滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

パッシブハウスアーキテクチュアプライスに日本とスイスの事務所が上位入賞

2010-06-17 14:26:55 | お知らせ

夏至を前にして、スイスはどの家の庭にもバラが満開の季節です。湿気た空気にのって、時々ニワトコの木の甘い香りが流れてきます。

今日から2週間、帰省するためにブログをお休み致します。

  

その前に1つだけ、お祝いしたいことがあります。

5月末にドイツで開催されたパッシブハウス国際会議にて、パッシブハウスアーキテクチュアプライスが発表されました。そこで世界各国から60の建築事務所が応募の中から、スイスの建築事務所とHalle58Architektenが第一位、日本のKeyArchitectsが第二位を授賞したのです。

 

第二位を授賞したのは、KeyArchitectsの「鎌倉の家」。日本初の認証を受けたパッシブハウスが高い評価を受けたことは大変喜ばしいことです。温暖地の都市的環境における貴重な事例だと思います。この家を初めとして、パッシブハウス基準が今後、日本の行政に受け入れられて、次世代省エネ基準にとって代わる日を楽しみにしています。下記のサイトは、省エネ建築に関心のある方には必読です。

 

パッシブハウスジャパン
http://www.passivehouse-japan.org/

KeyArchitectsのサイト
http://www.key-architects.com/contact.html


第一位はベルン市にあるリーベフェルド地区の三世帯住宅。
2008年にコンフォルト105でも紹介した、個人的にも思いいれがあったので嬉しく思いました。鎌倉の家もリーベフェルドの家も木造で、都市部においてパッシブハウスには有利ではない長細い敷地と建物の形でも、美しく機能的な空間とパッシブハウス基準を両立させているのが印象的です。

リーベフェルドの家については、講演でも紹介してきましたが、読者の皆様のために、ブログでもこの夏に紹介したいと思っています。

建築事務所Halle58Architektenのサイト
http://www.halle58.ch/

Halle58Architektenの作品集
http://www.amazon.de/Halle-58-Architekten-Ulrich-Pfamatter/dp/3905711079/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=books&qid=1276752725&sr=1-3


KeyArchitects代表の森みわさん、Halle58Architekts代表のペーター・シュルヒさん、
おめでとうございます!!


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原発新設を巡り混迷するベルン州

2010-06-17 01:18:20 | 政策

ミューレベルグ原発更新を巡り対立するベルン州の政府と議会

スイスでも私の住んでいるベルン州の議会では、ベルン州にあるミューレベルグ原発を更新(新設)するかしないかで、激しい、しかし接点のない論争が続いています。 社会党と緑の党が多数派の州政府は、原発新設には反対の立場です。

ですが州議会は原発大好きのスイス国民党、急進民主党、キリスト教民主党が過半数を占めています。そのため先週、ベルン州議会は90対60票で原発新設に賛成を表明しました。 州議会の中の原発への賛成派と反対派の溝は30年来変わらず、深いものです。反対派に有利な様々な論点やドイツの事例に、賛成派が影響されることはありません。賛成派の最大の論点は「電力供給不足の恐れ」です。

さて、この結果を受けて州議会は、州政府に原発推進に意見を改めるように迫っています。結局ベルン州では、来年2月に拘束力のない住民投票が行なわれ、それにより方向性が決められます。州の住民投票で否決されれば、ベルン州での新設は事実上不可能と考えられています。

節電するほど得する電力料金の導入を州議会が州政府に禁止

ミューレベルグ原発を運転するのはベルン州電力。この会社は何が何でも原発を新設したいと公言しています。同社の経営代表者会には(州が株主なので)、州政府からも代表者が入っています。この代表者は持続可能な電力供給を推進するために、今後、電力の基礎料金を廃止する方向を提案する予定でいました。

というのも現在の料金制度では、消費量に関わらず一定の基礎料金と電力使用料金(kWh毎)が別々に計算されています。そのため消費量の少ない消費者の方が、消費量の多い消費者よりも損をする料金体系になっています。しかし、基礎料金と電力使用料金を統合したkWhあたりの電力料金体系に変更することにより、節電する人ほど得をするようになります。

現に既にチューリッヒ市電力などではこの料金設定が導入されています(チューリッヒ市は脱原発を決めているので)。しかし、電力消費量が減っては(供給不足が生じないので)困ると考えるベルン州議会は、州政府の代表者がこの料金制度をベルン州電力に提案することすらも禁止しました。

ベルン州は、都市部とアルプス農村部で政治的な風潮が全く異なります。都市部ほど脱原発の風潮が強く、山地ほど宗教的に原発に賛同する政治勢力が強くなっています。ちなみにミューレベルグ原発は首都ベルンから20kmほどの平地にあり、アルプス地方からは離れています。

州都は脱原発、省エネと再生可能エネルギー増産の方が安い

意見の相違が極端に現れているのが、州都で首都のベルン市の政府が、脱原発することを決めていること。そのためベルン市のエネルギー水道会社はその政策に従ってエネルギー供給対策を立てています。

先週には、ベルン市のエネルギー水道会社が出資し、ジュネーブ州、バーゼルシュタット州およびにWWFなどの環境団体が共同でコンサルタント会社INFRASに依頼した調査書「電力の利用効率向上と再生可能エネルギー~大型発電所に代わる経済的な選択肢」が発表されました。

この調査では電力会社の予測する需要の伸びを前提としても、それを満たすためには原発を新設するよりも、電力の効率的利用と再生可能エネルギーの増産の方が経済にとっては安くつくということを結論づけています。ちなみにジュネーブ州、バーゼルシュタット州も脱原発を決めています。

国会は方向転換への政治的意思に欠く

ただし、上記の脱原発派のシナリオを実現するために必要なツール(電力への環境料金や大幅な再生可能電力の促進、節電器具のみの販売等)を得るには、国会での政治的な合意が必要であり、それは論理的には可能であっても、今のスイスの議会の党派構成では非現実的に思われるのが悲しいところです。

現在のメキシコ湾の石油事故の惨状を見ると、BP社やボーリング会社が最悪のケースへの対応を考えていなかった無責任さに驚愕します。結局は一社では対応しきれず、国や市民が後始末を行い、長年に渡り被害をこうむることになる、というのは原発の事故にも言えることです。

スイスの原発では昨年だけでも27回もの故障がありました。しかし、事故が起こる前に、段階的に再生可能な技術に移行するプランを、国と国民の未来のために強い意志で実行していけるような議会がスイスには欠けています。

方向転換のチャンスは今のところ唯一、2013~14年頃に行なわれる予定の国民投票の結果と言えるでしょう。

★国会の原発派VSガス派、思惑の交錯★
この原発新設の議論は、国レベルでは大型ガス発電所の新設に関する規制に影響を与えています。原発が廃炉になるのと再生可能エネルギー源が十分な供給量をまかなえるようになるまでの時間差がある場合、それを大型あるいは分散型ガス発電所でまかなおうという意見があります。利点は原発と比べると建設コストが低く、建設期間が短く、出力の調整が利くこと。

しかし、大型ガス発電所の新設には様々な規制がかけられて、事実上不可能になっています。 スイスでは基本的に大型ガス発電所の新設では、CO2排出量を100%オフセットすることが条件です。問題は、その何%に国内削減を義務づけるのかで、現在進行中のCO2法改訂の一つの焦点となっています。上院では100%国内削減、下院では70%、閣僚は50%までとしており、まだ決まっていません。

100%の国内削減を求める議員は、ガス発電を阻止して原発を建てたい議員か、ガス発電も原発も反対の環境派議員かのどちらか。国内削減量を減らすのに賛成する議員には、ガス発電には賛成でなくても原発新設を阻止したい議員もおり、様々な思惑が交錯しています。 いづれにしても保守派議員は原発産業の手中にあるため、ガスより原発を優先したいと考えています。

ベルン州電力も原発最優先で、もしも国民投票で否決されたら、すかさずガス発電プロジェクトを出すという手順で準備しています。市場を独占し続けるのに有利な技術という視点から、そのような優先順位を採っているのだと考えられます。


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カーボンニュートラルの天然ガスを販売するエネルギー会社

2010-06-14 18:52:09 | その他
この間、バーゼル近郊にある、スイスのオーガニックコスメと人智学に基く医薬品の老舗、ヴェレダ社の本社とスイス工場を見学する機会を得ました。会社のプレゼンでは、同社の原料栽培や生産手法の話も興味深かったのですが、同社の環境マネジメントや省エネルギー対策の話も負けずに興味深いものでした。

その中で、昨年よりスイス・ヴェレダ社では、熱源としてカーボンニュートラルの天然ガスを購入しているという話を聞きました。化石燃料を消費する消費者や企業が自発的にCO2オフセットするのは良くあることですが、オフセット込みのガス商品とは初耳です。

ヴェレダ社にガスを供給するのは、バーゼル市営水道エネルギー会社IWBです。同社はバーゼル市地方に熱、電力、水、熱などを供給しています。
調べてみるとIWBでは2009年からカーボンニュートラルの天然ガス商品「IWB天然ガス・クリマ(気候)」の販売を開始しています。ヴェレダ社はこの商品を選んぶことで、年1MWhのガス消費量で、250トンのCO2排出量を減らしているそうです。

「IWB天然ガス・クリマ(気候)」には、ガスの販売価格にCO2オフセット料金が内蔵されています。販売したガスによるCO2排出量は、パートナーのCO2オフセット会社であるコンペンサーテ㈱により、途上国でオフセットされるという仕組みになっています。

さらにIWB社では、オフセット・プロジェクトの持続可能性にこだわっています。オフセットを実施するコンペンサーテ㈱では、持続可能なオフセットプロジェクトを認証する世界基準「ゴールドスタンダード」を受けている再生可能エネルギーのプロジェクトの排出権のみを販売しているのです。

「IWB天然ガス・クリマ(気候)」の価格には、通常のガス価格に加えてkWhあたり0.85ラッペン(約0.7円)が上乗せされています。IWB社のホームページによると、年2.5万kWhを暖房・給湯に消費する世帯の場合、月18フラン(約1500円)が割り増しになるそうです。

IWB社は高品質のオフセット込みのガスを販売することで、スイスの中でも特に環境意識の高いバーゼル市においての顧客獲得策、あるいは顧客離れ防止策を打ち出しているのでしょう。

しかし、オフセット付きとはいっても、天然ガスが非再生可能エネルギーであり、CO2を排出することに変わりません。そのため、スイス・ヴェレダ社では、熱源の木質バイオマスへの部分的なシフトを予定しています。

今年から、ヴェレダ社の工場のすぐ近くに建設されている自治体の建物に木チップボイラーが導入され、そこから地域への熱供給が行われるようになります。ヴェレダ社では、同社の熱需要の50%に相当する熱を、この木質バイオマス地域暖房から購入する計画です。 ちなみにヴェレダ社は電気の方は「100%原子力フリー」の電力商品を購入しているそうです。

環境行動と生産現場の背景をもっと知りたい、と思わせるヴェレダ社訪問でした。

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アルプス生まれの太陽光発電設備の新技術

2010-06-13 00:44:27 | 再生可能エネルギー
最近、新聞で2つの面白い太陽光発電パークの話題を見かけたのでご紹介します。

1つめは、6月2日付けのDerBund誌で紹介されていた、雪崩防止柵を利用した太陽光発電パーク。
プロジェクトのモンタージュ写真はこちらから見られます。
http://www.derbund.ch/wissen/technik/Das-groesste-Solarkraftwerk-der-Schweiz-/story/11044726

同誌によると、グラウビュンデン州の標高1420mにある山村St.Antönien(サンクト・アンテ二エン)で、巨大な雪崩防止の構造体の上に太陽光パネルを固定した設備が2011年に実現されます。このような構造は、スイスでも初の試みです。

利点は、これまで雪崩防止にしか役立たなかった建造物が、発電にも利用できるようになること。設置される太陽光パネルの大きさは3万㎡で、年350万kWh、約1200世帯分の電力を供給する見込みです。
人口360人のこの村では、売電収入のほか、観光客の増加にも期待を寄せています。

アルプスでは日射量が多く、雪の反射もあるため、太陽光発電では平地の二倍の発電量が得られます。この設備の設計を手がける会社の代表者は、DerBund誌の取材に応じて、
「スイスには500kmの雪崩防止構造物があるが、うち200kmを利用するだけでも2万世帯分の電力が発電できる」と、コメントしています。

建設費用は約2000万フラン(約16億円)。自治体サンクトアント二エン村では、株式会社を設立して、投資者を探し始めたところです。また、この設備では野生動物への影響を避けるために、反射防止のコーティンクを行なったパネルが採用されるそうです。

もう1つの面白い話題は、6月4日付けのWork誌に紹介されていたテンナ村のスキーリフトのケーブルに固定する太陽光発電システム。

その背景には、ケーブルを用いて光発電パネルを固定するソーラーウィング社の新技術があります。
大きな特徴は、パネルの角度を季節や時間帯に応じて、1~2軸の方向に向かって回転することができる点。スイスの気候下での発電量は、2軸回転で25~30%も上がるそうです。

チューリッヒの応用科学大学とソーラーウィングズ社が共同開発した技術で、固定技術はケーブルカーのメーカのBartholet社が担当しました。伝統あるケーブルカーの技術を光発電に転用したところが面白いと思いました。

これまでの事例としては、ドイツにあるロンツァ社の廃棄物埋立地跡に、1軸回転の発電パネルが設置されており、200世帯分の電力を生産しています。
また、今年の3月には、スイスの断熱材メーカのフルムロック社の屋外倉庫の上に、2軸回転の設備が実現され、30世帯分の電力を生産しています。

フルムロック社の設備は、下記のサイトでビデオとウェブカムが見られます。
http://www.flumroc.ch/de/flumroc/solar.php


©www.flumroc.ch

さて話を戻しますと、グラウビュンデン州の山村テンナ村で進行中の「ソーラーリフト」のプロジェクトでは、2軸回転型のパネルをスキーリフトの上部に固定する計画です。スキーリフトが消費する3倍のエネルギーを、ソーラーパネルで生産できる計算だそうです。


©www.skilift-tenna.ch

スキーリフトのプロジェクト
http://www.skilift-tenna.ch/

システムを紹介したテレビ番組
http://3.ly/solartv

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大手小売会社のミグロスが電気自動車販売に参入

2010-06-09 04:27:42 | 交通
スイスのスーパー、デパートのチェーン店ミグロス(Migros)社が先月、電気自動車の販売に進出することを発表しました。ミグロスは、スイスの小売業界ではナンバーワンのシェアを持つ企業です。

ミグロス社はM-Wayというプロジェクトを立ち上げるために約2500万フラン(約20億円)を投資。M-Wayでは、電気自動車や電気スクーターの販売やリースのほか、保険、融資、メンテナンス、事故時サービス、アドバイスなど総合的なサービスを提供していく予定です。

手始めに7月よりアルプス地方でのレンタルカー事業をスタート。そして秋にはチューリヒにM-Wayショップをオープンし、本格的な業務を開始する準備が進められています。

写真©www.migros.ch

M-Wayの初プロジェクトとなるのが「アルプモビール(Alpmobil)」です。これはアルプスのグリムゼル地域が実施する観光プロジェクトで、夏のバカンスシーズンに観光客に電気自動車をレンタルし、体験してもらうという主旨のもの。地域のエネルギー自立を目指す団体である「エネルギー地域ゴムズ連盟」がスポンサーの協力を得て、M-Wayから電気自動車60台を貸付けました。

ミグロスが採用している車のモデルは二人乗りの電気自動車「ThinkCity」です。購入価格は一台6万フラン(480万円)、リース価格は月1200フラン(9.6万円)。個人客だけでなく、企業の社用車市場も目指しているといいます。

しかしこの価格、スイスの庶民の経済感覚から、かなりかけ離れています。いくら電気自動車がまだ高いとはいえ、2人乗りで6万フランは高いです。ミグロスは、庶民の味方のスーパーだったはずなのですが・・。

環境団体のコメントも少し警戒的で、「電気自動車の電気が持続可能なものであるのなら歓迎」というもの。本当にエコなモビリティの普及を考えているならば、ミグロスには太陽光発電パネル込み、あるいは再生可能電力込みで、庶民にも手に届く価格の電気自動車を販売してもらいたかったところです。

実際に、オーストリアの電気自動車モデル地区であるフォーアールベルグ州のプロジェクトでは、ソーラー電力込みで電気自動車を販売しています。

このように小売会社が電気自動車業界に参入するのは、実はスイスでは初めてのことではありません。これまでにデパートのLoebがSmartで失敗、そして生協コープがSAMで失敗しています。小売業界の巨人ミグロスは電気自動車で成功することができるでしょうか、今後の発展が楽しみです。



★ミグロス社とソーラーエネルギーの話★
ミグロス社は自社建物に太陽光発電パネルを積極的に設置しており、今日までに14の建物で年230万kWhを生産しています(同社の計算では690世帯分の電力に相当)。

最新の事例はスタンス市のショッピングセンター「レンデパーク」(写真)。中央スイスでは最大規模の太陽光発電設備となり、年50万kWhを生産します。とはいえ設備を所有し、運転するのは地元のエネルギー会社です。

ミグロスの広報新聞には、「ミグロスは今後も太陽光発電を増やすつもり。秋から展開するM-Wayの電気自動車のことも考えてのこと。」とあります。


写真©Keiko Saile/Migros Magazin

太陽熱温水器の分野でも、ミグロス社はパイオニア的な設備を実現しています。例えば、2003年にはチューリッヒ市にある本社ビルで、太陽熱温水器によるオフィス冷房設備をいち早く実用化しています。

また、チューリッヒ近郊にあるミグロス系の大型娯楽スポーツセンター「Milandia」では、650㎡の太陽熱温水器を運転し、プールやシャワーの給湯を行なっています。こちらでも地元のエネルギー会社が設備を所有・運営する方式が採用されています。

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