滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

「メルケル首相への手紙」(その2)

2014-02-09 14:38:16 | 再生可能エネルギー

またもや大変ご無沙汰してしまいました。今年のベルンはすっかり暖冬で、こんなに暖かく、頻繁にお日様+アルプス山脈を拝める冬は、私がスイスに来て以来はじめてのことです。1月には蝋梅が満開、マンサクも咲き始めました。前回のブログでお知らせた翻訳本、「メルケル首相への手紙~ドイツのエネルギー大転換を成功させよ!」は、告知から数週間遅れましたが(失礼しました)、1月半ばに無事に販売開始に漕ぎつけることができました・・・。

 

思えば昨年6月半ば。juwi社の社長のブログを偶然に発見し、そこに本が出ると書いてあったので、興味を持ってすぐに予約しました。ドイツにはエネルギーヴェンデ(エネルギー大転換)について書いた本はいろいろありますが、現役の再生可能エネルギー企業家が書いた本はまだなかったからです。しかも原著の題名は「首相への私の不道徳な申し出」という好奇心をそそるもの。届いた本は150頁の手軽なもので、一週末で読み切ってしまうほど、読みやすく、面白いものでした。そして、なるべく早く日本に伝える価値のある本だ、と強く感じました。幸運にもご本人の了承も得られ、ドイツ在住の仲間の村上さんも同著に感動され、いしずえ出版社のチームやユーヴィ社の広報の方の尽力が加わり、これらによりほぼ半年で日本の読者に翻訳本が届いいたことは、本当に嬉しいことです。

 

この本が書かれたころのドイツは、総選挙前で、エネルギー政策に関しては泥沼の戦いが水面下で繰り広げられていました。南ドイツでの風力の飛躍的成長を阻止すべく、また市民主体のエネルギー転換の普及を阻止すべく、電力大手と石炭発電の業界が最後の力を振り絞って、再生可能エネルギー・ブレーキをメルケル政権経由でかけまくり、メディアでも電力価格に関する偏った情報を流す大々的なキャンペーンが行われていました。スイスの人たちにとっても、ドイツの下からのエネルギー大転換はお手本的な存在ですから、こういった戦いをスイスからハラハラとしながら見守っていました。そんな中で、この本は、正しい事実関係を伝えようとし、また実践者だからこそ見える未来を描いています。

 

エネルギーヴェンデのために戦うヴィレンバッハーさんのメッセージを簡単に紹介したヴィデオに日本語訳をつけたものがアップされましたので、興味がある方は下記からご覧ください。

 http://youtu.be/TpzRD46PI70


 
そして9月末のドイツの総選挙では、前連立政権でエネルギー大転換の敵とされていたFDP(自由民主党)が政権と議会から失墜し、これ以上悪くなることはないだろう、と思ったところでした。ところがどっこい新たな連立政権で経済・エネルギー相についたシグマー・ガブリエル(社会民主党)は前大臣以上に石炭発電の友のようで、分散型エネルギーヴェンデへのブレーキを引き続き踏みまくってます。現在準備中の固定価格買取制度の改訂を通じて、再生可能エネルギーへの投資家を不安にさせ、住民や自治体の取り組みを犠牲にしようとしていることに対して、ドイツのエネルギー市民の戦いの声が日々聞こえてきます。
 

さて、こういった波瀾万丈のドイツに対して、スイスの「エネルギー戦略2050」は表面上は大変穏やかで、亀のように遅い歩みで進められています。昨年の夏に内閣は、パブコメの意見を反映させて改訂したエネルギー戦略2050の法案を出してきました。これが今国会で審議されている案になるのですが、その中で、パブコメ後により良くなった部分として、意欲的な省エネの目標設定にありました。2035年までに総エネルギー消費量を一人頭マイナス43%、2050年までにマイナス54%するというものです。しかし、この冬の国民議会の環境エネルギー委員会での審議では、この目標を早くも法律から削除しようという決議がなされています。目標なしで、自発的な取組だけで達成するというのですが、目標なければ、目標のための法的な枠組みも作れません。どうなることやらすが、また発展をブログでご報告します。

 
ところで、今年は私の住んでいるベルン州では、楽しみ(?)な住民投票があります。5月に予定されているミューレベルク原発の即時の運転終了を求める住民投票です。昨秋に、ベルン電力社(BKW)は、運転42年目のミューレベルク原発を、2019年に運転終了すること発表しました。長期運転のために求められていた高価な安全対策を施さず、そのために必要だった対策コストの10分1(わずか1500万スイスフラン)という最低限の安全対策で、できる限り長く運転する、という視点からの決断です。連邦核監督機関がBKW社の安全対策を認めるか否かはまだ分かりません。ミューレベルク原発の廃炉を求めてきた市民や環境団体は、このような妥協案に納得しておらず、予定されていた通りに、5月18日に即時廃炉を求める州の住民投票が行われます。

 
また、今年、スイスでもうひとつ注目していることには、州のエネルギー大臣会議にて準備が進められている建物の省エネ法の雛形改訂です。二アリーゼロエナジー建築の義務化に向けての最後の一歩として、どのような形の雛形法にまとまるのかが楽しみです。スイスでは建物省エネ化は州たちの管轄。国の歩みは遅いですが、州のレベルでは今後もどんどんとエネルギーヴェンデを進めていってくれることを期待しています。昨年はドイツの話が多かったですので、今年はより意識的にスイスの情報もお届けしたいと思っていますので、よろしくお願いします!

 

 
お知らせ

 
ビオシティ 2014年No.57「市民による市民のためのまちづくり」

今年で創刊20周年の環境・まちづくり専門誌ビオシティ。アメリカから市民参加のまちづくり・デザインに関する、興味深いプロジェクト満載です。拙筆の連載「欧州中部のビオホテル探訪」では、南ドイツ・アールゴイ地方の「ホテル・エッゲンスベルガ―」を紹介しています。

http://www.bookend.co.jp/biocity/

 

■スイス・エネルギー財団 「フクシマ・ニュース1月号」

今月から環境NPOスイス・エネルギー財団のフクシマニュースは、月間ニュースレターの一部になりました。1月号は下記からご覧になられます。都知事選について報告しています。

http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2014/01/23/nl-1.html#post_content_extended

 

■MIT Energy Vision社の10月視察セミナーのお知らせ

2014年10月5日~11日にかけて、MIT Energy Vision社では、毎年恒例の募集型視察セミナーを実施します。上記の本で紹介したjuwi社や市民エネルギー事業のプロによるレクチャーも予定しております。下記からプログラムをご覧いただくことができます。

http://www.mit-energy-vision.com/news/listview.html

 

ニュース

 

シャフハウゼン市で放射性廃棄物の最終処分地をテーマとした展示会

シャフハウゼン市にある自然・歴史博物館Museum zu Allerheiligenで、昨年秋より放射性廃棄物の最終処分施設をテーマとした展示会「長期間そして最終処分地」が開催されており、非常に好評です。展示は、3月23日までとなっています。スイスにお住まいの方は是非足を運ばれてみて下さい。

http://www.allerheiligen.ch/de/wechsel-und-sonderausstellungen/371-langzeit-und-endlager

 

■スイスの風力ポテンシャル、国の試算より大きく

風力業界団体であるスイス・エオルによると、国のエネルギー戦略2050の中でエネルギー庁が試算する風力ポテンシャルをよりも、州の具体的な立地に基づく調査による2035年までの増産試算結果の方が2倍も大きいことが分かった。国のエネルギー庁では2035年までに1760GWhの風力を見積もっているが、後者ではワット州だけでも1150GWh、ヴァリス州だけでも750GWhを見積もっている。特にワット州は、スイスの風力パイオニア州となることを目指し、29万世帯分の電力を風力で生産することを目指している。スイス・エオルは、国の戦略において風力ポテンシャルが過小評価されているとして、是正を求めている。風力やその他の再生可能エネルギーからの電力を、素早く増産することにより、脱原発の過渡期対策とされているガス発電が不要になるという。特に、太陽光の乏しい冬の間に発電量の多い風力の増産は、スイスの脱原発にとって重要な要素である。

参照:SonntagsZeitung

 

■スイス・スーパーミグロのアーレ地域組合が太陽光発電に2000万フラン

生協式のスーパー最大手のミグロ。そのアーレ地域組合では、自社建築物への太陽光発電設備の設置を増やしていく予定。次の2年間で25棟の建物の屋根8万㎡に太陽光発電を設置。施工費用として2000万スイスフラン(約24億円)を予算化し、自社の電力消費量の5%をまかないたいとしている。発電量は8GWh、2500世帯分の消費に相当する。ミグロ社では、2020年までに10年度比で10%の電力消費を削減し、CO2は20%削減することを目指す。さらに年内に、ミグロ・アーレ支部の全てのショッピングセンターに電気自動車の充電スタンドが設置される予定だ。

参照:Migrosプレスリリース

 

■スイス・スイスコムが調整用電力市場に参入

スイス最大のテレコム会社であるスイスコム社(株式の過半を国が所有)が、子会社スイスコム・エナジー・ソリューション株式会社を立ち上げ、調整用電力市場に参入した。国家的な送電会社であるスイスグリッド社は、系統の電圧を保つために、過負荷時あるいは供給不足時に対応する調整用電力の契約を電力大手と結んできた。2012年だけでもスイスグリッドは、調整用電源の待機に2億スイスフランを支払っている。この市場にスイスコム・エナジー・ソリューションは目を付け、従来の大手電力よりも安い価格で調整用電力を提供しようとしている。スイスコムは、スイスのほとんどの世帯と通信技術的に接続されているため、各家庭のヒートポンプ暖房や給湯機を操作することは簡単である。これらのスイッチを入切することで仮想の発電所として利用していく予定だ。スイスの300万世帯のうち、35万世帯がこの事業の対象になりうる。一世帯あたりが捻出できる調整用電力は1kW。スイスグリッドでの調整用電源への参加は5000kWなので、少なくとも5000世帯が必要だが、同社では既に3500世帯と契約を終えている。目標は7万~10万世帯。同社では、顧客獲得のために、スマートフォンのアプリ経由で、自宅のヒートポンプの運転状況を確認・操作できる制御ソフト(6万円~12万円)を無料提供している。

参照:Berner Zeitung

 

■スイス・バーゼルランド地方の電力会社、地域暖房専門会社を設立

バーゼルランド州の20万人に電力供給を行う組合式のエネルギー会社EBL(エレクトラ・バーゼルランド組合)では、1994年以来、スイス全国で地域暖房の計画・建設・運転事業を行っており、50箇所以上で再生可能エネルギーを中心とした地域暖房設備を実現・運転している。同社では、自治体などでの地域暖房への需要の増加に応えて、地域暖房専門のEBL地域暖房株式会社を設立した。共同出資者になったのは、長期的に安定した利回りを望むある年金共済金庫。運転はEBL社が今後も行う。

参照:EBLプレスリリース

 

■スイス・電力商品のエコロジー度と価格を比較、注文できるサイトMyNewEnergy.ch

保険や不動産、中古自動車をサーチして、価格を比較できるサイトComparis。この会社の従業員が、電力のエコロジー度と価格を比較し、オンラインで注文できるサイトMyNewEnergy.chを立ち上げた。郵便番号を入力すると、その地域で購入できるエコ電力やエコ電力証書がエコロジー度の高いランク準にリストアップされる。スイスでは中小規模の消費者に対しては、まだ電力市場が自由化されていないため、電力会社自体は乗り換えることができないが、電力会社ごとに複数の商品が販売されているほか、地域と関係なく購入できる証書商品も沢山ある。1000種類の商品が既にシステムに入力されている。それらの品質の差が一目で誰にも分かる便利なサイトである。現在、スイス市場の70%程度を把握しているが、今後、少しずつ全ての電力供給会社の商品をシステムに取り込んでいく予定だ。

参照:MyNewEnergy.ch プレスリリース

 

■ドイツ・シュレスヴィヒ-ホルシュタインで仮想発電所が運転開始

ドイツ・シュレスヴィヒ-ホルシュタインのブレクルム(Breklum)で、初の仮想発電所(バーチャル発電所)がテスト運転を開始した。太陽光と風力、バイオマスとコージェネそして蓄電・蓄熱を組み合わせることにより、予測通りの電力需要量を供給する仕組みである。運転者はArge Netze有限会社。地域内の250軒の中規模の再生可能エネルギーによる発電設備の所有者から成る会社だ。同社では、フラウンホーファー風力・エネルギーシステム技術研究所(IWES)とフレンスブルク大学をパートナーとして、今後、予定通りの量のエコ電力を生産し、販売していく。風力と太陽光の発電量のバランスをとるために、バイオマスとコージェネ、そして将来的には蓄電池も組み合わせる。

出典:www.energiezukunft.eu

 

■ドイツ・2013年陸上風力、3000MWの新設

ドイツ風力連盟(BWE)によると、2013年度ドイツでは2998MWの新規の陸上風力設備が建設された。そのうち60%がドイツ中部および南部の内陸地帯で建設されている。40%は風力が既に普及している北部で建設された。前年度比での増加率は30%近い。現在、南ドイツでは数多くの風力プロジェクトがパイプライン上にあるが、2014年度の買取制度の行く先が見えない中、今年度の増産予測は難しい状況にある。買取制度の改訂によっては、ドイツ風力連盟とVDMAパワーシステムでは2500~3000MWの新設を予測している。2013年度末のドイツの陸上風力の総設置出力は33730MWである。

出典:BWEプレスリリース

 


■イギリス、原発への固定価格買取り、35年間、再生可能エネルギーより高く

1月末にベルンで開かれた講演会で、スイスのエネルギー庁の副長官が、いかに新しい原発の発電コストが高いかということを話していた。その際に引き合いに出されたのが、現在イギリスで新規建設中の原発Hinkley Point Cである。同原発で作られた電力を、35年間にも渡り、約10.6ユーロセントという高額の固定価格で買い取ることを、国が事業者であるフランスの電力大手EDFに保証するという。今日のドイツの大型太陽光発電や陸上風力の買取価格よりも高額である。EU委員会はこれを違法な助成金であると報告している。EDFは今年7月に最終的な投資決断を行う予定。

参照:www.klimaretter.info


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