滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

今年のスイスソーラー大賞を授賞したプラスエネルギー建築たち

2011-10-15 21:56:24 | 建築

本当にご無沙汰しております。現在、次の本の執筆を必死で進めているところで、なかなかブログの時間が取れない毎日です。その間、スイスはすっかり秋深まり、遅咲きの菊の蕾も開きかけてきました。温暖な日が続いているものの、朝晩は冷え込み、我が家は暖房が入っています。

■ご報告

★ビオシティ2011年48号発売
環境と持続可能なまちづくり専門誌「ビオシティ」のリニューアル第一号です。拙著のオーストリアのエネルギー自立村、ケッチャッハ・マウテンについてのロングレポートが掲載されています。是非ご覧下さい。また「ビオシティ」の応援をお願い致します!!
http://www.amazon.co.jp/BIOCITY-%E3%83%93%E3%82%AA%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3-2011%E5%B9%B448%E5%8F%B7/dp/4903295524/ref=sr_1_cc_1?s=books&ie=UTF8&qid=1318688584&sr=1-1-catcorr

★オルタナ2011年26号発売
環境経済誌のオルタナの木の特集号に、拙著の小さなインタビューが掲載されました。スイスのフォレスターから近自然森づくりを学ばれている総合農林社の佐藤浩行さんへのインタビューです。スイスの近自然学を日本に伝えたパイオニアの山脇正俊さんがこの2人を繋げています。 http://www.alterna.co.jp/6930


■2011年度スイスソーラープライス発表
10月10日にジュネーブで、今年度のスイスソーラー大賞が、ソーラーエージェンシーにより授賞されました。大統領のミシュリン・カルミレさんや英国のスター建築家のノーマン・フォスター氏という豪華ゲストを迎えての授賞式です。いろいろな部門がありますが、建築部門の目玉は、今年もプラスエネルギーハウスたち。下記にいくつかハイライトをご紹介します。

★ハイツプラン社の事務所ビル、エネルギー自立度448%
2010~11年にサンクトガレン州ガムズに建てられた、ハイツプラン社の省エネ型の工場・オフィス建築。この建物は太陽光発電パネルにより年55000kWhの電力と太陽熱温水器により10900kWhの熱を作る。同社の年間エネルギー消費量は13000kWh(熱・電気)。よってプラスエネルギー度は448%となる。発電量に占める割合は、単結晶セルパネルを乗せた平屋根が67%、南ファザードが16%。アモルファス薄膜セルを使った東ファザードが8%、多結晶セルのパネルを載せたコンベアが9%を生産。屋根だけでなくファザードの活用、太陽熱温水器との組み合わせがポイント。

Quelle : Solaragentur

 ★シュレッティ家の戸立て住宅 自立度147%
ベルンのアルプス地帯の麓、ツヴァイジンメン村にあるミネルギー・P基準の新築一戸建て。エネルギー生産量は年25100kWh。対して床面積306㎡のこの家の消費量は17105kWhなので、プラスエネルギー度は147%となる。南向きの屋根の中央部が太陽熱温水器になっていて年17100kWhの温水を生産。その周囲が太陽光発電パネルで年8000kWhを発電。この家は、お隣の木質ボイラーで暖房する既存住宅と熱配管で結ばれている。それにより太陽熱温水器で余剰な熱が出たら、お隣の建物の蓄熱タンクに供給する。対して太陽熱温水器では熱が足りない日には、お隣の木質ボイラーがこの建物に熱供給するというのが面白い。太陽熱温水器を積極的に活用したプラスエネルギーコンセプトがポイントだ。

Quelle : Solaragentur

★サニーワット、ミネルギー・P・エコの集合住宅 自立度80%
サニーワットと名づけられた木造集合住宅はミネルギー・P・エコ基準で建てられており、19世帯が入る。住面積3580㎡の集合住宅の総エネルギー消費量は年109870kWh。対して、屋根面の太陽光発電パネルと太陽熱温水器による生産量は88400kWh。高断熱性能やパッシブソーラー利用により熱需要が最小限に抑えられている。太陽熱温水器で足りない熱は地中熱ヒートポンプでまかなう。一世帯あたりの屋根面積が限られた集合住宅でも、高いエネルギー自立度を達成できる例。設計はソーラー建築家として有名なベアット・ケンプフェンさん。下記リンクから写真が見られます。
http://www.kaempfen.com/images/stories/kaempfen/pdf/pdf_sunny_watt.pdf

Quelle : Solaragentur

★ルーファー・フーバー家の戸立て住宅 自立度315%
知人のトーマス・メッツラーさんが設計した、チューリッヒ近郊にあるコンクリート造の戸立て住宅。ミネルギー・P・エコ認証を受け、バウビオロギーの手法で建てられた。床面積185㎡のこの家のエネルギー消費量は熱と電気をふくめて、一年で僅か4612kWh。対して屋根材一体型の太陽光発電パネル13.2kWが、年14533kWhを生産する。プラスエネルギー度は315%だ。外壁のU値は0.10。設備は低温床暖房と地中熱ヒートポンプの組み合わせ。メッツラーさんらしい、シンプルでも温かみのあるデザイン。おめでとうございます!!こちらから写真が見られます。
http://www.bauatelier-metzler.ch/architektur/haus_rufer/index.html

Quelle : Solaragentur

参照:Solaragenturプレスリリース


■カッセルで「100%再生可能エネルギー地域」会議
9月末にドイツのカッセルで、2日間に渡る会議「100%再生可能エネルギー地域」が開催されましたので、本の取材を兼ねて聴きに行きました。参加者はなんと780人!!ドイツ国内の自治体関係者、エネルギー会社、設備建設会社、エンジニア事務所、市民団体などの人々が集まりました。

いくつものフォーラムが並行開催され、自治体や地域がエネルギー自立する上での手法・経験・課題などを、あらゆる角度から具体的に議論。既に数多くの自治体がエネルギー自立(とそれによ
り地域への価値創出)に向かって取り組みを進めているドイツでは、この会議が貴重な経験交換の場、ネットワーキングの場となっています。

会場の一部は小さな展示場となっており、自治体を顧客とする企業たちがアピールしていました。エネルギーサービス会社、設備メーカ、計画作成するエンジニア事務所、フォンド、再生可能エネルギーの業界団体・・等々。100%再生可能を政治的目標にすえて切磋琢磨する自治体たちのポスター展示も、ずらっと100枚くらい並んでおり圧巻でした。

人の数もそうですが、人々の熱気のすごいこと。ドイツではこのテーマが社会の一大運動になっていることを改めて実感しました。


■最近のフクシマ効果

9月末にスイスの上院も(驚いたことに)、内閣と下院に続いて原発の新設禁止を可決しました。しかし、法制化されるまでは、まだ不確定要素が大きいのが現実です。同時に上院も(下院に続き)、スイスの全量買取制度を機能不全にしている買取予算の上限を除去することを可決しました。現在、買取のウェイティングリストは1.3万件にも及んでいますから、すぐにでも実行すべきことなのですが、これについても実現までにはまだ時間がかかりそうです。

★フクシマニュース第一号配信
10月頭より月1回のペースで、スイスの環境団体であるスイスエネルギー財団のホームページにドイツ語で「フクシマニュース」を掲載しています。第一回目のリンクを下記にはります。スイスの人々の意識から福島第一原発事故を忘れさせないことが目的です。ドイツ語のニュースですので、ドイツ語が母語の皆さんのご家族やお友達に是非広めて下さい!
●この夏の節電成功:
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2011/10/05/fukushima-news-japan-braucht-keine-akw.html
●処理・汚染・補償の現状:
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2011/10/05/fukushima-news-stand-der-dinge.html
●再生可能普及の動き:
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2011/10/05/fukushima-news-die-zukunft-ist-erneuerbar.html#post_content_extended


■ニュース

★スイス:ヨーロッパ最高峰の風車の記録更新
これまでもヨーロッパ最高峰の風車パークは、アンデルマットのギュッチュにある標高2332mの風車(600kW×1、900kW×)だった。だが、9月30日にヴァリス州ゴムズ地域にある標高2465mのグリースという場所に、出力2.3MWのEnercon社の風力発電機が運転開始し、記録を更新した。この設備は、年300万kWh(約850世帯分)を発電する。立地はアルプスの大型水力ダムの隣で、既存の送電網を活用できた。景観的や自然への影響も少ないとされている。設備の総コストは550万フラン。SwissWinds社が、ジュネーブ市営エネルギー会社と、EnAlpinエネルギー会社との共同出資で実現した。自治体のObergomsも参加し、これらのパートナーでグリース・ウィンド社を設立した。
出典:プレスリリース、http://swisswinds.com/

★スイス・ドイツ:ラインフェルデン河川発電所のリパワリング竣工
9月15日に、ラインフェルデン河川発電所の建替えの正式な竣工式が行われた。ドイツとスイスの国境をなすライン河上にある同発電所は、100年以上の歴史を持つ。今回、8年間に渡る工事期間を経て、建替え工事が終了した。工事後の発電量は以前の3倍に増え、年600GWh(17万世帯分)を生産。また、再自然化対策により水系のエコロジー的な価値も向上した。4つのタービンの出力は計100MW。ヨーロッパでも最大規模の河川発電所となる。工事費用は3.8億ユーロ。発電所周辺の水系の再自然化には1200万ユーロが投じられている。1989年にスイス内閣とフライブルグ市が、運営会社の営業権を80年間延長する条件として発電量の増加を挙げた。そしてその際に、この区間に特徴的な岩がちな河川景観を維持し、周辺の水系を再自然化し、魚の通行性を確保することを要求したのだった。1994年には運営会社は建設許可申請をドイツとスイスに提出。その後、総合的な環境審査が行われ、環境団体や漁業団体と共に65の再自然化対策が作成された。建設許可が降りたのは98年。再自然化対策は2012年に完了する。900mの区間に渡る近自然の魚道と産卵水域の竣工が楽しみだ。下記から写真が見られる。 http://www.energiedienst.de/cms/unternehmen/presse/bilder-einweihung-neubau-wasserkraftwerk-rheinfelden.php
出典:EE-NEWs、Energaia

★ドイツ:パッシブハウス基準の室内プール竣工
3年間の設計・建設期間を経て、ドイツ・リューネンにある室内プール施設リッペバードが開園した。ヨーロッパで初のパッシブハウス基準によるプール施設となる。通常の新築よりも半分のエネルギー消費量となる予定だ。ドイツ連邦基金環境ではこのプロジェクトの設計に12.5万ユーロ助成金を出した。対策の基礎は高度な躯体の断熱と断熱三層窓。全ての省エネ対策を合わせると、エネルギーコストの節約は年19.3万ユーロに及ぶ。このプロジェクトは、新築部分と改修部分に分けられる。改修では昔の地域暖房センターをプールのホールに改装し、新築並みの断熱性能を与えた。
出典:ドイツ連邦基金環境プレスリリース、http://www.baeder-luenen.de/


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