滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

主要環境5団体の脱原発シナリオ、コストは一世帯年500円

2011-05-18 08:16:39 | お知らせ

スイスでは先週ようやくまともな雨が降り、ほっとしたところです。


5月12日に、スイスの5つの主要環境団体が、共同で作成した脱原発のシナリオを発表する会見を開いたので、聞きに行きました。5団体とは、プロ・ナトゥーラ、WWF、グリンピース、スイス交通クラブ、スイスエネルギー基金。いづれもスイスでは社会的な知名度・認知度がとても高い団体です。これらの団体は、以前から共同でエネルギーシナリオを発表してきたため、今回のものはフクシマ後の更新版ということになります。この会見の様子は夜の国営テレビのニュースでも流れました。

スイスの主要環境5団体の脱原発シナリオをまとめると下記のようになります。少し長くなりますが、どうぞお付き合い下さい。


シナリオをプレゼンテーションするWWFやグリンピースの代表者たち

●2025年か2035年が現実的
フクシマが示したような原発の『残りのリスク』はスイスでも起こりうるので、脱原発は早ければ早いほど良い。代替技術やポテンシャルは揃う。だが、これまでの政策が遅れているため、今日明日には脱原発できない。環境団体は2025年と2035年に脱原発する2つのケースを計算。どちらのケースでも、大型火力発電を建設することなく、経済的に脱原発できることが示されている。

● 2025年までに36TWhの代替
環境団体は、スイスにある5基の原発は40~50年の寿命で運転され、2024~2034年までに全て廃炉になると設定。このシナリオでは5基の廃炉による電源喪失分と、人口増加や経済成長により予測されている電力の需要増加分を合わせると、2025年までに36TWhが、2035年までには39TWhの代替電源が必要になるとする。(それ以外の電源は主に既存水力なので代替する必要がない。)

●2025年だと少々輸入が必要
2025年に脱原発する場合、代替する必用のある36TWhのうち、19.4TWhは再生可能エネルギー源で、13.4TWhは省エネでまかなうことができる。再生可能エネルギー増産分は、主に太陽光発電(12.2TWh)とバイオマス(5TWh)が担う。省エネでは、産業(2.9TWh)と住宅設備(2.5TWh)、照明(3.0TWh)が中心。これでも3TWhが足りないが、それを満たす選択肢として:太陽光発電や省エネの促進強化、北海の風力や地中海のソーラー輸入、分散型のガスコージェネ等がある。
2025年の電力ミックスは、45%が水力、28%がその他の再生可能、18%が省エネ、5%が分散型コージェネ、4%が輸入あるいはその他の方法となる。

●2035年の脱原発はラクラク達成、余壌電力を輸出
対して、2035年に脱原発する場合は39TWhを代替する必要がある。それまでに24.9TWhが再生可能エネルギーで、19.2TWhが省エネで得られる。その内訳は上記とほぼ同じ。ただ2035年までには省エネや再生可能エネルギーの価格が低下し、増産のスピードがアップするため、省エネと再生可能電力により、自国消費量よりも5TWh多い余壌電力が生じる。これを揚水ダムに上げて高値で輸出することができる。
2035年の電力ミックスは41%が水力、31%がその他の再生可能、23%が省エネ、5%が分散型コージェネ(ゴミなど)。

これらのシナリオで興味深いのは省エネ効果だ。現在のスイスの電力消費量は約60TWh(人口780万人)。このまま何もしなければ需要は2025年で72TWh、2035年で75TWhになるが、節電対策により実際の電力消費量は2025年で59TWh、2035年で56TWhに抑えられるという。人口増加と経済成長を計算の前提としているにも関わらず、である。

●一世帯一年500円で脱原発?
ガスや原発の発電コストは上がり、再生可能エネルギーのコストは下がる。電力価格はいづれにしても高騰していく、と電力会社が長年宣言している。そのような条件の下、環境団体は脱原発コストを下記のように計算している。

・ 2025年に脱原発する場合には、年50億フラン(約4500億円)の設備投資が必要。2035年の場合は年40億フラン(約3600億円)。

・ 脱原発の実際のコスト(Net Present Value)は、2025年脱だとkWhあたりマイナス0.5ラッペン(-0.45円)、2035年脱だとkWhあたりマイナス1ラッペン(-0.9円)。このコストは、投資額から、売電による収入と節電により節約できた電気代を差し引いたものを、実際の消費kWhで割った数字。ただし計算には、既存エネルギー源により生じる環境汚染や健康被害といった外部コストや、再生可能や省エネルギー産業による経済促進効果は含まれていない。

・上記の計算は、電気代が2025年までに12%上がり、2035年までに22%上がるという控えめな見積もりに基いて計算されている。もしも電気代が2025年までに20%、2035年までに25%上がれば、それだけで脱原発コストは無料になる。電気代が高くなるほど、省エネや再生可能エネルギーの投資が早く回収できるからだ。

・省エネと再生可能エネルギーによる脱原発は、大型ガス発電による代替よりも高くつくが、その分国内により多くの経済的価値と雇用を創出する。

●最重要ツールは節電税とFITの強化
固定価格買取制度が再生可能電力の増産のために最も重要なツール。現行の固定価格買取制度を強化することにより、買取のための電力価格への上乗せ料金は、2025年までに段階的にkWhあたり2.5ラッペン(2.3円)、2035年までに3.1ラッペン(2.7円)となる予測。

また省エネの最重要ツールは節電税。税収入は全て、国民には健康保険経由、企業には年金費用経由で還付される制度を提案。電気代を2倍(例えばkWhあたり36円)にするように節電税を課税しても、普通の節電対策を行なう家族ならば最終的には還付額の方が多く、得をするという。対して、浪費型の世帯は損をする。企業に関しても、平均的な中小企業で省エネ努力をしていれば損をしない。

●脱原発のための10のステップ
上記のようなシナリオを達成するために、環境団体は10のステップを提案する。

基本
① 内閣と議会は脱原発を決定し、電力会社は原発の新設申請を引き下げる

② 電力消費量と再生可能電力の増産量に関して拘束力のある目標をたてる  
    例えば、2025年までに19.4TWhの増産、13.4TWhの省エネ
③ 国家的な啓蒙および専門家の人材育成戦略

効率

④ 省エネ促進 
・ 節電税の導入は20TWhの省エネポテンシャル。電気代を上げ、税収は還付
・ 国の省エネ対策コンペ:民間から有効な省エネキャンペーンを募集し実行
・ 産業への省エネボーナス:電力消費を減らす企業に対して電気代を下げる
⑤ 家電トップランナー規制の強化
⑥ 電力浪費源の交換義務
    2015年までの電気暖房と給湯器の再生可能熱源への交換義務)  
⑦ 電力会社への省エネ依頼
・ 電力会社に一定期間内の省エネ義務、消費が少ないほど安くなる電気代
・ 電力会社に一定の収入を保証することで、電力販売量を減らす方が得する仕組みを作る(デカップリング)

増産
⑧ FIT固定価格買取制度の強化
   買取予算上限の蓋を採る、20~27TWhのポテンシャ
⑨ 障害を取り除く
  
自然景観保全と協調する再生可能エネルギー設備
⑩ 配電網の強化と需要マネジメント    
   マートグリッド、スマートメーター


10のステップを説明するスイスエネルギー基金の代表者

★主要環境5団体のシナリオのリンク:http://www.greenpeace.org/switzerland/de/Kampagnen/Stromzukunft-Schweiz/Stromversorgung/


これらは、あくまでも環境団体の提案であり、この通りに実現されることはないのですが、市民や政治家にとっては参考になります。スイスでは、5月25日にはエネルギー庁が策定した3つのシナリオを内閣が発表、その1つを選定あるいは推薦するといわれており、それと比較するのにも役立ちます。

最終的には6月8日にスイスの国会の特別会議で、具体的な脱原発案が決議される予定になっています。スイスではフクシマ後に、エネルギー政策関連の議員法案が山ほど提出されたため、2時間の会議の間に140の法案を決議しなくてはならないそうです。どうなることやら、誰にも予測がつきません。


今週のフクシマ効果

★ エネルギー関連の住民投票
5月15日はフクシマ後、初の住民投票の日で、州レベル、自治体レベルでエネルギー政策関連の投票もいくつか行なわれました。
・ ツーグ市では、2000W社会を目指すことを定める市民イニシアチブ案を51.4%で可決。これによりエネルギー消費量3分1、CO2排出量1tの社会づくりを目指すことが市の法律に定められます。
・ トゥールガウ州では、「再生可能エネルギーと効率的エネルギー利用にJA(Yes)」という住民イニシアチブ案が84%で可決され、これらの促進が州と自治体の任務であることが州の憲法に定められました。
・ 本当は様々な州で、原発新設への意見を問う住民投票が予定されていたのですが、フクシマ後にエネルギー大臣が原発の新設建設許可過程を中断したので、これらの住民投票は中止されてしまいました。原発関連では唯一ワット州で、国の放射性廃棄物の最終処分場選出に関して住民投票が行なわれ、約65%が否決しました。

★ベルン州、エネルギー証明書の義務化と電力税を削除
ベルン州では、州の新エネルギー法の中にある、中古建築へのエネルギー証明書の義務化と電力税の削除を求めて、持ち家主連盟などがレファレンダムを起こしました。投票に関してほとんどキャンペーンが行なわれなかったこともあり、投票率は28%と信じられないほど低く、削除を求める市民案を7割が可決しました。
州政府が何年にも渡り準備してきた制度なので残念です。
既存建築のエネルギー
性能を格付けするエネルギー証明書は、EUでは既に義務化されています。エネルギー価格が高騰していく今後、古い家の転売や賃貸住宅での付帯費用に透明性を与えるのに欠かせないツールとされています。
対して、省エネ改修すると得する仕組みをいっそう強化するのが電力税でした。電力税は15年間に渡り課せられ、税額はkWhあたり0.5~1ラッペン。年1500~2000万フラン(18億円)の税収は、州の建物の省エネ改修の追加助成金として用いられる予定でした。


ニュース

●標高2456mでプラスエネルギーホテル
アルプスの山岳ホテル「ムオタス・ムラグル」は、2010年夏に総改修された。ホテルのある標高2456mの立地は、年平均気温がマイナス1度であるが、日射が豊富な地域だ。
このホテルでは、2009~2010年の総改修の前には、暖房と給湯に年4万リットルの灯油と、電気4万kWhを消費していた。総合改修と増築により暖房面積は1700㎡から2700㎡に増えたが、ホテルは自家消費量よりも多くのエネルギーを生産するようになった。
対策としてはまず、建物外壁をすっぽりと断熱強化し、窓を交換、ダイレクトな日射獲得を増やした。建物の熱エネルギー消費量をスイスの省エネ建築基準である「ミネルギー」に減らした。
暖房システムには、100%再生可能エネルギーを使う。暖房と給湯の熱には、キッチンや山岳鉄道施設の冷却装置からの廃熱回収、140㎡の太陽熱温水器、地中熱ヒートポンプを組み合わせる。地中熱は、深さ200mの採熱管16本で利用。夏の間、太陽熱温水器からの余壌熱は採熱管を通して地中に戻される。
暖房・給湯設備の運営に必用なエネルギーは一年で5万kWh。それを山岳鉄道沿いに設置された455m2(出力64kW)の太陽光発電パネルが供給する。収穫量は年9.5万kWh~11万kWh。余りの電気でホテルの照明や電気機器を運転する(3.7万kWh)。
これらのシステムの計算とシュミレーションは、Polysunというソフトウェアにより行なわれた。一回目の冬を終えて、ホテルマネージャーは、すべての設備が問題なく機能したことに大変満足しているという。プラスエネルギー率は105%。
リンク:
http://www.muottasmuragl.ch/
参照:EE-News

●スイスのFITではソーラーの買取価格が高すぎる
消費者新聞SALDOでは、スイスのFITにおける太陽光発電の買取価格が、ドイツと比べると50%も高く設定されていることを批判する。
スイスでは現在、40kWの屋根置き設備に対して、1kWhあたり46ラッペンの買取を25年間受けられる。同様の設備に対するドイツでの買取価格はkWhあたり38.3ラッペンで、買取期間は20年間。100kW以上の設備では買取価格に大差はない。
価格差の理由は、スイスでの物価がソーラー分野でもドイツと比べると10~20%高いことだという。また、スイスの制度ではドイツと異なり、買取価格の見直しが一年に一度しか行なえない法律となっているのも一因だ。
スイスでは限られた予算で多くの設備が買取を受けられるようにするためにも、発電コストの低下を促すためにも、技術の進歩に合わせた速やかな買取価格の見直し・低下が行なわれるべきである。
出典:Saldo Nr.8

●スタンバイ、スリープ、オフモードは年27~36億円の損失
九州ほどの大きさのスイスでは、産業部門のコンピュータやオフィス機器、周辺機材の待機・スリープ・オフモードの電力を徹底して節約するだけでも、年27~36億円の電気代を節約できる。
スイス省エネルギー機関の報告書では、スイスの産業分野のPCとPCモニターだけでも、オフ時電力に年50GWhを浪費している。
プリンター、コピーや多機能機器はスイッチを切っても電気を浪費し続ける。産業部門のこれらの機器はオフ時電力に20GWhを浪費。
オフ時電力に、スタンバイモード、スリープモードを加えると、産業部門のPC環境(PC、ルーター、充電器、その他の周辺機器も含む)では、年300GWhが浪費されている。これは一年で45億円の電気代を意味する。
これらの浪費は60~80%節約することができる。最も効果的な方法はエコタップでコンセントの部分から電源を切ること。タイマーや省エネ設定による最適化も有効だ。それにより、一年で産業は27~36億円を節約することができる。
出典:スイス省エネルギー機関S.A.E.Fプレスリリース

● ドイツ、バイオマスが最終エネルギー消費量の7.9%
ドイツ再生可能エネルギー機関によると、2010年度バイオマスエネルギーは熱、電力、動力燃料の各分野において成長しており、最終エネルギー消費量に占める割合のもっとも大きな再生可能エネルギー源となっている。
バイオマスエネルギーの占める割合
最終エネルギー消費量 7.9%
電力消費量 5.5%
熱消費量 9.0%
燃料消費量 5.8%
出典:Deutsche Agentur für Erneuerbare Energien

 

 

 

 


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断熱改修ブーム、1年で3万件の助成申請

2011-05-11 10:36:09 | 建築

スイスは春だというのに雨が降らず、初夏のような天気が続き、歴史的な旱魃と言われています。農作物や水力発電への影響が心配です。温暖化の影響としてスイスでは今後も雨量の減少が予想されるため、農業の方法も適応させていかねばならない、と国営ラジオのニュースではコメントされていました。

フクシマ、リビア内戦、異常気象と続くこの春。温暖化防止も、脱原発も、脱化石も、待ったなしのところまで来ていることを、スイスでも多くの人が感じています。

今日で東日本大震災から2ヶ月。改めて被災地の皆様にお見舞い申し上げます。スイスの人々も皆さんのことを忘れていません。首都ベルンでは木曜日にフクシマ被災者を悼むデモ行進が行なわれます。また先日はスイスでも、日本の浜岡原発の運転停止、原子力推進政策見直しというニュースが流れました。長年、停止運動に取り組まれてきた市民の方々に感謝です。

短期間に大量の原発が運転停止するという状況に追い込まれた日本には、今こそ明確な持続可能なエネルギー政策の目標を打ち出し、火力は過渡期技術と位置づけ、省エネと再生可能エネルギーの増産に全力を注いで欲しいものです。

●2010年度、3万件の断熱改修を助成
スイスでは近年、断熱改修ブームがいっそう熱しています。断熱改修への助成金を申請した物件の数は、2010年度だけで3万件。助成額は2億4400万フラン(約227億円)に上ります。国と州は1.2~1.6万件程度の申請を予測していましたが、実際の反響はその倍です。

建物の断熱改修は、スイスのエネルギー政策の要です。家庭では暖房がエネルギー消費の72%、給湯が12.4%も占めています。そのためスイスでは、灯油に課したCO2税収の一部を用いて、2010年から省エネ改修助成の10ヵ年プログラムを昨年スタートしました。それまでも断熱改修の助成は継続されてきましたが、それをいっそう強化したのです。

助成金は多ければ良いのではなく、いかに少ない助成金で大きな省エネ効果を引き出すかがポイントです。省エネ改修プログラムでも、限られた予算でより多くの省エネ効果を得られるよう、助成金額の見直しが4月1日より実施されました。特に断熱三層窓は技術発展が早く、価格がどんどん下がっています。それに合わせて、窓一㎡への助成金が70フランから40フランに下げられました。

現在の断熱改修プログラムの助成額は、壁や屋根がU値0.2W/m2K以下(断熱材18cm程度)
の断熱強化には一㎡40フラン(約3700円)、窓交換にはガラスU値0.7以下(断熱三層窓)で一㎡40フランとなります。

財源は、国が灯油へのCO2税収の1部を用いて
1億3300万フラン(約124億円)を、躯体の断熱改修に出しています。これとは別に、再生可能熱源への交換の助成には、国がCO2税収から6700万フラン(約62億円)を、州が8000万~1億フラン(約74~93億円)を出資しています。

省エネ改修の費用は所得税課税額から控除できるため、総合すると省エネ改修費用の3割程度が直接・間接的に助成される仕組みです。

★ 省エネ改修効果の簡単なシュミレーションツール
断熱改修や熱源交換のメリットを施主に分かりやすく伝えるために、改修効果を簡単に計算できるウェブサイトも作られています。
例えば、http://www.egokiefer.ch/evalo/では、郵便番号を入力し、およその家の構造や仕様を選んだ上で、ファザード、窓、屋根、ドアの断熱強化や熱源交換を選択していくと、省エネ効果やコストが表示されます。具体的には、改修前と改修後の建物のエネルギー証明書のクラス付け(A~G)、電力需要量、CO2排出量、騒音防止、およその投資額、補助金額を計算してくれます。

対して、太陽熱温水器の効果を簡単にシュミレーションできるのがこちらのページ。 http://www.swissolar.ch/de/solardach-rechner/
スイスソーラー産業連盟とWWFが共同で開発したツールです。郵便番号を入力し、5つの簡単な質問に答え、「計算する」をクリックすると、自分の家でどれくらいの温水を太陽熱で供給でき、それによる灯油やガス、電気、CO2の節約量が分かります。さらに、助成金と税控除分を引いたスタンダード設備の価格を計算してくれます。また、地域ごとの建設許可の必要性の有無、地域のソーラー専門家のリストも表示されるなど、とても親切なツールになっています。


●3カ国7都市が共同で2000W社会への戦略発表
5月6日には、スイスとドイツ、オーストリアが国境を接するボーデン湖地方の7都市が、「2000W社会」を実現するための地域戦略を発表する会見を開いたので聞きにいきました。7都市とは、ドイツ、コンスタンツ地方のジンゲン、ラドルフツェッレン、コンスタンツ、ユーバーリンゲン、フリードリッヒスハーフェン。オーストリア、フォーアールベルグ州のフェルドキルヒ。スイス、シャフハウゼン州のシャフハウゼン市です。

 いづれも人口3~8万人程度の小さな町で、これまでも個別に体系的なエネルギー政策を実施していました。ただ、人口密度が高く、産業活動が盛んな都市部だけで、2000W社会やエネルギー自立を達成するのは難しいものです。田舎と都市を合わせた広域コンセプトにより、地域全体として2000W社会を実現し、魅力的な地域を作ろうではないかという主旨です。

2000W社会とは、エネルギー消費量を3分2減らして、残りの75%以上を再生可能エネルギー源でまかなう社会ビジョンです。CO2排出量は1人頭で1年1t以下となります。現在の西ヨーロッパの平均的な一次エネルギー消費量を出力に換算すると、1人頭6000Wになります。それを世界平均の2000Wに減らすことを目指します。一次エネルギー消費量の大きな石炭発電や原子力発電では、2000W社会を達成することはできません。

さて、上記の7都市の環境・エネルギー局の代表者たちは1年半に渡り、ボーデン湖地帯の2000W社会化について調査してきました。それによると、同地方では再生可能エネルギー源により、今の総エネルギー消費量の50%近くが担えます(熱・電気・交通を含む)。つまり、ここでも50%の省エネによって、はじめて2000W社会が可能になります。この目標は、フォーアールベルグ州やコンスタンツ地方では2050年までに可能だそうです。

調査では、2000W社会を達成するために地域間協力できる45の対策セットを定義。うち11対策を短期的に実施することを決めました。7都市の協働により、例えば、市営エネルギー会社が一緒に地熱発電所や風力パークを実現したり、地域のバイオマス資源利用戦略を作るというようなことが可能になります。 

また自治体の重要な役割のひとつが市民啓蒙ですが、市民レベルで「もっと何が必要か」ではなく、「何が要らないか」を議論していくことの重要性が何度も言及されていました。そして自治体による市民コミュニケーションのあり方を変えていくこと。kWhだけでない、もっと感情に訴えるコミュニケーションが必要だといいます。

7都市の市長や自治体のエネルギー執行委員たちの誰もが、非常にポジティブかつ現実的に、エネルギー自立や2000W社会に組んでいることが印象的でした。2000W社会は可能であるだけでなく、チャンスであり、必用。それなくしては、地域の持続可能な経済はありえないというわけです。

 
 7都市の市長や自治体のエネルギー執行委員たち


今週のFukushima効果

★スイスの原子力村批判
スイスでも、政治・役所・産業・学会が癒着した「原子力村」の実態への批判が高まっている。連邦核安全監視委員(Ensi)の執行委員長が、原発を運営する電力会社の子会社で役職を得ていたため、中立性を問われ一次辞職。さらに、原発を運営する電力会社が出資するチューリヒ工科大学の原子力物理学教授が、連邦核安全監視委員の査察委員となっていることも批判されている。

★スイスの全原発に安全上の問題
連邦核安全監視委員は、スイスにある原発の地震と洪水に対する安全性検査を行なった結果、4箇所5基の全ての原発に安全上の問題があると発表。特に高齢原発のベッツナウ(2基)とミューレベルグ原発では、原子炉や使用済み燃料プールの冷却機能に関する不完全さが指摘されている。今後スイスの原発運営者は、6月末までに1万年に一度の洪水に耐えうる証明、8月末までに問題点の解決策の提示、2012年の3月末までに地震とダム決壊の同時発生に耐えうる証明を提出しなくてはならない。

★ミューレベルグ原発、早期廃炉の可能性
首都ベルンから西15kmに位置するベルン州電力のミューレベルグ原発については、安全基準を満たすための工事費用が高額に上るため、経済性の観点から早期廃炉になる可能性が出てきた。以前より安全性が疑われていた同原発の運転停止を求める市民たちは、4月5日よりベルン州電力本社前の芝生でデモキャンプを続けている。

★日本も新規ガス発電は電熱併用コンセプトを
来欧された日本人の方から、日本で既存の火力発電の敷地に新しいガス発電設備を設置する計画がどんどん進められているという話を聞いた。そのような立地では熱利用は無理ということ。しかしガス発電設備は、無駄な設備投資を避け、CO2排出量をむやみに増やさないためにも、電熱併用できる立地に作って欲しい
。もともと大量の熱を消費する工場地帯や、町の中心部の地域暖房の熱源として電気も生産するような計画。そのような立地ならば、将来的に木質バイオマス熱源に切り替えて行っても、ガス設備をバックアップとして利用することもできるのではないか。

★スイス在住の方へお知らせ5月22日Menschenstrom
スイスでは、毎年恒例の脱原発を求めるデモ行進「Menschenstrom」が5月22日に実施されます。長距離コース10kmは、Siggental-Würenlingenから出発します。短距離コース3kmは、Döttingenからの出発です。ゴール地点では演説やコンサートがあります。昨年は5000人が参加しましたが、今年はフクシマの影響で参加人数がもっと多くなると思います。当日は、専用の電車とバスが多数出ていますので、詳しいプログラムは下記をご覧下さい。
http://www.menschenstrom.ch/dp/



ニュース

●オーストリア、パッシブハウスが新築の25%
オーストリアのパッシブハウス振興会(IGPassivhaus)によると、現在オーストリアには1.5万世帯、1万棟以上のパッシブハウス建築があり、新築の25%がパッシブハウス技術により建設されている。さらに現在5000世帯のパッシブハウスが建設中だ。その中でも最大のものが、ウィーン近郊のコルノイブルグに建設中の裁判所センターで、床面積は2.6万㎡に及び、州と地域、国の裁判所が入る。

●ドイツ、16階建てマンションをパッシブハウス改修
ドイツのフライブルグ市、ウィンターガルテン地区にある16階建てのマンションが、1.5年に渡る工事を経て、パッシブハウス基準を満たすレベルに省エネ改修された。同プロジェクトはフラウエンホーファー・ソーラーエネルギーシステム研究所の支援を受け、暖房・給湯・換気・照明・家電への一次エネルギー消費量を40%減らした。同機関は4月21日の竣工式の後も、2年間に渡りこの建物の実際のエネルギー消費量を測定していく。
改修後の暖房熱需要量は20kWh/m2年となり、以前より80%減った。熱供給はガスコージェネの地域暖房により行なわれている。主な対策は下記の通り:バルコニーの室内化、熱橋の解消、ファザード断熱、窓交換、熱交換式の換気設備、大きな窓による日射獲得、外付けブラインドによる日射遮蔽、24kWの太陽光発電設備、家電消費量の低減

●スイス、2010年の電力消費量、4%増加
スイスのエネルギー庁は、2010年度スイスの電力消費量が前年度比で4%増加し、59.8TWhであったと発表。2010年度に電力消費量が増えてしまった原因は、前年比で2.6%の経済成長、約0.9%の人口増加、そして特に寒冷だった冬が暖房温度日を12.7%増やしたことにあるという。エネルギー消費量の分析からは、電力消費の10%が暖房用途に使われている。

●電力消費量減るバーゼル・シュタット州
国全体で電力消費量が上がる他方で、脱原発政策を30年来実施してきたバーゼル・シュタット州では、2010年度、3.1%の経済成長したにも関わらず電力消費量が-1.1%減った。バーゼル・シュタット州によると、同州では長年に渡り電気暖房を禁止してきたため、寒冷な冬が電気消費量に影響を与えなかったのも一因だ。また、同州で導入されている節電税も電力消費量の低減に貢献しているという。kWhあたり3~6ラッペンが課税され、税収は家庭と企業に還付される。

● スイス、ガソリンへのCO2税導入なるか
スイスの交通分野はCO2排出量が90年比で12%も増えている問題分野。これまで、業界が自主的にガソリン1ℓあたり1.5ラッペンの気候料金を上乗せし、それを国内外での排出権の購入に当ててきた。
しかし、より大きな省エネ効果が必要となる今日、CO2法改訂において、上院ではガソリンに1ℓあたり28ラッペン(約26円)のCO2税を課すことを可決した。CO2税の目的は、高い税額によりガソリンを節約させることで、税収は国民に還付される。
しかし下院はこれに猛反対。CO2税ではなく、ガソリン1ℓあたり5ラッペン(約4.7円)の気候料金値上げを推進している。気候料金は払戻されず、省エネ対策の助成に用いられる仕組み。


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