタトゥールで初上映。スイスでの上映が遅れているのは、この映画の放映を促進する会社「Energy Autonomy-DerFilm」の社員の話によると、明確に脱原発の立場を採る映画であるため、スイスの映画館が経済界・電力会社からの圧力を恐れているということが一因だという。
http://www.4-revolution.de/


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日本の森林ビジネス人材育成講座のお知らせと木のエネルギーと

2010-09-06 04:35:22 | お知らせ
一足先に秋です。ナナカマドやサンザシ、ガマズミの赤や橙の実が何とも温かく、綺麗です。朝方はもう10度近く、昼間は20度程度で直射日光が気持ちよいと感じられるほどになりました。

このところ私は「各種バイオマス尽くし」の毎日を送っていました。日本で10月にスイスのバイオマス利用についての講演させて頂くのと、年末に岩手木質バイオマス協会から発行される木のエネルギーの普及書に僅かながらスイスの事情を寄稿しているためです。

ところで、地球未来フォーラムの葉坂廣次さんから、先週、下記のお知らせが届きました。「日本の森の現状を正しく把握し、積極的に課題を解決しながらビジネスモデルを構想していく人材を育成・支援」するための講座への参加募集です。住宅づくりや森林NPOに携れている方、あるいはそういった分野での起業を考えておられる方で興味のある方は、下記サイトをご覧下さい。

(葉坂さんからのお知らせ)
第一次産業を支援する経産省の農商工・人材育成事業が募集開始。
テーマは、『森林ビジネス、今がチャンス』。間伐材でも住宅が十分造れるという 事例を学びながら、自らの活動プランを明確にできます。メイン講師は、農商工連携を作ったお一人で、当時大臣官房審議官だった大塚洋一郎氏をはじめ、実践者が多数。
開催場所は、東京(八重洲)での講義が4日(9・11・12・1月)。 
岐阜県での現地視察・研修が2回(10月)。
宿泊費も含め、助成金事業のため全てが“無料”のまたとない機会です。
締切は、9月6日(月)。詳しくは、↓下記ホームページをご覧ください。
http://www.noshoko-jinzai.net/
伊勢神宮の森を守る岐阜県・旧加子母村より

また、6月に私も参加させて頂いた一般市民向けの岐阜県加子母の森林ツアーについては、下記のサイトで参加募集を見ることができます。丸二という東京の住宅建設会社が、森林問題についての市民啓蒙の社会活動として主催されています。日本の人工林の現状と問題解決の糸口を加子母の森で、森林組合長さんなどから直接話を聞くことができます。9月と10月にも1度ずつ開催されていますので、関心のある方はこちらからどうぞ。
http://www.maruni-kashimo.net/tourform

話をバイオマス、特に木のエネルギーに戻しますと、日本でスイスやオーストリアのように木のエネルギーをいっそう活用していくためには、やはり日本の林業が持続可能な形で機能していることが前提となります。なぜなら木のエネルギーに使われるのは、主に森林からの低質材や木の建材として使えない部分、あるいは製材過程で生じる端材だからです。

木のエネルギー利用の基本は、木の資源のカスケード的な利用ですから、森から木が出ない、間伐も行なわれない状態では、木のエネルギーも経済的に作れません。反対に言えば、低質材や端材をエネルギー利用・販売することで、森林運営、木材生産における価値創出、経済性が高まります。

スイスの木質バイオマス利用でいつも言われることですが、何しろ、木のエネルギーは地元に流れるお金の額が大きいのです。設備費・燃料費・維持運営費・減価償却費を含めて、灯油暖房に支払う資金100フランのうち、60が外国に、25が国内に、そして地元に15が流れます。ガス暖房だと75フランが外国、10が国内、15が地元です。そして木質暖房の場合は外国に10フラン、国内が40フラン、地元が50フランという分配になります。

つまり、森林を持つ地方の公共建築や地域暖房で木のエネルギーで暖房や給湯を行なうことは、地域循環型の経済を作ることに繋がります。しかも、今日スイスでは木のエネルギーの価格(設備投資・運営・燃料費を含む)は、設計さえしっかりしていれば、灯油のそれと競争できるほどになっています。長期的に見れば、木のエネルギーの方が安くなるでしょう。

何だか、一般論になってしまいました・・。今日は本当はエネルギー農家の第四弾として、木のエネルギー農家の話をしたかったのですが、それは次回に報告することにします。


短信

ドイツ、オーストリアに追いつかないスイスのソーラー機器販売
ソーラーエネルギー機器の市場データによると、2009年度スイスでは、暖房・給湯用の太陽熱温水器の販売は29%、太陽光発電パネルは139%成長した。太陽熱温水器の施工面積は14.6万㎡で、物件数は1.6万台。その3分2が一戸建ての設備、2200台が集合住宅の設備となっている。しかし隣国のオーストリアでは同期間に人口1人頭にしてスイスの4.3倍の温水器が施工されている。今年よりスイスでも太陽熱温水器への助成が強化されたため、今後オーストリアとの差が縮まることが期待される。業界目標は2020年までに太陽熱温水器の普及度、1人頭1㎡である。対して太陽光発電パネルの2009年の設置出力は3.7万kW、27.5万㎡。ドイツは同じ期間に人口1人頭10倍の設置出力が施工されている。これは唯一、両国のフィードインタリフ制度の違いに起因する。

ノイエンブルグ州の風力プロジェクト、地域の電力供給の20%を予定
ノイエンブルグ州政府のエネルギー担当大臣は州政府に、新しい風力計画の中で、同州の5箇所に50基の風車を設置することを提案。ノイエンブルグ州の電力需要量は1000GWhであるが、風力パークは200GWhを生産する計算だ。同州では風力計画のほかにも、太陽光発電、深層地熱、木質バイオマスについての増産プログラムを現在計画中である。

ハンドサイクリング世界杯で金メダル、パッシブハウスを実践する車椅子の女性建築家
先週、カナダで開催されたハンドサイクリングの世界杯で、スイス人の女性建築家のウルスラ・シュバラーさん(34)が金メダルを獲得し、メディアから注目を浴びた。今回で4度目の世界一となる。彼女はスポーツ選手としての活動と平行して、環境建築で知られるルッツ建築事務所で働き、バウビオロギーやパッシブハウス建築を日々実践する。ラジオでのインタビューで彼女は、建築家としてゼロエネルギーハウス、プラスエネルギーハウスを実現したり、スポーツ選手として300kmの車椅子マラソンに参加することが目標だと話す。印象的だったのは彼女がスポーツに関しても、建築に関しても「エネルギー消費量を最小にして効率を最大に高めること」が大事、と言っていたこと。前向きで力強い彼女の今後の活躍が楽しみだ。
http://www.ursulaschwaller.ch/(シュバラーさんのホームページ)
http://www.lutz-architecte.ch(エコ&省エネ建築のルッツ建築事務所)

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