滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

垂直・両面発電パネルによるソーラーシェアリング

2020-10-30 03:25:25 | 再生可能エネルギー

 スイスの山の上の集落では、紅葉も終盤に差し掛かっています。

 最近はオンライン会議・セミナーばかりで、人との出会いや交流の場が乏しい日々ですが、10月には久々に現場での視察に参加する機会がありましたので、今日はその様子を報告します。

 参加したのは我が家から30㎞ほど離れた南ドイツの町ドナウエッシンゲンで運転を開始した、新しいタイプの野建てソーラー設備の見学会です。東西向きの垂直・両面発電パネルでソーラーシェアリングというのが新しい点です。

 

ドイツの新しいタイプのソーラーシェアリング

 ソーラー設備の事業者は、ドイツ全土で活動する市民エネルギー協同組合のSolverde。

 設備の設計は、新しいソーラーシェアリングのコンセプトを追求して独自システムの開発を行っているフライブルク市のNext2Sun社です。

 設置出力は4.1MWで、投資費用は320万ユーロ。市民エネルギー協同組合のメンバーのうち112人が出資することで実現されました。発電量は年4850MWh、1400世帯分の電力消費に相当します。


  敷地は、高速道路に隣接した14haの農地で、都市計画上、草地利用が指定された場所になっています。農地への野立て太陽光建設については、州によって多少の差がありますが、基本的には高速道路や線路脇などの限られた場所でしか行えません。そういった条件を満たす農地となっています。

 パネルは東・西向きの列で配置され、裏表両面で発電する「バイフェイシャル」タイプが採用されています。Next2Sunのハイコ・ヒルデブラントさんの説明によると、ここで使われているのは、表面の発電量が100%、裏面が85%という中くらいの性能のものだそうです。

 

 列の間隔は10mで、日当たりや大型農機での作業を配慮しています。現代的なトラクターはGPS制御で草刈りを行うので、パネル列のすぐ脇まで効率的に草を刈ることができます。その様子を下記のヴィデオから見られます。


垂直・両面パネル、東西向きを選んだ理由

 ヒルデブラントさんは垂直両面・東西向きを選んだ理由として、一つはより需要に近い発電カーブ、朝・夕・冬に発電量の多いソーラーパークを実現したいと考えたことを挙げます。2014年から買取制度で義務化されている直接販売・FIPのもと、より収益性の高い設備を実現するためです。

 もう一つの理由は、ソーラーシェアリングです。垂直パネルにより、敷地の90%を農業に利用し続けることが可能になります。

 

 同事例では草地指定の農地という事もあり、農業は飼料用の草の収穫のみです。複数の農家から土地賃借し、別の農家に農地を無償で貸しています。他の農作物の栽培については実証はこれからだそうです。

  垂直パネルでは、通常の傾斜したパネルよりも強い耐風構造が必要となります。そのため風上側の一列目の杭は、太く、また深さ2m以上も地面に食い込ませています。二列目以降でも1.5mというお話でした。

 

発電コストは6セント以下

 この事例で驚いた点は(よく考えれば当然のことなのですが)、発電コストが通常の野立てソーラー並みに低いということです。ドイツでは750kW以上の設備は入札制度に参加し、落札しなければ、買取(FIPのプレミアム)を受ける事ができません。

 

 この設備はもちろん入札制度で落札し、1kWhあたり約6セントの買取価格で、20年での利益率4%を実現しています。もちろん私の住むスイスの農業では考えられないほど広大な農地により実現されている価格ではありますが。

  Next2Sun社の技術を用いた大型のソーラーパークはこの事例でまだ2軒目だそうです。

 日本と異なりドイツでは、ほとんどソーラーシェアリングの例がありませんが、それには経済的条件(買取価格など)がより厳しいことと、そして農業助成制度面での条件が厳しいことが理由にあると言われています。


 このシステムがドイツで今後どれほど普及できるのかは分かりませんが、遅くとも2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、ドイツでも太陽光と風力をまだ大幅に拡張する必要があります。そういう意味で、経済性の高いこちらのソーラーシェアリング・システムは、野立ての分野では現実的な手法の一つになりうるのではないかと感じました。

 

有機農家協同体ヘッゲルバッハのソーラーシェアリング

 ドイツのソーラーシェアリングといえば、ボーデン湖近くの有機農家の共同体ヘッゲルバッハで、2016年末から稼働しているパイロット設備が有名です。こちらでも両面発電パネルを利用しており、出力は194kWです。ドイツらしい頑丈な作りで、架台の高さは6mもあり(高価で)、大型トラクターや脱穀機も普通に作業できる仕様になっています。通常の機材で輪作ができること、収穫量が8割以下に減らないこと、という農家側の要求に応えた結果でもありました。架台の柱は基礎を用いず、木の根状の杭で固定する技術が導入されています。


 遮光率は3割で、収穫量はその年の天候により、遮蔽物のない農地よりも少ない年もあれば、日照りの続いた2018年の夏には通常の農地よりも多かったそうです。

 農家協同体ヘッゲルバッハでは、太陽光の他、小型木質バイオマスガス化設備、蓄電池などを取り入れており、発電した電気の大半は農家の家庭、加工所、冷蔵施設で利用しています。

 ヴィデオ:ヘッゲルバッハ農家協同体でのソーラーシェアリングの設備と耕作の様子

 

https://hofgemeinschaft-heggelbach.de/







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ソーラーコンプレックス社ニュースレター➁ (夏号)

2020-09-21 17:40:37 | 再生可能エネルギー

 今日はソーラーコンプレックス社のニュースレター➁(夏号)の日本語翻訳版を掲載します。
同社は、2000年に南ドイツのボーデン湖地域で、市民出資により設立された再エネ専門のエネルギー会社です。
本号からは、自家消費用の太陽光、750kW(入札制度枠外)野立てソーラー、太陽熱+木質バイオの地域熱供給、という同社の直近の事業トレンドを読み取ることができます。

Bilder : www.solarcomplex.de

原文:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7553796/

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ソーラーコンプレックス
 : ニュースレター 2/2020 (夏号)




こんにちは

 

 産業革命前の大気中のCO2濃度は、約280ppm(パーツ・パー・ミリオン)でした。私たちが2000年にソーラーコンプレックス社を設立した時には360ppmで、今年の5月にはこの値は418ppm以上となっています。CO2濃度は致命的な結果と共に増加を続け、地球の輻射収支を変え、気温を上昇させています。ここでは排出量と濃度の違いについて説明することにしましょう。

 

 「排出」は、毎年新たに大気中に放出されるもので、主に化石エネルギーの燃焼により生じます。排出が行われ続ける限り、濃度が安定することはありません。というのも既に放出された温暖化ガスは長い間(例えば100年以上)大気中に残るからです。濃度を何らかのレベル(何でも良いので)に安定させるためには、排出量をほぼゼロに減らす必要があります。追加の排出がなくなってはじめて、濃度は一定となるのです。その時点をできる限りすぐに達成しなければなりません。

 

 そのような意味でコロナ禍中にCO2排出量が明らかに減った、というニュースは必ずしも良い知らせとは言えません。というのもCO2排出量が減っても、濃度は高まり続けるからです。それから特に、コロナ禍後に昔のレベルに戻ってしまう大きな危険があるからです。そのため経済的な復興は、すべての分野(電気、交通、暖房)におけるエネルギー供給の徹底した転換と組み合わて行われなければなりません。

 

 これまでの平均気温の上昇は世界平均では~1度ですが、私たちの地域(プレアルプス地帯)では既に~2度に及んでおり、人間的な時間軸では取り戻すことができません。1.5度への制限は夢想的ですが、世界平均で2度への制限(私たちの地域では3~4度)はまだ可能です。そのためには排出量を素早く、徹底して削減しなければなりません。2050年までにゼロエミッションへ導くような、一種の非常ブレーキです。化石エネルギーは完全に代替されねばなりません。

 

 そのために私たちは尽力しています。このニュースレターでは、地域におけるエネルギー大転換を目指す私たちの取り組みの進捗状況をご報告します。

 

お勧めのヴィデオ:弊社についての15分のヴィデオにて、最近のプロジェクトと2019年の決算についてご紹介しています。

 

感謝とソーラーコンプレックスなご挨拶と共に

 

フロリアン・アルムブルスター、ベネ・ミュラー、エバーハルト・バンホルツァー

 

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ソーラー増設戦略

 弊社は2020年の増設目標を7MWに引き上げましたが、それも上回る予定です。

 その背景には最近、大型の屋根置き設備の依頼も受けるようになったという理由があります。例えばエンゲン市のアルセーフ社と、リプティンゲン市のボーデン湖上水供給のタンクの上に設置した各750kWの設備など。大きな歩幅では素早く前進することができます。現在、ソーラー増設戦略は全力で前進中です。

www.solaroffensive.info  

 

建設中や計画中の750kWソーラーパーク

  今年、弊社では既に5つのソーラーパークを建設しました。ランゲンリート村(シンゲン近郊)とデンキンゲン村における既存のソーラーパークの拡張と、イルスホーフェン村での新設の後に、シュトッカッハ市の高速道路沿いの設備の工事が始まりました。その後には、モース村(ゴミ埋め立て地)とミューリンゲン村のパークが続きます。その他、アルテンシュタイク都市エネルギー公社からの依頼も受注し、これらのプロジェクトの合間に実現します。

www.solaroffensive.info  

 

ハウゼン・イン・タール村の熱供給網

 NRS社(ソーラーコンプレックス社とシグマリンゲン市のシュタットヴェルケの合資会社)による三つ目の熱供給網は、2020年内に竣工します。農家ヴォルホフにあるバイオガス設備からの排熱の供給や、ピーク時用ボイラーのある熱供給センターは運転を開始しました。

ハウゼン・イン・タール村の熱供給網のヴィデオ

 

シュルッフセー村の熱供給網

 弊社にとって最大規模であるシュルッフセー村の熱供給網は、これまでに180軒の接続希望者を獲得し、2020年に計画通りに竣工します。

 3000㎡の太陽熱温水器のフィールドは発注済みで、間もなく施工されます。建設許認可のタイミング次第です。

シュルッフセー村の熱供給網 

 

ホイゼルン村の熱供給網

 シュルッフセー村に隣接するホイゼルン村で、弊社の設備郡に加わる新しい熱供給網を実現したいと考えています。

 夏は太陽熱で、冬は木質バイオマスというコンセプトは同じです。建物所有者の方々は大きな興味を示されています。コロナ禍の中で、熱価格に関する二回目の公開説明会を開催するために、行政の規制緩和を待っているところです。

自治体ホイゼルンへ

 

ユングナウ村の熱供給網

 弊社はNRS社のための活動も行っています。現在、弊社ではユングナウ村で木質バイオマスと太陽熱をベースとした熱供給網を計画しています。建物所有者は高い関心を示しています。年7月19日に熱価格に関する第二回公共説明会が行われ、その後プロジェクトの「熱いフェーズ」が始まります。

www. Jungnau.de



転送歓迎

このニュースレターをご推薦下さい:このニュースレターを興味のある方々に転送して下さることを歓迎します。



ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版は、ミット・エナジー・ヴィジョン社との協力により実現されています。

 

 


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エネルギー自立自治体の会議

2020-09-17 00:08:09 | 再生可能エネルギー

 
 この夏も、カリフォルニアやシベリア、ブラジルで広がる森林火災の不穏なニュースが続きました。1.5度以下への温暖化防止への希望を維持し難くなる出来事ですが、それでも地元の小都市シャフハウゼン市にも、9月に入って若者(主に高校生)による金曜日の気候デモが戻ってきました。若者による気候デモは、
ロックダウン後には大きな町では街頭に戻り、2030年までのカーボンニュートラル化や気候保全とコロナ経済対策の両立を訴え続けています。

 

 私の方は、コロナ禍により専門視察セミナーの依頼が年末まで、すべてキャンセルになりました。
 そのおかげ(?)で、夏までに「ビオホテル」についての単著本と、「オーストリアのエネルギー大転換」についての共著本の原稿を集中的に仕上げることができました。
 ビオホテル本の方は、出版社のプログラム全体がコロナ禍の影響で遅延しているため、出版は予定の10月よりも後ろ倒しになっていますが、9月29日には一足先にビオホテルについてのオンラインセミナーを行います。興味のある方は下記からお申込み下さい(有料)。


2020
年9月29日(火) 20:00-21:30 

Vol.2 ビオホテルから考える持続可能な観光業 - 100%オーガニック+カーボンニュートラルへ

案内&お申込みhttps://mit-energy-vision-biohotel.peatix.com

写真:カーボンニュートラルのビオホテル・エッゲンスベルガー   Bild: Biohotel Eggensberger / U.Haas



 原稿作成のために取材や調査を行っていると、字数や内容のバランスの関係で、記事に活用できない情報が多く出てきます。今日は、この初夏にエネルギー自立地域の記事を作成する中で、使えなかったドイツのエネルギー自立地域の会議についての情報をブログに掲載します。

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ドイツのエネルギー自立を目指す地域の会議

 

 ドイツでは、エネルギー自立を目指す地域の交流の場として、毎年、二つの全国会議が開催されてきた。一つはカッセル市での規模の大きな「未来フォーラム・エネルギー&気候」(旧「100%再生可能エネルギー地域会議」)、もう一つはフライブルク市での中規模の「エネルギー自立自治体会議」だ。

 前者は2009年からほぼ毎年開催されており、多い年では800人程度が参加している。2020年はコロナ禍の影響で11月15日~20日にかけてオンラインで開催される予定だ。
https://www.zufo-energie-klima.de/

 

 私は2020年2月、後者のフライブルクでの会議に出席した。会議の参加者の多くは自治体の首長や気候保全マネージャーと呼ばれる担当者だ。フライデイ・フォー・フューチャーの影響により、テーマ設定は「カーボンニュートラル」一色であった。中でも現在多くの自治体が取り組んでいる「カーボンニュートラル地区」の開発が最大のテーマだった。再エネにより電気・熱・交通のエネルギーを供給する地区のことである。

 その他、自治体による気候非常事態宣言、カーボンニュートラルな行政、自治体の気候適応対策や雨水マネジメント、モビリティコンセプト、電気自動車の充電インフラ、革新的な木造公共建築、低温地域熱供給、パワートゥガスやセクターカップリング、さらには自治体における植物炭を活用した有機資源の循環・土壌への炭素固定にまでに話が及んだ。

 5年程前までは同会議では、再エネへの住民出資や風力の受容度向上、協同組合の新ビジネスモデル、自治体のエネルギーコンセプトといったテーマが中心であったことを考えると、エネルギー自立地域の関心が、総合的なカーボンニュートラル社会づくりの方向に変遷してきていることが感じられた。

 
 コンスタンツ市における気候緊急事態宣言の採択と、その具体的な対策についての発表も興味深かった。同市は、自治体として体系的な気候・エネルギー政策を実施していくために、これまでに気候同盟、EEA(ヨーロピアン・エナジー・アワード)、2000W社会という諸プログラムへの参加というステップを経て、2016年にドイツのマスタープラン自治体に選抜され、気候保全コンセプトを策定している。
(注:「マスタープラン100%気候保全」は国の助成制度で、参加自治体は2050年までに二酸化炭素排出量を95%削減、最終エネルギー消費量を50%削減することを自らに義務付ける)

 その流れでコンスタンツ市の議会は、2019年5月に気候緊急事態宣言を採決した。同市では宣言はシンボルではなく、政策的な実動を伴うものである。追加の予算を設け、70の追加対策を実施していく予定だ。会議でプレゼンを行った市長によると、2030年までのカーボンニュートラル化は現実的には不可能であるというが、地域内でイノベーションを起こし、より生活の質の高い町づくりのために行うという。

 会議の最後には、市民運動「ジャーマン・ゼロ」イニシアチブについての報告があった。NPO ジャーマン・ゼロでは、2035年までにドイツをカーボンニュートラルにするための「1.5度法」パッケージを市民専門家により策定。そして同法の導入を目指して、2021年の総選挙に影響を及ぼし、選挙後にこの法律を国会に通すための市民運動を繰り広げている。その際に自治体や郡の賛同を取り寄せていく予定だという。
https://www.germanzero.de/

 

次回のフライブルク市でのエネルギー自立自治体の会議:2021年2月25日~26日
https://www.klimaneutrale-kommunen.de/

 

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● ご報告 : ウェビナー「自然共生型の太陽光発電のデザイン ~ スイスと南ドイツの事例から」

2020年8月28日に、やまがた自然エネルギーネットワーク主宰によるウェビナーシリーズ「山形とヨーロッパを結んで考えるコロナ後の地域と環境とエネルギー」にて、「自然共生型の太陽光発電のデザイン スイスと南ドイツの事例から  」についての講演を行いました。フェイスブックで東北芸術工科大学の三浦秀一先生にご紹介頂いています。

https://www.facebook.com/shuichi.miura.5

日本にて生物多様性を促進するソーラーパークが増えて行ってくれることを願っています。

同テーマでのオンライン講演・講師に興味のある方は滝川までご一報ください。

kao.takigawa@gmail.com


Bild: www.solarcomplex.de

 


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地域風車がやってくる!

2016-11-13 21:19:51 | 再生可能エネルギー

先週は初雪が降り、今年も冬がやってきました。8月に今回のブログの内容を書き始めたものの、視察や講演、〆切、収穫に保存、そして国民投票キャンペーンなどが忙しく、書きかけのまま放置していました。国民投票のことについては次回に報告するとして、今日は地域風車についての報告です。

 

地域エネルギーの協働による風車に建設許可

近年歳のせいか、「飛び上がるほど嬉しい」、ということが少なくなった気がします。そんな私でも飛び上がることが数か月前にありました。地元シャフハウゼン州から数百メートル離れた南ドイツ・ヴィークス村の山の上に計画されていたウィンドパークに建設許可が下りた、というニュースが届いたからです。それだけのこと?と思われるかもしれませんが、同プロジェクトに建設許可が下りるまでの3年半は事業者にとって茨の道でした。

 

ドイツの中では風車後進地域のバーデン・ビュルテムベルク州と、それに輪をかけて風車が少ないスイスですが、ヴィークス村の風車はコンスタンツ郡でなんと第一号。郡行政にもぜったいに失敗しないように、念には念を入れての審議でした。事業者は100近くの土地所有者と契約を結び、数千万円の環境アセスを行い、さらに動植物に関する様々な追加調査や対策を重ね、林道脇の蟻塚の移植などまで行っていました。

 

それでも風車に反対する勢力によるメディア上での執拗な批判や妨害は最後まで続きましたが、立地自治体の若い村長(2015年に25歳で選ばれたドイツ最年少の村長)が熱心に地元住民をまとめあげ、事業者もメディアで広げられた嘘を丁寧に解説し、なんとか建設開始に漕ぎつけたのです。

 

フェレーナフォーレン・ウィンドパーク(ドイツ側)

フェレーナフォーレン・ウィンドパークが素晴らしいのは、国境を超えた地域風車である点です。事業者はIG Hegauwind(へガウウィンド協働体)による合資会社で、立地自治体に本拠地を置いています。

 

この事業者は、地域の11の自治体エネルギー公社と市民エネルギー会社、そして市民エネルギー協同組合の共同体です。地域の風力資源の開発を地域のお金で共同で行い、リスクも収穫も分散させるコンセプトです。うち2社は国境のスイス側の会社で、シャフハウゼン市の公社シャフハウゼン・パワー社と、シャフハウゼン州の公社EKS社になっています。開発は南ドイツの市民エネルギー会社のソーラーコンプレックス社が委託されています。

 

ゆるやかな山林の上に建設中の風車の出力はNordex131で各3メガワットのものが3基。現在、基礎工事が進行中です。風の弱い内陸向けの設備で、タワーの高さは134メートル、ブレードも合わせた総高は200メートルになります。2万人分の電力を生産する予定です。投資額は1630万ユーロ。出資したい市民は、市民エネルギー協同組合経由で出資することが可能です。来年の夏には運転を開始し、まだ買取制度の対象になります。

 

フェレーナフォーレン・ウィンドパークは、この地域(ボーデン湖北部・シャフハウゼン)で初の大型風車です。周辺に風車が存在しないことから、漠然とした不安感や偏見を持っている住民も少なくありません。住民が身近に現代風車に触れ、順調な運転を確かめ、景観や自然への影響についても経験を集められるようになることで、こういった偏見も減っていくことを期待します。
こちらのリンクから工事の様子を見ることができます:http://www.verenafohren.de/

 

クローバッハ・ウィンドパーク(スイス側)

上記のプロジェクトから15キロメートルほど離れた国境近く、スイス側の山の上では、シャフハウゼン州の初の「クローバッハ・ウィンドパーク」プロジェクトが計画中です。州の風力計画の中で、風況・環境・景観面から選ばれたベストな立地の一つです。開発は、州営電力EKSと市営電力シャフハウザー・パワーの協同で行い、4基の風車を今後2~3年の間に建設することを目標にしています。現在、住民参加のプロセスが進行中です。http://chroobach.ch/

 

このほかにも、ボーデン湖北部や北東スイスでは、複数の小さなウィンドパーク・プロジェクトが進行中です。同時に、南ドイツの住民による風車反対運動が声高になってきています。その声はドイツの別地域やスイスの反対派とも連動し、勢いを増しています。様々な理由により反対する住民がいますが、「風車のある景観が嫌い、憎い」という人、「調査されていてもこうもりと鳥類への影響が不安」という自然保護の一派、そして原発推進派に大きく分けられるようです。

 

地域風車反対派の運動

先日、クローバッハ・ウィンドパークに反対する両国のグループの集会を聞きに行きました。300人ほどの住民が小学校の体育館に集まり、強烈な怒りと嫌悪のパワーを発散していました。現在計画されている地域内のプロジェクトをすべて阻止すべしという趣旨でした。はじめに風車の見え方を独自手法でシミュレーションしたヴィデオを20分ほど戦争映画の音楽付きで見せられました。中には将来的に風車が乱立する「恐怖の未来図」もありました。

 

続いて2時間ほど講演がありましたが、すべて反対派の講演で、プロジェクトに関する説明は一切ありませんでした。ドイツの有名な風車反対講演家も話しましたが、立て続けに嘘を並べる話法には驚きました。講演の後に会場から批判的な質問やコメントもありましたが、その人たちは聴衆からブーイング・嘲笑され、怖い雰囲気が漂っていました。

 

現在、事業者による住民参加プロセスも行われていますが、反対グループは頭から参加を拒否しています。これらの原理的反対派を説得することはほぼ不可能ですが、その分、地域の幅広い市民のコンセンサスを住民参加により構築していくことが重要な段階です。直接民主制のスイスでは、風車の建設に必要な土地利用計画の変更に、自治体での住民投票を伴うからです。

 

いつもドイツの風力先進地に視察に行っていると、風車があることが当たり前で、あたかも簡単なことのように見えます。しかし後発組の地域では、まだまだ社会的に繊細な一歩を踏み出したばかりです。

 

準備が進むスイス各地の風力プロジェクト

昨年、スイスでは一基も新しい風車が建ちませんでした・・。国全体でもたった37基しかありません。周辺国の中ではビりです。しかし、これはスイスが風力に恵まれていないことが理由ではありません。

 

もともとスイスでは、風力の実現には複雑な許認可や住民合意を経て、建設に到るまで10年近くの歳月がかかるのが普通でした。福島第一原発事故後に許認可プロセスを合理化し、また各州で脱原発に向けたエネルギー政策とそれに基づく風力プロジェクトが形成され、そのうちのいくつかは自治体での住民投票をクリアして実現に一歩一歩近づいています。

 

標高2500メートル、グリース峠のウィンドパーク

そのため今後数年の間に、パイプラインにあるプロジェクトが実現されるようになります。(ゆっくりとした歩みですが、直接民主制のスイスでは素早い展開は風力分野では難しいのです。)買取制度において買取許可を得ている風車プロジェクト数だけでも554基あります。これとは別に、買取待ちのウェイティングリストに載っている風車数が350基もあります。プロジェクト開発への意思、ポテンシャルはあるわけです。

 

今年は大型風車のリパワリングと新設を合わせると7基の設置がありました。年100基単位で新設されているお隣のバーデン・ヴュルテムベルク州やオーストリアと比べると本当に笑ってしまうくらい小さな規模です。それでもアルプスのグリース峠、標高2500メートルの揚水発電のダムのすぐ隣に増設された3基(2・35MW×3)は今年の大きな成果で、2850世帯分の電力を作っていく予定です。グリース峠ウィンドパークの写真はこちらから:

http://www.suisse-eole.ch/de/news/2016/10/3/windpark-gries-von-bundesratin-doris-leuthard-eingeweiht-168/

 

立地自治体の住民投票が前提・・

スイスでは、2012年から15年の間に13の自治体で風力プロジェクトに関する住民投票が行われました。そのうち12の自治体でプロジェクトに賛同する決断が下されています。ですので、地元住民の大半は、地域の事業者が主体となった丁寧なプロジェクトに対して肯定的と言うことができます。

 

例えば、西スイス・ヴァリス州の自治体シャラの住民は6月に2基の風車を増設するための土地利用計画変更を65.6%の賛成で可決しています。ワット州ヴァロルブでも6基のウィンドパーク建設に対して6割の住民が可決票を投じました。ベルン州ユラ山脈のトラムランとセックールでも、6割の住民が可決票を投じ、6月には7基の風力設備の建設許可が下りました。

 

しかし、スイスでは環境団体や景観保護団体、一個人などがプロジェクトに対して異議申し立てを行うことができるため、許可されたプロジェクトであっても、建設が延長されることがあります。こういった事情から、これまで多くの都市エネルギー公社が、自国ではなく、ドイツやフランスのウィンドパークに出資してきました。現在、それらの隣国にある風車がスイスの電力需要の8%分の電気を生産しています。

 

風力はスイスでも冬の重要な電源

最近では、エネルギー庁が発表した新しい風力アトラスで、スイスの風力のポテンシャルがこれまで考えられていたよりも大きいことが分かりました。古い知見に基づくエネルギー戦略2050では電力需要の7~10%と想定されています。新しい風力アトラスでは、特にスイスの中部平原と東北地方でのポテンシャルが見直されています。

 

スイスの100%再生可能エネルギーによる電力供給の未来は、現在と同様に水力の割合が一番大きく、それに太陽光が続くとされています。しかし電力の消費ピークである冬には太陽光も水力も発電量が減ります。対して風力発電は冬に発電量が多いため、スイスでは風力が、水力と太陽光を補う不可欠な重要な電源であると考えられています。

 

 

追伸:

風力関連では、新エネルギー新聞に寄稿したオーストリア・ブルゲンラント州の先進事例についての記事も御覧ください。

オーストリア:ブルゲンラント州、10年間で電力自立を達成 ~鳥類保全との協働による風力開発が鍵に

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47419850.html

 

この春に風力設備が立地するブルゲンラント州北部を現地に見学に行きましたが、地域が主体となった開発により、観光と自然保護、風力を中心とした電力自立見事に実現していました。また国際的に重要な鳥類のビオトープであるノイシードル湖周辺の自然観察も行い、現地の専門家や住民とも話をしましたが、丁寧な計画により鳥類保全の観点からは問題が起きていないことが確認できました。

ブルゲンラントで州は風車設置を風況が優れ、景観・自然の面で問題のない一部の地域(主にブルゲンラント北部の自然保護地から離れた農地)に集中させています。ですので、その地域に行くと当然のことながら風車が多すぎる印象を受けます。さらにだだっ広い平原なので数十㎞先の遠くまで風車が見えます。とはいえ今後リパワリングを重ねることで、よりすっきりとしていくことと思われます。

 

 

●新エネルギー新聞への寄稿記事より

下記リンクより、新エネルギー新聞に寄稿したニュース記事を読むことができます。

 

スイス:全国版のソーラー屋根台帳を作成

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47559172.html

  

オーストリア: エネルギー小売り会社に年0・6%の省エネ対策を義務化

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47203820.html

 

「ドイツ: ヴィルポーツリート村発の蓄電池メーカー:ドイツ市場をリードするゾンネン社」

 

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48422001.html

 

 

 

 

●短信

エネ庁が新築建築の熱消費量を調査~設計値と消費値を比較、ミネルギー戸建ては優秀

スイスのエネルギー庁は、建物の省エネ規制基準とミネルギー基準に関して、大規模な実測調査を行った。目的は、設計値と消費値がどの程度に合致するのかを調べることである。214棟において暖房面積毎の年間熱消費量を調査した。調査対象は、ミネルギー、ミネルギー・A、ミネルギー・P、そして規制基準による新築そして改修の建物である。

 

214棟の建物の消費量調査から見えてきたことは、すべてのミネルギー基準の新築戸建てにおいて、ミネルギーの制限値が、中央値では守られているということである。ミネルギー・Pについては、戸建てでもオフィスビルでも制限値が守られていた。ミネルギー・Pの集合住宅は、わずか制限値を上回っていた。ミネルギー改修については、すべての建物カテゴリーで制限値が守られていた。

 

対して、大半の建物が制限値を上回っていたのが、ミネルギー基準の集合住宅およびにオフィスビル、そして規制基準の新築および改修の集合住宅である。これらの建物群で設計値が守られていない理由として、設備技術の機能や設定の問題、およびに熱源効率が設計値よりも低いこと、そして利用者の使い方が原因であると推測されている。建物の建築上のミスがこの差異の原因であるか否かは調査されていない。

 

この調査では、ミネルギー建築の品質について、建築家と施主にアンケート調査が行われた。ミネルギー建築の住民の満足度は大きい。5人のうち4人が再度ミネルギー基準で建設すると返答している。ミネルギー基準は販促に繋がっていることも分かった。しかし、50人の専門家へのヒアリングからは、従来建築の性能向上により、ミネルギー基準の先進性が薄れてきていると考えられていることも分かった。これはミネルギー基準により、従来建築の性能が向上したためでもある。

ミネルギー住宅の住民はアンケート調査において、防音、隙間風の防止、キッチンの臭いに関して満足していると答えている。しかし冬場の空気が乾燥していると返答している。

 

これらの結果に基づいてエネ庁のエネルギー・シュヴァイツ・プログラムでは、スイス建築家エンジニア協会(SIA)と建物設備技術者連盟、その他の市場プレイヤーと共同で、建物の運営の最良化を行い、サポートしていく予定だ。

 

調査のベースとなる数字は、最低でも二年間の消費データに基づき、これらのデータの信ぴょう性を確認するためにすべての建物を現場訪問した。加えて、ミネルギー建築を建てた260人の建築家と990人の施主にアンケート調査を行った。そして、規制基準で建てた262人の施主と78人の建築家からの回答と比較した。この回答からは、規制基準で建てる建築家や施主よりも、ミネルギーで建てる施主や建築家の省エネ意識が高いことが分かった。

 

計画・建設プロセスについて、ミネルギー建築は規制基準と比べると、手間がかかると感じられている。しかし品質とイノベーションに関しては、より高いと感じられている。住民に関しては738人のミネルギー建築の住民と、302人の規制基準建築の住民がアンケートに回答した。

★2014~2015年に実施された調査の最終レポートのダウンロードはこちらから

https://www.newsd.admin.ch/newsd/message/attachments/43534.pdf

参照:連邦エネルギー庁プレスリリース

 

●ソーラーコンプレックス社ニュースレター夏号

ソーラーコンプレックス社ニュースレター2016年夏号を、下記リンクから日本語で読むことができます。

「気候保全に必要なのは石炭・褐炭電力の減少であり、増加ではない 

http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6573317/

 

 

 


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ガッサー社長のプラスエネルギー改修マンション、熱消費は10分1に

2016-05-01 09:20:41 | 再生可能エネルギー

今年もようやく新緑が美しい季節となり、本格的な菜園シーズンの始まりです。しかし先週まで雪・雨が続き、なかなか作付け進みませんでした。標高840メートルでの自給率を高め、温暖地の作物を育てるための温室の建設許可が自治体よりようやく得られ、5月にはようやく建設を開始することができるようになりました!

この冬は、福島第一原発事故5周年、チェルノブイリ原発事故30年ということで、スイスでも数多くのイベントが開催されました。それに伴う講演、コーディネート、ボランティアに息切れしているうちに、ガーデンと視察シーズンに突入。こうしてブログの更新から随分と遠ざかってしまいました。皆さんと共有したい情報が溜まりすぎたという反省から、とうとう(?)フェイスブックを始めることにしました。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

今日は、ここ数か月に出会った本や映画、会議、建物などの中から、皆さんと共有したいものをいくつか紹介します。

 

最近出会った建物

ガッサー社長の手掛けたプラスエネルギー改修マンション、熱消費10分1に

この冬、日光を充電するために南スイスを訪れた時のこと。イタリアとの国境の町キアッソにあるプラスエネルギー改修ビルを見に行きました。一昨年にスイスソーラーエネルギー賞を受賞した建物で、エネルギー分野のパイオニアとして知られる建材会社社長のヨシアス・ガッサーさんが実現したプロジェクトです。

駅すぐ裏の60~70年代の古ぼけたビルが多い街区で、ぴかぴかした外装が目立ちます。とはいえ、東西南北の4方面のファサード材がすべてソーラーパネルであることは、一般の人は気が付いていない様子です。

 
写真:南ファサードの外装材、最上階のテラスの日よけもすべてソーラーパネル。屋根には太陽熱と太陽光の両方を設置。

1965年に建てられた8階建て19世帯の賃貸住宅が入るこちらのビル。改修前には無断熱のエネルギー的には最悪の建物だったそうです。それをガッサーさんが2012~13年にかけてミネルギー・P(パッシブハウス)レベルに断熱改修。壁U値は0.12、屋根は0.08、窓は0.7、床下は0.14に断熱強化しました。

それにより暖房・給湯の熱需要量を一年一㎡あたり320kWh(!)から28.5kWh に10分1に減らしています。省エネ機器により、電力の消費も、一年一㎡あたり45.8kWh から17kWhに減らしました。
 
写真:東ファサード、左が改修後、右が改修前。断熱改修して、新しい外装材としてソーラーパネルを選択。
Bild rechts:www.gasserbaumeterialien.ch

その上で、屋根、ファサード、テラスの日よけや手すりの建材として太陽光発電パネル合計88.6kWと、真空管式の太陽熱温水器46㎡を設置しています。日陰に入りやすい北、東、西外壁のパネルには被膜式モジュール、日当たりの良い南外壁とバルコニーの手すりと屋上は単結晶モジュールを使っています。太陽熱の補助熱源は空気ヒーポンです。第一種換気は各世帯ごとに設置されたCO2濃度センサーで換気量を調整しています。

 写真:西ファサード、ベランダの手すりも外装材も太陽光パネル

ソーラーエネルギー大賞では、大幅な省エネ対策に加えて、徹底した建材としてのソーラー利用が評価されていました。建て込んだ市街地の縦長なビルでありながら114%のプラスエネルギー率を達成しているのはなかなかの成果だと思います。

 写真:北ファサード、曇天や日陰に強い被膜パネルを利用


●最近のスイスの脱原発~大手電力は原発国有化の思惑?

世界最古の現役原発であるベッツナウ1号機は、安全上の問題で、昨年春からの運転停止の状態が続いています。このまま再稼働しないだろうという説もこの頃は聞かれます。

ヨーロッパの電力市場価格が暴落して以来、スイスでも原発を持つ大手電力は経営難に喘いでいます。原発からの電力は市場では発電コスト以下でしか売れないのに加えて、高齢原発の安全対策費用が嵩み、さらに廃炉・最終処分費用の積み立ては不足・・スイスの大手電力にとって原発は重荷でしかなくなっています。特に原発をできるだけ長く運転しようという路線を追っていた2社については経営悪化のニュースが続きます。

その1社であるAlpiqについては、原発を国に引き渡す戦略を検討中という趣旨のニュースが3月に流れました。スイスの場合、大手電力の株主は州ですので、大手の電力会社が潰れても、先に国や州が原発を引き受けても、どちらにしても納税者の負担により原発の運転終了・廃炉を行うことになります・・・。そういう事情もあって、脱原発を推進する政党の政治家からも、国が行う方が安全で計画的な運転終了と廃炉が可能になるだろう、という理由で賛成する声も聴かれます。このような企業の振る舞いは、納税者としてはとうてい納得が行きませんが・・。

今年の晩秋には、緑の党の国民発議である原発の寿命を45年に制限する法案が国民投票にかけられます。多くの国民は国の脱原発政策が決まっているのだから、脱原発というテーマは片付いたものと思い込んでいます。しかし、実際には運転終了時期が定義されていないため、高齢で危険な原発が長く運転され、国民や隣国を危険に晒しているのが現状です。

対して、エネルギー戦略2050は最終調整がもうすぐ終了する予定です。昨秋の選挙で選ばれた新構成の全州議会のエネルギー委員会は再エネ増産目標を下方修正。5年間も議論した末に、目標も対策も弱体化され残念です。現在の計画では2035年に原発の電力がなくなっても、その全量を再エネでは代替しないようになってます。国のシナリオは電力需要の全量を再エネでまかなえるポテンシャルを認めていますが、その実現は出来る限り遅らせたいという意思が働いています。

ニュークリアフェイズアウト会議(NPC2016)、2016321日チューリッヒで開催

スイスの環境団体であるスイスエネルギー財団が3月21日にニュークリア・フェイズアウト会議を開催しました。世界的に著名な専門家による高齢原発の安全性や規制に関するプレゼン、世界の原子力産業の動向に関するプレゼンをこちらから見ることができます。(英語、ドイツ語)http://www.energiestiftung.ch/service/fachtagungen/fachtagung16/referate/

日本からは、明確な脱原発と再エネへの大胆な転換を世界中で説かれている菅直人前首相が招待されました。菅前首相は、今年1月30日にもグリーンクロスの招待でチューリッヒで講演を行われています。その講演のヴィデオをこちらから見ることができます。(日本語)https://www.youtube.com/watch?v=Q4kwR6wpw2g

  

● 最近出会った本

諸富徹さん編著の単行本、「再生可能エネルギーと地域再生」

地域経済の活性化、経済的な付加価値の創出は、欧州中部の地域たちによるエネルギー自立運動の原動力です。私たちの共著所ではその実態を事例を介して紹介してきました。京都大学経済学教授の諸富先生たちが出版されたこちらの著書では、この側面を学術的な視点から、そして日本の地域再生という視点から解説されています。また第5章では、立命館大学経営学教授のラウパッハ スミヤ ヨーク先生らによる研究である「再生可能エネルギーが日本の地域にもたらす経済効果~電源毎の産業連鎖分析を用いた試算モデル」が紹介されています。研究者や専門家だけでなく、学生にも読んでもらいたい一冊です。

 

諸富徹編著、日本評論社、アマゾンのリンク

http://www.amazon.co.jp/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F-%E8%AB%B8%E5%AF%8C-%E5%BE%B9/dp/4535558213/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1461827905&sr=8-1&keywords=%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F

 

コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんの新著、

「低放射線被ばくの威力~原子力産業が沈黙すること」(ドイツ語)

科学論文の挿絵画家であるコルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんは、長年にわたりスイス国内外の低放射線被ばく地帯で多数の昆虫を採集・調査し、そこで多発する奇形昆虫(主にカメムシ亜目)を描き続けてきたパイオニアのスイス人女性です。彼女の経験をまとめた著書が3月の出版されました。読み物としても上手くまとめられていますので、こちら在住の方には是非読んでいただきたい一冊です。注文・詳細はこちらから:
„Die Macht der schwachen Strahlung – was uns die Atomindustrie verschweigt“, ISBN: 978-3-9523955-5-4., Verlag edition Zeitpunkt
http://edition.zeitpunkt.ch/buch/die-macht-der-schwachen-strahlung/


コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんのご活動については、2011年の2月11日にこのブログで紹介しています(下記リンク)。

http://blog.goo.ne.jp/swisseco/e/d427fa0b9714cef193d22d5c578ddee9

  

● 最近出会ったエネルギーヴェンデを伝える映画

“Leben mit der Energiewende 3.1 – selber machen“
「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」、ドイツ語、
フランク・ファレンスキ監督

無料公開リンク:https://www.youtube.com/watch?v=f3Er35UtD7Q

ドイツのエネルギーを専門としたテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキさんは、刻々とする変化するドイツのエネルギーヴェンデの現場をテーマとして、週2回のインターネットテレビ番組を作成、司会を務めています。このファレンスキさんの映画「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」が、現在、インターネットおよびドイツ各地で公開されています。これまでも「エネルギーヴェンデと生きる」の1と2を作成してきたファレンスキさん。最新版の「3.1」では、ドイツの現政府が市民による(電力分野の)エネルギーヴェンデの素早い展開をストップさせようとする中、国の政策に関わらず市民が「自分で進める」エネルギーヴェンデを紹介しています。太陽光発電の自己消費の最良化・蓄電が大きなテーマです。http://www.lebenmitderenergiewende.de/

 
“ Power to Change - Die EnergieRebellion „
「パワートゥチェンジ~エネルギー革命児」
ドイツ語、カール・フェヒナー監督

予告編:http://powertochange-film.de/

日本でも放映された映画「第四の革命」のカール・フェヒナー監督の新作品。スイスではまだ見られませんが、近隣のドイツの映画館では公開されています。世界中での再エネ転換によるエネルギーデモクラシーをテーマとした前作と違って、本作はどちらかというとドイツの市民たちのエネルギーヴェンデの闘いをテーマとした作品です。ドイツの市民によるエネルギーヴェンデが逆境の中で道を手探りする中、各地のパイオニアたちの取り組みを通して、ドイツのエネルギー市民の行動を鼓舞する内容になっています。エネルギーにあまり興味のない市民や、子供たちでも飽きさせないような構成・演出になっています。日本でも近い将来に公開されることを期待しています!


“ Der Bauch von Tokyo

「東京の胃袋」、ドイツ語・一部日本語、ラインヒルト・デットマー‐フィンケ監督

TVバージョンの無料公開リンク(2014):https://www.youtube.com/watch?v=kXmfhO0m4Ew

先日、ドイツのシンゲン市で行われたフクシマ5周年イベントで、映画「東京の胃袋」が放映され、エネルギッシュな女性監督のデットマー‐フィンケさんと知り合いました。東京に在住されていたフィンケさんは、大都市東京の食料供給をテーマとした「東京の胃袋」という作品を作製していましたが、完成直前に3.11.が起こり、テーマを取り巻く事情が激変したため、作品が使い物にならなくなってしまったそうです。この逆境にめげずフィンケさんはもう一度取材先を訪れて、食料生産者たちのフクシマ前・後を比較した新しい作品をまとめました。食というテーマを介して、福島第一原発事故の影響を淡々と伝えるドキュメンタリーです。

  

● 最近の拙筆の記事や翻訳物(日本語)


★ 新エネルギー新聞

新エネルギー新聞(新農林社)に、再エネ関連のニュース記事を(ほぼ)毎月寄稿しています。編集部の許可を得て、バックナンバーの一部を、下記のブログに転載していますのでご覧ください。

バックナンバーリンク:http://blog.livedoor.jp/eunetwork/

 

★ ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版

ミット・エナジー・ヴィジョンでは、ドイツの市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社のニュースレターの日本語版の作製に協力しています。下記からニュースレターを読むことができます。同社のニュースレターの内容は、日本で地域エネルギーに取り組む地元密着の事業者の方に参考になる内容だと思っています。

リンク:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6509925/

 

★ 記事 „Fünf Jahre nach Fukushima: die andere Wahrheit“
フクシマから5年後:別の真実、ドイツ語

ワスマン‐滝川の共同編集、フリッツ・ワスマン執筆による記事が、ドイツのフランツ・アルト氏の運営するニュースサイトに掲載されました。下記から読むことができます。(ドイツ語)

リンク:http://www.sonnenseite.com/de/politik/fuenf-jahre-nach-fukushima-die-andere-wahrheit.html


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