滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

2010年の日本へのメッセージ

2009-12-26 02:27:05 | その他

今年も残すところあと数日となりました。南スイスの実家に帰る前に、今年の講演会や本で伝えたかった日本へのメッセージ、持続可能な日本のエネルギー利用のためにスイスの経験から活かせることを、もう一度手短にまとめてみました。
2010年は、日本がより本格的に省エネルギーと再生可能エネルギーの普及に取組み、それによって地域が元気になり、快適な住いが増え、活気ある町づくりに繋がっていくことを祈っています。

それでは、皆さん良いお年をお迎え下さい!


建物分野の省エネルギー
●冬の日射が豊富な日本は、快適+超省エネ住宅に最適

●新築・総合改修への省エネ規制基準は不可欠(冷・暖房・給湯)。
新築は、レベルアップした次世代省エネ基準、あるいは相応する一戸あたりのエネルギー消費量に制限値を設け、それを満たした設計を義務付ける。

●その上で本当の意味で『次世代』な省エネ基準を定義し、助成対象とする。例えば、日本の気候地域別のパッシブハウス基準のエネルギー消費量を目標とする。段階的に上記の義務値をパッシブハウスに近づけ、それに応じた設計者と施工者の教育を行う。

●様々な家庭用の再生可能熱源の選択肢の充実、そして利用率の義務づけと補助

●断熱による省エネ改修という大市場を生かすための長期的な助成政策  


交通の省エネルギー

●自動車の小型化を進めるためには炭素税、低炭素車への減税、規制強化は不可欠

●公共交通を主体とした「コンビ移動」の機能強化

●日本の都市部はカーシェアリングの普及に最適

●市町村の交通総合計画で、住人の交通エネルギー消費量を減らし、町を活気づける

●自転車と歩行者といった「スロー交通」に優しい町づくり


県や市町村

●小さな県や町でも賢い総合的な地域発展計画により、豊かな低炭素社会が実現できる

●県と自治体の総合的エネルギー計画を策定

●エネルギー計画を実施する自治体や県の間の横のネットワーク強化

●自治体のエネルギー政策の品質管理であるスイスの「エネルギー都市制度」は有効

●県や市による市民への中立のエネルギー・アドバイスは重要

県による地域に密着した省エネ建築と再生可能エネルギーの促進

 

省エネと再生可能エネルギーのためのインセンティブ

温暖化を二度以下に留めるには2020年までに産業国はCO2排出量を-40%減らす必要がある。ドイツやスウェーデンはその-40%を目標とし、必用なツールを整えている、リーダーである。日本やスイスの目標設定は二番走者。

2020年までにCO2 25%を実現するための、熱・電気・交通分野での省エネルギーと、再生可能エネルギー増産・利用の具体的な計画を。

●日本は太陽光、太陽熱、風力、潮力、地熱、水力、バイオマスといった豊富な再生可能エネルギー資源をもつ。それら全てを活かす促進政策を。

●全種類の新再生可能電力を全量買取るドイツ型の固定価格買取制度で、再生可能電力の本格的な増産と経済活性化を。

●灯油とガソリンへの炭素税の導入で、CO2削減対策やその助成のための継続的財源を確保する。


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脱原発計画を進める首都ベルン市

2009-12-23 02:36:21 | 政策
先週の金曜日に、保守系のベルン新聞(BernerZeitung)で、ベルン市の脱原発計画が大きく報道されました。スイスの首都で、世界遺産の旧市街をもつベルン市の市議会は、今年の春に2039年までに脱原発を決定。スイスではバーゼル、ジュネーブ、チューリッヒに続く脱原発宣言の町となっています。

そんなわけで、ベルン市にエネルギーを供給する市営水道エネルギー会社EWBが、具体的戦略を発表したのです。現在、EWB社に電力を供給するのは、1つは供給契約を結んでいるフランスの原発で契約が2013年に切れます。二つ目は資金参加しているスイスのゲスゲン原発で、2039年に廃炉になります。EWBはこれを機会として、段階的な原発により必要になる電力供給量330GWh分を、再生可能エネルギーを中心とした別電源で代替していきます。

ベルン新聞によると、まず2012年までに、ゴミ焼却・木質バイオマスの共同発電・地域暖房の新しい設備がオープンします。同時に、アルプスのグリムゼル峠にあるオーバーハズリ・ダムの発電容量を増加。さらにコージェネ型の地域暖房に転換してゆきます。そして同時に、イタリアのソーラー発電所とドイツの風力発電所に資金参加し、その電気を輸入するという計画。2030年までに240GWhを代替するために4.7億フラン(約450億円)を(原発ではなく)再生可能エネルギーに投資すると報道されています。

多くの人は、なんでイタリアとドイツからの輸入なの?という印象を受けるでしょう。私もベルン市の面積が限られているとはいえ、もっと地元に再生可能電力のポテンシャルはあると思います。でも、やはりそれは太陽光と風力への投資環境、つまり発電コストに関わる政治的、そして地理的条件が、今のところスイス国内よりもイタリアやドイツの方が優れているためでしょう。チューリッヒ市の脱原発計画にも、ドイツの風力発電所への資金参加が入っています。

ヨーロッパでは、光発電の発電コストは、スペインやイタリアのような日射の豊富な地域では2012~13年には従来電力価格に安くなる(グリッド・パリティを達成する)と言われています。風力については、スイスよりもドイツ北部の方が風が豊富である上、ドイツの再生可能電力の固定価格買取制度の方が優れているため、スイスよりも盛んな投資が行われ、大量に成長、価格低下しているからです。スイスでも現在の買取条件が改善されれば、そしてグリッド・パリティが達成できれば、EWBはもっと地元への投資割合を増やすのではないか、と思われます。

そう遠くない将来、ヨーロッパでは従来電力と競争価格の再生可能電力が大量に取引される日が訪れる。再生可能な電力が優先的に送電されるルールとなっているから、その時に、高くて調整の利かない新しい原発に投資する電力会社の経営状況は悪化する。その設備投資への決断を行うのは今、そんなベルン市の気迫が感じられました。



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BIOCity 2009年43号

2009-12-18 15:33:08 | お知らせ

こちらは一週間前よりぐぐっと寒さが厳しくなり、最高気温がマイナスの日々が続いています。多くの人は、ひたすら、あと3日我慢すれば・・・と考えるか、クリスマス前のストレスで気をまぎらわして(?)います。

あと3日で12月21日、冬至です。冬の始まりと同時にこの日が待ち遠しくなったのは、中央ヨーロッパに住むようになってから。この日が過ぎれば、あとは日は長くなるばかりだからです。中央ヨーロッパ人ですら苦しむ、暗い冬の精神的な辛さを、今年も乗越えられたとほっとするわけです。

築100年以上の古民家の屋根裏を改修した、賃貸住宅の我が家の中は、全館暖房で暖かいですが、窓の外の煙突から見える石油ボイラーの煙が気になります。石油で断熱の悪い建物を全館暖房、こんなこといつまで続けられるのだろうか、と。15年くらい前に窓と屋根の省エネ改修が行われていますが、それでも暖房エネルギーは今日の新築の3倍は消費しているでしょう。

下に住む老夫婦の大家さんには、数年前から、ソーラー温水器か木質バイオマスへのボイラー交換を勧めていて、一時はかなり乗り気になっていたのですが・・。80歳近くなると家への大きな投資への意欲がなえるようで、お金はあるのに、息子の代がやればいい、で終わってしまいました。

で、隣に住み農家を営む息子夫婦は環境のことにはあんまり興味のない人たちで、今はかなり古い薪ボイラーで暖房・給湯しているのですが、高級キッチンへの改修はするが、ボイラーの更新は先送り。母屋と離れを1つのチップボイラーで熱供給するシステムが一番適しているように思われますが・・。結局、今年も灯油で、いつまた家賃付帯料金の暖房費が高くなるか、と恐れています。

こう感じている賃貸人は私だけではないでしょう。ここ数年来、本格的な省エネ改修キャンペーンを展開してきたスイスでも改修率はまだまだ十分ではなく、エネルギー価格が再高騰する前に、改修率をもっと素早く向上させねば、スイスの建物の価値も暮らしの質も大幅に落ちるでしょう。

昨日のニュースでは、2010年度以降の省エネ改修の補助キャンペーンの予算についての報道がありました。国からCO2税を財源として年2億フラン(約180億円)というのは決まっていたのですが、その内訳が省エネ改修を目的に年1.33億フラン、そして州の独自の建物分野の省エネ補助プログラム(省エネ改修、再生可能エネルギーなど)に0.67億フランとなっていて、後者の内訳は州が自分で決められます。
このほかに、州たちの方では合計0.8~1億フラン(72億~80億円)を建物省エネ補助プログラムに出します。

これらを合計すると、2010年より10年に渡り継続して、年2.8~3億フラン(252~270億円)が省エネ改修を中心に建物の省エネルギー化に補助され、これまでの予算が大きく強化されています。このチャンスをうちの大家さんにも活かしてもらうためには、大家さんの息子夫婦にも営業(?)していかなければ、と思う次第です。

話が変わりますが、紹介が遅れましたが10月末に雑誌ビオシティ43号が発売されました。「環境共生住宅とそのまち」をテーマとしたこの号では、オーストリアとスイスの模範的な事例を訪ねてゆき、紹介させて頂きました。



オーストリアとスイスの環境共生型建築とそのまち
○ソーラーシティ・リンツ~行政主導の総合的コンセプトで魅力的なエコシティづくり
○ギュッシング市~エネルギー自給によるまちづくりで若者が希望を持てる地域に変身
○フォーアールベルグ州~オーストリア一のパッシブハウス高密度地帯の理由
○スイス、省エネ建築の最前線

中でも、木質バイオマス利用に携る方々には、ギュッシングの例を是非読んで頂きたいです。その他にも、ドイツでのプロジェクトについての服部圭朗さんや小室大輔さんの記事、五十嵐敬喜さんの「総有論の都市計画」など、興味深い記事が満載されていますので、よろしくお願いします。
http://www.biocity.co.jp/







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断熱材のシェアについてなど

2009-12-14 04:25:33 | 建築
講演会で多かったもう一つの質問が、私にとっては不思議だったのですが、スイスではどんな種類の断熱材が使われているか、というもの。私が訪ねて行った環境建築たちの場合、ロックウール、グラスウール、セルロースが一番頻繁に見るかな、という感覚がありましたが、数字で断熱材市場のシェアは見たことがありませんでした。

そこで、ヴィキペディアで調べたところ、ドイツでの自然系断熱材の市場シェアは5%とあります。スイスのバウビオロギー協会の資料でも同様な数字が紹介されていました。ドイツでの自然系断熱材の種類は、シェアが多い順に、セルロース→木質繊維ボード→軽ボード→麻とハンフ→羊毛となっていました。で、残りの95%は、ミネラルウール系(ロックウール、グラスウール)が過半を占め、それ以外が石油系(スチロポール、ポリウレタンなど)だそうです。

先日ベルンで開催された住宅建設メッセで、スイスで25年の歴史を誇るセルロース断熱材の最大手Isofloc社のスタンドに立ち寄り質問したところ、スイスではセルロースのシェアが7%に増加しつつあるということ。スイスでは、ドイツよりも少しだけ、自然系断熱材のシェアは多いようです。また、初期にあったというセルロースの沈下の問題は、長い繊維を保つような製造方法によってしっかりと解消されているそうです。同社のHPではセルロースを用いた様々な分野の建物事例が見られます。 http://isofloc.ch/de-ch-referenzen.phtml

それから、リサイクルコンクリートについての質問もありました。
ミネルギー・エコ基準では、コンクリートを利用する際にはリサイクル材を用いることが条件となっているからです。例えば、持続可能な建設を目指すチューリッヒ市の建設局ではリサイクルコンクリートを積極的に利用しており、将来的にはすべての新築で使っていくといいます。

チューリヒ市建設局の資料によると、リサイクルコンクリートは、建物を解体する際に専門業者が、コンクリートを分別し、それを玉砕したものを、新たなコンクリートに自然の砂利の代わりに使用します。今日ではバージンのコンクリートと代わらない品質で、構造体にも使える品質のリサイクルコンクリートが製造されています。

砂利の埋蔵量は有限でスイスではあと10~15年、と同資料にはあります。そのため、チューリッヒ市が近年建設した小学校「ビルヒ」やミネルギーの市営団地「ヴェルデ・ヴィース」では、コンクリートの大半にリサイクルコンクリートを用いています。

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スイスとドイツの固定価格買取制度の違い

2009-12-11 19:09:52 | お知らせ
日本で講演後の質問タイムで、一番多かった質問の1つが、スイスとドイツでの再生可能電力の固定価格買取制度に関するものでした。講演の中ではこのテーマには僅かに触れただけですが、ドイツの制度の方がスイスの制度よりも優れていると口をすべらせたのが悪かったようです(笑)。調度、日本で光発電に対する固定価格買取制度がスタートした時期に重なったため、皆さん関心が高かったのでしょう。

ドイツでも、スイスでも、全種類の再生可能エネルギーの発電全量に対して、10~15年程度で投資が回収できる価格を20年保証して、買い取りが行われています。この固定価格買取制度は、ドイツはドイツの、スイスはスイスのエネルギー政策上の目標に従って、微妙に違った設計になっています。

持続可能なエネルギー政策の目標として、ドイツはスイスよりもずっと徹底した、かつ具体的な目標を掲げています。ドイツは、脱原発と平行して、CO2排出量を2020年までに1990年比で-40%、2050年までに-80%するというものです。そのために、2020年までに総エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を18%(現在9%、下記の村上敦さんの本参照)、電力の分野では30%(現在15%)に伸ばし、また2050年には、一次エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を50%にすることを目指します。

電力分野での目標を達成するための主力ツールが、ドイツでは2000年から実施されている再生可能電力の固定価格買取制度です。同制度により、電力消費量に占める再生可能電力の割合が1998年には4.8%であったのが、2008年には15.1%と、10%も伸びており、2020年の目標は軽くクリアできるとされています。

対して、スイスの目標は2020年までにCO2排出量を-20%し、再生可能エネルギーの割合を現在の18%から24%に増やすことです。スイスの再生可能エネルギーの割合がドイツよりも多いのは、山国ならではの豊富な大型水力による恩恵です。電力に関しては、2030年までに再生可能エネルギーの占める割合を10%増やすことが目標です。

2008年度のスイスの電力生産の内訳は、エネルギー庁の統計によると、水力が56%、原子力が39%、新しい再生可能エネルギーが2%です。 新しい再生可能エネルギーからの電力が2%と少ないのは、スイスでは再生可能電力を促進するための最も効果的なツールとされている、ドイツ型に近い固定価格買取制度が、2008年になってようやく導入されたからです。それまでは、補助金や余壌電力の15ラッペン(15円)以上での固定価格買取義務、グリーン電力証書の取引などで促進されてきましたが、成果は微々たるものだったということが分かります。

ちなみにスイスが水力に恵まれているからといって、ドイツよりも再生可能電力を促進しない理由はありません。老朽化した原子力発電所が2020年からフェードアウトしていくので、その分の発電量を、省エネと新な発電設備で補っていかねばならないのです。

さて、ドイツの制度は、再生可能電力の増産が脱原発と気候政策に欠かせないこともあって、僅か10年で再生可能電力の割合を10%増やした実績を持ち、さらに20年で30%増やす計画になっています。ですが、スイスの制度の目標は20年で10%を増やすこと、ドイツの2~3分1の速度です。

速度の違いを生む差は、買取予算額の差にあります。スイスの場合、再生可能電力を買い取るために、一般電力に上乗せされる額が1kWhあたり最大0.6ラッペン(約0.4ユーロセント)と決められている上、現在0.45ラッペン(0.3ユーロセント)しか徴収されていません。

さらに、各分野ごとに買取予算の%が割り当てられている上、太陽光発電に関してはコストが一定以下になるまで5%しか割り当てられません。そのため、制度のスタート数日後には、光発電パネルの予算は使い尽くされました。また、他の再生可能電源についても、買取予算の上限に達したため、新しい設備からの買取はストップしているのが現状です。

結果、スイスの再生可能エネルギー市場は2008年の爆発的成長のあと、またしてもストップ&ゴーに悩まされています。買取予算額の上限を除去することが検討されているそうですが、解決されるのは数年先という話。そのため、今は州レベルでのの補助金や固定価格買取制度で、事業主をできる限り吸収する努力が続いています。

対してドイツの買取予算はこのような上限が設けられておらず、ドイツのジャーナリスト村上敦さんの本(下記)によると、買取予算のために一般電力に上乗せされる価格は、2007年でkWhあたり1.0ユーロセント、2010年で1.5ユーロセントと、スイスの3倍以上の設定になっています。 しかも、この上乗せ価格は2015年を境に減っていくことが予測されている点は興味深いです。詳しくは、ドイツ在住のジャーナリスト村上敦さんの本、
「日本版グリーンニューディールへの提言~フィードインタリフ思想が経済を活性化する」(Eolways5、VaubanBookSeries)に紹介されています。
大変お勧めの一冊です。
http://www.eolways.jp/book/japanese_gnd/index.html




このようにスイスの再生可能電力の増産目標と固定価格買取制度が、ドイツと比べると消極的な理由は2つあると思います。
1つは、ドイツの場合、スイスと比べると発電分野でのCO2排出量が大きく、気候対策として、発電分野での再生可能エネルギーの促進が非常に有効かつ重要という点。
そして2つ目は、ドイツが脱原発の道を選んだのに対し、スイスが脱原発の道を選んでいないこと。ドイツはフェードアウトしていく原発の発電量を再生可能電力の増産によって補っていく政策を歩んでいます。対して、スイスでは大手電力会社と多くの政治家が、将来的な原発新設を望んでいるため、その稼動効率と経済性を低くするような再生可能電力の躍進を実現させるドイツ型の制度には本心は断固として反対しているのです。

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