滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

Fukushima後のスイスの原子力利用

2011-03-28 21:23:02 | お知らせ

「問題を生じさせたのと同じ意識では、問題を解決することはできない。」
アルベルト・アインシュタイン、1879~1955、物理学者


昨日から夏時間です。スイスも、春の柔らかな空気と野鳥の声、そして可憐な花々に、通常なら心躍る季節です。しかし、日本の少なからぬ地域で、安全な水・空気・土という、生命の存続のための最も重要な前提が脅かされていることを考えると、暗澹な気持ちになります。

 ●チェルノブイリと原発建設停止のモラトリアム
スイスでも多くの先進国と同様に、70年代から、市民の間で盛んな原発建設反対運動が行なわれてきました。1986年にチェルノブイリ事故が起きたときには、遠く離れたスイスにも放射能を含む雲が飛んできて、汚染された牛乳が捨てられました。それが雨となって降ったアルプス南部では、20年以上経った今でも、時折、放射能による汚染量の高いきのこが見つかっています。

当時、チェルノブイリ事故へのスイス社会のショックは大きく、エネルギー政策に大きな転換をもたらす原因となりました。1990年に行なわれた国民投票では、原子力発電所の建設を10年間停止するモラトリアムが決定されました。

その後、国のエネルギー政策の10カ年行動計画が実施され、再生可能エネルギーや省エネルギーの推進・普及が随分と進んだのです。この10ヵ年計画は現在まで続けられています。そしてチェルノブイリ以来、スイスでは新しい原発は建てられていません。

●原発新設を希望していた大手電力3社
チェルノブイリの記憶が薄まってきた2003年。国民投票によりこの原発建設停止のモラトリアムを延長しないことが決められました。さらに、原子力ロビーの強い影響下にあるスイスの内閣は、エネルギー政策の4つの柱として2007年に、省エネ・再生可能エネルギー・国際取引のほかに、大型発電所という項目を入れます。これは電力供給において、大型ガス発電あるいは原子力発電の新設というオプションを取り込むことを意味しました。

そして、世界的な原発ルネッサンスが騒がれていた近年。スイスの3大電力会社も例外ではなく、2020年頃から廃炉となる老化原発3基の建替え(=新設)を希望して、2008年に内閣に大枠建設許可を申請しました。もしも、スイスの内閣がこれらのプロジェクトに建設許可を出せば、建設に反対する市民のレファレンダムが必ず起こるため、2013~14年ごろに国民投票で原発建替えの賛否が決定される、というのがこれまで想定されていたスケジュールでした。

Fukushima後、新設許可過程を中断
そのような状況の中で
Fukushimaが起こりました。現エネルギー大臣のドリス・ロイトハルト氏は議員時代には原発推進派だった人ですが、すぐに3つの建設許可の審査過程を一時中断することを決定しています。 そして、運転中の5基の原発については、運営者に対して3月末までにそれらが地震と洪水に耐えうるものか、報告することを要求しました。

とはいえその後は悠長です。運営会社は、具体的な安全対策の改善の提案を8月末までに連邦核監視委員に提出して、対策の実施は2012年末までで良い、という猶予期間付きなのです。ただし、連邦核監視委員は、即効性の危険がある原発については、運転を一時停止させることができます。

●高齢原発は廃炉前倒しの可能性もあり
私の住むベルン州にある高齢のミューレベルグ原発(1972年運転開始)は、この耐震試験を通過できるか怪しまれています。この原発は、原子炉の炉心シュラウドにヒビが入っているのに、無期限の運転許可を得ていることで知られています。しかも河川ダムのすぐ下流にあるため、万が一、地震でダムが決壊すれば、Fukushimaと同じような事故が起こりうるリスクもあります。

またミューレベルグ原発は、首都ベルンから西15kmのところにありますので、大事故があれば首都圏を避難させなくてはなりません。このミューレベルグ原発は2020年ごろまで運転される予定でしたが、環境団体グリーンピースは、連邦核監視委員が同原発の運転停止を要求しない場合、告訴すると発表しています。

さらに、ミューレベルグ原発の安全報告書は、運転会社のベルン州電力の企業秘密を理由としてごく1部しか公開されていません。それにも関わらず無期限の運転許可が出されていることについて、市民団体が反対運動を行なってきました。そのため連邦行政裁判所は、連邦核監視委員に今月末までに同原発の安全報告書を公開するように要請しています。その結果次第では、この高齢原発が予定前倒しで廃炉になる可能性があります。

●73.9%が原発の新設に反対
ミューレベルグ原発については、このブログでも紹介したように、建替え(=新設)を巡って、2月13日に州レベルの住民投票が行なわたばかりでした。住民の意見を問うだけの、法的拘束力がない投票だったとはいえ、51.2%という僅差で新設が可決されました。もしも今その投票が行われたならば、結果は全く違ったものになったでしょう。

実際に、3月20日付けのソンターグツァイトゥング(SonntagZeitung)に掲載されたアンケート調査によると、現在、スイスに住む人の73.9%が原発の新設に反対しています。昨年まではこの割合は54%だったそうです。新設しないということは、設備の寿命と共に原子力利用をフェードアウトしていくということ、中期的な脱原発を意味します。

また、スイス人の87%が脱原発を願い、10%がすぐにでも脱原発を支持。さらに62%は高齢原発のミューレベルグとベッツナウ1号と2号をただちに運転停止することを望んでいます。 Fukushimaによってスイスでは、少なくとも当分の間は、原発の新設が市民の過半数の賛同を得ることは不可能になったと言える
でしょう。

●転向する政治家たち
もともと、スイスの社会民主党と緑の党は脱原発型のエネルギー政策を一貫して推進してきました。社会民主党は今日、法律により脱原発を定め、2025年までに原子力のないエネルギー供給を行うロードマップを発表しました。

対して、Fukushimaを機に脱原発について声に出して考えるようになったのがキリスト教民主党とブルジョア民主党です。長期的には脱原発といいながら、つい1ヶ月前までは、熱心にミューレベルグ原発の更新を説いたひとたちです
。その彼らが、先週、揚水ダムを推進するという条件付で2020年からの脱原発を考えることを表明しました。

さらに熱烈な原発推進派だった自由民主党は、原発ではもう国民の過半数の支持を得られないと発言。唯一、スイス国民党だけが原発の新設を支持し続けます。スイスはこの秋に総選挙を控えていることが、政治家の転向の大きな理由でしょう。Fukushimaの危機が落ち着いたころに、彼らがまだ同じように考えているかは分かりません。

●原子力がないスイスのエネルギーシナリオ
スイスでは、政治的意思さえあれば、原子力なしでも安定した電力供給を行っていくことができることが、いくつものシナリオにより示されています。例えば、2004年からエネルギー庁が中立の研究所Prognosに策定させたエネルギー展望。その4シナリオのうち少なくとも2シナリオでは、原子力のない電力需給が可能です。環境団体や州や市の依頼で策定された別のシナリオでも、原子量のない電力供給が可能であることが示されています。

そもそも山国のスイスは、電力生産量の55%をも水力で担えるという恵まれた立地にあります。現在、電力生産量の40%は原子力でまかなっていますが、これを中期的には省エネルギーと再生可能エネルギーでまかなっていくことは、努力が必要とはいえ、そう難しいことではありません。例えば太陽光発電1つをとっても、スイスのソーラーエネルギー連盟(Swisssolar)によると、適した屋根面の4分3に太陽光発電を設置することにより、スイスの電力生産の30~37.8%を担えるそうです。

これらのポテンシャルを実現するには、まずはスイスのフィードインタリフ(全種類の再生可能電力の買取制度)を改良することが最重要課題です。買取予算が制限されているスイスのフィードインタリフを、ドイツ型のように買取予算の制限がないものに改善すること。それにより、現在、一万件にも上る買取希望者のウェイティングリストが解消されます。それだけでも小型の原発3基分の電力がまかなえる、とソーラーエネルギーの専門家ウルス・ムントトヴィーラー教授は新聞DerBund誌に対して述べています。

●国よりも先に脱原発を法律で決めている地方
このように国レベルでは、まだ明確かつ積極的な脱原発計画が立っていないスイスですが、新設されなければ中期的なフェードアウトに到ります。対して、連邦制、地方分権の徹底したスイスでは、地域的な脱原発が進行中です。バーゼル・シュタット州とジュネーブ市は既に脱原発し、原子力のない電力供給を行っています。首都のベルン市やサンクトガレン市、チューリッヒ市といった主要都市たちも脱原発するという内容の法律を住民投票で決定しています。


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原発震災:想定されていた「想定外」

2011-03-24 13:05:42 | お知らせ

„原子力物理学者として原子力への絶対的なノーを意味する理由を一つだけ述べる:我々人間は、最大可能な事故において、我々が責任が負えない被害を及ぼす技術は一切開発すべきでない。この要求は、どのような確率がそのような事故の発生に関して計算されたかに一切関わらず、有効でなければならない。“
( Dr.Hans Peter Dürr, „Warum es ums Ganze geht – Neues Denken für eine Welt im Umbruch.“, 2010 oekom)

これは、世界的な原子力物理学者で、オルタナティブノーベル賞を受賞したDr.ハンス・ペーター・デュール教授の言葉です。ミュンヘンのマックス・プランク物理研究所の元所長を務めた人です。

●歴史を変えるFUKUSHIMA

福島第一原発事故が発生して以来、スイスの友人も私も毎日FUKUSHIMAの一進一退を固唾をのんで見守っています。そして日本の奇跡を祈り続けています。スイスの20の町の広場には、毎晩18時~20時まで「勧告の番人」と称して、脱原発を求める市民たちが集まり、日本の人を想い、静かに訴えています。

FUKUSHIMAは、その前と後では世界が変わってしまったというような、ヒロシマやチェルノブイリと並ぶ歴史的名称となってしまいました。

原子力と核兵器に反対する医師団体で、ノーベル平和賞を受賞したIPPNW(核戦争防止国際医師会議)のスイス支部を創設した医師のマルティン・フォッセラー氏からは、昨日、次のようなメッセージを頂きました

「1945年のように、再び日本の国民が、我々全員のために、大きな犠牲を払わなくてはいけないことになった。それが無駄にされず、転換がもたらされんことを!」

福島第一原子力発電所での事故については、当初より私は、日本のメディアとドイツやスイスのメディアから得る情報の温度差に非常に戸惑いました。こちらでは、日本で報道されているよりも、より深刻な分析やシナリオが報道されていたためです。

いつ最大想定事故「ガウ(GAU)」を上回り、大量の放射線が放出されるそれ以上の事故「スーパー・ガウ(Super-Gau)」となるのか。それはまだ避けられるのか・・等々。様々な情報が飛び交いました。ドイツ人やスイス人の頭の中では、スーパー・ガウ=チェルノブイリ級の汚染となっています。

●ドイツの放射線防護協会:チェルノブイリ並みの汚染を指摘

そんな中、昨晩の国営ラジオのニュースで、ドイツの放射線防護協会の会長Dr.セバスチャン・プルーグバイル氏が、「Fukushimaでは既にスーパー・ガウが起こっている」と話しました。

その根拠は同協会のプレスリリースによると、IAEAにより、福島第一原発から16~58km離れた地域で計測された放射線汚染量が、チェルノブイリ事故のそれと比較できる値だからだといいます。チェルノブイリでは、一㎡あたり55.5万ベケレル以上の局地的な汚染をホットスポットとして定義しました。IAEAは、福島第一原発周辺で一㎡あたり20万~90万ベケレルのベータ・ガンマ汚染を測定、これらの汚染が遠く離れた地域でも現れることを否定できないとしています。

同氏は、この値が観測された地域の広がりが、チェルノブイリ西側の強制避難地区と似ているとし、「早急な避難拡大が必要」、「海洋汚染の過小評価の恐れ」を指摘します。それに対してのラジオやネットニュースでのコメントは、「フクシマで本当にチェルノブイリ並の汚染?」という半信半疑のものが多く、現時点では、やはり誰も何を信じたら良いのか分からないようです。

●想定されていた「想定外」

日本の原子力発電所における想定最大事故やそれ以上の事故の可能性は、昔から多くの市民活動や専門家により「必ず起こる」と想定され、警鐘が鳴らし続けられてきました。

そのような1人が元在スイス日本大使の村田光平氏です。民事、軍事を問わない非核化を説き続けられて来られた方です。村田氏は、2002年に朝日新聞社から出版された著書「原子力と日本病」の中で次のように述べています。

「日本でチェルノブイリ級の大事故が発生した場合どうなるのか、想像してみてください。旧ソ連と違い、90万人近い人間を強引に動員して処理する体制は、日本にはないのです。 
現世代はもとより、子孫代々にわたる被害の大きさは計り知れません。鎮圧不能の事故発生地へは世界からの救援も期待できません。住民はもちろんのこと、事故処理に当たることになる関係企業、地方自治体、消防・警察・自衛隊関係者に及ぶ放射線被爆だけでも想像を絶するものがあります。
特に注意を喚起したいのは、マグニチュード8級の巨大な地震(中略)が発生する可能性を国も認めている、東海地方で運転されている4基の浜岡原発です。「原発震災」の発生となれば、事故処理は絶望的となります。
あらゆる代価を払っても一刻も閉鎖すべきことは自明のことです。この事故1つだけでも「世界を壊す」ことになりかねないのは想像に難くありません。」
(引用:村田光平著「原子力と日本病」、2002年、朝日新聞社)

村田先生は長年に渡り、政界やメディアの各方面に日本の原子力政策の見直しや、その具体的方策を発信してこられました。2004年には村田先生も呼びかけ人の1人となり、「原発震災を防ぐ全国署名連絡会」により、浜岡原発の運転停止を求める全国署名活動も行なわれ、署名は内閣府に提出されていました。
★ 村田光平氏ホームページ:http://homepage.mac.com/kurionet/murata.html

世界中で運転されている約443基の原子力発電の孕む危険を考えると、人類存続に希望を持ち続けることすら難しくなる想いです。Fukushimaにより「人類の叡智」が覚醒し、「究極の破局の到来」(村田光平氏)が防がれることを願います。今日は後向きな報告になってしまいました。次回からは前向きな発信を行なっていきますので、どうぞ読んでくださいね。


 ニュース

● ドイツ:2010年度再生可能エネルギーへの投資+25%、260億ユー


ドイツの再生可能エネルギー統計作成部の暫定結果によると、ドイツでは2010年度、エネルギー供給における再生可能エネルギーの割合が増え続けている。

電力供給に占める割合は17%で、昨年度からは半%の伸び。2010年度は風が非常に弱い年であったため、風力の収穫量が365億kWhと2006年来最も低い値となった。それでも風力は総電力生産の6%を占め、最も大きな再生可能エネルギー電源となっている。バイオガス発電と太陽光発電でも増産が見られた。太陽光発電はその割合をほぼ倍増させ、総電力生産の2%を占める。

現在のシナリオによると再生可能エネルギーは、10年以内に電力生産の40%を担うようになるだろう。一年に120億kWhの増産が現実的と見られている。

対して、熱エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合は、2009年度の9.1%から2010年度は10%に伸びた。交通燃料については、2009年度の5.5%から2010年度は5.8%に増えた。

総合すると2010年度、再生可能エネルギーは、ドイツの最終エネルギー消費量(熱・電力・交通燃料)の11%を占める。前年度と比べるとプラス0.6%。これは2010年度に経済が成長し、また冬の気温が低かったことを考慮に入れると、評価できる数字である。

経済効果も大きい。再生可能エネルギー設備への投資は、環境省の見積もりによると260億ユーロであり、2009年度よりも約25%増えている。現在、ドイツの再生可能エネルギー業界では37万人が働く。雇用数は昨年度より+8%増え、2004年からは倍増している。

出典:ドイツ環境省プレスリリース 、訳:滝川薫


● ドイツソーラー産業連盟:2020年までにソーラー電力の割合を11%以上に増やせる

ドイツソーラー産業連盟のプレスリリースによると、ドイツでは太陽光発電が、クリーンで安定した電力供給の1つの柱として発展しつつある。同連盟の代表者ギュンター・クラーマーさんはこう語る。

「我々は太陽光発電業界として常に明確にドイツの原発の寿命延長に反対してきた。我々はエネルギー供給システムの変遷のためには原子力エネルギーを必要としない。その代わりに、我々は100%再生可能エネルギーによる分散型のエネルギー供給への道をより急速に歩かねばならず、それに必要な対策、例えば再生可能電力の電力系統への統合を加速しなくてはならない。」

ドイツでは既に今日、晴れた日曜日には電力の25%を太陽光発電が生産している。業界の太陽光発電ロードマップ「ソーラー産業の道標」において、太陽光発電産業は、ドイツでは2020年までに出力70GW分のソーラー電力を新設することが可能であることを明示した。ソーラー電力の電力生産に占める割合は今日2%であるが、2020年までには少なくとも11%には増やせるということである。

同連盟によると、太陽光発電およびその他の再生可能エネルギーの増産を今よりも積極的に行なえば、2020年までにドイツの電力消費の半分を再生可能電力でまかなっていけるという。

出典:ドイツソーラー産業連盟のプレスリリース、まとめ:滝川薫


● インタビュー「原発事故『最も憂慮すべきは遺伝子変異

IPPNW(核戦争防止国際医師会議)スイス支部の代表を勤める小児科医のマルティン・ヴァルター医師とのインタビューが、日本語で下記のニュースページ(Swissinfo)に掲載されています。 http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=29799892


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再生可能な日本の未来と東北の復興を!

2011-03-23 09:46:12 | お知らせ

今回の大地震と津波、そして原発震災につきまして、スイスやドイツの人々と共に、日本の方々にお悔やみとお見舞いを申し上げます。

先日まで私は約2週間、再生可能エネルギー利用やプラスエネルギーハウスをテーマとして、日本からの視察団の通訳・案内をしていました。その中で、スイスやドイツの知人や視察先の方々から、日本の方々と共にショックを受け、考え、苦しんでいるという、多くのメッセージを頂きました。また、過酷な状況においても和の精神を生きる東日本の方々に、こちらの人々は深い尊敬の念を抱いています。

私は、地域分散型の再生可能なエネルギーによる日本の復興のために、私の出来ることで貢献していきたいと思います。またこのブログを通じて、構築的な情報を今後も提供していきます。

福島第一原発の事故により、原子力発電が絶対安全で安価ではありえないこと、民間企業では責任の負えない技術であることが、再び誰の目にも明らかになりました。チェルノブイリやその後の数多くの事故や災害にも関わらず、このような大事故に至るまで、私たちが日本の原子力政策を変えることができなかったことを悔しく思い、責任を感じます。

しかし、チェルノブイリの起きた時代とは異なり、今日には、成熟した再生可能エネルギー技術や省エネルギー技術が十分にあります。もちろん、分散型電力供給に備えた、送電網の整備や需給の制御、蓄電といったチャレンジもありますが、それらは解決できることでしょう。

何よりも大切なのは、中期的に100%再生可能なエネルギー利用に移行するのだ、という強い政治的な意志を、日本人が持つことです。そして、それを実現するための国・県・まちレベルでの政策と計画です。

日本に居ると気付きませんが、これまで日本の国のエネルギー政策は、再生可能なエネルギー利用や省エネルギーに関して、あまり本気でなかったと私は思っています。例えば再生可能な熱供給や建物の省エネについては、ドイツやスイスと比べると、政策や技術そしてノウハウ、人材育成において、日本は10~20年は遅れています。こういった現状は、日本人がどうこうというのではなく、既存の産業や政策により望まれた結果だと思います。

今、この危機にあって、それらを開発している時間はありません。必用な部分は中央ヨーロッパの人々から、どんどんとノウハウや技術、政策モデルを吸収し、日本らしく、その完成度をいっそう高めていって下さい。

脱原発を決めているドイツは、全種類の再生可能電力について、全発電量を固定価格で買取る制度(ドイツ型フィードインタリフ)を導入しています。そして、電力生産に占める再生可能電力の割合を、1998年には僅か4.7%であったのに、2010年には17%にまで伸ばしています。ドイツの環境省は、この割合が次の10年間で40%に増えると予測しています。また、ドイツでは再生可能エネルギーの分野では37万人が働いています。(出典:ドイツ環境省プレスリリース)

今後、再生可能電力の発電価格がどんどん下がる中、ドイツにできて、日本ではできない理由はありません。対して、原子力発電の発電価格は高くなる一方でしょう。

日本の電力供給に占める原子力発電の割合は、2009年度で29%(出典:電気事業連合会のHP)とあります。浜岡原発のような人口密集地に近く、大地震が予想されている地域の設備は運転停止すべきです。そして現在原子力により発電されている電気の量については、2030年くらいまでに省エネと再生可能エネルギーでまかなう計画を実施することにより、段階的に脱原発することは現実的なのではないでしょうか。移行期には分散型のガスコージェネ(電熱併用設備)も有効です。

スイスの首都ベルン市は、電力供給に占める原子力電気の割合が高い(2009年度で61.2%)のですが、昨年秋に住民投票で2039年までには脱原発することを決めています。もう少しお金をかければ2030年でも脱原発できるといいます。そして、市営エネルギー会社は準備してきた移行プランを現在、実施しています。

東京電力には、関東地方に安全かつ持続可能で経済的なエネルギー供給を行い、省エネを進めることを最大の目的とする公益エネルギー供給会社に生まれ変わってもらいたいものです。そのためには株主が、国や県や住民である必要があるのではないかと思いました。

同時に、東京という巨大都市圏への大量の人口とエネルギー消費の集中という問題についても、改めて考えなおさなければならないと思いました。

東北や福島を再生可能エネルギーの里として再生させて下さい。
そして心豊かで、再生可能な日本の未来を一緒に創って行きましょう!!


 スイスよりニュースのピックアップ

● 3月17日付けWOZ新聞より
「日本の原子力産業で中心的な役割をこれまで演じてきたのが東京電力である。この株式会社は5万人の従業員を持ち、年間売り上げは約500億フラン(約4.5兆円)に及ぶ、世界最大のエネルギー・コンツェルンの1つである。東京電力の株式の4分1は、日本の3大銀行と2大保険会社が所有する。東京電力は、大きな成長路線を目指し、過去数年来、アジアやアメリカにも進出している。・・・(中略)・・東京電力の株価はこの数日間、劇的に落下した。(中略)債券所有者は債券を処分したがっている。1年前東京電力は、クレディスイス銀行とUBS銀行をディーラーとして、チューリッヒのSIX証券取引所で3億フラン(約270億円)の債券を販売した。2010年に一枚5000フランで債券(利子率2.125%)を購入した人は、先週火曜日には一枚約4000フラン強でしか手放せなかった。」

●3月20日付けソンターグスツァイトゥング新聞、日本に精通した作家アドルフ・ムシュグ氏のインタヴューより
「もとを正せば日本人の誰もが、日本が原子力と結んだ沈黙する平和協定の1部なのです。(・・中略・・)私たちは、自分の生活の改善が、限りない消費の拡張により保証される、あるいは測られるかのように、信じている。危機においては、私たちは人々が再び必要ないものを出来る限り沢山買うことができるようになった時に、そこから救われたのだと思い込んでいる。私たちのシステムはそのために途方もないエネルギーを浪費する。だが今、私たちがそのために分裂させてきた物質が、私たちが真実と認めたくなかった私たちの限界を見せた。」

●3月22日付けNZZ新聞より
「週末には福島から100km以上離れた農家のホウレンソウに、制限値の27倍もの濃度の放射性ヨードが測定された。福島から南に100km離れた日立では、ホウレンソウkgあたり、ヨード131が54000ベケレル、セシウムが1931ベケレルが測定された。日本での制限値はヨードが2000ベケレル、セシウムが500ベケレルとなっている。しかし、世界健康機関WHOでは、全般的な制限値としてkgあたり100ベケレルを推薦している。対して枝野氏は日本の規制値は非常に厳しいものだとしている。」


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スペインに建設中、バーゼル地方のための太陽熱発電プラント

2011-03-08 08:23:41 | 再生可能エネルギー

 一週間ほど前に、知人の環境活動家で医師のマルティン・フォッセラーさん(Dr.Martin Vosseler)が、バカンス先のスペインから、友人達向けにレポート付きのメールを送ってきました。

フォッセラーさんは、2007年に世界で初めてソーラーボートで大西洋を横断して
ギネスブックにも載ったチームの1人でもあります。この最先端の装備をもつソーラーボートは超省エネ仕様なので、アイロン一台を操作するエネルギー消費量で大西洋を渡れた、というフォッセラーさんの言葉が印象的で、アイロンを掛ける度に思い出さずにいられない人物です。

スペインから送られてきたフォッセラーさんのメールは、スイスのバーゼル地方の州営エネルギー会社の出資により、スペインに建設中の集光型太陽熱発電プラントについて報告するものです。2012年に竣工すると、1.5万世帯分の電力を生産するそうです。今日はフォッセラーさんの了解を得て、このレポートの内容をまとめて紹介します。 


「スペインの太陽をバーゼル・ランドとシュタット州へ
 Text/Foto:Martin Vosseler、まとめ・訳:滝川薫

(略)バーゼルランド州営エネルギー会社(EBL)とバーゼルシュタット州営エネルギー会社(IWB)は、スペインの太陽が豊富な地帯に、大型ソーラー発電施設を実現すべく勇気ある投資を行なっている。建設コストの73%をEBL社、15%をIWB社が出資。残りの15%は、ドイツのカールスルーへに本社を構えるNovatec Biosol社が出資する。上記2社はこの会社と協力して、スペインのカラスパッラに、プエルト・エラード2号という集光型太陽熱発電施設を建設中である。




1.5万世帯分の電気
を生産
EBL社の社員で、現地の建設現場監督として働くホアン・リカルド・ロテさんが、まずムルシア近郊のフォルトゥナ町にある工場を案内してくれた。そこでは一日1200㎡の太陽光を集めるための集光鏡が製造され、施工直前の段階まで製品組立てが行われている。その後、カスパッラの巨大な工事現場に案内してもらった。この太陽熱発電施設は2012年4月より50GWhの電力を発電する予定だ。それはスイスの平均的な家庭1.5世帯分の電力消費量に相当する。(中略)


山の間の光のカーペット
建設現場は、白とピンクの花が満開の桃とアーモンドの木のプランタージュに囲まれている。やや傾斜した敷地は、60ha、サッカー場84枚分もの広さで、ごつごつした山脈に挟まれた幅広い谷に位置する。ムルシアの50km北にあるこの地域はスペインでも最も日射が豊富で、年1700時間の全光日照時間(註:日照時間は年約3000時間)を有する。



施設の3分1は既に建設済みだ。コストは約198億円(2.2億フラン)で、各940mの長さの集熱鏡が28列並ぶ。その集熱面積は30万㎡に及ぶ。 集熱鏡の角度は日射の角度に合わせて動き、集めた日射を鏡により高さ7mのところに設置された一本の管に集中させ、その中を通る水を55バールの圧力下で270度の蒸気に変える。この蒸気が2つの15MWのタービンを回し、電力を供給する。

2009年末に、スペインはこの施設へのフィードインタリフの適用を許可した。それにより、この施設で作られる電気はkWhあたり33ユーロセントで買い取られる。この国の危機的な経済状況を考えると、プロジェクトにとっては利潤を高める幸運となった。



砂漠に強い技術
Novatec Biosol社は、このプロジェクトで採用されているフレスネル集熱器技術を開発した会社だ。この未来ある発明に対して、ハノーバーメッセにて2009年度の産業賞が授与されている。原理は集光型太陽熱発電(ConcentratingSolarPower、CSP技術)と呼ばれるものだ。従来のCSP技術とは異なり、Novatec社の設備は素材の使用量が70%少ない。

また乾燥冷却や、閉鎖型循環、およびに平らな鏡表面の自動掃除機能といった工夫により、水の消費量が最小限である。これは、こういった装置の置かれる砂漠地帯では重要な側面である。また、同社の設備は経済的に見ても、火力発電設備と競争する能力があり、環境影響のコストが含まれた計算ならば火力発電のコストを下回る。(中略)



現在であり未来のモデル

EBL社とIWB社の努力はスイスのエネルギー政策にとっても未来の方向性を示すものである。現代的技術が一番多くの収穫をもたらす地域に投資しているからだ。

とはいえ、スイスのエネルギー供給を保証するには、まずは建物と家電(スタンバイ制御も含む)分野での省エネの促進が重要だ。建物分野だけでも、省エネ改修により150万棟のエネルギー浪費型の建物を改修することができ、また新築にはプラスエネルギーを標準仕様としていくことで、スイスにある5台の原子力発電所の発電量をはるかに上回るエネルギー量を節約することができる。それは国内の産業にとって大きなチャンスだ。その上で分散型のエネルギー設備、ソーラー温水器や太陽光発電、地熱などを用いる。それでも足りない電力需要量には、このような再生可能エネルギーの大型発電設備が役立つ。

そういった意味で、EBL社とIWB社はカスパッラのプエルト・エラード2号の建設により、模範を示しているのである。グラシャス アル ソル!」

Novatec社のホームページ:
http://www.novatecsolar.com/
マルティン・フォッセラーさんのホームページ:
http://www.martinvosseler.ch/


この事例とは異なりますが、ドイツの映画「第4の革命」で紹介されていたスペインのラカラホッラにある集光型太陽熱発電設備では、液状の塩を用いた蓄熱タンクにより、昼夜を問わない発電が行なわれていたのが印象的でした。その設備は、1800GWh、年10万人分の電気を生産しているそうです。

また補足となりますが、IWB社(バーゼルシュタット州営エネルギー水道会社)は、今日既に100%再生可能な電力供給を行っており、再生可能電力の自社増産に熱心な会社です。EBL社(バーゼルランド州営エネルギー会社)は、2030年までに電力供給における、従来水力(現在20%)以外の再生可能エネルギーの割合を30%に増やすことを目指しています。

バーゼル地方のほかにも、チューリッヒやベルンといった都市部の市営エネルギー会社は、ヨーロッパの中でも再生可能発電の条件の良い地域でのプラント建設に大きな投資を行なっています。風力は北ドイツ、太陽光は南イタリアやスペインといった具合です。これらの地方では、スイスよりも日射や風が豊富というだけでなく、スイスよりもフィードインタリフの買取条件や設備の許可条件が良好であるため、設備全体の経済性が高くなります。

もちろんフォッセラーさんも言うように、都市の地域内での省エネや再生可能エネルギーの増産がまず重要です。しかし、面積が少なく、人口密度が高い都市部のエネルギー会社にとっては、ヨーロッパ内の(再生可能発電への)好条件地域の設備投資は、今のところ電源ポートフォリオ構築の1つの柱となっているようです。


短信:

● 2010年度は1.5万基の太陽熱温水器がスイスに新設
スイスのソーラー産業の連盟であるスイスソーラーによる仮集計では、2010年度にスイスでは新に1.5万基、14万㎡の太陽熱温水器が施工された。それにより、現在スイスでは合計8.5万基、80万㎡の太陽熱温水施設が運転されている。比較までに隣国オーストリアでは460万㎡の太陽熱温水器が運転されている。1人頭の比較では、スイスの5倍である。
参照:スイスソーラー連盟プレスリリース

● スイスコープ生協が太陽熱温水器の格安販売を開始
スイスコープ生協が発行するコープ新聞の3月1日号によると、コープDIY店舗ではソーラーエネルギー会社との協力により、家庭用太陽熱温水器システムの販売を開始する。販売はコープが窓口だが、設計・施工はパートナーとなっているソーラー会社が行なう。システムは3種類あり、セット1は1~3人家族の給湯用(パネル2枚、300ℓ)。セット2は2~4人家族の給湯用(パネル3枚、タンク400ℓ)。セット3は2~4人家族の暖房補助と給湯用(パネル6枚、タンク800ℓ)。システムは集熱器、ソーラーボイラー(タンク)、制御装置とポンプステーション、膨張タンク、配管やその他の施工部品込み。施工費用は含まない価格は、それぞれ約63万円、76万円、126万円程度と、量販店だけあってスイスでは安い。しかも、48ヶ月まで分割払いが可能。多くの地方では助成金も出る。給湯用設備では、冬の日射の乏しい北スイスの気候でも年平均で給湯の60~70%程度はまかなえる。
参照:Coopzeitung, 2011.3.1


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