滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン市の新しいゴミ&エネルギーセンター

2010-12-27 20:18:06 | 再生可能エネルギー

スイスはイヴから雪が降り出して、気温は低いけれども、お日様が輝くクリスマスとなりました。

クリスマスのプレゼントの中で、嬉しいのは何といっても手作りの
ものです。大家のおばあちゃんから頂いた10種類くらいの生地の異なる手作りクッキーと祝日用のパン。家の前の大きなクルミの木から収穫したナッツ。イタリアに近い南スイスに住む親戚が育てて作った乾燥トマトにブドウジャム。そして友人の作ったシナモンの入ったロウソクなど。いづれも年末の一時を、ゆったりとした気持ちで過ごさせてくれるものたちです。

私たちからのプレゼントは手作りではありませんでしたが(涙)、こちらで親しくしている方々には2010年にドイツでヒットしたドキュメンタリー映画「第4の革命~エナジーオートノミー」のDVDをプレゼントしました。100%再生可能なエネルギー供給による文明改革をテーマとした映画ですが、この分野の技術や政策は変化が早いもの。内容が古びないうちに英語・日本語版が出て欲しい!!と願っています。

 ベルン市のゴミ焼却場はエネルギーセンター

さて、今日もまた最近気になっている工事現場の話です。スイスの首都であるベルン市西部の高速道路のすぐ側で、2009年から巨大な建設現場が進行中です。「フォルストハウス・ウェスト」と名づけられたこの施設は、ベルン市の新しいゴミ処理&エネルギー複合施設として注目されています。


Quelle : Forsthaus West, ewb

そのメインの機能は新しいゴミ焼却場。スイスのゴミ焼却場には排熱利用が義務付けられていますので、ここでも地域暖房と発電が行なわれます。最新の技術により、新しいゴミ焼却場からのエネルギー獲得量は、既存のゴミ焼却場の倍に増えるそうです。

さらに「フォルストハウス・ウェスト」では、ゴミ焼却と木質バイオマスのチップボイラー、そしてガスコンバインドサイクル設備を組み合わせて、発電・地域暖房を行なうコンセプトになっています。施設全体では、年380GWhの電気と250GWhの熱、75GWhの蒸気が生産される予定です。それにより、ベルン市内の450棟の建物(大学や病院、中央駅も含む)に、地域暖房網による熱供給が行われます。

全施設の建設コストは5億フラン(約425億円)。直接民主制のスイスでは自治体の大型プロジェクトの予算は住民投票で決定されます。ベルン市民は2008年に「フォルストハウス・ウェスト」の予算を88%の賛成票で可決。この頃からベルン市の住民には、100%再生可能な電力供給という未来への意思が固まってきていたようです。


2039年までに100%再生可能な電力供給、のための一歩

先月末に人口12.3万人のベルン市民は、2039年までに100%再生可能エネルギーで電力供給するという市政府のプランを住民投票で認証しました。建設中の「フォルストハウス・ウェスト」は、そのための第一ステップでもあります。

スイスの町は市営のエネルギー・水道会社を所有するのが普通で、それが市の政策を反映した熱・電気・ガス供給や、水道・下水道の運営、あるいはゴミ焼却までを行なっています。ベルン市の場合は、市営の電気水道ベルン社(EWB)を持っています。

EWB社のこれまでの電力供給の内容は、約40%が再生可能エネルギーとゴミ、約60%原子力でした。これを100%再生可能に転換するためにEWBは、一方では新しい原発には資金参加せず、今ある既存原発との契約を更新しないことで原発電力をフェードアウトさせ、他方では2039年までに再生可能な電力の生産量を年11~16GWh(2000~2900世帯分)増産。2030年までの投資額は、4億7000万スイスフラン(約4000億円)という計画です。

現在計画されているEWB社の電源のポートフォリオは、河川水力、小型水力、既存の揚水発電の出力拡大、バイオマス、陸上風力、太陽光発電、深層地熱のミックス。風力については、今年ドイツのウィンドパークの、8000世帯分の電力を生産する設備に投資しています。また節電に関してEBW社では収益の10%をエコフォンドに入れて省エネ対策に用いたり、今年からは電力消費量を1年で10%減らす顧客には、kWhあたりの電気料金が15%安くなるというユニークな取組みも実施しています。

木質バイオとガスとゴミという組合わせ

まずゴミ焼却場では年11万トンのゴミから蒸気を作り、電気と地域暖房熱・蒸気を作ります。発電量は年38GWh。ゴミ・チップ・ガスから生じる蒸気の一部は、下水処理場と洗濯工場に供給します。下水処理場では、この熱を汚泥の嫌気性発酵処理に利用します。発酵処理で生じる汚泥消化ガスを燃料として、ベルン市では今日既に30台の市バスが運転されていますが、ゴミ焼却場からの熱供給により、燃料利用できる汚泥消化ガスの量がさらに増える見込みです。

次に木質バイオマスのチップボイラー。これも同様に蒸気を作り発電し、熱は地域暖房に回します。熱需要の少ない夏の間はチップボイラーのスイッチを切っておきます。熱の生産量は145GWh、電気は33GWh。電気は、固定価格買取制度を利用して売電。年11.2万トンというチップの納入ロジスティックを担当するのは、EWB社から委託を受けた専門業者。25km圏内からの低質材(間伐材、廃材、端材)チップを一日トラック25台(!)分も納入するそうです。

三つ目の要素はガスコンバインドサイクル発電設備。これは2032年までの過渡期設備として位置づけられていて、その後は再生可能電源で代替していく計画だといいます。もちろん排熱は地域暖房に利用します。面白いのは、熱需要の大きな冬の間は熱生産が主要になるように運転し、熱需要の少ない夏の間は発電量が多くなるように運転するという点。ガスとチップのボイラーは、熱需要のピークカット、設備故障時のバックアップとしての機能も担っています。

しかし、このガス設備の発電量は年270GWh。上記のチップやゴミの設備と比べると桁外れに多いので拍子抜けします。「フォルストハウス・ウェスト」によりベルン市のCO2排出量が増えるのでは?と疑問を抱きますが、総合的にはEWB社のCO2排出量はこの施設により年5.7万トン減るのだそうです。というのも、この施設により同社は、CO2排出量の大きな輸入電力を購入しなくて済むのと、多くの建物の灯油暖房を排熱利用の地域暖房によって代替できるためだ、と発表しています。

ベルン市の新しいゴミ&エネルギーセンターは2012年にオープンです。同年にオープンする環境アリーナと並んで、是非皆さんと訪ねてみたい施設です。その頃にはベルン市営エネルギー会社の「100%再生可能戦略」もさらに明確になっていることでしょう。

参照:
www.ewb.ch



短信

●2010年度、ペレット熱価格はガスと灯油よりも継続的に安い
スイスでのペレット価格を比較する中立のサイトPelletpreis.chによると、10月末のペレットの熱生産価格(ラッペン/kWh)は、灯油よりも9.6%安く、天然ガスよりも16.5%安い。2010年1月から継続的にペレットによる熱生産価格は、ガスと灯油のそれを下回り続けている。10月末のペレットの熱生産価格はkWhあたり8.04ラッペン(約6.8円)。灯油は8.81ラッペン(約7.5円)。ガスは9.37ラッペン(約8円)である。
出典:
www.pelletspreis.ch

●製薬会社ファイザーのフライブルグ工場は90%再生可能エネルギーで運営
 製薬会社ファイザー社のフライブルグ工場(ドイツ)が、バーデン・ビュルテンベルグ州から環境賞産業部門を授賞した。総合的な環境対策マスタープランに基いた200対策の蓄積が授賞に繋がったという。エネルギー消費量の90%に再生可能エネルギーを利用しているほか、製品の生産における環境性とエネルギー効率の向上、職員の意識向上活動や環境教育などにも取り組む。2009年にはヨーロッパ最大のペレット暖房を導入。それにより蒸気を作り、工場とラボの必用な冷房熱を作る。ペレットには地域で生産された、環境基準を満たすものを使っている。このペレット設備だけでも50万ユーロのコスト削減に繋がったそうだ。電力には100%再生可能な水力を購入。これらにより年1.2万トンのCO2削減を達成。 工場の増改築にあたっては、建物を高密度化し、緑地を増やした。平均以上の断熱性能を与え、日中光利用や、日射遮蔽も十分に考慮。オフィスの冷暖房には地熱を利用。エネルギー・マネジメントの中心として、エネルギーと資源の流れを月間報告書にまとめている。
参照:ファイザー社プレスリリース
www.pfizer.de


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工事現場も建物運営もカーボンニュートラルな「環境アリーナ」

2010-12-20 10:44:50 | 建築

 環境技術を体験してもらう常設展示場

チューリヒ市の郊外で大型ショッピングセンターが立ち並ぶシュプライテンバッハ町。
そこに現在、環境技術のための常設展示場「環境アリーナ(Umweltarena)」の建設が進められています。
2012年にオープン予定のこの建物、運営エネルギーを再生可能エネルギーで自給するだけでなく、工事についても「世界発のカーボンニュートラルな大型建設現場」であるといいます。


Quelle:Umweltarena

「環境アリーナ」プロジェクトを立上げ、実現するのは、建設会社シュミード社の社長であるヴァルター・シュミードさん。
スイスの環境パイオニアの中でも、カリスマ的ビジネスマンとして有名な方です。シュミードさんは長年、社の利益の1部を様々な環境事業に投入してきました。その中で開発された、自治体や産業の生ゴミからバイオガスとコンポスト(堆肥)を製造するコンポガス技術はヒット商品となっており、遠くは日本にも技術輸出されています。

そのシュミードさんの最新プロジェクトが「環境アリーナ」。ショッピングセンターを梯子する感覚で、「環境技術を手にとって見られるようにする」ための、展示スペースとインフォメーションセンターです。

太陽熱で冷房、100%ソーラーエネルギーで運営

建物は、スタジアムに幾何学的な形の屋根をかけた形をしています。屋根材は5300㎡の太陽光発電パネルで出来ており、施設の運営に必用とする以上の電力を生産する計画です。 (写真上)

「環境アリーナ」の冷暖房は、ソーラーエネルギーと地熱を併用しています。冷暖房には、コンクリート天井の中に敷設した60kmのチューブに温水・冷水を通して天井に蓄熱・放射させることで、やんわりと快適に冷暖房する「サーモアクティブ建材(TABS)」の手法を採用。この手法では高温の冷水により冷房、低温の温水による暖房ができるのが特徴です。

熱源となるのは、建物の地下を利用した蓄熱体です。建物の下には9kmの地下チューブが敷かれて、その中を不凍液が循環しています。地下から熱交換器を介して取り出した熱を、夏の間にはそのまま冷房に用い、冬の間はヒートポンプ経由で暖房に使います。さらに夏の間の余剰熱は、地下の蓄熱体に送り込んでおいて、冬に使えるようにします。 住宅では実用化されているシステムですが、このように大きな建物ではまだ珍しいものです。

また短時間で素早く冷が必用な時のために、太陽熱温水器の熱で動く吸収式冷媒機も備えられています。具体的には、天気の良い日に太陽熱温水器で作った熱湯を、容量7万ℓの蓄熱タンクに蓄えておきます。そして冷房が必要な時には、この熱から吸収式冷媒で冷水を作り、それをもう1つの7万ℓの蓄熱タンクに蓄えておくのだそうです。このシステムに必用な電力は、太陽光発電パネルが作ります。(下図参照)

下記リンクから7万ℓのタンク施工の様子がヴィデオが見られます。

http://www.umweltarena.ch/de/erdkollektoren_und_speichertanks_content---1--1076.html


Quelle: Umweltarena

カーボンニュートラルな建設現場

建設現場では、可能な限り環境に負荷が小さく、CO2を排出しない方法を選んだといいます。例えば、地下駐車場を建設するために採掘した砂利を近くのコンクリート工場に運び、生コンクリートを作らせた後、同じトラックで現場に戻して基礎の建材として使うことで、トラックの空輸送を節約しています。

建設に必要な電力には、電力会社から水力とバイオマス電力を購入。現場小屋には太陽光発電パネルが設置されています。また、シュミット社の建設重機には、燃料としてバイオガス・天然ガスが用いられ、一部のトラックには食料廃油やバイオディーゼルが利用されています。

そして最後に残るCO2排出量をオフセット団体に依頼して相殺する、という方法で、建設活動をカーボンニュートラル化。ただ建材の生産・輸送に必要なエネルギー消費量の相殺についてはどう計算されているのかは、今のところ示されていません。

展示はエネルギー、衣食住、余暇、経営、サービスまで

「環境アリーナ」には一万㎡の展示面積に、生活全般に関わる環境技術やサービスが展示される予定です。その範囲は、持続可能を切り口とした家電や熱源、発電設備、建設、余暇、経営、電気や燃料、衣類に食糧、リサイクリングから自動車、情報にまで及びます。その他、環境に優しい自動車や自転車を試乗できるスペースや、イベントや会議場のスペースも提供します。

質の高い展示のために、展示品の選択においては、エネルギー庁やエネルギー産業クラスター、専門団体による中立のアドバイスを受けているそうです。また展示品のエコロジー的な品質を消費者に明確に提示して、オープンに比較できるようにするとか。「何となくエコ」ではなく、「実力派エコ」の展示を期待するところです。

環境アリーナはチューリッヒの、いやヨーロッパの新名所となるのでしょうか。また実際の運営においては、どのように上記のような展示の質を保ってゆき、また施設として生き延びることができるのでしょうか。消費者や国内外の企業の反響はいかに。2012年のオープンが楽しみです。

参照:
www.umweltarena.ch



短信


アールガウ州政府も放射性廃棄物の最終処分地にノー
スイスの原発銀座と呼べるアールガウ州は、放射性廃棄物の最終処分場の候補地になっている。だが同州政府は先週、もう核の負担は十分に受けたとして最終処分場を拒否した。同じく候補地であるニッドヴァルデン・オヴァルデン州政府も最終処分地を拒否。
スイスでは6つの候補地域が6州にまたがる。そのうち、これまでに4州の政府が処分地を拒否。州境にまたがる候補地のうち片方の州が拒否した地域を数えると、全候補地が地元政府に拒否されたことになる。
この問題に関して全く矛盾しているのは、チューリッヒ州やニッドヴァルデンの州政府は処分地を拒否しながらも、今後の原子力発電所との契約更新(原子力発電の電気を今後も使い続けること)には賛成である点。ゴミは出すが、処分は他所で、というわけである。

● エネルギー庁~太陽熱温水器で住宅の熱需要の半分を担える
エネルギー庁の委託により、フリブール州とチューリッヒ市における太陽熱温水器のポテンシャル調査が行なわれた。調査の対象となったのは田園地帯であるフリブール州の1000棟の住宅と都市部であるチューリッヒ市の210棟の住宅。ポテンシャル調査では、従来型建築(8ℓ建築)と省エネ型建築(3ℓ建築)、そして従来型蓄熱タンクと改良型蓄熱タンクの4つのバリエーションが検討された。計算においては、屋根の方位による収穫量の差異も考慮されている。
それによると8ℓ建築で改良型蓄熱タンクを使う、あるいは3ℓ建築で従来型の蓄熱タンクを使う場合、地方の住宅では半分(48%)、そして都市部の住宅8棟に1棟(12%)が、熱需要(暖房と給湯)の70%以上を太陽熱で供給することができるという。また地方では省エネ型住宅ならば50%以上が、熱需要をほぼ太陽熱温水器だけで担えるという。
参照:エネルギー庁プレスリリース


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スマートグリッドに備えるバイオガス発電

2010-12-14 20:12:14 | 再生可能エネルギー

バイオマスエネルギーのシンポジウム

ベルン市の国会前広場には、LEDのイルミネーションを纏った高さ14mのクリスマスツリーが飾られ、クリスマスの市場が賑わいを呼んでいます。スイスのお店は普段は日曜休業ですが、クリスマス前の四週末だけは特別に開業。冬至が近い日々の暗さを、クリスマスで吹き飛ばそうとしているような季節です。

少し時差があるのですが昨11月末に、東スイスで開催されたバイオマス・シンポジウムに行ってきましたので、今日はその様子をお伝えします。国内外から100人の関係者が集まった会の主催は、国から湿性バイオマスエネルギーの促進を委託されているバイオマスエネルギー協会。テーマは「一緒にヴィジョンを描こう」で、湿性バイオマス資源の今と未来が語られました。

湿性バイオマスとは、スイスの場合、生ゴミ、緑のゴミ、農業の収穫残物、家畜の屎尿、食品産業ゴミ、下水汚泥など。こういった廃棄物資源を嫌気性発酵させて得られるバイオガスを用いて、コージェネにより電気と暖房熱を作ったり、ガス車の燃料とするのが、スイスでは一般的な利用方法です。

2030年にヨーロッパではバイオマスエネルギーが30%

シンポジウムでは、まずヨーロッパからのゲストスピーカが大きなビジョンを語りました。ユトレヒト大学のDr.André Faaij A.Faaij教授は、2030年にはヨーロッパでは持続可能な方法で作られるバイオマスエネルギーが、エネルギー需要の30%を担うことができる、と発言。農業不適切地での世界的なエネルギー作物の増産や、国際取引による途上国の農業促進に期待する彼の意見には、バイオマスエネルギーの地産地消を唱える参加者からの疑問の声も上がりました。

また、ドイツのエコインスティチューツの研究者Uwe R.Fritsche氏も、温暖化防止にバイオマスエネルギーは欠かせない一要素であるという意見です。今日はコージェネ利用が一般的ですが、2030年ごろには主に物流交通と飛行機に使われるようになる、と発言。今日の移動や輸送の規模が大幅に縮小されない限り、私の頭ではちょっと想像できないビジョンでしたが、世界は確実にその方向に向かっていると同氏は言います。またバイオ燃料に関しては国際的に最低限の社会的基準が合意されたところだ、と話されていました。

嫌気性発酵技術がまだしばらく続くだろう

技術的に発展に関する発表では、ハイドロサーマル炭化技術(HTC)技術によるバイオ石炭の製造や、同技術を用いた木質バイオマスからのバイオ天然ガス(SNG)の製造。あるいは藻からのバイオディーゼルやバイオエタノール等の製造プラント、そしてバイオマスから薬品や素材を作るバイオ精製所(Biorefinery)のビジョンなどについて、研究者たちが語りました。とはいえ、これらの技術は効率やコストの面から、まだ実用の目処が立っていないという結論です。

スイス国内に目を向ければ、エネルギー庁副長官Michael Kaufmann氏が、2020年までにバイオマスエネルギーは、スイスのエネルギー消費量の10%を、省エネルギーが進めば消費量の20%を担えると話していました。ちなみに、現在バイオマスは最終エネルギー消費量の5%を担っています(木質バイオマスを含む)。徹底した省エネを語らずして、バイオマスのポテンシャルは語れず、という口調でした。Kaufmannさんによると、現在の技術でも暖房・家電・ガソリンの分野だけで、スイスのエネルギー消費量を-66%減らせるそうです。

またスイスでの将来的な湿性バイオマスの利用に関しては、気候・地形・国土的に農業生産力の乏しいこの国では、エネルギー作物ではなく廃棄物利用が今後も中心であり続けるだろうこと、そして当分は発酵によるバイオガス利用の時代が続くだろうことを、バイオマスエネルギー協会は予測していました。

スマートグリッドでの調整電源としての役割

スイスやドイツの動きとして特に面白かったのが、スマートグリッドにおけるバイオガス発電の待機電源としての役割に関する報告です。今日のバイオガス発電設備は、固定価格買取制度や、一般市場での売電とグリーン電力証書の組合わせにより収入を得るのが普通です。でも、将来的には別な収入や運営の可能性に期待する事業者もいます。

その1つが、調整用電源になることです。太陽光発電や風力の発電量の上下に合わせて発電したり、発電所の故障時に稼動する電源。あるいは過剰供給が予想されるときには発電装置のスイッチを切る役を引き受ける電源です。燃料を貯蔵でき、臨機応変に出力の調整ができるバイオガスの発電設備は、調整電源に適しているとのこと。系統運営会社からの15分おきの要望に応じて運転される調整用電源への報酬は高く、経済的に興味深いといいます。

スイスの送電網を運営するスイスグリッド社に調整用電源として登録するためには、一定規模の発電出力が求められます(スイスの場合5MWから)。しかし、それは必ずしも一箇所の設備である必要はありません。各地にある複数のバイオガス発電をネットで繋いで、一定の出力のある、遠隔操作できる「バーチャル発電所」としても登録できるそうなのです。

固定価格買取制度と調整用電源を併用

バイオガス発電を行なう農家の連盟「エコ電力スイス」では、会員の設備をネットワークで繋いだバーチャル発電所を既に形成しており、調整用電源として稼ぐ時代に備えます。15分単位での稼動テストも順調に終了しました。また、ヨーロッパのエネルギー会社のネットワークTrianelでも、調整用電源グループ形成を行なっています。

ただスイスの場合、バイオガス発電事業者には、調整用電源と固定価格買取制度の併用が法律で許されていません。そのため、「エコ電力スイス」の農家は実際にはまだ、調整用電源として登録していません。対してTrianel社のDr.Jörg Strese氏によると、ドイツでは固定価格買取制度を受けながらも、調整用電源として登録することが可能なのだそうです。この2つの制度の間を15分おきに「乗換え」できるという話を聞いて、とても驚きました。

「エコ電力スイス」のStephan Mutzner氏は、プレゼンの中でスイスのエネルギー庁に上記のような併用を可能にする制度の変更を求めていました。家畜の屎尿と生ゴミを合わせて発酵させる農家型バイオガス設備は、スイスでは固定価格買取制度を受けても、経済性が低い設備が多いのが現状です。そのため、農家の側から積極的に行政に働きかけて、より経済性を上げるための仕組みづくりの工夫が重ねられていることが分かりました。



短信

● 固定価格買取制度、2011年から太陽光発電の買取価格-18%
スイスでは2011年1月から、固定価格買取制度の太陽光発電(PV)の買取価格が、18%下げられる。同時に買取予算に占めるPVの割合限度が、現在の5%から10%に拡張される。PV電力の買取価格は2010年1月に-18%されたばかり。今回の価格低下は、発電コストが予想以上に下がったことが理由だ。またエネルギー法には、PV電力の市場電力に対する割高額が50ラッペン(約42円)以下になった場合、買取予算に占める割合が増えることが定められている。これにより2011年から年50~70MWのPV設備が設置できるようになり、今ある7000件のウェイティングリストが2013年までには消化できる予定だ。 ドイツの制度と違いスイスの固定価格買取制度には、買取予算全体の上限と、予算に占めるエネルギー源別の割合という二重の「蓋」が付いている。それが再生可能電力の増産スピードにブレーキをかけている。


● デザイン学校で「ピークオイル」のポスター展
州立ベルン・ビールデザイン学校では、NGOスイスエネルギー基金の協力を得て、グラフィックデザイン科4年生の授業枠内で、「Peak Oil, The Ende of Cheap Oil」というテーマの大型ポスターを作製。現在、一般公開されている。学生達にエネルギーという社会的に差し迫ったテーマをビジュアル化させるのが、このプロジェクトの目的だ。第一位は「石油無くして日常崩壊」というコピーで、日常的要素がドミノのように崩れるモチーフ。第二位は「石油から逃げろ、石油に逃げられる前に」。第三位は「石油。革命~大人が俺達を依存させた、残るは禁断療法」というコピー。既にピークオイル後世代の目線が感じられる。
http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/200/12/09/plakatausstellung-zu-peak-oil-the-end-of-cheap-oil.html


● スイス在住者にお勧め1マルティン・フォッセラーさんが本出版
スイスの医師で環境活動家のマルティン・フォッセラーさんが、この10年間に実行したソーラーエネルギーのための環境冒険の旅行記を、2つの本にまとめた。エッセイ風の美しい文章と水彩画でまとめられている。スイス在住の方には、クリスマスプレゼントにお勧め。
一冊目Der Sonne entgegenはスイスからイスラエルまでの徒歩の旅。

二冊目“Mit Solarboot und Sandalen „はスイスからニューヨークまで、ソーラーボートで大西洋を横断した冒険と、アメリカの徒歩横断の旅。

http://www.emu-verlag.de/index.php/cPath/71 (出版社サイト)


● スイス在住者にお勧め2:映画「第4の革命~エネルギー自立」がDVD発売
カール・A・フェヒナー監督作、主演は昨10月に亡くなったドイツの政治家へルマン・シェアー氏。石油でも原子力でもない、100%再生可能な社会への転換が進む「第4の革命」の初まりにある世界を捉えるドキュメンタリー映画。ドイツ語版がDVDとして発売開始された。環境やエネルギーに興味のある方にはお勧めの一枚。
http://www.amazon.de/Die-4-Revolution-Energy-Autonomy/dp/3898673669/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1292344731&sr=1-1


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ドイツの最新研究報告「原子力発電所の周辺では女児の誕生数が少ない」

2010-12-08 17:09:29 | その他

2007年の報告書「原子力発電所の周辺では小児癌のリスクが高くなる」



Quelle: IPPNW Deutschland



日本のメディアではほとんど取り上げられていないようですが、2007年にドイツで発表された研究報告書「原子力発電所の周辺における小児癌に関する疫学調査」は、スイスやドイツの社会に大きなショックを与えました。(ブログ2010年3月9日で報告)

調査の結果からは、原発の5km以内では小児の白血病の罹患率が通常の2倍であり、原発から50km離れた地域まで高い罹患リスクが認められ、また
距離が離れるほどリスクも低くなることが証明されています。

原子力発電所は通常運転時でも、周辺に放射性物質を排出しています。それが「許容値」とされる量であっても、特に胎児や幼児に大きな影響を与えるといいます。このドイツの調査を受けて、スイスでも2008年から原発と小児癌の関連性を調べる研究が進められています。2011年に結果が発表される予定です。

研究報告書「原子力発電所の周辺における小児癌に関する疫学調査」は、下記アドレスから見られます。
  http://www.ippnw.de/commonFiles/pdfs/Atomenergie/bfs_KiKK-Studie.pdf 



2010年の研究報告書「原子力発電所の周辺では女児の誕生数が少ない」

さらに今年10月にはドイツのミュンヘンで、「原発周辺では女児の誕生数が少ない」という研究報告書が発表され、今話題になっています。
タイトルを訳すと「人間の誕生時における性別オッズ比は原子力施設周辺でゆがんでいるか」。
著者はRalf Kusmierz, Kristina Voigt およびHagen Scherbの3人。Kuscmierz氏はブレーメン大学の研究者、Voigt氏とScherb氏はミュンヘンのヘルムホルツ環境健康研究所の研究者です。

この調査では、ドイツとスイスの原子力発電所31箇所の周辺にある、1万件の自治体における200万人の誕生が調査されました。
結果は、原発周辺35km以内では、それ以外の地域と比べると、過去40年で1~2万人の女児の誕生数が少ない、というものです。男児105~106人に対して女児100人が生まれるというのが普通だそうですが、その比率が原発周辺では異なるのだそうです。
スイスの原発周辺地域だけをとれば、一年に女児の誕生数が40人少ない‐流産されている‐ということになります。

上記の研究書の英語版サマリーを下記アドレスから見られます。 
  http://ibb.helmholtz-muenchen.de/homepage/hagen.scherb/KusmierzVoigtScherbEnviroInfoBonn2010.pdfhttp://www.youtube.com/user/IPPNWgermany

バーゼル市のサンタクララ病院の腫瘍学者のクラウディオ・クニューズリ博士は、この研究結果について、週間新聞WOZのインタビューでこう答えています。

「この結果は非常に重要なものであり、厳しい統計的な追加試験や敏感度分析(SensitivityAnalysis)にも合格しています。原発周辺で子供達が失われているという結論は避けて通れません。原子力発電所が通常運転時に排出する放射線が、これに責任を負うと考えるべきです。またこれにより遺伝子が変容することもあり、すぐには死に到らずとも、何年も後になって白血病のような重病に至ることもあります。

私たちは、この遺伝上の変容を真剣に受け止めなければなりません。遺伝子は『人類の最も貴重な財産』と世界健康機関が形容していますが‐それが破損されることが証明されているのですから。責任意識のある社会は、このような重大な影響を及ぼす核技術を使うべきではありません。この医学的な論拠は無視できないものですから、我々は原子力エネルギーを諦めるべきです。」  (WOZ誌2010年11月18日)


医師たちのNPOの要求「放射線制限値を胎児に合わせよ」

核戦争の防止を目的とした世界的な医師NPO団体であるIPPNWのドイツ支部は、11月23日のプレスリリースの中で上記の調査結果について次のように説明しています。少し長くなりますが以下に訳します。

「IPPNWはこの研究が、放射線と細胞破壊の因果関係を確証するものであると考える。 2007年にドイツで『小児癌研究』が行なわれ、原子力発電所の近辺では小児の白血病や癌のリスクが高まることを証明した。

上記の女の胎児の損失は、原子力発電所が周囲に放出する電離放射線による遺伝子の破損を示している。同様な効果が、チェルノブイリ事故や原爆試験による影響でも観察されている。チェルノブイリ事故後、ヨーロッパでは死産や奇形が数多くあっただけでなく、男女の胎児の割合に異変があった:1986年後ヨーロッパでは急激に生きて生まれる女児の数が減ったのだ。

原発は通常運転時にも放射性同位物を放出する。例えばH3(トリチウム)や放射性炭素(C14)が周辺に放出され、それが気付かずに人体に取り入れられ、内部放射を起こす。燃料棒交換の際や、故障時、急速停止時には、この排出量が高まる。それが『許容値』以下であっても、生まれていない子供たちが危険に晒されているのは明確だ。この『許容値』の基準は古く、本当のリスクを過小視している。

『少ない女児誕生数に関する最新の研究結果は、小児癌調査と同様に、警鐘をならしています。』と、ドイツIPPNW代表委員のReihold Thielは話す。また、IPPNWの小児科医Winfrid Eisenberg博士は、『放射性核種が、低放射量の領域においても、生殖細胞や胎児、幹細胞を、電離放射線によって極度の危機に晒すことは知られています。おそらく女の胎児は男の胎児よりも放射線に敏感に反応するのでしょう。とはいえ、女児に加えて、男の胎児に関しても千単位での被害があると考えられます。』と、語る。

IPPNWはドイツ連邦政府に、この危険性を減少することを求める。胎児と小児の放射線への敏感さを考慮に入れて、放射線防護の基準と制限値は、若い健康な男子(Reference Man)ではなく、極度に放射線に敏感な胎児(Reference Embryo)を基準とすべきである。」 (IPPNWドイツの11月23日のプレスリリース)

ドイツだけでなくIPPNWスイス支部も、「この研究結果は、たとえ低放射線量であっても妊娠初期において胎児に深刻な被害を与えうることを警告している。IPPNWスイスは国の担当局にこの報告結果の早急の審査を求める。」と、発表しています。

IPPNWドイツが製作したヴィデオ「原子力発電所の周辺の小児癌」(4分間)が下記アドレスから見られます。 原子力発電所からの放射性物質による胎児への影響を説明しています。
 http://www.youtube.com/user/IPPNWgermany



 スイス国営放送の科学番組「アインシュタイン」でも報道

12月2日にスイスの国営放送の科学番組「アインシュタイン」でも、「原発の周辺では女児の誕生数が少ない」というドイツの調査結果が報道されました。番組の中で、この調査を審査したチューリッヒ工科大学の生物統計学者の方が、「誕生数の減少は少量であるが、明らかに証明できる量である」と、話していました。 また、スイスの連邦放射線防護委員会の会長は、「どのような追加の低量放射線も健康被害に繋がる。」と発言していました。

この番組では、通常運転する原子力発電所から放出される低量の放射線のほか、フランスにある再処理工場セラフィールドでの作業時に西欧に振りまかれる放射能が、600km離れたスイスアルプスのユングフラウヨッホですらも観測できることを報告しています。

科学番組「アインシュタイン」のヴィデオ「原発周辺で女子出生率が低くなる」が下記アドレスで見られます。
  http://www.videoportal.sf.tv/video?id=96d98ad4-f3be-46cb-ab6f-892ac8cadcde

科学番組「アインシュタイン」のヴィデオ「通常運転時の原子力施設からの放射線汚染」が下記アドレスで見られます。
  http://www.videoportal.sf.tv/video?id=02236d90-9195-4fc7-bbec-6b8f3c4654a8


日本でも、スイスでも、原子力エネルギー利用のこれからを考える際に、低量の放射線が住民の健康に及ぼす影響についての調査や議論が欠かせなくなると思われます。(日本の場合は、この技術を海外輸出するというのですからなおさらです。)
ドイツの科学的研究が証明した原子力エネルギー施設と小児癌や流産の関係について、日本の厚生労働省はどのように考えているのでしょうか。日本でも、中立な立場から、徹底した科学的調査を行なって欲しいと思います。




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ベルン州で100棟目のミネルギー・P建築

2010-12-06 14:36:50 | 建築


Quelle: Minergie®  クリステン邸

● ミネルギー・P建築、全国830棟

スイスには12年前に導入された「ミネルギー」という省エネ建築の認証基準があります。
誰でも知っていると言っていいくらい知名度が高い基準で、そこから人々が思い浮かべるイメージは、分厚い断熱材やコンフォート換気(熱回収型の機械換気設備)のある快適住宅といったとこでしょうか。住宅だけでなく、学校やオフィス、店舗など、様々な建物があります。

ミネルギーの中には数種類の認証基準があります。
省エネルギー性能に関しては、普及型の「ミネルギー基準」。こちらは新築市場の20%を占め、合計1.8万棟が既に建てられています。「ミネルギー基準」は今や珍しい存在ではありません。
対して、次世代型の基準が「ミネルギー・P」。こちらは新築市場でのシェアはまだ僅かで、現在830棟の建物が認証を受けています。
また、省エネ性能に加えて、建物の健康性と環境性を配慮する建物のための「ミネルギー・エコ」、「ミネルギー・P・エコ」基準というのもあります。

「ミネルギー・P」はドイツの「パッシブハウス基準」に相当するスイスの基準です。普及版のミネルギー基準には法規の規制基準が追いつきつつあるため、数年以内に、ミネルギーはミネルギー・Pに格上げされると言われています。というわけで、スイスの新築で目指すべき省エネレベルはミネルギー・Pなのです。

● ベルン州で100棟目、クリステン邸

さて、昨11月に人口100万人のベルン州で100棟目のミネルギー・P建築が認証を受けて、話題を呼びました。認証を受けたのは、エヴィラルド村にある4人家族クリステン家の木造一戸建て住宅です。11月中旬の時点で、入居2ヶ月目。ご主人のグレゴール・クリステンさんは、建物の快適性についてこう述べます。*

「私たちの住いの質は本当に期待通りのもので、部分的には上回っています。たとえば室内気候は思っていた以上に良好です。」*と、ミネルギー・Pの温熱環境と機械換気による新鮮な空気に、非常に満足されているご様子。また11月中旬まで、3日間を除いては暖房要らずで、外気が零度近くになっても、南側の大窓からの日射獲得と室内からの排熱で十分に建物を温かく保つことができたそうです。

クリステンさんは、高気密・高断熱な躯体のおかげで、11月に「夜の間も0.5度くらいしか気温が下がらない」*と語っています。夏の過熱防止対策として、窓面はしっかりと日除けできるようになっています。また、夏には建物の上部に排気口を用いて夜間通気し、室内を自然に冷却することができます。

● ペレットストーブ一台で全館暖かく

クリステン家では、暖房が必要な季節には159㎡の住いを、居間に据えられた一台の小さなペレットストーブだけで快適な温度に暖房できます。これはスイスの気候下では驚くべきこと、というか高度な省エネ建築ミネルギー・Pならではのことです。暖房熱は100%ペレットストーブ、給湯は通年すると80%を太陽熱温水器で、20%をペレットストーブからの熱でまかないます。

スイスでは全館温水暖房が一般的ですが、高度な省エネ建築のミネルギー・Pの一戸建てでは、居間の薪ストーブやペレットストーブで全館を暖める建物が少なくありません。そのような場合、給湯はソーラー温水器で行なう例が多いようです。グレゴール・クリステンさんも、自宅計画時にそのような事例を多数調査し、ソーラー温水器とペレットストーブの組み合わせで行ける、と納得したそうです。

ミネルギー・P化への追加コストは+3%

気になるコストは、クリステンさんよると、「ミネルギー・P基準を達成するための追加コストは総コストで約3%」*だそうです。これはクリステン邸を規制基準で建てた場合と、ミネルギー・P基準で建てた場合の比較です。この追加コストは比較的少ないケースと思われます。お施主さんも、このコスト追加分は中期的に暖房費がかからないことで回収できる、と述べます。さらに、クリステン家はベルン州のエネルギー・建設・交通局から、この家の建設に際して2.5万フラン(約210万円)もの助成金を得ています。

●  人気スポーツ選手のミネルギー&プラスエネルギー住宅

スイス人の女性シモーネ・ニッグリ・ルーダーさんは、オリエンテーリング競技で17回の世界優勝記録を持つ、国民的人気を誇るスポーツ選手です。彼女は生物学者ということもあって、環境活動に熱心で、有機栽培の食品メーカの広告なんかに出ていたりします。

その彼女の一家の自宅が、昨10月、ベルン州のミュンジンゲン町に竣工しました。こちらはミネルギー&プラスエネルギー住宅です。木造プレファブ工法のおしゃれなデザインの躯体には、環境や健康に負担の少ない建材が用いられ、ミネルギー認証を受けています。それに屋根材一体型の太陽光発電8.85kWを設置して、暖房・給湯・換気・家電に消費するエネルギー量の110~130%を生産するコンセプトになっています。


Quelle: Minergie® ニッグリ・ルーダー邸

 ニッグリ夫妻と子供の住まう建物は、住職一体型、広さは240㎡、トレーニングルームなんてのもあります。外から見ると箱ですが、南側の大窓と、室内の遊び心のある空間デザインが魅力的です。 間取りや室内の写真は下記のサイトで見られます。 http://www.minergie.ch/tl_files/download/Plusenergiehaus_luchliweg_objektdoku.pdf

● エコ建材づくし

この家を設計した建築家Dieter Aeberhard Devauxさんの資料によると、木造建築に蓄熱容量を与えるために、室内には石灰砂岩の
蓄熱壁を設けています。冬には南側の大窓から入ってくる日射がそれを暖めます。夏には、この大窓は庇と日除けスクリーンで守られています。また灰色のトウヒ材外壁には、背面通気層が設けられ、ファザードが熱くなるのを妨いでいます。

断熱材はスイス製のウール。U値は外壁が0.12(断熱材34㎝)、屋根0.15(断熱材27㎝)、窓全体0.85~1.1、床0.14(断熱材24cm)です。気密性0.4h-1。建物の表面積に占める窓の割合27.1% 使用した木材は国産材で、スイス国内で2分以内に育つ量だそうです。さらに室内には粘土塗量、漆喰塗壁などを用い、空気を汚さず、湿度を自然に調整できる建材を選んでいます。

● エネルギー消費量は約6000kWh、生産量は7400kWh

暖房と給湯は空気ヒートポンプ(通年パフォーマンス値JAZ3.47※)で行なっています。ですが電気を食うヒートポンプの負荷を減らすために、居間には薪ストーブがすえられています。熱交換式の機械換気設備には、夜間・昼間に使う部屋に応じて、ゾーン別スイッチがついており、熱損失を減らしているそうです。

このルーダー家の一年のエネルギー消費量は:
暖房 2025kWh
給湯 1119kWh
換気 340kWh
家電と照明 2500kWh(目標値)
合計 5984kWh
エネルギー生産量 7400kWh

というわけで、「計算上」はネット・プラスエネルギーです。もちろん住み手の室内温度の設定や家電の使い方によって、プラスエネルギー度は計算よりも上がったり、下がったりします。

● プラスエネルギー化への追加コストは+5~10%

建築家によると、ニッグリ邸がプラスエネルギーを達成するのに必要な追加コストは、+5~10%だったそうです。比較されているのは、この家をミネルギー基準で建てた場合と、ミネルギー基準をプラスエネルギー化した場合のコストです。普通の建物(規制基準)をミネルギー&プラスエネルギー化した場合との比較ではありません。

ただこのニッグリ邸は、建物の省エネ性能的にはミネルギー・Pには到らないようです。ここまでやるなら、模範生としてミネルギー・P・エコ認証を目指してもらいたかった、と勝手ながら思います。

(参照)ミネルギー連盟プレスリリース、* 出典:ミネルギー連盟プレスリリース



※ ヒートポンプ暖房の年間パフォーマンス値JAZ
年間パフォーマンス値JAZは、ヒートポンプ暖房を一年の気候変化の下での運転した場合に、周辺機器(地下水ポンプや地熱ポンプなど、空気弁)も含めた、システム全体でのパフォーマンスを表す値です(1kWhの電気で・・kWhの利用熱を作る)。対してCOPは、メーカーがヒートポンプ部分のみを水準化されたラボ条件でテストしたパフォーマンス値。前者は、ドイツ語ではJahresarbeitzahlでJAZ。英語ではSeasonal/Annual Performance Index (SPI/API)というそうです。スイスでは省エネ建築の資料ではヒートポンプ暖房システムの効率はJAZで表記されています。通常3~4.5。
参照:http://de.wikipedia.org/wiki/W%C3%A4rmepumpenheizung


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