滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

都市部の宝、低温廃熱を活用する地域暖房網

2012-01-27 20:25:48 | 再生可能エネルギー

 遅ればせながら、2012年もどうぞよろしくお願いいたします。
そして今年が日本がエネルギーシフトに向けて大きな一歩を踏み出す一年になりますように。

スイスでは暖冬が続いています。私の住む地域では雪も降らず、地面も凍らずという毎日です。よく散歩に行く森では、農家の人たちが次の冬のために薪割りをしています。例年よりも早くもキツツキがドラムリングを始め、春がもうすぐかのように思われます

年末年始に仕上げに追われていた共著本も、ようやく最終稿までたどり着きました。タイトルは「100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域」で、学芸出版社より3月10日頃に発売となる予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

さて今日は、スイスで近年増えてきている低温地域冷暖房についてご紹介します。
もともとスイスは安い水力の電気に恵まれていることもあって、ヒートポンプ利用が盛んな国です。地熱・地下水・空気などを熱源としたヒートポンプによる住宅の給湯・暖房は日常的に行われています。そして、オフィスビルや複数の建物を、下水熱や湖水熱を熱源としたヒートポンプで冷暖房するシステムも珍しくはありません。

そんなスイスでは次の一歩として、地域単位で低温の排熱源や環境熱源(8~18度)を熱供給網に循環させ、それを各建物に設置されたヒートポンプで利用する低温の地域冷暖房網の事例が徐々に増えてきています。例えば、オフィスや店舗の冷却設備からの廃熱を、ヒートポンプを介して隣の集合住宅の給湯や暖房に活用するというようなイメージです。ネットワークの中の複数の廃熱源と熱消費者のバランスがとれていれば、地域内で廃熱を融通しあうネットワークができます。特に、住宅地とオフィスや産業が隣り合った、人口密度の高い都市部での普及が期待されています。

一般的な高温水(70度以上)を供給する地域暖房網と異なり、低温の地域暖房では安いポリエチレン管を利用でき、熱供給管を断熱する必要もないのでインフラの建設費が少なくて済みます。こういった低温地域暖房や、それと組み合わせた地下蓄熱のプロジェクトが、現在のスイスでは10か所程度で計画・進行中です。

例えば、2008年からヴァリス州ヴィスプ西部でこのような低温地域暖房網が運転されています。そこでは灯油より安い価格で熱を供給出来ているそうです。熱源は製薬会社ロンツァからの低温廃熱で、それにより3000世帯の新興住宅地に熱を供給しています。9~18度の低温水から熱を取り、4~14度で戻しています。スイスの新築住宅は省エネ性能が高いので35度以下の温水で暖房できます。熱源の温度と湯の利用温度の差が小さいのでヒートポンプの運転効率も高まります。

あるいは、チューリッヒ工科大学のヘンケルベルク・キャンパスでも、2011年に低温地域暖房の工事が行われました。この事例では、キャンパスを取り巻くように地域暖房網が敷かれ、多数の建物をつないでいます。夏の間は、その配管に講義室やコンピューター室、オフィスからの廃熱を注入し、一旦、地面内に貯めておきます。そのために深さ200mの地中熱管が230本施工されており、2020年までには800本が設置される予定です。そしてその地中熱を冬に取り出して、ヒートポンプを使って暖房に用いるのです。このケースでは、ヒートポンプの年間効率JAZ(年間システムCOP)は暖房時は5、冷房時は11にもなるそうです。夏の太陽熱を冬に使う、あるいは余剰熱を長期間にわたり保存するというスイスのソーラーエネルギー利用の長年の夢は地中蓄熱により実現しつつあり、近年には事例数も増えています。

しかし、ヒートポンプが増えると、電力消費が増えて困るという問題もあります。ただ今後、風力や太陽光電力といった天候により供給量が変化する電源が増えていく中で、ヒートポンプを一種の電力需給のバランスをとる装置にすることも技術的には可能です。具体的には、全国にあるヒートポンプの運転をスマート化し、電力が余っている時間帯にこれを動かし、各建物のタンクにお湯をためておくことで、間接的に電力需給の調整を行うというビジョンが業界では語られています。

参考資料:Effizienzsteigerung mit Anergienetzen Potentiale-Konzepte-Beispiele, Ing.Matthias Sulzer, Hochschule Luzern


最近のフクシマ効果

政治が脱原発を決めたスイスですが、3大電力会社は脱原発政策への懐疑的姿勢を事あるごとに表明しているのが現状です。Axpoは今月にこれからの投資方針を表明し、その大半が外国へのガス発電への投資であったため、環境団体に批判されています。国内に投資せず、環境規制の甘い国外の火力発電に投資する、そして機が熟したら国内で原発新設の巻き返しを図るという算段でしょう。この算段が危険なことは既にベルン州電力が示しています。同社は先週、予想を上回る大赤字を発表。理由はドイツの石炭発電とガス発電設備に資金参加し、その費用が計算を大幅に上回ったためです。3社いづれもがリストラを予定しています。これらの大手電力は、小規模生産者のパートナーという新しい経営方針を打ち出せなければ、衰退の一途なのではないでしょうか。

● フクシマニュース1月号
スイスエネルギー財団のサイトで月に一度、フクシマニュースを更新しています。1月号はこちらから読むことができます。ドイツ語を話されるご家庭の方は是非ご覧になってみて下さい。
 http://www.energiestiftung.ch/aktuell/fukushima/


ニュース

 ● ビオシティ48号発売
年末にビオシティ48号「災害とコミュニティデザイン」が発売されました。その中に、ドイツのエネルギー先進地であるモアバッハを紹介した拙著の記事が掲載されています。旧軍用地を活用して、風力と太陽光発電を中心とした電力生産、ペレット生産などを行っている産業の盛んな面白い田舎町です。是非ご覧になってみて下さい。
 http://www.bookend.co.jp/biocity/

● スイス:2012年度、金のワット賞発表
スイスのエネルギー庁では毎年、優れた再生可能エネルギーや省エネのプロジェクトに『金のワット』賞を与えています。今年の受賞者は下記の通り。このブログでも紹介したプロジェクトがいくつかあります。
シュピーツのバイオマスセンター http://www.oberland-energie.ch/
アルプスのプラスエネルギーホテル(ここも地中熱蓄熱http://www.muottasmuragl.ch/
ツェルマットの省エネ型ゴミ収集システム http://www.system-alpenluft.ch/
ジュネーブ湖畔プロメナードのLED照明
サンクトガレン市のエネルギーコンセプト2050年

● オーストリア:2011年度、ペレットボイラーの販売数15%成長
オーストリアのペレット業界団体プロぺレッツの概算によると、オーストリアでは2011年にペレットボイラーの販売台数が15%成長した。対してペレットストーブの販売台数は30%も伸び、ブームとなっている。理由は、国の気候エネルギー基金がオーストリアでは初めてペレットストーブを環境・気候に優しい暖房器具として認め、一台500ユーロの助成金を出したことがブームの理由だ。(中央ヨーロッパでは通常、全館暖房用の木質ボイラーは助成されても、個室暖房のストーブは助成されないことが多い。)
出典:プロぺレッツオーストリア

● オーストリア:2011年度、ペレット生産量は92万トン
オーストリアでは、ペレットの年間生産量が92万トンに上り、これまでの最高記録を達成した。国内の34のペレットメーカの生産キャパシティは年125万トンであり、これは国内需要の倍である。そのため今後国内需要が増えていっても、十分な供給を国内で行うことが可能だ。オーストリアはEUでドイツとスウェーデンに続き3番目に大きなペレット生産国である。
出典:プロぺレッツオーストリア

● ドイツ:2011年、太陽光発電が7.5GW増加
ドイツの国立送電網機関の予報によると、2011年度ドイツでは新たに7500MW(7.5GW)の太陽光発電パネルが設置された。この数字はまだ暫定値であり最終的な計算は終了していない。2010年度の新規の設置容量は7400MWであった。
出典:BNetzA

● ドイツ:2012年、太陽光発電の買取価格が30%低減
ドイツ環境省によると太陽光発電の成長量は昨年度初めて高いレベルでの安定を示した。そのため2012年度には法規に従い買い取り価格が1月1日付で15%、7月1日付でさらに15%減る。この2年半の間に太陽光発電の買い取り価格は半減した。買取価格は17.94~24.43セントとなり、全てのカテゴリーにおいてドイツの家庭用電力料金を下回る。7月1日からは15.25~20.77セントに下がる。太陽光発電は、ドイツの2012年度の電力消費量の4%以上を占めるようになるという。業界連盟によると控えめな成長のケースでも2020年までに太陽光発電は電力の10%を占めるようになり、脱原発に大きな役割を果たすだろう。
出典:BSW-Solar


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