滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

寿命の間、無料でカーボンオフセットしてくれる車?!

2010-02-28 04:43:12 | 交通

 先日、スイスの消費者情報誌Ktippに出ていたSEATの車の広告、面白いから見てごらん、と夫が言います。どうせ「でっかい、高い、CO2排出量の多い」が特徴のスイス市場向け自動車が、エコ風に売り出されているんだろう、と想像しながら見てみると、ほほう、これが面白いのです。

車は、スペインに本拠を置くSEAT社のIBIZAエコモティーブというコンパクトカークラスのディーゼル車。燃料消費は100kmを平均3.7ℓ(日本式には欧州複合モードで27km/l)で走り、CO2排出量はkmあたり98g、もちろんフィルター付き。重量は1090kg。スイスで売られているこのカテゴリーの車ではトップ効率です。ディーゼルですが、エコ派市民が待望する3ℓカー(33.3km/l)に随分と近づいてきました。といっても効率向上は、出し惜しみ的な印象を受けます。随分前にフォルクスワーゲンのLupo(3ℓ)があったのですから、本当はもっと軽くして、効率を上げられるのでは、と思います。

前置きが長くなりましたが、SEATスイス販売会社の広告で何が面白かったかというと、大きな緑のハートの中に「マイクライメートにより、無料で寿命の間のCO2オフセット」と、書いてあったこと。マイクライメートはスイスのCO2オフセットNPOで、質の高いオフセット運営により世界的に定評があります。国内外の再生可能エネルギープロジェクトによりオフセットを行っています。

SEATとマイクライメートの協働は2008年に始まったもので、その頃からスイスで販売される全ての車に一年分(2万km分)のカーボンオフセットが無料で付いてくるサービスを行っていました。でも今回のエコモティーブは、相手が企業顧客でも、個人顧客でも、車の寿命の間ずっと無料でカーボンオフセットしてくれるというのだから、驚きです。無料というよりも、込みで、ということでしょうが、何となく得した気になります(笑)。販売価格は21250フラン(約180万円)からとありますから、そのうちのどれくらいがオフセットにあてられているのか、知りたいところです。

どうやって個々の車の寿命の間のCO2排出量を計算するのか、調べてみました。
無料カーボンオフセットの条件は、SEATガレージで定期メンテを行うこと。そこで計った実際の走行Km数に基き、オフセット依頼がSEATからマイクライメートに行くのだそうです!!購入1年目は、次のメンテまでとりあえず1.5万km分のカーボンオフセットが前払いしてあるということ。

ただ、寿命の間のカーボンオフセット、そもそもCO2排出量が少ないから経済的に成り立つサービスなのかもしれません。また、広告が前向きのイメージを与え、説得力がある(?)のも、トップ効率の3.7ℓ車だからこそでしょう。もしもこれが8~10ℓ車(10~12.5km/l)のようなガソリン消費量の大きな車であったら、効率が悪いことへの免罪符としてカーボンオフセットをつけて売っている、というネガティブな印象を(私なら)受けます。だったらその前に、消費量を減らしなさい、と思います。

もちろん、オフセットサービスが付いているにしても、車になるべく乗らないのが一番エコなことは言うまでもありませんが。

Seat Ibiza Ecomotive
http://www.seat.ch/seat/ecomotive_microsite/files/de/Ecomotive_Range.pdf

マイクライメート
http://www.myclimate.org/

PS :スイスでは年内に圧縮空気自動車の生産が始まるそうです、そのことについても近々ご報告したいと思っています!


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2023年までにカーボンニュートラルを目指すスイスのコープ生協

2010-02-25 04:31:26 | その他

スイスで毎日のお買い物をするスーパーといったら、ミグロかコープです。

スイスの小売店業界ではミグロがシェアのナンバーワン、コープがナンバーツーを占めますが、両者ともに営利の最大化を目的とするのではない、生協組合の会社であるのが特徴です。

うち5万人の従業員をかかえるコープは、90年代初頭からエコロジカルな品揃えにおいて、市場のリーダーシップを握ってきました。いち早くからオーガニック食品認証の「ビオ・スイス」印やフェアトレードの「マックス・ハベラー」印の食品や製品、持続可能な漁業による「MSC」印の魚貝類などを販売し始め、また環境負荷の少ないノンフード製品の「エコプラン」、オーガニックコットンの下着やベッドウェアの「ナトゥーラライン」、動物に優しい飼育による「ナトゥーラ肉・卵」、山岳地方の農家を応援できる「プロモンターニャ」・・・等といった、充実のエコ製品ラインを揃えてきました。

 

そして、そういった製品の背景情報を、毎週無料で全国の家庭に配布されるコープ新聞で消費者に伝え、啓蒙しています。また、毎年、売上げの1部(9億円)を「ナトゥーラ基金」に入れて、持続可能な農業に関するプロジェクトや研究に出資し、例えば、農家のバイオガス発電設備を助成したりしています。コープの昨年の売上げは、ドイツの安売り店LiedlやAldiのスイス進出にも関わらず、10%も成長しており、とても元気の良い企業です。

 

そんなコープが近年、力を入れているのが、2023年までに「CO2ニュートラル」になる、つまりCO2の収支においてゼロになること、という経営目標です。2023年という期限が、コープの本気を物語っています。

コープは2004年に小売店としてはいち早く、国の「産業界CO2削減対策機関」と、CO2の削減協定を結んできました。国との協定では、企業はCO2排出総量を把握し、毎年何パーセント減らすという目標を定め、その達成度を国の機関が定期的にモニターリングさせます。国の機関とこのような協定を結び、CO2削減を達成する企業には、2008年から実施されている灯油へのCO2税が免除されるのがスイスの仕組みです。ちなみに、コープの現在の年間排出量は10万tです。

 

カーボンニュートラルといっても、コープ社では、まず初めにCO2排出量の60%以上を自社努力で削減、エネルギー消費量は08年度比で20%減らす計画です。つまり店舗や工場、オフィス、流通センターなどで、省エネを行い、再生可能エネルギーを使います。(エネルギー消費量はもう少し減らないものかと思いますが。)その後で足りない分、40%程度を国内外での排出権購入により相殺する計画です。

 

ラジオのインタビューで、コープのサステイナビリティ担当者が、「マッキンゼーレポートにもあるように、省エネとCO2削減対策は、長期的には市場での競争力を高め、お金の節約につながるということが、コープの場合も当てはまるのだ。」と答えていました。今後CO2税の額やエネルギー価格の高騰は避けられないからです。コープは、こうした「CO2ニュートラル」化により、将来的に年7000万フラン(67億円)が節約できると考えているそうです。

 

どんな対策により-60%を実施するかというと、断熱、節電、再生可能エネルギーです。具体的には自社の建物のミネルギー化、照明のLED化、CO2冷媒、冷却時の排熱利用、木質バイオマス暖房、生ゴミからのバイオガス利用・・・等々が挙げられています。

 

これらの対策は既に実施されていますが、先日には新聞Der Bund誌に、コープで採用された新しいLEDランプの記事に載っていました。もともとスイスにはネオン広告はありませんが、COOPという社名のロゴのランプは店舗入口に設置されています。コープの場合、そのような社名ランプが全国で4250個あるそうですが、それを段階的にLEDに切り替えていくことで節約できる電力量は、400~600世帯分の消費量に相当する2GWhに上ります。コープが採用したLED照明は、従来のLEDシステムをベルンのメーカWestiform社が改良したもので、様々な工夫や制御により、今日の広告ランプと比べると80%の電力を節電できるそうです。

ますますコープびいきになってしまいそうなニュースでした。

www.coop.ch

 


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オバマ大統領の原発推進姿勢へのスイスのメディアの反応

2010-02-20 22:06:01 | その他

スイスでは電力大手3社が3基の原発更新を目指しており、建設許可を提出しています。そのため、このところメディアでは原子力発電に関する報道や議論がかなり頻繁に見られます(もちろん再生可能電力関連も多いですが・・)。3年後に国民投票が行われるまでは、しばらくそういう状態が続きそうです。

先週は、アメリカのオバマ大統領が、30年以上ぶりに(温暖化対策として)2基の原発を新設するために国が約87億ドルを融資し、また新原発への融資保証を540億ドルに増加するとしたことについて、各誌で報道がありました。RadioDRS(国営ラジオ)やDerBund誌では、「それでもアメリカではせいぜい更新されるくらいで原発ルネサンスは起こらないだろう」というマイケル・シュナイダー氏の見解を紹介していていました。主な理由は、経済性が合わないため、とあります。

原子力研究家として世界的に著名なマイケル・シュナイダー氏が、スイス国営ラジオDRS(2月17日昼のニュース)に語ったインタビューは、要約すると以下の通りです。「現在建設中のフィンランドの原発は竣工が予定よりも3年も遅れ、予算も予定の2倍に膨れ上がっている。シティグループや、レーティングエージェントのムーディスでは、経済的な理由から原発には投資しないように推薦している。世界銀行もアジア発展銀行も原発への投資はリスクが大きすぎると考えている。原子力は国の融資保証なしでは、市場で成り立たない技術。商業的な利用が始まってから50年ということを考えると、この産業に未来はない。」(中国は例外で現在20基が建設中だそうですが・・)

上記に触れられているシティバンクの姿勢とは、昨年11月に同社が発表した研究報告書「New Nuclear-The Economics say no」(原発新設、経済学はノーと言う)における、原発の経済性への手厳しい分析のことだそうです。経済的な問題以外にも、事故のリスク、原子力利用による核拡散、放射線廃棄物の最終処分地といった問題も未解決なことは言うまでもありません。

「原子力ルネサンス」というものは、言葉は聞くものの、ヨーロッパでもこれまでのところ起こっていません。 EUで2009年度に新に設置された発電所出力で、一番大きな割合を占めるのは風力、39%を占めます。それにガス発電26%、光発電の16%、石炭9%と続き、原子力と石油は最後の方で2%とほとんど増えていません。
http://www.ewea.org/fileadmin/ewea_documents/documents/statistics/general_stats_2009.pdf

 スイスのエリート経済大学であるザンクトガレン大学の、経済エコロジー研究所のDr.ロルフ・ビュステンハーゲン教授が、全国光発電会議でのプレゼンで面白いエピソードを語っていました。学生たちに、「EUで新設された発電所出力が一番大きい電源は何か」と質問した結果、最も多くの学生が「原子力、ガス、石炭、石油、風力、水力、最後に僅かばかりソーラー」の順番で答えた、とのことです。現実の成長とは、ガスを除くと正反対のイメージが消費者の間にすりこまれているというわけですが、それだけ、これらの産業の存在感がメディアの中で強いためでしょう。


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蓄熱するガラスを知っていますか?

2010-02-16 16:33:29 | 建築

今日は、新築や設備への補助制度の話を書こうと思っていましたが、ちょっと寄り道です。というのも、最近、GLASSX社の蓄熱するガラスファザード建材を利用している建物を訪れる機会が何度かあって、その綺麗さが印象的だったので、忘れないうちに書いておきたいと思いました。

ガラス建材GLASSX®は、太陽熱を蓄熱すると同時に、室内の過熱を防止する、賢い外皮材です。私がスイスで出会った建材製品の中で、最もユニークな発想を持つものだと思います。
www.glassx.ch


この製品の心臓は、塩の結晶の一種を利用した「潜熱蓄熱体」にあります。この物質は26~28度の温度で、固体から液体に変化し、その時に多くの熱を取り込みます。そして周辺の温度が26度以下に下がっていくと、再び液体から固体に戻り、その時に取り込んだ熱を室内側にゆっくり、じんわりと放射します。GLASSX®では、この「潜熱蓄熱体」の物質をプラスチックのケースに入れ、それを複層ガラスの間に閉じ込めています。

さらに、必用な時にだけ日射熱を取り入れるべく、もう一工夫しています。蓄熱層の室外側に、洗濯板のように表面が波型になっているアクリル板(図参照)が入っています。このアクリル板のおかげで、夏の角度40度以上の高い日差しは跳返され、蓄熱層に到りません。南ファザードに設置した場合、冬や中間期の低い日差しだけが蓄熱層に届きます。 (図版提供 GLASSX社)


GLASSX®の構造を見てみると、屋外側からガス入り4重断熱ガラスになっていて、一層目にアクリル、三層目に蓄熱体が挟み込まれています。建材の厚さは8cm、U値は0.48。そして一㎡につき吸収できる熱の量は1.2kWhです。厚さ2cmの潜熱蓄熱体の蓄熱容量は、15cmのコンクリート壁のそれに相当するそうです。断熱性能が高く、光を通すガラス面であって、日除けにもなり、これだけの蓄熱能力があるということは、とても画期的なことだと思われます。

塩の結晶は固体時には白く、液体時には透明になります。ですがアクリル板があるため、屋外から室内は見えません。昼間の室内からは、障子を通したような柔らかい光が日本人には懐かしい感じです。



GLASSX®は主に、Minergie-Pクラスの省エネ建築で使われています。
例えば建築家ベアット・ケンプフェンさん設計の木造オフィス建築「マルシェ社本社ビル」。Minergie-P-eco基準の高度な省エネ建築です。南ファザードに普通の窓と交互にGLASSX®を用いています。南側から思いっきり太陽光を取り入れるパッシブソーラー建築のオフィススペースで、コンピューター画面の反射を防ぎ、室内の過熱を防止しています。オープンな空間の木造建築に蓄熱容量を上げ、ガラスの表面温度の高い快適な室内環境を作ることも目的です。(1月中旬)GLASSX®の価格は普通のガラスの二倍するそうですが、建物全体のシンプルなデザインにより、建物は平均的コストで実現されています。







下はGLASSX®社の社長で、開発者の1人である建築家ディエトリッヒ・シュバルツさん設計のマンション「オイラッハホフ」。やはりMinergie-P-eco基準で建てられており、南ファザードの1部にGLASSX®が使われています。写真は2月初旬の天気の良い日。蓄熱体が液体化し始めています。同時に庭からの視線避けにもなっているのが分かります。






シュバルツさんは、90年代中ごろからパッシブソーラー建築技術の進歩・研究に尽力してきた建築家です。透明断熱材を用いた家、サンルームでダイレクトゲインする家などでの経験を経て、パッシブソーラー利用により快適な室内気候、フレキシブルな室内空間を作るために、多機能な賢い南ファザードを求め、ガラスと潜熱蓄熱体という道に到ります。

私自身も2002年に建築雑誌コンフォルトの取材でシュバルツさんを訪問する機会を得ました。その年はパラフィンを用いた潜熱蓄熱体を窓内に取り入れた省エネ・パッシブソーラーの木造住宅の第一号が建設され、注目をあつめていました。そこから3年、様々なパートナー研究所との研究開発を重ねて、より適した蓄熱素材を用いたのが今日の形になります。

当時の実験では、2月の晴天日、14時に日射量が最大になった3時間後の室内側の表面温度は35度。17時からゆっくりとパラフィンが固まり始めたが、窓の表面は夜間中22度を下回ることはなく、夏には日中の日差しをしっかりとカットしていたという結果が印象的でした。

先日久々にホームページを訪れて、GLASSX®は基本商品のほかに、蓄熱体を挟んだだけのガラス建材GLASSX®confort"store"や、アクリル板を挟んだだけの日除け・視線避けする断熱ガラス窓GLASSX® prismを出していることも知りました。スイスではまだ事例はありませんが、温室などにも転用できそうな技術だと思いました。

これからどのような評価を受けていくのか、楽しみな製品です。

英語で読める記事
http://www.glassx.ch/fileadmin/pdf/050601_Detail_So_2.pdf

 


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スイスの省エネ改修助成制度は10ヵ年計画

2010-02-11 00:07:29 | 建築

スイスの建設業界は昨年も今年も不景気知らず、職人は猫の手も借りたいほどだという声を良く耳にします。理由は、現在金利が低いこともありますが、省エネ改修助成政策の効果が大きいようです。スイスの省エネ改修補助制度は、過去3年間にも力が入れられてきましたが、2010年より一新。シンプルになり、レベルアップして再スタートしました。助成期間は2019年まで、10年間という継続性が頼もしいです。その補助額と概要は全国一様に以下の通りです。


① 建物省エネ改修助成制度 

開口部  
ガラスU値 0.7W/㎡KあるいはMinergie®モジュール認証を受けた製品
開口部面積1㎡あたり70フラン(約6300円)

外気および地下2m以内に接する屋根・外壁・床 
U値 0.2W/㎡KあるいはMinergie®モジュール認証を受けた製品
断熱材1㎡あたり40フラン(約3600円)

無暖房空間に接する外壁・天井・床、地下2m以下に接する外壁と床 
U値 0.25W/㎡KあるいはMinergie®モジュール認証を受けた製品
断熱材1㎡あたり15フラン(約1350円) 

費用の30%が補助額の目安で、対象は住宅に限らず暖房している建物全般。外壁・窓・屋根のうちの、1部位でも助成対象になります。ただし日本のように1つの窓だけ、とか一面の壁だけの改修は対象にならなりません。

②2010年から新しくなった点

2009年までの制度と比べて比べて変わった点がいくつかあります。まず、昨年までは改修後U値が0.23でも補助金がでましたが、今年からは0.20以下が条件になりました。それから、以前は外壁と窓など2部位以上を同時改修することが補助条件でしたが、現在の制度では部分改修でも補助が出ます。これは省エネ改修への投資と税控除効果を数年に分散させたい、という施主の希望を反映させています。

また財源とその規模も変わりました。建物省エネ助成プログラムには、国の灯油へのCO2税の収入の一部から年180億円が、それに加えて州から72~90億円が出資。合計すると計252~270億円になります。そのうち、上記の省エネ改修の補助に用いられるのは、国からの120億円。残りの国からの60億円や州の72~90億円は、下記の州ごとの建物省エネ助成プログラムに用いられます。
(註:CO2税は灯油100ℓあたり9フラン(800円)のCO2税が課税されている。)

この建物省エネ改修助成制度により、州と国はCO2排出量を年220万トン削減することを目指しています。これは計算すると、現在のスイスのCO2排出量の約4~5%程度です。(そんなものかと思いましたが。)もちろん建物分野では、省エネ改修以外にも、断熱の規制基準強化や熱源交換により、これ以上のCO2削減が実施されていくでしょう。

③州ごとの建物省エネ助成プログラム

 さて、上記の省エネ改修助成制度は国が全額を出資しているもので、それ加えて、州ごとに建物の省エネ助成プログラムがあります(統一した方が良いと思いますが、そこは何分、地方分権スイスのこだわりで・・)。その助成メニューには、建物の総合的な省エネ改修やMinergie®改修・新築、再生可能熱源の導入やエネルギー証明書作成などが含まれています。州ごとの助成メニューについては、国と州は半々を出資しています。例えば、トゥールガウ州では、省エネ改修について次のような助成を追加で行っています。

エネルギー性能証明に基く総合改修へのボーナス 
スイスの建物エネルギー性能証明は、躯体の断熱性能と、家電・設備・熱源を含む一次エネルギー消費量の2項目について、A~Gクラスに分けて表示するもの。総合改修後にエネルギー証明書の効率クラスがC以上(新築の規制基準並の断熱性能)を達成すると、上記助成に追加のボーナスが出る。

一世帯・二世帯住宅    5000フラン       (45万円)
3世帯以上の集合住宅  2500フラン/世帯    (22.5万円)
非住宅建築         10フラン/ 暖房面積㎡ (900円)


●総合改修によるMinergie®やMinergie-P®へのボーナス
ミネルギーはスイスの任意認証で、より高度な省エネ基準。ミネルギー改修には高額な補助金がでるため、通常の建物省エネプログラムの助成金と合わせてはもらえない。熱回収付き換気を条件とするMinergie®改修の数は多くなく、現在1260棟。技術的にも難易度の高いMinergie‐P®改修は、まだ23棟しかない。

Minergie® 基準への改修
一世帯・二世帯住宅   25000フラン (225万円)
3世帯以上の集合住宅 15000フラン(135万円)+一世帯につき6000フラン(54万円)
非住宅建築         15000フラン(135万円)+暖房面積一㎡につき30フラン(2700円) 

Minergie-P®基準への改修
一世帯・二世帯住宅   37000フラン (333万円)
3世帯以上の集合住宅 35000フラン(315万円)+一世帯につき6000フラン(54万円)
非住宅建築         35000フラン(315万円)+暖房面積一㎡につき30フラン(2700円)
 

④施主を導く「エネルギー性能証明のアドバイス報告書」

また、国と州は、市民に省エネ改修を考えるにあたり、まずは「建物エネルギー性能証明・アドバイス報告書版」を作成することを推薦しています。エネルギー性能証明に付属するこの報告書は、施主に成功する、効率の良い省エネ改修の総合計画を具体的にアドバイスします。内容は、建物の躯体・設備の現状認識、エネルギー性能評価、改修対策とその効果、対策別の省エネ効果とコスト表示、補助金利用の情報、実施計画(対策の優先順位、組み合わせ、推薦事項)などです。作成は、州から認定を受けた中立のアドバイザーが行います。

ほとんどの施主は、何年かに分けて段階的に省エネ改修を実施していきますから、初めに総合計画を持つことが欠かせません。そのため、トゥールガウ州では施主に対して、アドバイス報告書の作成に補助を出しています。 金額的には報告書付き証明書の3分2もの価格を補助。州が中立の専門家によるアドバイス報告書をいかに重要とみなしているかがわかります。

アドバイス報告書付きの建物エネルギー性能証明への助成
一世帯・二世帯住宅   1000フラン(9万円)
集合住宅・三世帯住宅  1500フラン(13.5万円)
非住宅建築         2000フラン(18万円) 


⑤改修にも熱エネルギーの規制基準がある

 助成の話とは関係がありませんが、これらの助成制度の前提にあるのが、改修時の熱エネルギー消費量の規制基準です。新築だけでなく、改修でも規制基準があります。改修の建設許可を得るためには、熱計算により規制基準をクリアしていることを証明するか、あるいは改修部分のU値を守ることが義務付けられています。

総合改修時の熱エネルギー消費量の規制基準は、新築の規制基準+25%とされています。新築の規制基準は住宅ですと、暖房給湯熱需要量が48kWh/㎡年(SIA 380/1の計算手法)です。

また改修時のU値規制値は、外気および2m以内の地下に触れる部分では、外壁・床・屋根・天井が0.25、窓・ドア1.3(窓の前にラジエーターがある場合は1.0)です。このレベルの省エネ改修は改修の際の義務であるため、助成の対象にはなりません。だったら30%の補助が出るU値0.20の改修にしよう、と思いますよね。


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