滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

親戚が省エネ改修した古民家を見せてもらいました

2009-11-30 00:52:49 | 建築

昨日、夫の従兄弟と兄弟の集いに行って来ました。
集いの場はいつも、中央スイスのシュビーツにある、夫の祖父母が1931年ごろに移築した古い農家で、ここ数十年は従兄弟たちがバカンスハウスとして使ってきた「蜂蜜の丘の家」です。

しかし、この家、3~4年ぶりに着いてみると、なんだかすっきりと若返っているのです。太陽熱温水器もついているし。どうしたのかしら、と尋ねてみると、この1.5年ほどをかけて、従兄弟一家が、かなりの部分をセルフビルドしながら、省エネ改修を行ったのだそうです。そのお披露目が本日のサプライズだというのです。

皆でフォンデューをつついて満腹になった後、待ちかねた西側住居のお披露目。
もともと納屋と畜舎だった家の西半分を、息子たちの住宅として総改修しています。全ての屋根面、ファザードについては西・南・北を断熱改修しています。
東半分の小さなバカンス住居と東ファザードはこれから改修していくようです。

改修では、既存の木構造を活かしながら、屋根、外壁に40㎝の断熱材(セルロース)を施しています。窓は木製断熱サッシの三重ガラス。室内は明るく、素晴らしい景色を大きな窓が切り取っています。室内の雰囲気は、下の写真をご覧下さい。

目標はミネルギーP基準の家だったそうですが、熱回収型の機械換気を入れないことを選んだので、これを必用とするミネルギーの認証は受けていないそうです。でも、改修後にサーモグラフィ写真を撮って、断熱性能をチェックするといった凝り様です。

給湯と暖房はソーラー+薪で、100%再生可能エネルギーで行っています。
まず給湯は9枚のソーラー温水器で基本的にまかないます。そして暖房は、居間にある蓄熱暖炉(薪)で行っています。蓄熱暖炉はスイスの農家の伝統的な暖房装置で、東側の住居にはまだ古いものが現役で使われています。

一日一度薪をくべると、暖炉の蓄熱体に熱が貯えられ、長時間にわたり暖炉全体から熱を放射します。さらにこの家で使われているシステムでは、蓄熱暖炉の熱でお湯を温め、それで一階の床暖房や2階の温水ラジエータを温める仕組みになっています。冬にソーラーでお湯が足りなくなった場合にも、蓄熱暖炉から給湯タンクを温められるそうです。

西側住居の住面積は156㎡で、現在少し贅沢ですが3人で住んでいます。この家を暖房するのに、一年で薪の消費量が僅かに2~3㎥といいますから、エネルギーの効率は良いと言えるでしょう。

これまで少し陰気な感じのあった古びた農家が、開放的で明るく、快適で、気持ちの良い住空間に生まれ変わっているのを見て感激しました。
この建物、あと100年はここに建ち続けるだろうと想いました。

そして、一家のこの建物と場所への深い愛情を感じたのでした。
「蜂蜜の丘の家」をここまでに育てた従兄弟一家に拍手!の土曜日でした。


生まれ変わった「蜂蜜の丘の家」の写真


南東ファザード。建物は100年ほど前に移築された農家。
南、西、北ファザード、屋根が断熱改修された。
西側に住居が1つ、東側に休暇用住居が1つ入る。
西側半分はもともと畜舎、納屋だった。もともと一階部分が石造り、上部は木造。


(左)西ファザード。建物の元々の特徴を大事にしながら、新しい顔を与えた。 
  日除けとして簡単な雨戸が西ファザードには付けられている。 
(右)東南側。大きなテラスを新設。屋根には9枚のソーラー温水器。
給湯と暖房用のお湯をまかなう。 


全面改修された西側住居の一階。開放的で明るい居間・キッチン。
もと畜舎だった部分。


絶景を見せる大きな窓は、断熱三層窓。もちろん開きます。


西の窓からの眺め。


家の心臓は、居間の蓄熱式薪暖炉。
暖炉の構造体に熱が貯えられ、ゆっくりじんわり熱を放射する。
焚きつけは一日一回。昨晩焚いたのに、翌日の午後まで暖かかい。
ここからソーラータンクの温度が足りない時は、熱を蓄熱タンクに回す。
また右側のベンチや一階の床面には、暖炉で暖められた温水が回されている。
そういう操作をこなすのが右の制御装置。


西側住居の2階へ。無垢の木の温かさがとってもきもち良い空間。
右は寝室。2階は温水ラジエータで熱分配。


(左)外壁は、もともとの木造軸組みを残しながら、厚さ40㎝のセルロース断熱材を吹き込んだ。壁の厚さが分かる。
(右)書斎スペース。無垢のカラマツ床材を、自分たちの手で亜麻油で仕上た。


2階のテラスは幅2.5m。スイス人の大好きな屋外の部屋。


西側住居の三階、屋根裏空間。


屋根も古い梁を活かしながら、40㎝のセルロースで断熱強化。


機械室には1200リットルのソーラータンクが2本。コスト的にもバランスの良いお湯のストックを持つことで、陽射しの乏しい季節でも給湯用水をソーラーで確保。
この日はタンク内のお湯50度、パネルから戻ってくるお湯が70度。
配管の断熱はこれからとか。


薪の消費量は一年で2~3㎥程度。それで156㎡を暖房、給湯補助。


まだ改修中の東側住居。昔の農家の内部が良く残っています。
こちらはバカンスに親戚が使う。


昔ながらの蓄熱暖炉。タイルの張られている壁とベンチ全体が蓄熱体になっている。右の黒い部分が薪をくべる場所で、同時に調理台にもなっている。
暖かいベンチは、皆が肩を寄せ合い、語り合う格好の場所。
この壁の反対側が西側住居の蓄熱暖炉になっている。


北側から見た「蜂蜜の丘の家」。周囲は果樹と牧草地。


「蜂蜜の丘の家」の前の散歩道。ミューテン山を眺める。


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ベルンの住宅建築&エネルギーメッセに行ってきました

2009-11-28 06:26:50 | 建築

今週末はベルンで「住宅建設&エネルギーメッセ」が開催されています。
昨日、初日を駆け足でしたが訪問しました。

小さいながら、一般の人にも専門の人にも見ごたえのある充実した展示で、とにかく、各スタンドで議論が盛り上がってました。
沢山の若者(学生や職人、設計者)が、とても真剣に質問したり、見学したりしていたのが印象的でした。

展示は構造関連と設備関連に大きく分けられ、前者は窓・断熱材・設計会社や木造会社、気密用材会社など。後者は主に熱源と換気です。ミネルギー連盟やパッシブハウス振興会も大きなスタンドを出しています。

今年は特に、省エネ建築の分野、まだまだ、どんどん発展している、と肌で感じました。各種断熱材のメーカが展示する外壁の構造例が、軒並みU値0.15W以下になっていました。これは08-09年度の規制基準とミネルギー基準の底上げの効果でしょう。

それから少ない壁厚で高度な断熱性能を達成できるコンパクト断熱材の展示も2年前よりぐっと増えた感じです。スペースシャトルに使われている熱橋を作らない素材の間柱を使った新しい高断熱構造も見ました。

やはり省エネ改修ブームで、サッシへの需要が高まっているからでしょう。窓・ドアメーカたちの展示も非常に力が入っていました。
下記に会場の印象を伝える写真を貼り付けます。

 

 










今週末、もうひとつ気になるイベント(?)があります。
国民投票です。自治体、州、国のレベルでの投票があります。
気になっているのはノイエンブルグ州のエネルギー法改訂に関する投票です。

同州の議会は今年の春に、全ての建物にエネルギー性能証明書を義務付け、さらにその中で最も性能の低い建物への省エネ改修を義務付けを決定しました。改修を義務付けられたお施主さんには手厚い助成が施されるということです。狙いは賃貸住宅の省エネ改修を進めることにあると思われます。

今週末の投票で、この省エネ改修の義務づけが決まるか、興味のあるところです。
省エネ改修の義務付けは、ベルン州の議会も実施する方向で検討が進んでいます。


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2000W社会というビジョン

2009-11-26 16:29:04 | 政策
今日はスイスがオフィシャルに目指しているビジョンの2000W社会の話です。

現在のスイスの1人頭の生活に必要な一次エネルギー消費のレベルが出力で表して6000W。
それを世界平均の2000Wに下げて、そのうちの75%以上を再生可能エネルギーでまかなう、という社会の未来の目標です。
化石エネルギーの一次エネルギー消費量は出力500W以下で、CO2排出量は1t以下となります。

出力ではなくて、エネルギー消費量に換算すると2000W社会は、一年で1人頭の一次エネルギー消費量が1.75万kWhになります。これには家で使うエネルギーだけでなく、消費行動や生産といった社会活動全般や生産・輸送に必用なグレーエネルギーも入っています。

ただし、現在のスイスの消費量6000Wの計算には、輸入された物のグレーエネルギーは入っていないようです。

また2000Wという消費レベルでは、スイスの1960年のレベルに相当するそうです。
もちろんそれは化石燃料による2000W社会でしたので、今のスイスが目指す2000W社会は、それを現在の省エネと再生可能エネルギー、そして生活・社会の変革によって達成しようというものです。

2000W社会は、チューリッヒ工科大学のノバトランティスというサステイナビリティを研究する部門で開発された社会モデルなのですが、下記のサイトで英語でも説明が見られます。

Novatlantisのサイト
http://www.novatlantis.ch/index.php?id=1&L=1

2000W社会についての英語のパンフレット
http://www.novatlantis.ch/fileadmin/downloads/2000watt/leichterleben_eng.pdf

スイスのエネルギー庁は2006年に2035年までの「エネルギーシナリオ1~4」を発表していますが、その4が2000W社会型を達成するための政策を示しています。これについてはまたの機会に紹介することにしましょう。




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講演ツアーを終えて・・

2009-11-24 01:37:23 | その他
皆様、大変ご無沙汰しております。
先週、日本での10回連続講演会を無事に終え、スイスに戻って参りました。
ツアーを企画・準備して下さった岩手の長土居正弘さん、東京の濱田ゆかりさんと寺尾信子さん、そして各地で主催・後援して下さりました企業や団体の皆様・・
皆様のサポートに心より感謝致します。

普段の読者の顔が見えない書き仕事とは違い、400人以上の人々に直接メッセージを伝えるチャンスを頂いたことは、私にとって大きなチャレンジでした。同時に、皆さんとのコミュニケーションから多くを学ぶことができました。
私の長い話を最後まで一生懸命聞いて下さった、来場者の皆様にも感謝です。

主に建築従事者の方々を対象に、スイスの建物分野の省エネルギー化政策についてお話をしましたが、同じテーマの話をしても、日本の各地域の気候性や経済状況、メンタリティごとに反応が大きく違うことに驚きました。やはり気候的に一番近い北海道の方々が、スイスの話を制度面からも実践面からも一番身近に実感していたように思われます。

各地の方々のお話を聞いていると、東北や北海道を中心として、スイスのミネルギーやミネルギー・Pに相当するようなトップランナーの省エネルギー建築の事例も増えてきているとのこと。
また東京以西の地域でも、コスト対効果が最適な断熱性能を持ち、夏も冬もパッシブな手段だけでも快適・健康な温熱環境を保てるような建物は実現されているとのこと。

でも、建物分野を体系的にそちらに導き、建物分野全体のCO2排出量を確実に減らしていく国・地方政策が日本は不十分(不在?)という悩み・不満の声が多く聞かれました。

それには、やはり各地域ごとの断熱義務をはじめとして、省エネ改修プログラム、再生可能熱源や高効率家電の利用義務付け、夏の遮熱対策の普及、もっとレベルの高い省エネ建築に目標を設定すること、環境税を初めとするインセンティブなど。。。日本がCO2を-25%するには避けて通れない道のように思われます。

各地で様々な質問・疑問が出ましたが、その場では適切に答えられなかった点もあります。今後、ブログの場を利用して、そのような点への答えを少しずつ整理していこうと思っていますので、またブログを見に来てください!

スイスの経験が、日本の快適で健康で省エネな建物の普及と、日本の建設業界を元気づけるのに役立ちますように!

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