滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

中小産業からの地域熱供給~木材利用産業の定番モデル

2013-01-10 20:15:22 | 再生可能エネルギー

今日は2012年スイスソーラー大賞の受賞者から、設備部門での産業建築の例を紹介します。いづれも産業での再生可能な工程熱利用や、産業からの地域熱供給の事例です。

 ●太陽熱設備部門:ザルツベルガー木造会社、太陽熱と木質バイオによる地域暖房

スイスでは製材会社や木造会社からの周辺地域に熱供給を行うことは昔から行われていますが、ソーラー大賞を受賞したサルツベルガー社では、その熱源の一つに大きな太陽熱温水器を用いているのが特徴です。

ザルツベルガー社は、スイスアルプスのエンガディーン高原、シュカンフ村にある木造建築の会社です。高原なので夏でも場合によっては暖房が必要な地域です。同社では、2011年に工場A棟の外壁と屋根に、合計609㎡の太陽熱温水パネルを設置しました。南西向き屋根に441㎡、南東向き外壁に84㎡、南西向き外壁に84㎡を設置しています。

収穫した太陽熱は、工場の暖房、木材とチップ倉庫の乾燥、そして村の地域暖房に使っています。太陽熱温水器を補足するのが4つの蓄熱タンク(容量10.8万ℓ)とヒートポンプで、これがピーク時需要をサポートしています。蓄熱タンク内の温度を必要に応じてヒートポンプで高めているのです。 余剰に生じる熱は、建物のコンクリート床に蓄熱し、それにより工場内の湿度が通年40%以下に収まるように調整しています。

同社の一年の熱エネルギー消費量10.5万kWhですが、太陽熱温水器が54.3万kWhを生産している計算になります。夏の間は、太陽熱だけで会社と村の熱供給を行うことができます。しかし、寒い日には太陽熱だけでは足りないので、別棟Bに設置された900kWのチップボイラーが稼働します。同社は、熱供給網の運営だけでなく、出資も自前で行い、少しずつ拡張しています。熱供給網の長さは、2010年に712mだったのが、2011年には626m増築され、今年も600~700mを増築。現在の総長は約2㎞になっています。2016年の最終段階では、4㎞までに拡張される予定です。

小さな村や地区単位の小規模な地域暖房ならば、地域産業や住民の手によって実現、運転できるという良い例です。

●設備部門:コープ大型パン工場、木質バイオによる工程熱

設備部門でソーラー大賞を受賞したのは、パン工場の工程熱に木質バイオマスを用いているコープ生協の例です。地域熱供給は行っていませんが、大型消費者の例として面白いので紹介します。スイスの大手小売店である生協COOPは、2023年までにCO2ニュートラルの企業になることを目指して、積極的に省エネと再生可能エネルギーの利用に取り組んでいます。大型パン工場と分配センターでは、2023年までに75%のCO2排出量を減らすことが課題です。

そのため同社の東スイスのゴッサウ町にある大型パン工場では、900kWの木質バイオマスボイラーを導入しました。それにより3.5GWhの工程熱を作っています。チップの燃焼で得た熱で、オーブン内を循環するサーモオイルを300度に熱しているのです。一日のチップ消費量は30㎥、一年では6000㎥になります。工場と分配センターの熱需要は600万kWh(6GWh)ですから、熱分野では灯油とガスの消費量とCO2排出量を60%削減したことになります。

さらにこの工場では、屋根に630kWの太陽光発電を設置し、年間63万8500kWhの電気を生産しています。工場と分配センターの電気消費量は700万kWh(7GWh)ですの。電気と熱を合わせた工場の総エネルギー消費量13GWhのうち、32%を地域の木質バイオマスと太陽光発電で供給している計算になります。カーボンニュートラルまでの、大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。

さて、私がまだ2012年のソーラー大賞の話をしている間に、1月9日にはスイスエネルギー庁が優れたエネルギープロジェクトに与える「金のワット賞」が発表されました。また、南スイスでトンネル坑道を利用した圧縮空気の蓄電実験設備の建設が始まったり、ベルン州では「100%再生可能エネルギー」を目指す住民投票の選挙戦の幕が開かれたり、と新しい話題が山ほどありますが、それはまた次回に紹介するとしましょう。


ニュース

●スイス:ノイシャテル州農家の共同風車
パーク ノイシャテル州のLa Joux-du-Plane/L’Echeletteでは、土地所有者である地域農家が共同で建設する風車パークにより、2014年から約1.25万世帯分の電力が生産される予定。始まりはVal-de-Ruzの二件の農家で、彼らが地域の16件の農家を風力プロジェクトに巻き込みみ、2006年に各農家が3000フランずつ出資し、風車開発会社を設立。プロジェクトが大きくなったため、資金力のあるパートナーを探した。投資額は6000万~7000万スイスフランになるが、その大半は西スイスの都市公社Groupe Eが出資する。
出典:スイスエオル・ニュースレター Suisse Eole

●スイス:10kW以下の太陽光は買取制度の対象外に?
12月半ばに下院は10kW以下の太陽光発電を買取制度の対象外とし、投資助成金に戻すことを可決した。つまりほとんどの一般市民にとって、ファンドや組合いのように組織化されていない場合、買取制度は課徴金だけ取られて、直接の経済的なメリットはない制度となる。市民所有の発電源が増えるのではなく、既得権企業の権力をとどめたいという構図が見える。対してスイスで強いロビーを持つ水力対しては、発電コストの高さにもかかわらず、設置目標強化と建設許可の簡易化等が可決された。これらの法案については、今後上院でも審議される。


●ドイツ:風力活用で自治体を赤字から救済するモデル
内陸での風力利用が盛んな中南ドイツのラインランドプファルツ州。同州のウェスタ―ヴァルド郡にある自治体ヘーンでは、地元の再生可能エネルギー建設会社のユーヴィをパートナーとした風力事業から生じる事業税と土地賃借料金の収入により、まもなく自治体の借金を完済できる予定だ。「ユーヴィ社が土地賃借料金の一部を一括払いすることにより、2013年には自治体は借金なしとなるだろう。」と町長のノーベルト・ブレッサーは語る。

このプロジェクトで重視されているのは、建設予定地域の全ての土地所有者に、公平に土地賃借料金が分配されるモデルだ。そのため、自治体が土地所有者と直接に土地賃借契約を結んだ。そして、自治体として風車パークをJuwiに建てさせるというスタンスだ。この契約では、実際に風車が立っている土地に隣接する土地所有者にも料金が支払われる。

また、全ての住民が得するコンセプトも目指す。地域住民が風車パークに投資できる住民参加モデルも議論されている。そして風力を地産池消する市民電力料金の導入も考えられている。住民は、地域の大手電力会社の電気よりもkWhあたり少なくとも2セント安い料金で、電力を購入することができる予定だ。さらに自治体は、収入の一部を用いて、地元の若者と高齢者をサポートする活動を強化することも計画している。

自治体ヘーンの風車パークでは、タワーの高さが145m、ローターの直径120m、出力2.3MWの風車8基が計画されており、2013年末に運転開始する予定。平均的な3人の家庭だと1.6万世帯分の電力消費量に相当する57.6GWhを生産する予定だ。
出典:Juwi社プレスリリース

●ドイツ:グリーンシティエナジー社と自治体共同体による風車パークプロジェクト
ミュンヘンに立地する市民出資による再生可能エネルギーの建設会社グリーンシティエナジー社。この会社と、南ドイツバーデンビュルテムベルク州の三つの自治体エッテンハイム、シュッタータール、セーバッハは、共同で総合的な住民参加を伴う風車パークを開発している。

この共同プロジェクトのモデルでは、自治体は経済的に興味深いプランが与えられ、設計と運転時に大きな影響力を持つ。対してグリーンシティエナジー社は、専門的なノウハウと資本金を持ち込む。同社は、ゼネコンとして資金的なリスクも担い、自前で経済性の事前調査を行う。自治体は、調査後にプロジェクト実現と参加について決断する。

ウィンドパークには6~8基の風車が予定されており、2014年までに運転開始の予定。これらの風車の半数以上が、自治体と自治体内の住民出資の組合「エッテンハイムの市民エネルギー」に属することになる。それにより、風車運営に長期的に自治体と住民の意見を反映させ、収入を地域に還元することができる。さらに組合では、風車パークからの価格の安定した電気を地元住民に直接販売する権利を持つ。グリーンシティエナジーでは、このようなプロジェクトの開発と市民参加モデルの構想を専門的に手掛けている。
出典:Green Citiy Energyプレスリリース

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