滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

景気対策は省エネルギー対策② 省エネ改修編 後半

2009-08-08 05:35:25 | 政策

分量が多かったので記事を二回に分けました。前の記事から読んでください。

さて、通常の気候セント財団による省エネ改修(断熱強化改修)への助成額は以下の通りです。(1フラン=約90円)

●屋根・屋根裏および外壁と床(断熱材の厚さとU値)
・通常の断熱強化 (16cm以上、0.23W/㎡)         20フラン/㎡
・改良型断熱強化 (20cm以上、0.20W/㎡)        30フラン/㎡
・ミネルギー改修ボーナスまたは総合改修ボーナス    +10フラン/㎡

●窓
・通常の断熱強化 (ガラス1.10W/㎡、全体1.30W/㎡以下)   20フラン/㎡
・三層断熱窓    (ガラス0.90W/㎡、全体1.20W/㎡以下)   70フラン/㎡

・ミネルギー窓   (ガラス0.70W/㎡、全体1.0W/㎡以下)    80フラン/㎡ 

・ミネルギー改修ボーナスまたは総合改修ボーナス       +10フラン/㎡

(註:ミネルギーとはスイスの省エネルギー建築基準です。)

これに加えて、第二次景気対策により、州ごとに以下の%が助成額に追加されます。

100%:アールガウ、フライブルグ、ルツェルン、ノイエンブルグ、ヴァリス、ワット州

33%:サンクトガレン、ベルン、チューリッヒ州

通常の気候セントによる助成額では、断熱強化修のコストの約15%がカバーされますが、今回の景気対策によって、およそ30%がカバーされるようになります。

(出典:気候セント財団のホームページwww.gebaeudeprogramm.ch

他方、トゥールガウ州など、景気対策以前から既に、省エネ改修に対して30%ほどの助成を行ってきた州もあります。

今回のキャンペーンに参加したチューリッヒ州の例を挙げましょう。同州では国からの1250万フランに州からの1250万フランを加えて、2009年度の建物エネルギー補助プログラムの予算を計2500万フランに強化しました。これは前年度の5倍の額です。
この補助により、市場に2億フラン(180億円)の投資が誘発される見込みです。

チューリッヒ州では今すぐ施主を省エネ改修に動かすために、施主へのアドバイスサービスに力を入れていました。まず、スポンサー企業と組んで、各自治体で省エネ改修のインフォメーションイベントを開催します。
その後、関心を持った施主に、エネルギーアドバイザーという中立の専門家が格安料金で現場チェックを行い、コスト計算や補助金額、設計者や業者の仲介などを行うサービスを提供しています。

断熱強化による省エネ改修には地域経済の促進効果が大きい上に、スイス全体が一通り改修し終わるまでたっぷりと市場があります。省エネ改修の推進については、普段は対立している政党も一致する訳が分かります。

気候セント財団による建物改修プログラムは2009年に終了するため、現在2010年度からスタートする次の国家的省エネ改修プログラムが、州と国、産業の協力により準備中です。次期のプログラムでは、灯油に上乗せされているCO2税の収入から毎年約180億円ほどを用いて、8~10年ほどに渡り長期的に展開されていくと予測されています。

随分長話になりました。
話しは変わりますが、明日から二週間イギリスに庭園を見に行きます。そのため、8月末までブログをお休みさせて頂きます。
皆さんが、良い夏を過ごされますように!
 


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景気対策は省エネルギー対策② 省エネ改修 前半

2009-08-08 05:26:36 | 政策

スイスでは、以前より全国的な省エネ改修助成制度が実施されています。

実施主体は2つあって、1つ目はガソリン1ℓに1.5セント上乗された料金を収入源として二酸化炭素削減を行う気候セント財団です。同財団は国のエネルギー庁から依頼を受けて、一定以上のレベルの断熱強化改修を助成するプログラムを展開してきました。ただし、CO2削減が目的なので、対象となるのは石油暖房を行ってきた建物のみです。
対して、もう1つの実施主体である州は、気候セントの助成制度の対象とはならない、石油暖房以外の熱源をもつ建物の断熱改修や、ミネルギー・P(パッシブハウス)基準への改修、再生可能エネルギー熱源の助成を担当しています。


さて、一昨日お話した第二次景気対策で国は、2009年度の州の建物エネルギー分野への補助金予算を、省エネ改修の促進強化を目的として、100億フラン(90億円)追加しています。当初の予算は1400万フランでしたから、大幅な増強です。
「州の」というのは、スイスでは州が建物分野の政策を担当するからです。また「省エネ改修」が重要視されるのは、短い時期で、大量に実施できて、省エネ効果も、景気刺激効果も大きいからです。もちろん省エネ改修を促進する組織や制度がしっかりできていてこそ、補助金を素早く活用できます。

100億フランの利用途は以下の通りです。

●80億フランは、州への建物エネルギー分野の補助金予算として分配。州はこの予算を独自の補助プログラムに応じて使っていく。今年度の追加分は省エネ改修制度の強化にあてられる。ちなみに国から州へ出る補助金額と同額を、州も出資しなくてはならない。

●18億フランは施主の啓蒙、アドバイス費用として。具体的には、今年から導入された自発的な「建物エネルギーパス」(後日紹介します)の作成費を数量限定で、通常1200フランのところを1000フランに割引。この費用には特別な教育を受けた専門家による建物の診断、アドバイス、証明書の発行が含まれる。

●残りの2億フランは2010年度からの次の国家的な省エネ改修プログラムの準備に。

(参考文献:エネルギー庁プレスリリースwww.bfe.admin.ch

今回の景気対策では、10州がこの追加予算を用いて、省エネ改修助成制度を、期限限定で強化したい、と名乗りを上げました。これらの州では、国から得た追加予算を、気候セント基金と州による助成の両方を強化するために用いています。

各州が気候セント基金に払い込む額に応じて、その州のお施主さんには、通常の気候セント財団による助成額に一定%が割増、支払われます。また州の補助金利用者に対しても、同様の割増額での助成が行われます。
通常の気候セント財団による省エネ改修助成額は次の記事にまとめます。

 

 


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景気対策は省エネルギー対策① 

2009-08-06 21:50:10 | 政策

スイスでは、この春あたりから、道路がやたらに走り難くなったと感じていました。例年にない規模で、あちこちで道路工事が一斉に始まったからです。ははあ、これが景気対策というやつか、と苦笑しました。

このようなお決まりの対策と並んで、予算の中では決して華やかな存在ではありませんが、エネルギー対策もスイスの景気対策の大きな柱を成しています。この分野が国内の経済促進に効率良く繋がることが経験から知られており、また経済と気候・環境という大問題に対してダブルの効果を持つからです。

予算が追加されたエネルギー対策は、これまでにも州や国が促進してきたプログラムに含まれるものばかりです。既に促進体制が出来上がっている対策を強化するという形をとることで、速やかに省エネルギーと温暖化ガス削減、そして地域産業の促進に繋がっていくからです。
2009年度はこれまでに景気対策として2回の予算追加が議会に承認されました。2回の景気対策のうち、エネルギー関連の対策は以下の通りです。

● 第一次景気対策では、3.4億スイスフラン(約306億円)が年始に予算に追加されました。
そこから5000万フラン(約45億円)が公益集合住宅公団、建設組合など国や州から補助を受けて建てられる所得者の少ない住人向けの賃貸住宅の省エネ改修に用いられます。これにより、およそ1000世帯分の省エネ改修が助成されます。

例えば、古い躯体をスイスの省エネ建築基準である「ミネルギー」程度にリノベーションする場合、一世帯あたり10万フランの投資ならば、うち45000フランについて、最初の5年を無利子で、次の20年を低利子での融資を受けられるそうです。それにより、家賃を高騰させることなく、省エネ改修を行うことが可能になるという配慮です。(参考文献:スイス経済省プレスリリース)
スイスの公益集合住宅の数は26万世帯だそうですから、第一次景気対策による改修量は小さなものですが、あくまでもこれは、スイスが数年来力を入れて促進してきた省エネ改修キャンペーンの弱点補う対策として捉えるべきものです。

● 第二次景気対策では、3月に7.1億スイスフラン(639億円)の予算が追加されました。

そのうちの6000万フランを(約54億円)占める3つのエネルギー対策補助金は、大反響を呼び、申請開始後僅か10週間で予算が使い尽くされ終了しました。3つの対策とは:

①光発電パネル設置促進に2000万フラン 

スイスでは2008年に、ドイツ型に近い再生可能電力の固定価格買取制度がスタートしました。しかしドイツと異なるのは、各エネルギー源に予算上限が設けられている点で、その予算が光発電に対してだけ低く、予算不足が問題となっていました。光発電については3000件もの事業者が買取申請のウェイティングリストに載っていました。
その1部を今回の景気対策で吸収しようというのです。ですが、景気対策ではあくまでも設備コストに対する補助です。そしてこの補助を受けた人は、今後改善が予測される固定価格買取制度を利用することはできません。(グリーン証書の売買はできます。)
そういう条件の下、1500基の申請があり、うち1000基が実現されました。設置出力は1.3MWp、年間発電量は1300万kWhになります。一部の州でも現在の買取制度であぶれた光発電設置希望者たちを吸収する補助プログラムを実施しています。

②電気蓄熱暖房の再生可能熱源への交換促進に1000万フラン

電気の浪費源として悪名高い電気蓄熱暖房。チューリッヒ市では以前より新設が禁止されてきました。今年より、州が共同で作る建設模範法規にも、電気暖房の新築での利用禁止が取り入れられ、実際に9州では既に禁止、またはその準備中です。
このような背景の下、多くの州は既存の電気暖房を、ヒートポンプや木質バイオマス熱源に交換することを助成してきました。今回の景気対策では、その過程を加速するもので、1600件の応募のうち、1330件での交換が助成されました。あぶれた人は、州の促進プログラムで吸収していきます。
今回の交換で年間約5000世帯分の電力消費量が節約されます。ちなみにキャンペーン中には、空気ヒートポンプへの交換だと3300フラン、地熱または地下水ヒートポンプには8000フラン、木質バイオマスボイラーには7300フランが助成されます。

③排熱または再生可能熱源を用いた地域暖房網プロジェクトに3000万フラン

熱源の80%以上を再生可能エネルギーまたは排熱で供給するタイプのプロジェクトが対象となります。この手のプロジェクトも多く進行中ですから、83ものプロジェクトが申請を行い、うち24プロジェクトが助成を受けました。灯油消費量では年間2万トンの節約につながります。


これら三つの景気対策による経済的な効果の方はというと、現段階ではあくまでも予測ですが、6000万フランの助成で市場に少なくとも3億フランの投資が誘発されるという見込みです。(参考文献:スイスエネルギー庁のプレスリリース)

いづれも部分だけを見ると焼け石に水という感じですが、省エネ対策を加速するきっかけ作りとして有意義です。また、いかに多くのプロジェクトが検討段階にあり、補助を受ける機会さえあれば実現できる状態で待ち構えているかが感じられます。もちろん①については、あくまでも対処療法的な策であり、根本からの解決には現在の再生可能電力への固定価格買取制度の改善を急ぐしかありません。

第二次景気対策では、これらとは別途に1億フランの予算(90億円)により、スイスのエネルギー政策の本命である省エネ改修プログラムの強化が行われていますが、これについては次回にご紹介します。


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11月6~8日は「国際パッシブハウスの日」

2009-08-05 15:35:23 | 建築

今日も引き続き、パッシブハウス基準関連のお知らせです。

1168日は「国際パッシブハウスの日」です。
ドイツやスイスでは、全国各地でパッシブハウス基準の建物のオープンドアデイが一斉開催されます。

各国のパッシブハウス振興会(IG Passivhaus)がオーガナイズしているイベントで、この会はパッシブハウスに携わる設計者や設備、建材や建設関係の企業がメンバーとなっている民間組織で、各地域ごとの部会から成ります。

スイスでは半官半民の省エネ認証制度ミネルギー連盟とパッシブハウス振興会が共同で、スイスのパッシブハウス基準である「ミネルギー・P・ハウス」のオープンドアデイを 1178日に開催します。75戸の実際に住んでいる住宅が解放される予定です。

目的は、広範囲な人々に地域の最寄のミネルギーPハウスを気軽に体験してもらって、お施主さんの体験や感想を聞き、その造りや機能、快適性を確かめてもらうこと。最寄の見学できる家はこんな風にインターネットの地図からも探せるようになっています。
http://www.toft.ch/

私も昨年のオープンドアデイで、私の住む村の医者K氏が建てたパッシブハウスを見学させてもらいました。パッシブハウス基準の躯体を光発電パネルとソーラー温水器、地熱ヒートポンプの組み合わせにより、通年するとエネルギー自給型の住宅でした。(素人の私には高価な地熱ヒートポンプは設備過剰に見えましたが。)お施主さんが、設計者がパッシブハウス研究会のアドバイスを受けながら設計を進めていった様子などを話してくれました。
その時に、私の住む農家の大家のおばあちゃんも一緒に行ったのですが、見学後、保守的な彼女が「新築するならこういう建て方が当たり前にならなくっちゃね」と言ったのには驚きました。

(写真:木造のK邸の外観と三層断熱ガラスによる大きな窓面のある明るい居間)

   

近い将来、日本が国際パッシブハウスデイに参加する日を楽しみにしています!

 

 


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英語による10日間のパッシブハウス設計講座開催!~2009年11月オーストリア

2009-08-03 17:37:47 | 建築

今日はパッシブハウスに関するお知らせです。
「パッシブハウス」はヨーロッパの建物の次世代省エネ基準であり、スイスやオーストリアでも近年驚くべきスピードで普及してきています。パッシブハウス基準については、日本の建築家である森みわさんのページに詳細な説明がありますのでご参照下さい。
http://www.key-architects.com/passive.html

さて先日、ビオシティ誌次号に寄稿する記事のために、中央ヨーロッパでのパッシブハウス普及のメッカの1つである、フォーアールベルグ州のエネルギー研究所を取材しました。その時に知ったことなのですが、建築関係者の教育に熱心な同研究所の主催で、11月に英語によるパッシブハウスの設計講座が開催されます。5日間×2ブロック、計10日間の集中講義で、終了後には希望者が多ければ、パッシブハウス研究所登録プランナーもしくは登録コンサルタントの試験も受けられるそうです。

コース日程:2009年11月9~13日と23~27日の計10日間
受講料:1990ユーロ
開講場所:フォーアールベルグ州ドルンビルン市にある応用科学大学
コースの英語説明と受付は以下のサイトで見られます。
http://www.energieinstitut.at/?sID=2944

同研究所は90年の初頭から、ドイツのパッシブハウス研究所のパートナーとして、オーストリアでのパッシブハウス普及を進めてきました。講師は研究所のパッシブハウス担当者で建築教授のヘルムート・クラップマイヤーさんを筆頭とする経験者たちです。この地域は建築的にも興味深いパッシブハウスや関連産業が山ほどありますので、事例見学には事欠きません。英語に自身のある日本の建築家の皆さん、参加されてみてはいかがでしょうか?

日本でもパッシブハウス研究所の認定を受けた住宅が、森みわさんという若手建築家により実現され、本も出版された、と知人から聞きました。素晴らしい快挙です。
http://www.key-architects.com/index.htm
今後日本にも、「日本のパッシブハウス」の普及の時代が到来するものと確信しています。そのためには行政、産業、教育、啓蒙、各方面での促進活動が必要ですが、中でも設計者の教育は最も重要な基礎体力づくりだと思います。 



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