滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ランデンハウス菜園だより(暑中お見舞い)

2016-08-12 10:50:03 | その他

暑中お見舞い申し上げます。

北スイスの山の上では、日差しや空気の中に早くも秋を感じる季節となりました。

ブログで皆さまにお伝えしたいことがたくさんありましたが、仕事と庭、日常を回していくことで精いっぱいの日々がまだ続いています。

 

ランデン山の菜園では、春から夏にかけて50㎡の温室の建設、土や装備の準備、作付けなどを行っていました。菜園用の温室は、ガラス製のものは高価で手が届かないので、ポリカーボネート製のものを選びました。6mm厚の複層ボードで、U値は3.5くらいだそうです。

 

写真:レストラン・ランデンハウスのテラスから見た400㎡の菜園と温室。まだまだ理想の状態からは遠いですが、一歩ずつ構築中です・・。コンポストはレストランとも共用し、菜園に有機物を利用しています。この日は遠くまで見えませんでしたが空気が澄んだ日にはアルプス山脈が一望できます。

これにより標高840mでの野菜の栽培期間を数週間延長し、またこの標高では収穫が難しいトマトやナスのような野菜やぶどうのような果物の栽培を可能にし、さらに冬の間を通して(雪の影響を受けずに)耐寒性のある種類のサラダや常菜、ハーブ類を作ることが目的です。鉢で育てるレモンやいちじく、宿根草の苗などの越冬にも使う予定です。収穫は、自給用だけでなく、集落の人や、お隣さんで、大家さんのレストランにも使って頂きたいと考えています。ぶどうは、特に耐病性のある16品種を夫が選別して植えました。今後の品種の比較が楽しみです!

  
この温室の断熱性能では、厳寒期には完全に霜を除けることは難しいと思われます。ゼロ度以下にならない温度管理を目指していますので、現在、オフグリッドの蓄電池付き小型太陽光発電と組み合わせた循環換気・簡易暖房の導入も検討しています。値段に換算したら、ものすごく高い野菜になってしまいそうですが、楽しさ・美味しさ・生活の質に加えて、山の上で暮らしていくための経験を集めたいという好奇心があります・・。

初夏には、私たちの暮らす集落の中庭の植栽を一新し、自宅の玄関回りの雰囲気を改善しました。まだまだ若い植栽ですが、集落の住民の皆さんも(わずか3世帯+従業員ですが)喜んで下さっているようです。大きな眺望と長いハイキング・マウンテンバイク道の途中にある大家さんのレストラン・ホテルのランデンハウスは、この地域の多くの人々にとって「故郷の中のちょっと良い場所」です。ただレストラン・ホテルというのは非常に競争が厳しく、仕事量も多い業界で、周辺の緑地環境や菜園のことまで手が回らないのが実際です。私たちは、その周辺環境の質の向上に、庭づくりを通して貢献したいと考えています。

 

追伸:この夏は、大家さんが自宅を改修中です。窓を複層断熱(右下)から断熱三層窓(上・左下)に交換。地元の木工会社が窓を作り、施工します。


   

 

●最近の新エネルギー新聞への寄稿記事より

新エネルギー新聞に毎月ニュースを寄稿しています。下記リンクにニュースバックナンバーを転載していますので、ご覧ください。

 

ドイツ:住民参加で電力自立率500%超す、ヴィルポーツリート村(上)

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48189905.html

 

ドイツ:オーデンヴァルト・エネルギー協同組合(EGO~プロフェッショナルな市民エネルギーの模範例」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47929894.html

 

ドイツ:バーデン‐ヴュルテムベルク州が風車からの低周波音を独自調査

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47781201.html

 

●フェイスブック

フェイスブックをはじめました。よろしくお願いします!

https://www.facebook.com/people/Kaori-Takigawa/100006456505690

 

●短信

 

スイス: 300世帯の入る木造集合住宅、建設開始

ヴィンタトゥール市では、スイスでこれまで最大規模の木造集合住宅の建設が開始された。「Sue&Til」という名の同集合住宅は、スイスの持続可能な社会の目標像である「2000W社会対応型」。2000W社会とは、一次エネルギー消費量が3分1の社会づくりを目指したビジョンだ。

同プロジェクトでは総6階建てのうち、2階以上が木造構造。300世帯が入る。施主・投資家は保険会社Allianz Suisseで、ゼネコンImpleniaが建設を手掛ける。プロジェクトは、建築家チームとヴィンタトゥール市との協働に基づき開発された。竣工は2018年の予定。ヴィンタトゥール市には、このほかにも151世帯の入る大型の木造エコ集合住宅「ギーセライ」が2013年に竣工している。

http://www.proholz.at/architektur/detail/baustart-fuer-bislang-groessten-holzwohnbau-in-der-schweiz/

参照:www.proholz.at

 

スイス: 製薬会社ロッシュの立体駐車場ファサードに400kWの太陽光発電

バーゼル近郊のカイザーアウグスト村にある製薬会社ホフマン・ラ・ロッシュの工場に併設された立体駐車場にファサード一体型の太陽光発電設備が設置された。高速道路A2 沿いに建つ7階建ての駐車場の建物の長さは170メートル。その外壁に日よけのような形で、美しいデザインで収まっている。駐車場のファサードと屋根に設置された設備の出力は合計633kW。うち400kWがファサード設置で、ファサード統合型としてはスイスで最大規模。設備の設計はBENetz社が手掛けた。スイスでは野立て太陽光発電は一部の例外を除いて行われていないため、建物一体型、屋根置き型の設備が最も一般的だ。太陽光の電力生産に占める割合は現在約2%になっている。

写真:http://www.benetz.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=109&Itemid=517

参照:www.ee-news.ch

 

オーストリア: 野立てソーラーを養蜂と自然保護に利用

ウィーンの都市エネルギー公社であるウィーン・エネルギーでは、多くの市民出資発電所を運転している。ウィーン23区には同社最大の野立て市民ソーラー発電所が立地する。サッカー場2つ分の大きさのこの発電所では、パネルの下の緑地について自然保全・推進型のデザインと管理を行うことによって、質の高いビオトープを作り出している。2年間の生態系モニタリングにより、発電所内での数多くの動植物、昆虫の生息が確認されており、その中には希少種も少なくない。

この発電所で、ウィーンエネルギー社では、今年からミツバチ推進プログラムも開始した。地元の養蜂NPOと協同で、10箱の養蜂ボックスを設置。10万匹のミツバチを飼っている。パネル下の緑地の一部をミツバチ用として、草刈りを段階的に行うなど特別な運用を行う。この発電所からは、1年で100kgの蜂蜜の収穫が予定されている。

同メガソーラーは600人のウィーン市民の出資により実現されている。ウィーンエネルギー社ではこのほかにも25の市民発電所を実現しており、これまでに6000人の市民が270万ユーロ以上を出資してきた。同社では、再エネの増産にあたり、市民参加と自然保護を2つの柱に掲げている。

参照:Wien Energieプレスリリース

 

 

 


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晴耕雨読とまでは行きませんが・・

2015-07-28 09:00:57 | その他

大変ご無沙汰しております。気が付けば、ブナの新緑や菜の花の季節も、貧養性牧草地がお花畑になる季節も、輝くような向日葵畑も、異常なまでの猛暑だった7月も終わろうとしています・・。この7月は標高840mの我が家ですら、外は連日30度~35度の暑さが続きました。冷房のないスイスの住居では、夜間冷却と日射遮蔽だけではそろそろ限界かも・・と思った頃にようやく気温が下がってくれました。ベルンの知人の古民家では室温が29度にもなったそうですが、パッシブハウス改修した別の知人の働くオフィスでは冷房なしで快適に過ごせたそうです。

春から夏にかけては環境の仕事や毎年の一時帰国と並行して造園の仕事が忙しくなる季節ですが、ブログを更新する時間が全く作れなくなってしまったのは、新住居での菜園作りが始まったためです。スイスに住むようになって以来、3.11前までは多かれ少なかれ菜園を続けてきたのですが、適した土地がなくなったことと、仕事が忙しくなったことを理由に、ここ数年は休んでいました。しかし、食物の一部は自分で作りたいという私たちの想いは強く、そのためにも昨年末にスィブリンゲン村の集落に引っ越しました。というのも大家さんが400平米の菜園用の土地を提供して下さったからです。

しかし、その土地は30年来ほとんど耕されることなく放置され、灌木や雑草が生い茂る大変な状態でした。しかも、ランデン山の土地は半端でなく石ころだらけで、痩せていて、気長に土作りから始めなければいけません。3月に雪が解けて以来、機械を入れて土地を整備し、手作業で作付面と作業道を整え、種を播き、苗を植え、寒冷地のためトマトハウスを建て・・。まだまだベリー類や観賞用のボーダーは手つかずですが、少しは菜園らしい趣となりました(下写真)。早くもサラダ類やかぶ、葉物、トマト、きゅうり、いんげん、ハーブ類などの収穫はできるようになり、自然の恵みに感謝です。


これまでスイスで使わせて頂いてきた菜園の土地は、いづれも長年他の方が使ってきた菜園を、健康や加齢、時間的な理由から譲って頂いたものでした。ですので既に形が出来上がっており、雑草もあまりなく、土も肥えていました。対して今回の土地では、開墾作業にも近い体験をして、何事もそうですが、一から始める大変さを身に染みて思い知りました。「先祖(あるいは先人)代々耕してきた土地」という表現は日本で良く聞きますが、そうではない土地を耕すことで、この言葉の表す有難さの意味をこれまでになく具体的に感じました。

ただ、これまでの菜園と比べて有利な側面もあります。この集落の農地では、古くから有機農業(バイオダイナミック農法)が行われています。そのおかげもあり、益虫や野鳥が以前の菜園でよりもずっと多く見られます。そういった意味で、周辺の農家の営みの恩恵も受けています。

直接民主主義の落とし穴・・

前回のブログでは、シャフハウゼン州の建設法改訂に関する住民投票について報告しました。電気代に0.8ラッペン(1円程度)というごく僅かな環境課徴金に上乗せすることで、州の省エネ改修助成のための予算を作る案でした。政府も議会も賛成したこの案ですが、住民投票では残念ながら否決されました。原発推進勢力による大々的な反対のポスターキャンペーンが行われましたが、賛成派も健闘していたように思われたので、私にとっては否決は意外な結果でした。

その後、賛成派の委員会で活動する知人より、WWFスイスがシャフハウゼン州での投票結果に関して、住民の投票行動を広範囲にアンケート調査した結果を聞きました(調査は非公開)。その結果は驚くべきことなのですが、投票した人の7割が、投票3週間後には何についての投票だったのか覚えていなかったというのです。結論は、シャフハウゼン州の住民は、投票内容が良く分からない場合や、あまり興味のない場合には、とにかく「ノー」と投票するということです。とりあえず「ノー」と言っておけば、少なくとも現状維持は確保できるからです。

上記の賛成派の委員会で活動していた知人曰く、こういった傾向を強化しているのが、スイスで唯一シャフハウゼン州で導入されている投票義務だそうです。住民は、住民投票や選挙にあたり、投票を行わない場合には、自治体の役場に自ら投票用紙を返還しに行かねばなりません(返還しない場合には罰金がかかります)。投票用紙を返還する時間があるなら、普通の人は投票します。このように投票が間接的に義務化されていると、上記のように「とりあえずノー」という投票行動に繋がるのだそうです。

直接民主制では、一人一人の有権者が、賛成・反対派の錯綜する情報キャンペーンの中から、投票のテーマである法案やプロジェクトについて自分で考えて、判断し、意見を決めることが欠かせません。しかし、誰もが全てのテーマに興味を持つことは難しく、また期待できないのが現状です。こういった経験から、シャフハウゼン州の投票義務には、意外にもネガティブな側面があることを初めて知りました。

このようにシャフハウゼン州では否決されてしまった環境課徴金ですが、6月にはお隣のトゥールガウ州でも環境課徴金を10年間限定で電力に上乗せし、その収入を電力分野での省エネ化とデマンドマネジメント、再エネ促進に用いる法案が州議会によって決定されました。省エネする企業には課徴金が減免、あるいは課徴金が還付される仕組みだそうです。現在、トゥールガウ州以外のいくつかの州でも、このような電力への環境課徴金の導入が準備されています。

国レベルでは、スイスの脱原発と脱化石エネルギーの長期的な戦略であるエネルギー戦略2050が、まだまだ審議中です。この春から上院の環境・都市計画・エネルギー委員会(UREK-S)で意見をまとめているところで、順調に進めば、9月には上院の決議に持ち込まれます。上院では州の声が反映されますが、スイスの場合、州たちが原発を運転する大手電力の所有者です。ですので、10月中旬の総選挙を前にして上院でどのような決議が下されるのか、下院が示した再エネと省エネ推進のための骨太な目標や対策がどの程度受け継がれるのか、やや心配なところです。


 ■ 最近の執筆

ビオシティ誌62号「欧州中部のビオホテル探訪(最終回)」
ビオシティ誌で、3年程続けてきたビオホテル連載が最終回を迎えました。最終回は「地域の農業と観光をエコロジー化するパイオニア経営者の協同体」というタイトルです。是非ご覧になって見てください。ちなみにビオシティ誌62号(ブックエンド社)は再生可能エネルギーの特集号になっています。下記リンクから注文することができます。
リンク: http://bookend.co.jp/?p=379

 
新エネルギー新聞連載
新エネルギー新聞(新農林社)に昨年より毎月ニュース記事を寄稿しています。最近の記事は下記の通り。
・25号「ドイツ:太陽光、成長する自己消費向けビジネス」
・27号「オーストリア:鉄道架線に太陽光電力~電車の動力として自己消費」
・29号「ドイツ:ミュンヘン都市公社~全世帯の電力消費量を自社再エネで生産」
バックナンバーは、下記リンクから注文することができます。
リンク:http://www.shin-norin.co.jp/shop/60_4998.html
           

ソーラーコンプレックス社ニュースレター日本語版 2015年2号
ミット・エナジー・ヴィジョン社ではソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版翻訳に協力しています。下記リンクから日本語のニュースレターをダウンロードできます。http://48787.seu1.cleverreach.com/m/5943192/  


■ ミット・エナジー・ヴィジョン社による中欧視察セミナー開催のお知らせ

滝川薫が共同代表を務めるミット・エナジー・ヴィジョン社では、2015年11月1日~7日にドイツ・スイスでの再生可能エネルギーと省エネルギーをテーマとした、恒例の合同視察セミナーを開催します。プログラムや詳細は、下記リンクからご覧ください。
http://www.mit-energy-vision.com/


ニュースより

●買取制度の課徴金がkWhあたり1.3ラッペンに

2016年から再生可能エネルギーと水系再自然化の推進のために電力料金に上のせされる課徴金額を、kWhあたり1.1ラッペンから1.3ラッペンに値上げすることを内閣が決定した。値上げの理由には、再生可能エネルギーによる発電設備の増加やヨーロッパの電力市場価格の低迷がある。電力消費量が4500kWh の4人家族の世帯では、一年の課徴金額は来年から58.5スイスフランとなる。

スイスの場合、課徴金からの収入は、再生可能エネルギーからの電力の買い取りだけでなく、買取制度の対象外である小型太陽光への助成金、入札式の省エネ助成、地熱プロジェクトへのリスク補償金、省エネを行う大型消費者への減免金、そして水系再自然化の推進に用いられている。

2016年の課徴金収入は8億6400万スイスフランに上るが、用途の内訳では固定価格買取りに5億6400万スイスフラン、小型太陽光助成に1000万スイスフラン、省エネコンペに4100万スイスフラン、大型消費企業への減免に3200万(2015年の2倍!)、水系再自然化に5900スイスフランを占めている。

スイスのエネルギー法では課徴金額に上限が設けられており、現在最大でkWhあたり1.5ラッペンまでとされている。この上限により2008年以来、慢性的な買取待ちのウェイティングリストが生じており、今年7月上旬でリストは4万件の長さに及んでいる。ちなみに、これまでの買取申込み総数は6.2万件である。

ウェイティングリスト解消のために、今年からは小規模太陽光には「買取制度」ではなく、初期投資の3割を助成金する制度が導入され、これまでに約5400件が利用している。10kW以下の設備にはこの選択肢しかなく、10~30kWの設備は「買取」か「助成金」かを選択できる。初期投資への助成金を選ぶ場合、余剰電力は地域の電力会社が適切な市場価格で買いとることになる。だが、実際には大手電力が極度に安価な価格でしか買い取ってくれないといった問題が生じている。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース、KEV財団、Swissolar連盟

 

●ベルン電力:原発会社が地域暖房・熱源会社へ?

スイスで原発を運転する3つの大手電力の中で、唯一、ベルン電力(BKW)のみが脱原発のスケジュールを決定、公表している。同社は、脱原発の決定を機に、新しいエネルギーサービス企業への脱皮を目指して奮闘している。
その一環として、ベルン電力はスイス各地で、再生可能エネルギーに強い中小の熱源・暖房設備分野での設計・施工会社を次々に買収している。現在までに13社をグループ化し、従業員数は合わせると昨年末で200人、売上は6000万スイスフランにのぼる。さらには地域暖房にも進出しており、今年の春にはベルン近郊の自治体で800世帯に熱供給を行う木質バイオマスによる地域暖房網の建設をスタートした。
ベルン電力が地域の堅実な技術を持った中小企業を買収していく様子は不気味でもあるが、これまでの大手電力にはできなかった、きめ細かな地域密着のエネルギーサービスを展開していくための足場を固めようとしているようだ。
ベルン電力は7月中旬に、原発を運転する大手電力3社から成る協会Swisselectricを退会する旨を発表した。それにより原発保持路線を行く他2社と異なり、発電事業者ではなく、エネルギーサービス事業者、送配電事業者としての企業戦略に集中する姿勢をさらに明確にしている。
参照:スイスソーラーニュースレター、BKW社プレスリリース

 


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シャフハウゼン州立博物館で最終処分場についての展示

2014-04-01 10:05:29 | その他

スイスにも、通常より2~4週間早く、春が訪れました。ベルン近くでも野生のフラミンゴの飛来が観察されるなど、温暖化が確実に動植物に影響を与えています。3月末の暖かな日曜日に、私たちは北東スイスのシャフハウゼン市にある州立博物館を訪れました。郷土の自然と文化をテーマとしたこの博物館で、昨年末より3月末まで開催されていた、放射性廃棄物の最終処分場に関する特別展示「長時間、最終処分場(Langzeit und Endlager)」が、知人の間でとても評判になっていたからです。学芸員によるガイド付き見学会には、大人や子供が40人くらい集まっていました。

スイスでは、放射性廃棄物の最終処分・地層処分というテーマについて論じられる時、科学技術的な視点に偏ることが多いのですが、この展示は人類の文化史、自然史という視点から展開されていました。地層処分の意味する時間の長さを、地域史を介して訪問者に具体的に説明したり、あるいは体で感じさせるような展示方法が、上手く出来ていました。

3階にある展示会場に到る階段ホールの壁には、2億5千万年の地層が描かれ、階段一段が500万年を物語ります。現代に到達した後、展示はまず原子力の歴史を紹介します。19~20世紀前半の原子力の初期研究に始まり、核実験、商用原発、原子力推進活動と反対運動、電力需給の発展、数々の事故といった内容です。特に福島第一原発事故については大きなスペースを割き、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、そしてスイス内閣の脱原発決断の報道の日を、別々のi-padで示していました。



その後、スイスで現在考えられている150年間の地層処分の基本計画が説明されます。スイスでは原発を運営する電力大手と国が共同で運営する組合Nagraが、放射性廃棄物の最終処分に責任を持っています。70年代から処分用地を探していますが未に決まっていません。上記の計画では、用地決定・建設の後、2050~65年までに地下に廃棄物を移送、その後50年間に渡り観察、2112年から2117年が閉じ込めるという計画になっています。そして全てが上手く行けば、2118年にNagraは処分場の長期監視の責任を、スイス連邦へ移譲(!)するんだそうです。

 そこで、100~150年という時間軸がどれくらい経済的、政治的、技術的な変化を伴うものか展示は示します。当時の自動車技術を振り返り、またヨーロッパ大陸の国境の変化や国の統治形態の変化など具体的に振り返ります。そもそも、2118年もNagraが存在しているのでしょうか?私は、スイスの大手電力自体が、少なくとも今のような形では存在しないと思います。長期間の保存には、「永続する組織」が必要で、それは過去を振り返るといかに難しいことかを展示は示していました。

さらに、この地域に人類が住み始めた15000年前からの人類の文化史を、旧石器時代、鉄器時代、エジプトやローマの高度な文化、アメリカの発見、宗教改革から資本主義に至るまでざっと振り返ります。また、コンクリートやガラス、金属等、様々な素材の経年変化も示し、私達の素材に関する経験・証拠が、歴史的には1万年くらいしかないことを伝えます。



展示の一番の見せ場は、建物の幅を一杯に使った50mの長いトンネルのような通路です。スイスの法律では、高レベルの放射性廃棄物は100万年安全に貯蔵しなければならないことになっています。100万年という時間を50mに縮小し、右側が過去、左側が未来を示します。ショックなのは、この地域の人類の文化的な歴史については、はじめの75㎝(1.5万年分)で終わってしまうことです。ネアンデルタール人の絶滅も1.5mくらいの地点です。その後は、骨や石器など、小さな展示物がありますが、人類の歴史に関わる展示物は50万年のところで途切れてしまうのです。その奥の展示キャビンには氷河期などを示す図が収められているだけです。対して、未来のキャビンには、放射性物質の線量の低減を示すグラフが収められています。中には100万年経ってもほとんど線量が減らない物質もあるのに驚きました。


最後は、コミュニケーションというテーマで締めくくります。国の原子力法では、最終処分地は継続的に、すなわち1万年くらいの間に渡り、それと分かるようにマーキングしないといけないことになっています。展示では多くの古文書が、いかに偶然と幸運により生き延びたのか、また解読が可能になったのか、あるいは言語というものが僅か数百年の間にいかに変わるのかということが示されています。どうやって1万年後の人に誤解されないように放射性廃棄物であることを伝えるのか、どうやってマーキングのための構造物を盗まれず、壊れないように建設するのか、世界中の奇天烈な案を交えながら難題をつきつけます。

展示の中では最後まで、どう解決すべきかという答えは出されていません。ただこの展示を見た人ならば誰もが、未来の世代に対してのつけをこれ以上増やさないために、今すぐにでも放射性廃棄物を増やすことは止めるべきだと思うでしょう。このような展示が、人口8万人の小さなシャフハウゼン州で実現されたのは、州南部に中・弱レベルの廃棄物の、そして州境のすぐ側に高レベル放射性廃棄物の最終処分候補地の一つがあるからです。地元住民と州政府は、非常に強く反対しています。



ニュース

●スイス:高齢原発、ベルギーで運転停止、スイスでは動き続ける
Sonntagszeitung誌によると、先週、ベルギーで原発を運転するElektrabel社は、原子炉圧力容器の素材に関する安全性試験の「予想外」の結果を受けて、自発的に2基の高齢原発Doel3とTihange2 を即時運転停止させた。試験結果は非公表となっているが、よほどの危険性を示す内容であったことが伺われる。これらの原発と同様のメーカの圧力容器が、スイスの高齢原発ミューレベルクでも用いられている。また、運転開始から45年が経つベッツナウ原発一号機の経年劣化問題をSonntagszeitungは指摘する。原発専門家であるシュテファン・フュグリスター氏がグリーンピーススイスの依頼を受けて行った調査によると、ベッツナウ原発(一号・二号)で過去10年間に起こった故障や欠陥71軒の半分以上に経年問題が関わっている。経年劣化や技術的の老化、設計上の欠陥などである。ベルギーで実施されたのと同様の安全性試験はベッツナウ原発にも求められているが、3年の実施猶予期間が与えられている。ドイツ環境省の核技術設備安全課代表であったディーター・マイヤー氏は、調査書「スイスの高齢原発のリスク」の中で「高齢化による変化は往々にして見えない場所で起こり、いつ事故に繋がるかを予期することは全く不可能」と述べている。ドイツでは同様モデルの原発は、安全上の理由から既に運転が終了されている。

参照:Sonntagszeitung、GreenpeaceSchweizプレスリリース
ダウンロードリンク:サマリー「スイスの高齢原発のリスク」http://www.energiestiftung.ch/files/ses_kurzfassung-studie_altreaktoren.pdf

 
●スイス:ベルン州でミューレベルクを止めようキャンペーン開始
ベルン州では5月18日にミューレベルク原発の即時運転終了を求める住民イニシアチブの投票が行われる。投票キャンペーンが下記のサイトから始まった。自分の宣言を入れた写真をアップロードすることができる。www.muehleberg-stilllegen.ch
5月18日には、St.Gallen州とSolothurn州でもエネルギー政策関連の重要な住民投票が行われる。St.Gallen州では「エネルギーヴェンデ~St.Gallenは出来る!」の住民案と政府対案。Solothurn州では州憲法にエネルギーヴェンデの推進についての項目を入れる変更についての投票である。
参照:Swisssolar Newsletter
 

●スイス:フラウエンフェルト市で下水熱による低温地域暖房
未利用エネルギーの一つである下水熱の利用は、スイスでは比較的に長い歴史があり、全国の300箇所で様々な方法で利用されている。トゥールガウ州の州都のフラウエンフェルト中心街では、現在、下水熱による地域冷暖房の配管工事が進行中だ。下水処理場で処理した後の「処理後水」の排熱を利用するため、媒熱管内には低温水が流される。それを熱源として、各建物に設置した分散型のヒートポンプで必要とされる利用温度に上げる。この地域暖房を運営するのは、「フラウエンフェルト熱株式会社」。同市の都市公社と隣町のヴィンタトゥール市の都市公社、そして地域の下水連合が共同出資した会社である。熱の販売はコントラクティング(エスコ事業)で行われ、「フラウエンフェルト熱株式会社」が媒熱管や熱交換機、ヒートポンプを設置し、熱消費に応じて建物持主から料金を回収する。今年の夏には竣工する第一工期では中心街に3.5㎞の地域暖房網が敷かれる。2016・17年に予定されている第二工期では町のスポーツ施設が接続される予定だ。
参照:www.waerme-frauenfeld.ch

 
●スイス:チューリッヒ都市公社EWZがイランツ町に木質バイオ地域暖房・ORC発電
チューリッヒ市の都市公社EWZは、山地グラウビュンデン州イランツ町との協力の下、3月から同町に地域暖房網の工事を開始した。病院や庁舎を含む中心街の大手消費者45棟に今年秋から30年契約で熱を供給する。熱源は木質バイオマスの廃材(70%)と森林材(30%)。それにピーク時、非常時用の石油ボイラー5MWが併設される。チップボイラーの大きさは2.5MWで、発電用のORCモジュールの出力は350kWと小型である。熱の生産量は年7000MWh、エコ電力の発電量は1.8GWh(360世帯分)を予定する。年間計算では熱の8割が再生可能エネルギーとなる。地域暖房網のトラスの長さは4㎞。このほか、チューリッヒ市都市公社では、グラウビュンデン州の4か所の村や町で地域暖房網を計画している。中でもKloster町の地域暖房は、トンネル排水熱と木質バイオマスを組み合わせた面白いコンセプトで、2015年に実現される予定だ。
参照:EWZ社プレスリリース

 
●スイス:国鉄SBB、2025年までに100%再生可能エネルギーに
スイス国鉄で使われている鉄道用の電力は、今日、80%が水力であり、ヨーロッパの中でもクリーンな鉄道会社である。同社では国のエネルギー戦略2050を受けて、2025年までに100%再生可能エネルギーに転換することを決定した。その際に省エネに力を入れる。同社では2008年より省エネプログラムを実施し、今後も企業全般でのエネルギーマネジメントにより、省エネ効果を高めて行く予定。目標は2010年比で2025年までに、仕事量あたりのエネルギー消費量を20%減らすことである。再生可能エネルギー源の増産については、現在様々なオプションを試験中である。
参照:SBBプレスリリース

 
●スイス:2013年には370万㎡が省エネ改修
国の省エネ改修助成プログラムの統計によると、2013年には同助成を受けて370万㎡の表面積、1.1万棟の建物が省エネ改修を実施した。助成額は合計1億3000万スイスフランになる。とはいえ省エネ改修率はまだ1%程度。省エネ改修の内訳は、窓が35万㎡、屋根が160万㎡、ファサードが130万㎡。助成金の財源となっている化石熱源へのCO2課徴金額は2014年から60スイスフランに値上げされ、それにより十分な財源が確保されている。
出典:Das Gebäudeprogrammニュースレター

 
●ドイツ:juwi社と都市公社のウィンドパーク、3万世帯に供給
ヘッセン州の元都市公社EVO社(現在は民営化)と再生可能エネルギーのディベロッパーjuwi社のジョイントベンチャーにより、間もなくラインラント・プファルツ州フンガースベルク山地に新しいウィンドパークが竣工する。Vestas V112 タイプの風車10基から成るパークの総出力は30MW。非常に風況の優れた内陸立地で、年3万世帯分の電力を生産する予定だ。630人の従業員を抱える地域密着のエネルギー供給会社EVO社は2015年までに2億ユーロを再生可能な熱と電力の設備に投資することを目標とし、これまでに1.7億ユーロの投資をjuwi社をパートナーとして行ってきた。風車に関しては38基を実現し、22万人分の電力を生産している。フンガースベルク山地のウィンドパークの実現にあたっては、地域住民が地元銀行の一種の定期預金を介してウィンドパークに出資できるようにした。7月5日にはヘッセン州とラインラント・プファルツ州の経済エネルギー大臣の参加の下、ウィンドパークお披露目の住民祭りが開催される。
参照:juwi社プレスリリース

 
●ドイツ:お勧めの映画「エネルギーヴェンデと生きる~その2」
ドイツのテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキ氏は、「エネルギーヴェンデ潰し」の情報キャンペーンが張られる中、エネルギーヴェンデについてのより公正な理解を促すために、昨年、インターネット上で映画「エネルギーヴェンデと生きる(その1)」を無料公開した。その後、ドイツのエネルギーヴェンデを巡る状況が刻々と変化する中、映画も更新され、「エネルギーヴェンデと生きる~その2」が新たに無料でインターネット公開されている。映画の所々で現れる、数字の比較が印象的だ。
リンク:Leben mit der Energiewende 2
http://www.youtube.com/watch?v=7FskMLVQFbY

 

写真

●ドイツ:3月22日にデモ「エネルギーヴェンデを救おう!」に3万人参加

ドイツでは新政府がこの夏ごろまでに予定している再生可能エネルギー法の改訂により、再生可能エネルギー源からの電力の分散型の増産に強いブレーキがかかることが懸念されている。3月22日には分散型の市民の手によるエネルギーヴェンデを守るために、ドイツの7都市でデモが行われ、3万人ほどが集まった。写真はマインツ市とヴィースバーデン市でのデモの様子。石炭火力勢力のルネサンスへの反対の声が大きく聞かれた。「原発いらない、石炭いらない、私達が欲しいのはエコ電力!」とのスローガンが繰り返された。5月10日に次のエネルギーヴェンデ・デモがベルリンで実施される予定だ。
http://energiewende-demo.de/start/anreise/


マインツ市の劇場前広場でエネルギーヴェンデ・デモに集まる人々


「市民エネルギーヴェンデ」と書かれた棺を連立政府の政治家たちが担う演出


「エネルギーヴェンデを今!」と書かれた長さ40mの横断幕


「新しい露天掘り作るな!エネルギーヴェンデは脱石炭だ


マインツからヴィースバーデンへの行進、ライン川を渡る橋は人の山


「太陽と風力をNOW」、ドイツの将来の二つの主要電源




「これはあなたが払うよりも多くの費用がかかります。隠されたコストのない再生可能エネルギー」



脱原発・脱石炭を求める市民たち「エネルギーヴェンデを炭化させるな!」


「100%再生可能エネルギー」、ヴィースバーデン市でのデモ、4500人ほどが集まった


ヴィースバーデン市、ヘッセン州議会前での分散型でスピーディなエネルギーヴェンデを求める市民の集会



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エネルギー自立と地域通貨

2012-10-29 21:51:23 | その他

●エネルギーの秋

紅葉も盛りを過ぎたなと思っていたら、冬時間と共に本当に冬が訪れました。初雪です。
9月末から〆切・視察・視察準備に忙殺され、あっという間に10月末となりました。この10月はお天気には恵まれませんでしたが、とても充実した、楽しい視察セミナーになりました。参加者の皆様ありがとうございました。

さて10月のスイスは「エネルギーの秋」と呼んでもいいほど、関連の会議やイベント、出版物が多い季節です。ハイライトは恒例のスイスエネルギー大賞で、19日には最先端のプラスエネルギー建築たちが表彰されました(それについては次回に報告します)。

また家庭の郵便受けには、ベルン地方紙の共同増刊新聞「再生可能エネルギー」が届きましたし、エネルギー庁からは持ち家世帯にエネルギー・シュバイツの「持ち家主のための増刊号」が届きました。それらの中では、新しい脱原発・脱化石政策である「エネルギー戦略2050」の内容や、その具体的対策、先進地域や省エネ改修の模範的方法、家電の選び方などが、分かりやすく説明されています。

さらに、スイスで二番目に大きな小売りチェーン店のコープ生協の週間新聞も省エネ特集でした。10月27日は国のエナジーデイで、節電型家電への買い替えキャンペーンが国の主導で全国的に張られていたためです。

●村上敦さんの新著「kWh=¥(キロワットアワー・イズ・マネー)」

話は変わりますが、今日は地域通貨とエネルギー自立地域の話です。本「100%再生可能へ!欧州のエネルギー地域」の共著者である村上敦さんが、先日、単行本「kWh=¥(キロワットアワーイズマネー)~エネルギーが地域通貨になる日」(いしずえ出版)を出版されました。



人口減少により存続が危ぶまれる日本の地方自治体が、近い将来にも基礎機能を維持し続けるために、エネルギー自立によりお金を地域で循環させたり、コンパクトなまちづくりを行っていくことの重要さがとても分かりやすく語られており、お勧めです!

地域経済の活性化を目指す本であるため、この本はアマゾンではなく、地元の本屋さんで注文して頂くというコンセプトだそうです。購入方法は下記から見られます。
http://www.ishizue-books.co.jp/


●エネルギー自立地域と地域通貨


再生可能エネルギーや省エネに投資することで、エネルギー資源にではなく、地域の人にお金が循環するようになる。それが、欧州中部の農村部でエネルギー自立を国民的運動に発展した一番の理由です。そういう意味で、村上さんの本の副題も「エネルギーが地域通貨になる日」となっているのだと思います。

ここ数か月、農村地帯にあるいろいろなエネルギー自立自治体を訪れる機会がありましたが、多くの自治体で(エネルギー面だけでなく)本物の地域通貨も発行していたのが印象的でした。 例えば、オーストリア・フォーアールベルク州の灯油のない村を目指すランゲンエッグ村(既に87%を達成)では、村で地域通貨「タレント」を発行しています。この村は州都のブレゲンツからバスで山を登ること40分ほど、標高700~800mにある人口1000人強の山村です。

提供 Bild Quelle: Gemeinde Langenegg、パノラマ

ランゲンエッグの「タレント」は地元の組合銀行と郵便局で注文したり、毎月定額を購入したり、またこの銀行を通してユーロに再換金することができます。 ただし、購入する時は5%得する(100ユーロで105タレントが買える)のに、再換金する時には10%損します(100タレントで95ユーロしか戻ってこない)。換金せずに、村のお店や職人さんへの支払いに使った方が得する仕組みなのです。

村の行政の方の話によると、このランゲンエッグ村の1タレントは、村の内部で一年で平均3回は支払手段として使われているそうです。村で発行されているタレント額は年1700万円分に及ぶそうですから、それが3回使われる(循環する)ということは、村の中で年5100万円の売り上げが生じたことになります。人口1000人余りの村にとっては大きな額です。
 

ランゲンエッグ村が地域通貨タレントを導入したきっかけは、村の最後のスーパーが閉店されるにあたり、村が自らスーパーを建設したことだそうです。貸し店舗ですが、村の意向で品揃えも昔のスーパーよりずっと多様で、大抵の食品と日用品なら村スーパーで賄えます。しかし作ったからには、住民に村スーパーで買い物してもらわねば困るので、タレントを導入したのだといいます。村では住民のVereine(協会、サークル活動)に補助金を出していますが、補助金もタレントで支払われています。


提供 Bild Quelle: Gemeinde Langenegg、パッシブハウス基準の村スーパー

このように、村では「近場で生活に必要なサービスを供給できる」村づくりに力を入れてきました。近場での生活サービスとは、村の商店に限らず、基礎医療、学校、銀行、郵便、そして公共交通、再生可能エネルギーなどが含まれます。そのためにも村では地域開発計画を作り、中心地を高密度化し、離れた場所への新築を禁止しています。そして近場の町へのバスを一部助成して一時間に2本運行し、歩道と自転車道を整備、2台目の車が要らない、中心部なら歩いて用の済ませられるような村づくりを実施しています。

そしてエネルギー自立農村ではもうお馴染みの話ですが、このランゲンエッグ村でも地元の木を用いた高度な省エネ建築作りを実践しています。例えば中心部にあるモダンなデザインの木造幼稚園は、有害物質を一切使わずに、無垢のモミ材で作られた暖かな空間が特徴的です。施主である自治体は、木材を村の農家から直接購入しました。先述した村のスーパーも同様の性能の木造建築です。自治体は建設でも運営でも、地域のお金が地域外に流出しないような、建て方を徹底して選んでいるわけです。こういった未来ある村づくりのための取組を、ランゲンエッグでは昔から村人と行政の成るテーマごとのチームが中心となって、住民参加によって実行してきました。

エネルギー自立の村たちは、省エネ・再生可能エネルギーだけでなく、幅広い意味で地域の資源とお金の循環を創出することにより、未来にも村人の生活の質を維持する道を見出しているのです。

ランゲンエッグ村のサイト www.langenegg.at


ニュース

●スイス:2050年までにエネルギー消費量-50%が目標
9月末にスイス内閣はエネルギー戦略2050に関する諸法律改訂案と第一対策パッケージ案を、関連業界への聞き取りに送り出した。エネルギー戦略2050は脱原発と脱化石を同時に目指す総合的なエネルギー政策のロードマップである。目標となるビジョンは2050年までの一人頭の最終エネルギー消費量を50%減らすこと。エネルギー関連のCO2排出量についても一人頭1~1.5t(現在5t)と野心的だ。最重要の対策分野は建物の省エネ改修である。詳細は後日報告する。より詳しい資料は下記リンクから見ることができる。
リンク(エネルギー庁):http://www.bfe.admin.ch/themen/00526/00527/index.html?lang=de

●スイス:ビール市とグレンヒェン市が共同で風車パーク開発
ビール市とグレンヒェン市は州境を挟むが隣同士の町だ。両町は、それぞれの都市インフラ公社(市営エネルギー企業)を通じて、それぞれの町の近くの敷地で10MWと12MWのウィンドパークプロジェクトを計画中である。2か所のプロジェクトではあるが、距離が近く、同時に進行しているため、両市ではプロジェクトの開発から建設、運営までを共同で行うことにより、プロジェクトの経済効率を高めることを目指す。例えば風車の共同購入などだ。スイスの多くの都市公社が周辺外国の風車パークへの投資に熱心であるのに対し、この二つの小さな町ではあくまでも地域のお金を地域に投資することにこだわる。

●スイス:ジュネーブのメッセ屋上にスイス最大の太陽光発電
ジュネーブ市の都市インフラ公社SIGでは、ジュネーブ市にあるメッセ会場Palexpo(株)屋上に、スイスで最大の屋根置き型太陽光発電を設置した。出力は4.2MWで、1350世帯分の電力を発電する。SIGの投資額は1500万フラン(約14億円)。kWhあたりの発電価格は33ラッペンとなっている。同設備はメッセ会場が一年で消費する電力の30%を生産することになる。施工にあたっては、メッセ会場の屋根を強化する必要があった。ジュネーブ都市インフラ公社は、原子力電力の混ざらない電気のみを住民に販売しており、再生可能電力の増産に熱心に取り組んできた。
出典:Palexpo AG、SIGプレスリリース

●スイス:ケーニッツ町のソーラー屋根台帳、都市部でも19%の潜在性
首都ベルンに接する町、ケーニッツの環境・公営事業部では、自治体内の全ての建物の屋根を対象としたソーラーエネルギーの利用ポテンシャルを示すGIS地図「ソーラー屋根台帳」をインターネットで公開した。このサイトでは、住民の誰もが関心のある建物の屋根の利用ポテンシャルを知ることが出来る。調査の結果、ケーニッツ町での太陽光発電の「現実的ポテンシャル」は年40GWh。町の電力消費量の19%に相当する。ケーニッツでは、自治体のエネルギー戦略2010~2035の中で、2035年までに電力需要の80%を再生可能エネルギーで担っていくことを目標に定めている。ソーラー屋根台帳は下記のサイトから見られる。
リンク:http://intralis3.iz-region-bern.ch/weboffice/synserver?project=Solarpot
出典:ケーニッツ町プレスリリース

●スイス:閣僚、森林内の風車設営は基本的に可能
スイス内閣は「森林内および森林牧草地上における風力設備の設営の簡易化」報告書を承認し、森林地帯内への風力設備の建設は基本的に可能であることを認めた。内閣は現行の法的基礎では森林内の風車設置は許されており、森林関連法の改訂は必要のないと結論付けた。この報告書は伐採条件、および風車設置のための州の伐採許可過程そして、伐採面積の代替について解説している。新しいスイスのエネルギー戦略2050では、2050年までに年4TWhの電力を風力で生産することを目指す。そのための適正地は部分的に森林地帯とも重なっている。
出典:連邦エネルギー庁プレスリリース

●ドイツ:カッセル「100%再生可能エネルギー地域」会議
9月末にカッセルで、ドイツ環境省後援による「第四回100%再生可能エネルギー地域会議」が開催され、800人が集まった。参加者は自治体関係者やデベロッパー、コンサル、市民、エンジニア等。地域のエネルギー自立について具体的かつ多面的に議論が繰り広げられた。今年は、都市部のエネルギー自立、ツーリズム、都市計画、交通といったテーマが取り上げられていたのが新しい。また、コングレスの枠内で、新たに4地域が「100%再生可能エネルギー地域」に、10地域が「スターター地域」に表彰された。新しいカテゴリーとして、フランクフルトをはじめとする2都市が「100%アーバン地域」に表彰された。現在ドイツには74の「100%再生可能エネルギー地域」、56の「スターター地域」があり、計132地域には1970万人が住んでいる。
リンク: www.100-ee-kongress.de

 ●ドイツ:フランクフルトでR水素の天然ガス管注入開始へ
2050年までに100%再生可能エネルギーを目指すフランクフルト市に、風力と太陽光発電からの電気で作った水素を地域の天然ガス網に注入するデモンストレーション設備がMainova㈱により設置された。設備は2013年に運転開始の予定。Mainova㈱によると設備は毎時60㎥の水素を生産し、毎時3000㎥の水素を混合させた天然ガスをフランクフルトのガス網に供給する。
出典:www.energynet.de/2012/09/26/pilotanlage-zur-energiespeicherung-im-kommunalen-gasnetz-in-frankfurt-am-main/#more-7842

 


 


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原発周辺の昆虫の奇形を調査する科学画家、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん

2011-02-12 10:30:07 | その他

スイスは毎日のようにお日様が輝き、東京の冬のようにぽかぽかです。
2月7日はスイスでは女性参政権40周年記念日でした。スイスの国全体では1971年になってやっと、(男性の)国民投票により女性参政権が認められたのです。直接民主主義は、政治に住民が直接参加できて、社会に大きな変化をもたらせる可能性があるという利点もありますが、時としては物事の決定に非常に時間がかかったり、社会にとっては最善ではない選択されうるというデメリット
あります。同じことが、エネルギー政策に関しても言えます。

原発更新の投票戦 ~ 自腹を切って新聞広告する市民
今回でこの話は終わりにしますが、ベルン州の原発更新に関する住民投票がいよいよ明日に迫っています。昨土曜日の「Berner Zeitung」新聞には、たくさんの意見表明の広告が出ていました。反対の広告は7つ。企業や団体の広告のほかに、自腹を切って1個人で出しているものや、100人近くの住民が集まって出資しているもの、50世帯の農家たちのものなど。いづれも全員の実名入りです。

写真:左が地元住民の広告、右が一個人の新聞広告の例


対して、賛成の広告は4分1面を使った大きなものが1つ。こちらも百人以上の実名入りです。スローガンは「ベルンで電気が消えないように」というもの。街頭ポスターと同じデザインで、これには「24時間電力?」「気候に良い電気?」というバージョンもあります。
下:原発更新に賛成派のポスターの1つ(出典:www.muehleberg-ja.ch)

  
上:原発更新に反対派のポスターの1つ(出典 www.atomabfall.ch)

特に駅空間ではポスター広告が盛んです。
私の住むコンサバな村の駅前にもこんな広告が。

ベルン州の再生可能エネルギーと省エネルギー産業に携る60社が結託したキャンペーンのものです。「再生可能エネルギーはベルン州の企業が建てる。原子力発電は違う。新しい原発にはNein(否決)を」と訴えています。これらの企業にとっては、今回の投票結果は死活問題です。原発が更新されるとなればこれらの企業にとっての国内市場は小さく留まり、更新しないと決まれば巨大な仕事量が待ち受けているのですから。

2月5日の生協が家庭に配布する新聞には、スイスの有名なアンケート調査機関であるリンク研究所の調査結果が掲載されていました。「スイスに新しい原発が建てられるべきだと思いますか?」という質問に対して、「44%がNo,19%がどちらかというとNo。13%がYes、12%がどちらかというとYes」と答えています。興味深いのは、女性の方が男性よりもずっとNoと答える割合が多かったという点です。(出典:Coopzeitung „Die Umfrage“, 5.2.2011)

とはいえ、このようなアンケート結果があっても、明日の結果は蓋を開けてみなければ誰も予測できません。

科学画家コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさん
今日は上記のテーマとも関連して、スイスの科学画家でアーチストコルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんについて紹介します。ホネッガーさんは、25年間チューリッヒ大学の動物学研究所で科学画家として勤務した後、マインツとベルンの大学で教鞭をとっています。透明感があって美しい彼女の動物や昆虫、植物の絵は、博物館に展示されているだけでなく、高級シルクのテキスタイルデザインにも取り入れられています。

こういった仕事の傍ら、コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんはヨーロッパの原子力施設周辺における昆虫の奇形について、長年にわたりフィールドワーク調査を行なってきました。ご本人の許可を得ましたので、その水彩画の中から数点をこのブログに掲載させて頂きます



(図)ベルン州ミューレベルグ原発周辺の二匹のホシカメムシ。左の個体は左の羽が曲がっている、右は矮小。©Pro Litteris

(図)ソロトゥーン州ゲスゲン原発近くの奇形のメクラカメムシ。©Cornelia Hesse-Honegger

(図)ゲスゲン原発近くのメクラカメムシの頭部。左の目が奇形。© Cornelia Hesse-Honegger

コルネリア・ヘッセ・ホネッガーさんは、これまでに1.6万個体のカメムシの調査を行なった結果、通常の奇形率が個体群の1~3%なのに対して、原子力施設の周辺での奇形率は異常に高く、場合によっては30%に達していることを観察しました。彼女の意図は自らのフィールドワークをきっかけとして、原子力発電所から出る放射能が環境や人間に与える影響について中立な調査が行なわれることです。
★ コルネリア・ヘッセ-ホネッガーさんのホームページ(英語) http://www.wissenskunst.ch/en/schweiz.htm


最後に、原子力物理学者でミュンヘンのマックスプランク物理研究所の元所長であるハンス・ペーター・デュール博士の言葉を引用します。
「原子力物理学者として、原子力への絶対的なノーを意味する理由を一つだけ述べる:我々人間は、最大可能な事故において、我々が責任が負えない被害を及ぼす技術は、一切開発すべきでない。この要求は、どのような確率が事故発生に関して計算されたかに一切関わらず、有効でなければならない。」
( Prof.Dr.Hans-Peter Dürrの著書 „Warum es ums Ganze geht – Neues Denken für eine Welt im Umbruch.“より, Oekom-Verlag, 2009)


お知らせ
 
ドイツは本当にFITで失敗したか」~村上敦氏が語る
日本の知人より、ドイツではフィードインタリフ(再生可能電力の固定価格買取制度)が失敗した、という意見が広まっているという話を聞いて驚きました。私がスイスから見る現実は、そのような噂とはかなり異質だからです。下記のサイトでは、ドイツで活躍されているジャーナリストの村上敦さんが、ドイツのフィードインタリフの状況を現場から報告していますので、興味のある方は是非読んでみてください。
「ドイツは本当にFITで失敗したか」(ジャーナリスト村上敦さんのブログ)
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
スイスでもドイツ型のフィードインタリフは、再生可能電力を増産するためには、非常に有効であると認識されています。

● 木質バイオマスエネルギーを使う暮らしの入門ハンドブック
1月に岩手木質バイオマス研究所により、木質バイオマスエネルギーの普及書として「森のエネルギーで暮らす」が出版されました。B5判で図版や写真が豊富で、木質バイオマスの初心者にとっても分かりやすい内容となっています。作成したのはスイス-日本エネルギー・エコロジー交流の方々です。私もその中で10ページほど、スイスの木質バイオマスエネルギー事情を紹介しています。このハンドブックは一般販売はされていませんが、別タイトルの販売用バージョンを下記で購入することができます。作成チーム一同、特に女性に読んで頂きたいと思っています!


「薪ストーブで暮らす」河北新報出版センター
スイス-日本エネルギー・エコロジー交流会編
http://www.kahoku-ss.co.jp/makistove.htm


短信

●2050年までに100%再生可能エネルギーによる世界は可能
エネルギーコンサルタント事務所のEcofysGermany社とWWFが、報告書「The Energy Report」を発表した。その中では、全世界のエネルギー需要は2050年までに100%再生可能エネルギーで持続可能に供給していけることが示されている。Ecofysは、省エネ・再生可能エネルギー分野での25年来の経験をもとに、世界中のエネルギーシステムの全セクター、全地域、全エネルギー源の技術的、社会的、経済的な発展を調査した。その結果、再生可能エネルギーは十分にあることを証明。既存の技術を用いて、厳しい持続可能性の基準を満たしながら、世界のエネルギー需要の95%を、2050年までに再生可能エネルギーで担っていくことができるという。しかし、いくつかの生産プロセス(例えばセメントや鉄の生産)だけに関しては、化石エネルギー源の特性が必要であり、今のところ再生可能エネルギーでは代替できないという。このレポートは下記のサイトから英語版PDFをダウンロードすることができる。
http://www.ecofys.de/
参照:ecofys社プレスリリース

 ●フォルクスワーゲンが1ℓカーを発表
フォルクスワーゲン社がカタールのモーターショーで2013年から生産予定の1ℓカー「XL1」を発表した。100kmを0.9リットルのガソリン消費量で走る二人乗り、プラグインハイブリッドカーだ。昨日、ベルン市でドイツの著名のジャーナリストであるフランツ・アルト氏の講演を聞いた。その中でアルト氏は、フォルクスワーゲンは2003年には既に1ℓカーを開発していたが、販売されず、博物館行きになったと話した。技術はとっくにあっても販売されないのは、ドイツの自動車業界が石油産業の大きな影響下にあるためだ、とアルトさんはいう。また、今回の1ℓカーも、2013年度の一年の生産予定台数がたったの300台ということで、アルトさんはこれは単なるイメージ戦略、「グリーンウォッシング」に過ぎないと批判した。
参照:
www.ee-news.ch


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