滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

スローアップ ~ 県道を自転車とスケーターに解放するお祭り

2010-04-25 15:38:53 | 交通
スイスは果樹のサクラの花が満開、屋外で過ごすのが気持ちの良い季節になり、週末はイベント盛りだくさんです。

今日の日曜日には、ベルン近くのムルテン湖地方で、毎年恒例のスロー交通の祭典「SlowUp(スローアップ)」が開催されます。スロー交通とは、ドイツ語の表現で、自転車や徒歩、インラインスケートといった人力での移動方法のこと。風光明媚なムルテン湖の周囲32kmの県道(!)で、10時~17時まで自動車が通行止めになり、来場者は自転車などで道路を独占して走ることができます。

自転車は持参する手もありますが(開催地まで自転車で行く、電車に乗せる、あるいは車に乗せていく)、断然便利は駅で自転車を借りる選択肢。予約が必要ですが、とても高品質なシティバイクやタンデム(二人乗り)、電気アシスト付きの自転車、子供用自転車、障害者用自転車までいろいろ揃えられています。また、障害者と一緒に走ったりサポートしたりするボランティアも待機していて、親切です。疲れた人は、ムルテン湖の船に自転車を乗せて、コースを短縮する手もあり。

下、写真は以前のムルテンで開催されたスローアップ祭より。
©SlowUp(
www.slowup.ch



スロー交通の楽しさとスイスの素晴らしい景色を満喫できるこのお祭り、家族づれや自転車愛好者、スケーターたちに大人気で、全国から市民が集まります。参加は無料。面白いのは、「スローアップ」は、ムルテンを皮切りに、秋まで月2~3回のペースで、2010年にはスイスの各地方の16箇所で開催されていくという点で、年間50万人の参加があるそうです。

このイベントは、もともとドイツで行われていたお祭りに影響を受けて2000年にムルテンでの開催に漕ぎ着けました。祭りの主旨は、各地で年に一回の日曜日に、地域の景観が美しい道路区間30kmで自動車を通行止めにして、自転車とスケーター、歩行者に解放する、というもの。目的は周辺住民をサステイナブルな余暇の過ごし方に誘うこと。

「スローアップ」の国レベルでの主催者となるのは、スイス・モビリティ(スロー交通網促進団体)、スイス健康促進協会、スイス政府観光局。スポンサーには、スポーツ用品会社や保険会社、大手スーパーなどに加えて、地域企業のスポンサーが付いています。対して、実際の運営を手がけるのは参加地域の実行委員会(自治体や観光業界)で、国レベルの主催者の丁寧なコーチングと広報サービスを受けながら、イベントを準備していきます。実施には費用や手間がかかりますが、観光収入とイメージアップというメリットの方が大きいそうです。

ムルテンのスローアップ祭のパンフは、我が家の郵便受けにも入っていましたし、地方線の電車の中にも置かれていました。残念ながら私は今日のスローアップには行くことができないのですが、5月に別の地方で開催されるスローアップに必ず参加したいと誓ったのでした。このお祭りを追っかけて、風光明媚なスイス各地(の自動車のいない道)を自転車やスケートで走るだけで、家族でひと夏を楽しめてしまいそうです。

下、写真は以前のスルセー湖で開催されたスローアップ祭より。
©SlowUp(www.slowup.ch









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500世帯に電気を供給するエネルギー農家、ヴィース家

2010-04-19 22:18:53 | 再生可能エネルギー

先週末、ベルン市近くの人口1.1万人の自治体イッティゲンにある、「エネルギー農家」のヴィース家で、見学会を兼ねたお祭りイベントが開催されましたので、見学に行ってきました。

ドイツ語圏では、近年、農作物だけでなく再生可能エネルギーも生産する農業従事者のことを「Energiewirt」、エネルギー農家と呼んでいます。スイスでは、この10年ほどで急速にエネルギー農家が増えた感がありますが、増加に拍車をかけたのは、もちろん再生可能電力の固定価格買取制度の導入です。私の住んでいる地域だけでも、導入後、こんな農家が急に増えました。写真は、いづれも既存の大屋根を利用した光発電設備です。





酪農の盛んなスイスの場合、エネルギー農家の生産する再生可能エネルギーのメニューで多いのは、①牛の糞尿とナマゴミを共同発酵するバイオガスによるコージェネ、②農家建築や畜舎の大屋根を生かした光発電パネル設備、③木質バイオマス燃料(薪、チップ)の生産・供給です。

土地が狭く、平らな場所が少なく、気候も厳しいスイスでは、農家が政策的に守られていても、その経営は厳しいのが現状。農家には企業精神を持つことが盛んに勧められ、その一貫として有機栽培のような付加価値の高い作物づくり、あるいはエネルギー生産業務を含む多角経営が追及される傾向があります。

さて、昨日見学したエネルギー農家のヴィース家は、バイオガス発電と光発電により一年で約500世帯分、住人にすると1500人分の再生可能電力を生産しています。下の写真では、ヴィース家の納屋と倉庫の光発電パネル、左奥にはバイオガスのタンクが少し見えます。中央がヴィース家の住宅です。
www.wyss-ittigen.ch



ヴィース家の業務は4つの分野に分けられます。1つは100頭の牛を動物に優しい飼育環境(写真左)で自家製飼料で飼い、生協のブランド「ナトゥーラビーフ」として販売。2つ目は、農作業の機械をオペレータ付きでリースする部門。3つ目は干草の売買業務。そして4つ目がエコ電力の生産業務です。写真右は、企業家農家のヴィースさん。




バイオガス発電は2005年から行なっており、家畜の糞用と食品加工産業からのゴミを混ぜて、2つの炉で発酵させています(写真下)。そして発酵から得られるバイオガスを、モーター出力350kWのコージェネ設備で燃焼させ、発電・発熱。電力は地元のベルン州電力会社に売電しています。炉の上がガスタンクになっていて、写真はガスがパンパンの状態です。


ヴィース家のバイオガス設備は、スイスで現在のフィードインタリフが導入される前に実現されました。そのため発電した電気は、電力会社には通常の買取価格で売電し、エコロジー的な付加価値の部分はグリーン電力証書として、一般市場で直接顧客に販売しています。

具体的には、スイスではエコ電力を発電している農家が、グリーン電力証書の販売を組織的に行なう組合「エコ電力スイス」を作っており、ヴィースさんもそこを通してグリーン証書の販売を行なっています。彼のメインのお客さんは、大手のエンジニア会社と自治体イッティゲンと地元のお医者さんです。

コージェネで生じる熱の方は、発酵炉を温めるのと自宅の暖房に利用しているそうですが、それでも余ってしまっており、現在は廃棄しているのが残念な現状です。実はヴィースさんは、農地を挟んで500mほど離れたところにある、州立農業学校の暖房熱源として、この排熱を利用するプロジェクトを計画してきたそうなのですが、そのためには農地に地域暖房の配管を通す必用があり、それがスイスの土地利用計画法にひっかかるのだそうです。

「どの政治家も再生可能エネルギーの促進には賛成というが、プロジェクトで生じる実際的な障害の解決は遅々としか進まない。」とヴィースさんは、役所の腰の重さに辟易している様子でした。ネックになっている法律を改定させ、農家が問題なく集落や建物の地域暖房に参入できるようにする、政治的なプッシュが現在進行中だそうです。スイスのフィードインタリフ制度では、バイオガス電力の中でも農家が生産する電力には割増料金、さらに排熱利用タイプにはさらに割増料金が出ますので、熱利用を拡大できるような環境づくりが、農家によるバイオガス発電の課題のようです。



さて、ヴィース家の光発電パネルの方は、今月竣工したばかり。倉庫と納屋の南と西向きの屋根一杯に設置され、大きさは1500㎡、年間21.3万kWh、約60世帯分の電気を生産する計算で、ベルン州では二番目に規模の大きな設備です。

悲しいことにスイスのフィードインタリフ制度は、昨年から予算不足でストップしたままになっています。そんな状況にも関わらず、ヴィース家が1億円を越える光発電設備を実現できたのには、2つの理由がある、とヴィースさんは語ります。1つは、この2年でものすごく設備コストが下がったこと。2つ目は、ベルン州電力の子会社Sol-Eが、資金の25%に参加し、ベルン州電力が電力買取り価格を保証したこと。ベルン州電力では、これに80Rp(約70円)を上乗せして、ソーラー電力を注文する顧客に販売しています。



再生可能エネルギーのイベントというと、元々環境に興味のある人ばかり集まる節がありますが、昨日は農家主催のイベントということで、再生可能エネルギーあり、農作業機具あり、牛あり、ソーセージやラクレットや音楽ありで、実に沢山の農家の人や市民たちが集まって、興味津々に見学、議論していました。

スイスでは、村ごとに2~3件このような農家があれば、随分と分散型の再生可能エネルギー供給が進むのだ、ということをエネルギー農家のヴィース家は分かりやすく示しています。とはいえ、エネルギー農家の増加には、国レベルでのフィードインタリフの予算強化が欠かせません。その予定は2012年、なんと気長なことでしょう。再生可能電力を買い取るための一般電力への価格上乗せ額を、現在の0.6ラッペンから0.9ラッペンに値上げして、再スタートするそうです。それまでの間、州や市の電力会社のレベルで地域版フィードインタリフを実施したり、州から発電設備への補助金を出したりすることで、場を繋ぐことが続きそうです。


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蘇る60年代の巨大団地、住みながらの総合省エネ改修

2010-04-12 05:27:08 | 建築
スイスにもやっとしっかりと春が到着したと感じるこの頃。町には早咲きの桜やコブシや連翹が、ブナの森には可憐なイチリンソウの群れが、そして小川のほとりにはリュウキンカが眩しい黄色を輝かせて咲いています。

先週の水曜日にはめでたいことに、ソーラー飛行機で世界一周する「SolarImulse」プロジェクトのプロトタイプが処女飛行に成功しました。テストでは1200mの上空を1時間半に渡り、問題なく飛んだそうです。世界一周への挑戦は2013年の予定です。

さて今日は、ベルン市郊外で総合改修が行われているゲーベルバッハ団地を見に行きました。この団地は、1962年にFAMBAUという経済的な住居を提供する非営利式の建設組合によって建てられた、ベルンでは珍しい巨大団地の1つです。中央駅からバスで20分ほど離れた、高速道路とショッピングセンターとのどかな田園風景に囲まれて建っています。一見異様なゲットーに見えますが、ちょっと懐かしさも感じます。

実はベルン市では、この団地のデザインは60年代の建築を代表する貴重なものとして捉えられていて、住人には今でも空き室が稀な、人気の街区だそうです。その理由は、家賃が安いだけでなく、団地内の社会施設が充実していて、健全なコミュニティが育っていること。団地の中に、図書館、様々な店舗、ホール、会議室、室内プール、幼稚園、学校などが揃っているので驚きます。

現在改修されているのは300世帯、670人の住むA棟です。しかも、住人が住みながらの状態で改修工事を行なうという挑戦です。それにより大変な調整作業や、住民への情報提供やサービスなどが必要になりますが、それでも、住み続けた状態での改修の方が経済性が良いとのこと。改修工事を行う住居の住人のために、代用のキッチンや浴室を用意し、古い配管を残しながら、新しい配管を施工したり、家賃を引き下げたりしたそうです。一戸の改修期間は5週間。改修後の家賃はこれまで破格の安さであったため、50~60%上がります。とはいえ、現代の快適性と間取りを持ち合わせた3.5室住居の家賃が1350フラン(約12万円)というのは、ベルン市内では格安です。

今回ゲーベルバッハの団地で改修されたのは、室内ではキッチンと浴室、配管の新設、1部の間取り、内装。躯体では外壁・屋根の断熱強化、断熱性の高い窓への交換。外壁は古い木質パネルファザードの上に厚さ19cmの断熱材入り外壁パネルを施工したそうです。設備では、全ての家電をトップ効率の家電に交換しています(スイスの賃貸住宅では家電が付いているため)。また、熱回収付きの機械換気設備が導入されましたが、住人がちゃんと使いこなしてくれるように、建設組合は住人への情報提供に余念がありません。さらに計300㎡のソーラー温水器、パネルにすると120枚が新設され、給湯の35%を担います。

経済的な家賃の団地のため、内装はシンプルな仕様だそうですが、肝心な快適性と長持ちすべき部分の品質、省エネ性能には妥協はせず、しっかりと次の数十年に備えています。むしろスイスでは経済的な住宅を提供する建設組合の方が、民間の集合住宅の施主よりもエネルギー意識は高く、断熱改修やソーラー温水器、木質バイオマスの導入を積極的に進めているという印象を受けます。





上の写真は改修後の概観。新しいファザードと窓、ソーラー温水器が見えます。ベランダには黄色の日除けスクリーン、窓の上にはシャッターが付いています。60年代感を損なわないような改修デザイン。

こちらは改修されていない周囲の団地の様子、改修前のほころびが察せられます。


 
ゲーベルバッハ団地の総合改修費用は計3750万フラン(約32.3億円)。うち躯体の断熱関連の対策費に関しては、2009年までの断熱改修補助プログラムから約1720万円の補助金を受けています。助成額としてはものすごく少ないという印象を受けます。これを受けるには最低でも躯体のU値0.23以下、窓全体のU値1.3以下を満たす総合改修であることが条件です。

2010年からは、前年までよりも内容・予算の両面で強化された断熱・省エネ改修の助成制度がスタートしています。目標は九州くらいのスイスで、年1万件の省エネ改修を引き起こし、市場に10億フラン(約860億円)の投資を誘発すること。スタートから約2ヶ月で5200件の補助申請が各州に届けられ、うち2700件が断熱改修への助成、2500件が再生可能エネルギー源への申請になっています。(省エネ改修補助制度の詳細はブログのバックナンバーをご覧下さい。)

断熱改修ブームの本格化が実感されるこの頃。スイスの建設業界が経済危機の影響を受けていないというのが納得できます。断熱改修のアドバイザーや助成金の審査を担当するエネルギー専門家、そして工務店の多くは山のような依頼を抱えています。

最後にこちら、先日立ち寄ったコープ生協の大型店舗の省エネ改修の様子の写真です。厚さ24cmの断熱強化で、暖房エネルギー消費量を半減するのだ、と職人さんが話していました。




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温暖化懐疑論への金の流れについてのニュースと映画「第4の革命」

2010-04-07 21:57:56 | その他
政治家や学者、メディアの多くが、既得権エネルギー業界(スイスの場合、石油・原子力)から流れる金で「買われて」いるのは、スイスでも今始まったことではありません。ですが、再生可能エネルギーによるエネルギー供給への大きな転換の未来が近づく近年、こういったロビーストたちの活動もまたますます盛んになっています。だからスイスでも、エネルギー関係の情報は、その信憑性やロビーからの影響を推し量りながら聞く必要があります。

そんな中、スイスでも、昨今、温暖化懐疑論は存在感を強めてきた感があります。批判的な視点を持とうという姿勢とはまた違った、意図的に温暖化問題を無害化し、懐疑論を広めようという勢力が、ちびりちびりと攻勢に出ているのが、メディアでも時折感じられます。

昨日、お昼にスイスの国営ラジオを聞いていたら、先週、アメリカで環境団体グリンピースにより、温暖化懐疑論者に流れる活動資金の元栓を調べた報告書が発表された、というニュースが流れました。(結構センセーショナルだと思いましたが、皆が聞く夜のニュースではこの知らせは流されませんでした。)

その報道は次のような内容です。
「アメリカでは温暖化懐疑論の背後には巨大な石油ロビーがついており、影響力のある政治家やシンクタンク、著名人などを巨額を投じて支援し、懐疑論を広めるよう操作している。例えば、石油コンツェルンのエクソンモーバイル社が、気候研究や環境保護の法律や再生可能エネルギーを阻止するためにロビー活動を行なっているのは有名である。

だがそれ以外にも、先週に出たグルーンピースの報告書(下記リンク)では、コークインダストリーズというあまり知られていない石油化学コンツェルンが積極的なロビー活動を行なっていることが記されている。同社は売上げ1000億ドルの民間企業で、非常に影響力のある温暖化懐疑論のロビー団体である。目的は温暖化問題を伝説化し、温暖化対策は高すぎるとし、温暖化研究は欠陥品であるというイメージを社会に刷り込むこと。そのロビー資金はエクソンモーバイルの3倍にも到り、2005~2008年の間だけでも6800万ドルが温暖化を否定する勢力に支払われた。

これらのロビーがオバマ大統領の温暖化対策に関する立法の最大の難関である。アメリカでは温暖化懐疑論者は非常に密なネットワークを構成しており、数ヶ月以来、温暖化の信憑性を疑うキャンペーンを成功させている。ドイツにある研究所にも間接的にこれらのロビーからの金が流れており、そういた影響もあって、ヨーロッパでも温暖化懐疑論者が増えつつある。」というものです。

グリンピースが発表した2つのレポートのリンク(英語)
http://www.greenpeace.org/raw/content/international/press/reports/dealing-in-doubt.pdf
http://www.greenpeace.org/usa/press-center/reports4/koch-industries-secretly-fund

とはいえ、中央ヨーロッパでは再生可能エネルギーや省エネルギーへの大幅な転換の波は、遅かれ早かれやってくるもので、莫大な資金力を持ったロビーが仕掛ける障害をもってしても押し留められないような勢いを感じます。だが、それが今すぐはじまるのか、50年後、100年後なのかという話です。

それが、今すぐだと語るのが、3月にドイツで公開された映画「第4の革命、エネルギー自立」(カール・A・フェヒナー監督)。先月にドイツで見てきました。デンマーク、ドイツ、中国、アメリカ、マリ、バングラデシュなど10カ国を舞台に、100%再生可能エネルギー時代への転換の始まりを描きます。主役はドイツの再生可能エネルギー法の開発に大きく貢献したな政治家のヘルマン・シェアさん。彼の「私たちは産業革命以降の最も大きな経済の構造転換に面している。」という言葉が印象的です。

この映画のキーメッセージは、「エネルギー供給の民主化が人類にとって第4の革命になる」、「100%再生可能で、誰もが払えて、使えてクリーンな、地域分散型のエネルギーの安定供給は今から可能」というもの。また、エネルギー供給の民主化により、エネルギーを巡る金の動きが大企業への一極集中から地方分散へと変ることを阻止する既得権のエネルギー業界や、そちら寄りの国際エネルギー機関IEAの姿勢も描き出されています。

下が映画「第4の革命~エネルギー自立」の英語のサイトで、英語版トレーラーが見られます。
http://www.energyautonomy.org/index.php?article_id=21&clang=1

いづれにしても、温暖化問題だけが脱化石エネルギーへの転換を目指す理由ではなく、本当はもっと幅広く、国際平和、国のエネルギー自立、長期的な安定供給、環境と安全性、そして地域経済の活性化といった側面についても、同じくらい重きをおいて論じられるべきだ、と改めて感じました。

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マッキンゼー報告書、省エネ対策はスイスに2.5万人分の職場を創出する

2010-04-02 03:17:53 | その他

2月末にコンサルタント事務所のマッキンゼー(McKinsey&Company)が、スイスのエネルギー庁から依頼を受けて作成した報告書「エネルギーという競争要素~スイスの経済にとってのチャンス」を発表しました。

その要旨は、「エネルギーはスイスで生み出される売上げの40%に戦略的な意味を持っている。省エネルギーと再生可能エネルギーは今後の最も重要な成長市場。国内でのエネルギー利用効率の向上と、同分野で世界的に活動するスイスの企業の促進により、2020年までに温暖化ガスを削減して、エネルギー安定供給に貢献できるだけでなく、建物・交通・エネルギー分野において、2.5万人以上の雇用を国内に創出できる。」というものです。(ちなみにスイスの人口は750万人です。)

マッキンゼーは既に2009年にも、スイスでの温暖化ガス削減コストに関する調査「スイスにおける温暖化ガス削減コストカーブ」を発表しています。そこでは、既に実用化されている建物、エネルギー、輸送、産業、農業分野での温暖化ガス削減技術の中でも、CO21tを削減するのに100ユーロ以下の対策のみを対象に調査。

結果、35%のCO2削減は、寿命に渡って計算すると、コストがかかるどころか、もうけが生じることを示しています。1バレル52ドルだと対策項目の中の42%が元がとれ、80ドル以上では80%以上が元が取れるそうです。また、収益をもたらす温暖化対策から得た収益を、さらに温暖化対策に用いるならば、2030年までにスイスは行動様式を変えない場合でも、45%の温暖化ガスを削減できるというレポートでした。

対して、2010年のマッキンゼーの報告書では、国の気候・エネルギー政策目標の達成に必要な対策が、2020年までにスイスの国内経済に及ぼす影響や、グローバルなスイス企業にもたらす成長を予測、数値化しています。計算の前提は、国内でのCO2削減目標量が18%の場合とされており、さらにその3分1弱を占める建物と輸送分野からの排出量について細かな調査が行なわれています。以下に今回のマッキンゼーのプレスリリースをまとめます。

「本報告書では、経済的・技術的に実現可能な国内での省エネ対策や、今日既に知られている2020年までの再生可能エネルギーの促進政策だけを計算の対象としている。結果、2020年には、建物、輸送、そしてエネルギー分野だけでも、計26億フランの投資が行なわれ、うち15億フラン(約1300億円)が建物分野に、5億フランが再生可能エネルギーの促進に、6億フランがクリーン交通に当てられるだろう。この投資はスイスの経済に直接的に2.5万人分の雇用を直接に創出し、うち2万人が建設分野で生じる。

もちろん灯油やガソリンの節約や投資への財源確保のために、雇用の損失も生じるし、石油からの税収は大幅(年6億フラン程度減収)に減る。また多くの対策は、投資回収期間が長いため、国や州による助成制度が必要である(省エネ改修プログラム、減税対策、固定価格買取制度など)。 しかし、総合すると、これらの投資により生じる雇用は、それ以外の分野で減る雇用の数よりも多い。2020年の場合だと1.1万人分創出の方が多く、結果売上げは6億2千万フランのプラスとなる。2030年までにこの効果はより強まり、創出効果の方が損失よりも2万人分多くなるだろう。

またスイス企業は、世界の省エネ・再生可能エネルギー市場で、今日100億フランの売上げを上げているが、2020年までに国の政策の継続によりそれは約300億フランに増えるだろう。それにより4.8万の雇用が創出され、うち1.6万人が国内で生じる。

建物と自動車分野での省エネ対策および再生可能エネルギーの促進によりスイスで2020年までに生まれるジョブ
・建物分野 1.7万人
・再生可能エネルギー 7千人
・輸送 1千人
・省エネと資金作りによる職場損失 -1.4万人
・職場創出効果は+1.1万人   」

出典 
http://ww1.mckinsey.com/locations/swiss/news_publications/pdf/Pressemitteilung_Wettbewerbsfakto_Energie.pdf )
スイスでは今年末に10年間続いた国のエネルギー行動計画であるエネルギー・シュバイツが終わり、これから次の10年間のエネルギー行動計画や、京都議定書後の気候政策が具体化されていく時期にあります。今回のマッキンゼーの報告書は、そのような中、政治的議論の基礎情報として依頼されたのではないかと思われます。

ところで、2010年のマッキンゼーの報告書でも、1ドル50バレルという控えめな石油価格が計算に採用されており、また今ある技術だけでもこれだけの経済効果があるということが示されています。実際には灯油価格はこれよりも高くなり(あるいはCO2税が高くなり)、また今日以上の技術革新は確実に訪れるでしょうから、政策的に上手く導けば、2020年の温暖化対策によるスイス国内での雇用創出はマッキンゼーの予想をずっと上回るかもしれません。


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