滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ガッサー社長のプラスエネルギー改修マンション、熱消費は10分1に

2016-05-01 09:20:41 | 再生可能エネルギー

今年もようやく新緑が美しい季節となり、本格的な菜園シーズンの始まりです。しかし先週まで雪・雨が続き、なかなか作付け進みませんでした。標高840メートルでの自給率を高め、温暖地の作物を育てるための温室の建設許可が自治体よりようやく得られ、5月にはようやく建設を開始することができるようになりました!

この冬は、福島第一原発事故5周年、チェルノブイリ原発事故30年ということで、スイスでも数多くのイベントが開催されました。それに伴う講演、コーディネート、ボランティアに息切れしているうちに、ガーデンと視察シーズンに突入。こうしてブログの更新から随分と遠ざかってしまいました。皆さんと共有したい情報が溜まりすぎたという反省から、とうとう(?)フェイスブックを始めることにしました。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

今日は、ここ数か月に出会った本や映画、会議、建物などの中から、皆さんと共有したいものをいくつか紹介します。

 

最近出会った建物

ガッサー社長の手掛けたプラスエネルギー改修マンション、熱消費10分1に

この冬、日光を充電するために南スイスを訪れた時のこと。イタリアとの国境の町キアッソにあるプラスエネルギー改修ビルを見に行きました。一昨年にスイスソーラーエネルギー賞を受賞した建物で、エネルギー分野のパイオニアとして知られる建材会社社長のヨシアス・ガッサーさんが実現したプロジェクトです。

駅すぐ裏の60~70年代の古ぼけたビルが多い街区で、ぴかぴかした外装が目立ちます。とはいえ、東西南北の4方面のファサード材がすべてソーラーパネルであることは、一般の人は気が付いていない様子です。

 
写真:南ファサードの外装材、最上階のテラスの日よけもすべてソーラーパネル。屋根には太陽熱と太陽光の両方を設置。

1965年に建てられた8階建て19世帯の賃貸住宅が入るこちらのビル。改修前には無断熱のエネルギー的には最悪の建物だったそうです。それをガッサーさんが2012~13年にかけてミネルギー・P(パッシブハウス)レベルに断熱改修。壁U値は0.12、屋根は0.08、窓は0.7、床下は0.14に断熱強化しました。

それにより暖房・給湯の熱需要量を一年一㎡あたり320kWh(!)から28.5kWh に10分1に減らしています。省エネ機器により、電力の消費も、一年一㎡あたり45.8kWh から17kWhに減らしました。
 
写真:東ファサード、左が改修後、右が改修前。断熱改修して、新しい外装材としてソーラーパネルを選択。
Bild rechts:www.gasserbaumeterialien.ch

その上で、屋根、ファサード、テラスの日よけや手すりの建材として太陽光発電パネル合計88.6kWと、真空管式の太陽熱温水器46㎡を設置しています。日陰に入りやすい北、東、西外壁のパネルには被膜式モジュール、日当たりの良い南外壁とバルコニーの手すりと屋上は単結晶モジュールを使っています。太陽熱の補助熱源は空気ヒーポンです。第一種換気は各世帯ごとに設置されたCO2濃度センサーで換気量を調整しています。

 写真:西ファサード、ベランダの手すりも外装材も太陽光パネル

ソーラーエネルギー大賞では、大幅な省エネ対策に加えて、徹底した建材としてのソーラー利用が評価されていました。建て込んだ市街地の縦長なビルでありながら114%のプラスエネルギー率を達成しているのはなかなかの成果だと思います。

 写真:北ファサード、曇天や日陰に強い被膜パネルを利用


●最近のスイスの脱原発~大手電力は原発国有化の思惑?

世界最古の現役原発であるベッツナウ1号機は、安全上の問題で、昨年春からの運転停止の状態が続いています。このまま再稼働しないだろうという説もこの頃は聞かれます。

ヨーロッパの電力市場価格が暴落して以来、スイスでも原発を持つ大手電力は経営難に喘いでいます。原発からの電力は市場では発電コスト以下でしか売れないのに加えて、高齢原発の安全対策費用が嵩み、さらに廃炉・最終処分費用の積み立ては不足・・スイスの大手電力にとって原発は重荷でしかなくなっています。特に原発をできるだけ長く運転しようという路線を追っていた2社については経営悪化のニュースが続きます。

その1社であるAlpiqについては、原発を国に引き渡す戦略を検討中という趣旨のニュースが3月に流れました。スイスの場合、大手電力の株主は州ですので、大手の電力会社が潰れても、先に国や州が原発を引き受けても、どちらにしても納税者の負担により原発の運転終了・廃炉を行うことになります・・・。そういう事情もあって、脱原発を推進する政党の政治家からも、国が行う方が安全で計画的な運転終了と廃炉が可能になるだろう、という理由で賛成する声も聴かれます。このような企業の振る舞いは、納税者としてはとうてい納得が行きませんが・・。

今年の晩秋には、緑の党の国民発議である原発の寿命を45年に制限する法案が国民投票にかけられます。多くの国民は国の脱原発政策が決まっているのだから、脱原発というテーマは片付いたものと思い込んでいます。しかし、実際には運転終了時期が定義されていないため、高齢で危険な原発が長く運転され、国民や隣国を危険に晒しているのが現状です。

対して、エネルギー戦略2050は最終調整がもうすぐ終了する予定です。昨秋の選挙で選ばれた新構成の全州議会のエネルギー委員会は再エネ増産目標を下方修正。5年間も議論した末に、目標も対策も弱体化され残念です。現在の計画では2035年に原発の電力がなくなっても、その全量を再エネでは代替しないようになってます。国のシナリオは電力需要の全量を再エネでまかなえるポテンシャルを認めていますが、その実現は出来る限り遅らせたいという意思が働いています。

ニュークリアフェイズアウト会議(NPC2016)、2016321日チューリッヒで開催

スイスの環境団体であるスイスエネルギー財団が3月21日にニュークリア・フェイズアウト会議を開催しました。世界的に著名な専門家による高齢原発の安全性や規制に関するプレゼン、世界の原子力産業の動向に関するプレゼンをこちらから見ることができます。(英語、ドイツ語)http://www.energiestiftung.ch/service/fachtagungen/fachtagung16/referate/

日本からは、明確な脱原発と再エネへの大胆な転換を世界中で説かれている菅直人前首相が招待されました。菅前首相は、今年1月30日にもグリーンクロスの招待でチューリッヒで講演を行われています。その講演のヴィデオをこちらから見ることができます。(日本語)https://www.youtube.com/watch?v=Q4kwR6wpw2g

  

● 最近出会った本

諸富徹さん編著の単行本、「再生可能エネルギーと地域再生」

地域経済の活性化、経済的な付加価値の創出は、欧州中部の地域たちによるエネルギー自立運動の原動力です。私たちの共著所ではその実態を事例を介して紹介してきました。京都大学経済学教授の諸富先生たちが出版されたこちらの著書では、この側面を学術的な視点から、そして日本の地域再生という視点から解説されています。また第5章では、立命館大学経営学教授のラウパッハ スミヤ ヨーク先生らによる研究である「再生可能エネルギーが日本の地域にもたらす経済効果~電源毎の産業連鎖分析を用いた試算モデル」が紹介されています。研究者や専門家だけでなく、学生にも読んでもらいたい一冊です。

 

諸富徹編著、日本評論社、アマゾンのリンク

http://www.amazon.co.jp/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F-%E8%AB%B8%E5%AF%8C-%E5%BE%B9/dp/4535558213/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1461827905&sr=8-1&keywords=%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F

 

コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんの新著、

「低放射線被ばくの威力~原子力産業が沈黙すること」(ドイツ語)

科学論文の挿絵画家であるコルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんは、長年にわたりスイス国内外の低放射線被ばく地帯で多数の昆虫を採集・調査し、そこで多発する奇形昆虫(主にカメムシ亜目)を描き続けてきたパイオニアのスイス人女性です。彼女の経験をまとめた著書が3月の出版されました。読み物としても上手くまとめられていますので、こちら在住の方には是非読んでいただきたい一冊です。注文・詳細はこちらから:
„Die Macht der schwachen Strahlung – was uns die Atomindustrie verschweigt“, ISBN: 978-3-9523955-5-4., Verlag edition Zeitpunkt
http://edition.zeitpunkt.ch/buch/die-macht-der-schwachen-strahlung/


コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんのご活動については、2011年の2月11日にこのブログで紹介しています(下記リンク)。

http://blog.goo.ne.jp/swisseco/e/d427fa0b9714cef193d22d5c578ddee9

  

● 最近出会ったエネルギーヴェンデを伝える映画

“Leben mit der Energiewende 3.1 – selber machen“
「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」、ドイツ語、
フランク・ファレンスキ監督

無料公開リンク:https://www.youtube.com/watch?v=f3Er35UtD7Q

ドイツのエネルギーを専門としたテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキさんは、刻々とする変化するドイツのエネルギーヴェンデの現場をテーマとして、週2回のインターネットテレビ番組を作成、司会を務めています。このファレンスキさんの映画「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」が、現在、インターネットおよびドイツ各地で公開されています。これまでも「エネルギーヴェンデと生きる」の1と2を作成してきたファレンスキさん。最新版の「3.1」では、ドイツの現政府が市民による(電力分野の)エネルギーヴェンデの素早い展開をストップさせようとする中、国の政策に関わらず市民が「自分で進める」エネルギーヴェンデを紹介しています。太陽光発電の自己消費の最良化・蓄電が大きなテーマです。http://www.lebenmitderenergiewende.de/

 
“ Power to Change - Die EnergieRebellion „
「パワートゥチェンジ~エネルギー革命児」
ドイツ語、カール・フェヒナー監督

予告編:http://powertochange-film.de/

日本でも放映された映画「第四の革命」のカール・フェヒナー監督の新作品。スイスではまだ見られませんが、近隣のドイツの映画館では公開されています。世界中での再エネ転換によるエネルギーデモクラシーをテーマとした前作と違って、本作はどちらかというとドイツの市民たちのエネルギーヴェンデの闘いをテーマとした作品です。ドイツの市民によるエネルギーヴェンデが逆境の中で道を手探りする中、各地のパイオニアたちの取り組みを通して、ドイツのエネルギー市民の行動を鼓舞する内容になっています。エネルギーにあまり興味のない市民や、子供たちでも飽きさせないような構成・演出になっています。日本でも近い将来に公開されることを期待しています!


“ Der Bauch von Tokyo

「東京の胃袋」、ドイツ語・一部日本語、ラインヒルト・デットマー‐フィンケ監督

TVバージョンの無料公開リンク(2014):https://www.youtube.com/watch?v=kXmfhO0m4Ew

先日、ドイツのシンゲン市で行われたフクシマ5周年イベントで、映画「東京の胃袋」が放映され、エネルギッシュな女性監督のデットマー‐フィンケさんと知り合いました。東京に在住されていたフィンケさんは、大都市東京の食料供給をテーマとした「東京の胃袋」という作品を作製していましたが、完成直前に3.11.が起こり、テーマを取り巻く事情が激変したため、作品が使い物にならなくなってしまったそうです。この逆境にめげずフィンケさんはもう一度取材先を訪れて、食料生産者たちのフクシマ前・後を比較した新しい作品をまとめました。食というテーマを介して、福島第一原発事故の影響を淡々と伝えるドキュメンタリーです。

  

● 最近の拙筆の記事や翻訳物(日本語)


★ 新エネルギー新聞

新エネルギー新聞(新農林社)に、再エネ関連のニュース記事を(ほぼ)毎月寄稿しています。編集部の許可を得て、バックナンバーの一部を、下記のブログに転載していますのでご覧ください。

バックナンバーリンク:http://blog.livedoor.jp/eunetwork/

 

★ ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版

ミット・エナジー・ヴィジョンでは、ドイツの市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社のニュースレターの日本語版の作製に協力しています。下記からニュースレターを読むことができます。同社のニュースレターの内容は、日本で地域エネルギーに取り組む地元密着の事業者の方に参考になる内容だと思っています。

リンク:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6509925/

 

★ 記事 „Fünf Jahre nach Fukushima: die andere Wahrheit“
フクシマから5年後:別の真実、ドイツ語

ワスマン‐滝川の共同編集、フリッツ・ワスマン執筆による記事が、ドイツのフランツ・アルト氏の運営するニュースサイトに掲載されました。下記から読むことができます。(ドイツ語)

リンク:http://www.sonnenseite.com/de/politik/fuenf-jahre-nach-fukushima-die-andere-wahrheit.html


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