滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

国民議会でエネルギー戦略2050の審議始まる

2014-12-01 14:41:29 | お知らせ

今朝のE.ONのニュースに驚愕

引っ越しまであと10日となった今朝。朝食時にラジオを聞いていましたら、ドイツ4大電力の一つであるE.ONが、原発・石炭・褐炭・ガスの発電事業およびエネルギー取引事業から撤退して、再生可能エネルギー発電事業と小売り事業、系統運営事業のみを行うことにした、というニュースが流れてきて、驚愕しました。ヨーロッパの電力の市場価格の低迷が続く中、また下からのエネルギーヴェンデが素早く進行する中、非再生可能エネルギーの発電事業では生き残れないという説明でした。

ドイツのエネルギーヴェンデの次の一歩には脱石炭・脱褐炭への政治的コンセンサスが必要ですが、こんな形で大手が決断せざるを得なくなるとは想像していませんでした。スイスの電力ナンバー3のベルン電力も脱原発してエネルギーサービス会社のリーダーになるという決意を表明していますが、なれるかどうかは別として、それと同じ方向性を意図しているのでしょう。

とはいえ新生E.ONの場合は、本社から切り離されたとは言え、原発も石炭発電所も消えてなくなるわけではありません。結局、廃炉や後始末のコストは、もうけた企業ではなく、ドイツでもスイスでも納税者が払うように持ち込まれそうです。上記のニュースについては、村上敦さんのブログに詳しく解説がありますのでご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/

 

エネルギー戦略2050がやっと国民議会へ

さて今日からベルンでは、国民議会(下院)にて、エネルギー戦略2050とその第一対策パッケージについての議論が開始されます。福島第一原発事故から早くも4年近くが経過して、内閣による法案→パブコメとその反映→国民議会の環境都市計画エネルギー委員会での修正案を経て、ようやくここまでたどり着いたわけですが、まだまだ時間がかかりそうです。今会期で国民議会の議論が終着したとしても、来年の春に上院での審議に回され、そこで下院と上院が一致するならば2016年に国民投票になるかもしれません。しかし、一致できなない場合には再び時間が失われます。

 

さらに来年秋には総選挙がありますから、そこで原発延命派のスイス国民党からの閣僚が増えれば(その可能性はありますが)、脱原発政策自体が危うくなります。とにかく議事を引き延ばしに延ばすこと、これが原発ロビーとその政治家たちの狙いだ、と知人の環境団体の方は言っていました。こうして気が付けば何も変わらないまま、老朽原発がだらだらと運転し続けられている、というような状況になりかねません。ドイツのように脱原発に明確な運転終了時期が設定されていないことが、スイスの脱現発政策の最大の弱点です。運転開始40年以降は、10年ごとに運転延長を申請できるように議論されているのが現状です。

 

半数の国民にヨード剤配布

11月の中旬には我が家に新しいヨード剤が届きました。我が家はミューレベルク原発の10㎞圏なので以前からヨード剤は配布されていましたが、今回は原発50㎞圏に拡大しての配布になりましたので、スイスの人口の半分以上がヨード剤を受け取ったことになります。世界最古のベッツナウ原発や世界で一番危険と言われるミューレベルク原発のような安全対策不十分な老朽原発を放置してのヨード剤の配布は気休めに過ぎませんが、コストの方では(これまでの3倍の)36億円がかかりました。リスクの原因者であるスイスの原発事業者が払うことになっているのですが、原発事業者は過剰な対策であるとして支払いを拒否する姿勢です。

                             

また先週流れたスイスの原発事業者に関する別のニュースでは、連邦の金融監査局が原発事業者が払い込む運転終了・廃炉費用の基金の払い込み額が十分でない(半分足りない)という報告書を発表した、というものもありました。金融監査局は、基金運用への原発事業者の関与が大きすぎることも指摘しています。スイスで現在運転中の原発5基のうち3基が、運転40年を超えているわけですが、それでも払い込まれたお金が足りないという確信犯です。環境団体スイスエネルギー財団では、このようにして原発の発電価格が間接的に助成されていることを批判しています。

 

10~11月にスイスで広域配布されたエネルギーヴェンデの刊行物

毎年10~11月にかけては、スイスではエネルギーヴェンデに関する情報発信が活発になる時期です。11月にはベルンで毎年恒例の建設・エネルギーメッセが開催され、それと同時に会議「誰もに支払えるエネルギーヴェンデを!」が開催されました。その会議でのエネルギー大臣ドリス・ロイトハルトさんの素晴らしいスピーチを下記リンクから見ることができます。

http://www.bhe.ch.fachmessen.ch/htm/fuer-besucher.htm

 

その他、11月半ばにはスイス再生可能エネルギー機関による国レベルでの再エネ会議「実施におけるエネルギーヴェンデ」もありました。そちらの会議での発表資料は下記リンクより見ることができます。

http://www.aeesuisse.ch/de/aee-suisse-kongress/referate/

 

10月末には全国の持ち家主を対象としてエネルギー・シュヴァイツ(エネ庁のプログラム)が毎年発行している、省エネ改修や省エネについての分かり易い新聞が配布されました。発行部数は120万部です。

ダウンロード版:http://www.energieschweiz.ch/extrablatt

 

また11月の第一日曜日には、冊子「スイスのための新しいエネルギー~100%再生可能」が主要な全国紙への折り込みとして配布されています。内容はスイスの再生可能エネルギーの現在とこれから、そして省エネ改修、原発問題です。最後のページには、私たちが作成に携わった福島の農家の方のポートレートが掲載されています。発行部数80万部のこの冊子は、作成費の75%がバーゼル都市州から出資されています。同州はスイスの脱原発を推進することを法律に書きこんでいるからです。

 

ダウンロード版:

http://www.aeesuisse.ch/index.php?eID=tx_nawsecuredl&u=0&g=0&t=1417519170&hash=8fcf922e44d76765b065249bd08894479ce08187&file=fileadmin/user_upload/Bilder/Home/Publikationen/NECH_2014.pdf

 

もうすぐ州の建物エネルギー規制の改訂版が完成

国の方では上記のように遅々としていますが、州の方では、州が共同で作成する州のエネルギー法の雛形がほぼ出来上がっています。その中で、建物の新築の躯体の性能はほぼミネルギー基準に。そして熱需要(暖房・給湯)に許容される非再生可能エネルギーの割合は現在の80%から、今後は20%に減る予定です。新しい雛形法については、来年の頭に報告したいと思います。

 

また、建物の省エネ化政策と関連して、現在国民議会で議題に挙がっているのが建物エネルギー証明書の間接的な義務化です。スイスの多くの州では、ドイツやオーストリアと異なり、建物エネルギー証明書の作成が義務化できていません。義務化したものの、住民投票で覆されてしまった州もいくつかあります。そこで今回は、国の断熱改修への助成金を得るためには、施主はエネルギー証明書を作成しなければならないというルールを国レベルで導入することによって、事実上の義務化を狙います。

 

近所のソーラー建築いろいろ

我が家の周辺の地域でも、下からのエネルギーヴェンデが徐々に進行中です。今住んでいる保守的な自治体では特筆すべきエネルギー政策はないのですが、それでも街灯の多くが気が付けばLEDに変わっていました。また太陽光発電を設置した農家や納屋の屋根の数もかなり増えてきました。地元で非常に人気が高く、良く使われているのが、ベルン州に拠点を置くマイヤー・ブルガー社(3S)のメガスレートという建材一体型の太陽光発電パネルです。歴史的建造物でも現代建築でも、収まりが本当に綺麗な商品です。

http://pvsystems.meyerburger.com/produkte/indach/megaslate/

 

同社では、太陽熱温水器と太陽光発電パネルを一体化したハイブリッドコレクターも生産しています。

http://pvsystems.meyerburger.com/produkte/hybrid/

 

このハイブリッドコレクターを屋根に大きく使ったミネルギー・P・エコの集合住宅が、ベルン近郊に竣工し、入居が進んでいます。ハイブリッドコレクターでは、従来の太陽熱温水器のような高い温度は作れませんが、低温床暖房が一般的な省エネ住宅では高温の温水は不必要ですし、ヒートポンプと組み合わせての利用には最適です。また、太陽光発電の効率も高まるそうです。このエコ集合住宅地では、夏の間に余る太陽熱を地中に貯めておき、冬に取りだしてヒートポンプで使うというシステムになっています。また別の機会にご報告したい住宅地です。

 

もう一つ、ベルン近くの164世帯の入る高層団地で、断熱改修とソーラーファザードを組み合わせた事例がほぼ竣工しました。この建物の場合は南側のファザードのみの利用になりますが、太陽光発電で作った電気を建物内で自家消費しています。写真は下記リンクから見られます。

http://www.derbund.ch/bern/kanton/Grosssanierung-in-Betlehem-beendet/story/17945616

 

とりとめがなくなりましたが、引っ越し先で少し落ち着きましたら、新しい場所からのエネルギーヴェンデの様子について、またご報告します!

 

 

■クリスマスにお勧めの本

 

絵本「みんなでパッシブハウスをたてよう !」

マティーナ・ファイラー/アレクサンドラ・フランケル(著)、もりみわ(翻訳)、いしずえ出版

子どもでも分かる、楽しいパッシブハウスのしかけ絵本です。日本のパッシブハウス普及のパイオニアで、パッシブハウスジャパン理事の森みわさんが訳されました。ご注文へのリンクは下記から。

リンク:http://www.ishizue-books.co.jp/

 

 

■クリスマスにお勧めの映画・番組(インターネット、ドイツ語)

ドイツのテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキさんのオンラインTVと映画(無料)で、ドイツのエネルギーヴェンデの背景と現状を良く示しています。TV番組は、毎週火曜日と木曜日に生放送していますが、バックナンバーをインターネットで見ることができます。

 

映画 「エネルギーヴェンデと生きる2.2

http://www.newslab.de/newslab/Filme_Energiewende_3.html

エネルギーヴェンデは日進月歩。ファレンスキさんは、同じ映画を何度も編集し直して、更新している珍しいジャーナリストです。上記は最新版になります。

 

TV 「エネルギーヴェンデTV

http://www.newslab.de/newslab/Leben_mit_der_Energiewende_TV.html

先週の第83回については、拙共著「ドイツの市民エネルギー企業」で紹介した、ライン・フンスリュック郡の取り組みが紹介されています。

 

 

■最近の刊行物

 

★„Mit Satoshi Nemoto in Fukushima“,  Neue Energie für die Schweiz

福島農民連の根本敬さんとの一日を描いたドイツ語の短文が、スイスのマガジン「スイスのための新しいエネルギー」に掲載されました。良くできた一般向けのマガジンなので、スイス在住の方は是非ご覧になってください!

ダウンロード:

http://www.aeesuisse.ch/index.php?eID=tx_nawsecuredl&u=0&g=0&t=1417519170&hash=8fcf922e44d76765b065249bd08894479ce08187&file=fileadmin/user_upload/Bilder/Home/Publikationen/NECH_2014.pdf

 

 

★新エネルギー新聞のニュース記事

農林社が発行する新エネルギー新聞に毎月ニュース記事を寄稿しています。

http://www.newenergy-news.com/

 

第11

「ドイツ:ヨーロッパ初、商用バッテリーパーク始動」

「スイス:ビール工場の排熱で地域暖房」

 

第12

「ドイツ:集合住宅で屋根からの電気を賃貸人に直売」

「スイス:太陽光パネル、ビルの外装材に進出」

 

第13

「ドイツ-モルディブ:オフグリッドの太陽光発電で島のエネルギー供給体制構築へ」

「オーストリア:アルプス山脈で最大級風力パーク、運転開始」

「スイス:下水による小水力~エネルギーセンターになる下水処理場」      


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