滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

緑の波の一年

2020-03-06 18:03:49 | お知らせ

 

観測史上もっとも暖かい冬

山の上の集落にも例年よりひと月早く春の花や鳥が戻ってきました。

この冬はこれまで経験したことのないような気持ちの悪いほどの暖冬で、そのはず観測史上最も暖たかい冬であったそうです。

先週後半からスイスでもコロナウィールスの感染者数が劇的に増え、私の仕事にも影響が感じられるようになりました。

日本からの春の視察は、ほとんどがキャンセル・延期となりました。

 

ビオホテル本

この数か月、私は「ビオホテル」についての単行本執筆に没頭していました。

昨年の5月から追加取材を重ね、あとひと月くらいでゴールに達成できそうな地点までようやくたどり着いたところです。

昨年は、エネルギーや省エネ・エコ建築の視察が多い一年で、約200人の日本からの参加者の方々を、スイスとオーストリアを中心にご案内させて頂きました。

そのような中、ブログに残される時間とエネルギーはなく、昨年の冬の投稿を今年の投稿と見間違える知人もいるほどです・・。

数か月後にもろもろの原稿課題を脱出しましたら、また投稿を再開したいと思っています。

南チロルの四つ星ビオホテル「タイナースガルテン」

 

緑の波

この一年はスイスでも、素早く、効力のある温暖化防止政策を求める若者たちによる運動やデモが、社会全体に急速に広がりました。

その結果、世代を超えた幅広い市民が、温暖化防止を最も重要な社会的な課題の一つと認識するようになり、「緑の波」という社会現象に発展しました。

まず州レベルでの選挙に大きな影響が表れ、いくつかの州や自治体では気候緊急事態宣言も採択されました。

2019年9月26日に首都ベルンで行われた国レベルでのデモで、この運動はクライマックスに達し、スイスの人口の1%以上に相当する10万人もの市民が全国から集まりました。

10月末に行われた総選挙でも温暖化問題が最も大きな争点となり、下院では緑の党や緑リベラル党が大幅に議席を増やすことに繋がりました。

 

2050年、カーボンニュートラルなスイス

このような流れの中、連邦内閣は8月末に政策目標をパリ協定に合致するように修正し、スイスが2050年までにカーボンニュートラルになることを目標に掲げました。

とはいえ、この目標の具体的な政策化はまだこれからであり、今後も市民社会からの圧力が維持されていく必要があります。

その関連では、より計画的で実行力のある気候保全政策を求める国民発議案、通称「氷河イニシアチブ」が年末に提出され、この1~2年で国民投票にかけられることになります。

国会の委員会ではCO2法改訂の審議がまだ続けられていますが、既存の暖房用オイルやガスへの課徴金とは別に、飛行機チケットへの課徴金(30~120スイスフラン)やガソリンへの課徴金値上げ(1リットルあたり10ラッペン程度)も決まりそうな感じです。

 

交通の電化、日常風景より

日常生活に近い場所でも、小さなエネルギーヴェンデのステップが観察できます。

集落のレストランのオーナーが、顧客用に二つの電気自動車の充電ステーションを設置しました。電気は100%再生可能エネルギーです。

あるいは州都のシャフハウゼン市では、既存の電気トロリーバスやディーゼルバスを蓄電池式の電気バスに転換し、そのための高速充電ステーション等を設置していく事が住民投票で可決されました。

視察先の集合住宅や産業建築でも、太陽光発電の自家消費を増やすためにも、地下駐車場に充電ステーションを設置しているところが徐々に増えてきています。

また、再取材したビオホテルの多くでも、前回の取材時にはなかった充電ステーションが設置されていました。

さらに年末にはビオホテルグループの3分1が、ホテル・レストランのカーボンニュートラル化を行っていました。

 

原発の運転終了とベルン州電力の華麗な変身

昨12月20日には、首都ベルン近郊のミューレベルク原発が46年の稼働を経て、運転を終了しました。

同原発を所有するベルン州電力では2013年に経済的な理由により同原発の運転終了を決定。

2034年までには解体が終了するスケジュールだそうです。

長年、この老朽原発から数キロメートルの村で暮らし、廃炉を求める住民運動を間近に見て来たため、同原発の運転終了は感慨深いものがありました。

この6年間でベルン州電力は幸運にも、再生可能エネルギー時代のエネルギーサービス会社として生まれ変わることに成功しました。

今はエネルギーヴェンデの勝ち組の顔をしています。

対して、他社が運用する残りの4つの老朽原発については、運転終了の計画はまったく立っていません。こちらは社会的に大きな課題です。

 

・・・

とりとめのない更新になりましたが、この一年に強く印象に残った出来事をざっくりと振り返ってみました。

今年の視察シーズンは年後半からになりそうですが、スイスで皆さんにお会いできることを楽しみにしております。

また面白い事例を時々アップしていきますので、よろしくお願いします。

 


昨年のハイライトから

●スイスの木造高層ビル入居へ、15階建て、高さ60メートル

スイス・オーストリア・南ドイツは、現代木造の技術が非常に高い事で知られています。

近年、都市部でも中~大規模の木造建築が増えてきていますが、昨年はツーク市の近くの再開発地域に木造ハイブリッド構法による15階建て、高さ60メートルのビルARBOが竣工しました。

スイスで最も「高い」木造建築で、ルツェルン州立大学や高級オフィスが賃借人として入っています。

柱・梁は木造、スラブはプレキャストコンクリート、ファサードはガラス・金属となっています。

加重の大きな梁や柱の部分には、トウヒ集成材ではなく、構造用ブナ材が用いられているのが特徴です。

Arboのヴィデオリンク: https://www.youtube.com/watch?v=kldrezB2W2o

 

写真:奥のビルが15階建てのARBOです。手前の工事中の併設ビルも木造ハイブリッドです。

 

ARBOの建つ再開発地域は10ヘクタールの広さで、熱ゼロエミッションのエコ街区を目指しており、建物の性能はミネルギーレベル、低温地域暖房が行われています。

熱源はハイブリッドコレクター(太陽光と太陽熱の組み合わせ)と地中熱。屋上には1.2MWの太陽光発電も設置されています。

この街区にはARBOの他にも、木造ハイブリッド10階建てのオフィスビルS22やスイス版ボスコベルティカーレ風の緑化マンション、普通の木造中層マンションなどがあります。

(写真)木造ハイブリッド10階建てのビルS22。

(写真)S22の内部。構造用ブナ材の柱と梁。

 

これとは別に、ツーグ市には2024年に27階建て、高さ80mの木造ビルも竣工する予定です。

ちなみに現在スイスで最も「大きな」木造建築は、ヴィンタトゥール市にある300世帯の入る6階建て集合住宅地です。

 

 

●スイスのビオ地域ヴァルポスキァーボを紹介した記事

雑誌BIOCITYに100%ビオを目指す地域の運動を、スイス南部のヴァルポスキァーボを例として紹介しました。


BIOCITY No.78
「有機農業の谷ヴァルポスキァーボ~100%有機農業による地域発展を目指す」
https://www.amazon.co.jp/dp/490708353X/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_2KFyEb5SD9B06

 


●ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版

私は市民エネルギー会社ソーラーコンプレックス社のニュースレターの日本語翻訳を行っています。

下記リンクから最近のニュースレターを読むことができます。

ドイツの市民エネルギーの現場の動向が感じられます。

2019年4号
http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7443504/
2019年3号
http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7385333/
2019年2号
http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7372006/
2019年1号
http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7303573/

 


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