滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

2021年のスイス木造賞とフォアアールベルク木造賞から

2022-01-13 05:13:19 | お知らせ

【木造建築散策1】
2020年2月にコロナ禍前の最後の視察で工事現場を見学した大型木造集合住宅Krokodilを再訪。既に入居が済み、中庭の緑やベランダから生活感が感じられた。スイスのゼネコンの木造部門がBIM設計、パネル製造・施工。木造8階建て、リーズナブルな家賃・価格の250世帯が入る。ヴィンタトゥール市駅裏の大規模な再開発地区の一部で、隣に木造オフィスビルも計画中。
設計:ARGE Baumberger&Stegmeier und Kilga Popp Architekten


【木造建築散策2】
ビオ(オーガニック)の種子製造・販売、品種開発を行うサティーバ社の木造新社屋。オフィス、作業所と種子保管施設を含む。ライン川に浮かぶライナウ島を取り巻く歴史的建造物に囲まれた地区の中で景観に美しく収まる。ギザギザ屋根の内側に屋根材一体型の太陽光発電が設置されている。花弁のように優雅に曲がった梁から成る空間がゴシック教会のよう。
設計:Staufer & Hasler Architekten


近況
 コロナ禍も3年目の冬となりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
 私の方は、コロナ禍により視察の仕事はなくなりましたが、昨年は様々な新しい事にチャレンジするチャンスを頂きました。

 庭や緑化の仕事では、住宅建設協同組合による二つの100世帯規模のエコロジカルな集合住宅地の植栽設計や緑化コンセプトを策定する機会を得て、多くを学びました。今年もスイスの多くの人の心の故郷になるような集合住宅や産業建築の庭を目指して研鑽を重ねてゆきます。

 その他にも、スイスで作られた反核映画の翻訳をプロの方々のご協力を得て行ったり、初のオンライン視察のための映像製作に携わったり、試行錯誤の連続でした。11月末に放映されたオンライン視察の画像が販売されるようになりましたら、またご案内します。(下、予告編)

 
 
 また、本「欧州のビオホテル」や「気候中立と持続可能性を目指したスイスの省エネ・エコ建築」をテーマとした講演も何度か行いました。現在は調査の仕事に取り組んでいます。
 来春からは、持続可能な社会づくりに取り組むこちらの専門家の方々の生の声をお伝えするウェビナーシリーズを開始する予定ですが、それについてはまた後日にご報告します。


チューリッヒ州で既存の化石エネルギー熱源の代替が禁止
 昨11月28日にチューリッヒ州では住民投票により、化石エネルギー熱源(石油・ガスボイラー)の更新を禁じる法律が、62.8%で可決しました。原則としての禁止なので、再エネ熱源のライフサイクルコストの方が明確に高い事が証明される場合や、建物所有者が熱源交換のための経済能力に欠ける場合には、例外措置もあります。再エネ熱源に交換する施主には、もちろん国と州からの助成金が出ます。

 類似の法律を以前から実施しているフリブール州やバーゼルシュタット準州では、熱源交換時にほぼ100%の再エネ率を達成しています。新築では非化石熱源が普及している今日。既存の化石熱源の廃止が温暖化政策では急務です。しかし昨6月の国民投票で、国レベルでの廃止措置を含んでいたCO2法は否決されました。そのような事情から、当分は州レベルで脱化石熱源を進めて行くことになりそうです。


Prix Lignum 2021 スイス木造賞
 昨年は、3年に一度のスイス木造賞が授与されました。国とスイスの木産業協会が共同で出している賞で、530件の応募の中から国レベルでは3つの木造建築が入賞しました。うち2作品を下に紹介します。その他、5つの地域別に約40の建物や家具が受賞しています。伴茂氏設計のスウォッチセンターといったハイテクを駆使した建築物や、上述の大型集合住宅などもある中で、今年の審査員はローテク、社会性、地域性、建築表現、普遍性といった点に重点を置いて評価されたようです

全国部門 金賞 マイエンガッセの集合住宅、2018
設計:Esch Shinzel Architekten
バーゼル市の中心地、以前作業場のあった場所に、その形を踏襲しながら建て替えが行われた。コミュニティ空間としての中庭を取り囲むようにリーズナブルな公営住宅と幼稚園が入る。シンプルでローテク、エコロジカルな木造四階建て。8世帯のメゾネット型テラスハウスと、1.5室~6.5室までの住居が混合する。天井は木・コンクリート接合スラブ。住居間の遮音性能も高い。


©Prix Lignum 2021, Foto: Kurt Frey



全国部門 銀賞 ザンクトガレン州の農業センター、2019
設計:Andy Senn
メインストリームの省エネ建築では設備技術が増える中、ローテクを旨とした地場材による木造の学校建築と寮。建築的解決と手動操作により省エネ、快適・健康、長寿命な建築を目指す。木質バイオマス・温水パネルヒーターによる暖房設備や太陽光発電以外は設備機器や自動化技術を入れていない。配管を表面に出し、メンテナンスを容易にしている。この建物は2020年にスイスとリヒテンシュタインがアルプス地方の持続可能な発展に寄与する建築に授与する「Constructive Alps」を受賞し、昨年は持続可能な建築会議でも注目を浴びていた。




©Prix Lignum 2021, Foto: Seraina Wirz, Zürich


フォア―アールベルク木造賞2021
 2021年には、お隣オーストリアのフォアアールベルク州でも木造賞も授与されました。これは、優れた木造建築による地域づくり知られる同州で、建築家や設計者、木造会社などがメンバーになっている「フォアアールベルク木造アート協会」が隔年で出している賞です。地元の設計、施工、建具が用いられた建物が競い合います。前述のスイスの木造賞では対象にならないような、小さな芸術的な建物も表彰の対象となっているのが特徴です。こちらの審査員の視点にも、今年は前述の賞に共通する部分が多く見られます。いろいろな部門での表彰がありますが、ヴィデオのある2作品を下に紹介します。

戸建て部門賞、ブロンス村のエラー邸
設計:Inauer – Matt Architekten
vorarlberger holzbau_kunst: Zimmerei Heiseler - Berghaus Eller

グローセス・ヴァルサー谷の伝統家屋を解釈した、土地消費の少ない、美しい小さな家。モミ材の建具がフォアアールベルクの職人技を存分に見せてくれる。

産業部門佳作、ヒッティサウ村の畜舎改修
設計:Georg Bechter Architektur & Licht und Design
vorarlberger holzbau_kunst: dr´ Holzbauer - Georg Bechter Licht & Architektur+Design  

同賞では佳作だが、オーストリアの環境省が授与する「持続可能性&建築賞2021」で4つの入賞建築のひとつに選ばれた建物。建築設計事務所・照明メーカの事務所兼工房。木造の畜舎をスケルトンまで解体し、一階はコンクリート造、二階より上は木造・ストローベイル断熱で改修。室内は版築床、粘土壁、ウールマットを施した天井など自然建材で仕上げた。南側は懐かしのウィンターガーデン。ゆらゆらした板張りファサードがユニーク。エネルギー源には、ファサードの太陽熱、屋根の太陽光、ヒートポンプを組み合わせた。熱源は家畜糞尿タンクを改築した氷蓄熱層。


 その他、「スイスソーラー大賞2021」やスイスエネルギー庁による「金のワット賞2022」でも興味深い建築やエネルギー施設の事例が表彰されていますが、それについてはまた別の機会にご報告します。



【資料編】
その他の受賞建築に興味のある方は下記から写真や説明をご覧になれます。

スイス木造賞
つの地域別の入賞建築・家具など40点を見る事ができます。

フォアアールベルク木造賞
・地域への付加価値価値創出部門、ドリス&ミヒァエル・カウフマン邸、集成材を用いず、向かいの山の無垢材で構成

・集合住宅部門、エルナ邸、農家建築の学生寮への改修

・増改築部門、グローセンビュントの古民家改修

・公共建築部門、ケンネルバッハ村の幼稚園

・産業建築部門、DIN安全技術社オフィス


©Kurt Hoerbst, Foto: BMK




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