滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

晴耕雨読とまでは行きませんが・・

2015-07-28 09:00:57 | その他

大変ご無沙汰しております。気が付けば、ブナの新緑や菜の花の季節も、貧養性牧草地がお花畑になる季節も、輝くような向日葵畑も、異常なまでの猛暑だった7月も終わろうとしています・・。この7月は標高840mの我が家ですら、外は連日30度~35度の暑さが続きました。冷房のないスイスの住居では、夜間冷却と日射遮蔽だけではそろそろ限界かも・・と思った頃にようやく気温が下がってくれました。ベルンの知人の古民家では室温が29度にもなったそうですが、パッシブハウス改修した別の知人の働くオフィスでは冷房なしで快適に過ごせたそうです。

春から夏にかけては環境の仕事や毎年の一時帰国と並行して造園の仕事が忙しくなる季節ですが、ブログを更新する時間が全く作れなくなってしまったのは、新住居での菜園作りが始まったためです。スイスに住むようになって以来、3.11前までは多かれ少なかれ菜園を続けてきたのですが、適した土地がなくなったことと、仕事が忙しくなったことを理由に、ここ数年は休んでいました。しかし、食物の一部は自分で作りたいという私たちの想いは強く、そのためにも昨年末にスィブリンゲン村の集落に引っ越しました。というのも大家さんが400平米の菜園用の土地を提供して下さったからです。

しかし、その土地は30年来ほとんど耕されることなく放置され、灌木や雑草が生い茂る大変な状態でした。しかも、ランデン山の土地は半端でなく石ころだらけで、痩せていて、気長に土作りから始めなければいけません。3月に雪が解けて以来、機械を入れて土地を整備し、手作業で作付面と作業道を整え、種を播き、苗を植え、寒冷地のためトマトハウスを建て・・。まだまだベリー類や観賞用のボーダーは手つかずですが、少しは菜園らしい趣となりました(下写真)。早くもサラダ類やかぶ、葉物、トマト、きゅうり、いんげん、ハーブ類などの収穫はできるようになり、自然の恵みに感謝です。


これまでスイスで使わせて頂いてきた菜園の土地は、いづれも長年他の方が使ってきた菜園を、健康や加齢、時間的な理由から譲って頂いたものでした。ですので既に形が出来上がっており、雑草もあまりなく、土も肥えていました。対して今回の土地では、開墾作業にも近い体験をして、何事もそうですが、一から始める大変さを身に染みて思い知りました。「先祖(あるいは先人)代々耕してきた土地」という表現は日本で良く聞きますが、そうではない土地を耕すことで、この言葉の表す有難さの意味をこれまでになく具体的に感じました。

ただ、これまでの菜園と比べて有利な側面もあります。この集落の農地では、古くから有機農業(バイオダイナミック農法)が行われています。そのおかげもあり、益虫や野鳥が以前の菜園でよりもずっと多く見られます。そういった意味で、周辺の農家の営みの恩恵も受けています。

直接民主主義の落とし穴・・

前回のブログでは、シャフハウゼン州の建設法改訂に関する住民投票について報告しました。電気代に0.8ラッペン(1円程度)というごく僅かな環境課徴金に上乗せすることで、州の省エネ改修助成のための予算を作る案でした。政府も議会も賛成したこの案ですが、住民投票では残念ながら否決されました。原発推進勢力による大々的な反対のポスターキャンペーンが行われましたが、賛成派も健闘していたように思われたので、私にとっては否決は意外な結果でした。

その後、賛成派の委員会で活動する知人より、WWFスイスがシャフハウゼン州での投票結果に関して、住民の投票行動を広範囲にアンケート調査した結果を聞きました(調査は非公開)。その結果は驚くべきことなのですが、投票した人の7割が、投票3週間後には何についての投票だったのか覚えていなかったというのです。結論は、シャフハウゼン州の住民は、投票内容が良く分からない場合や、あまり興味のない場合には、とにかく「ノー」と投票するということです。とりあえず「ノー」と言っておけば、少なくとも現状維持は確保できるからです。

上記の賛成派の委員会で活動していた知人曰く、こういった傾向を強化しているのが、スイスで唯一シャフハウゼン州で導入されている投票義務だそうです。住民は、住民投票や選挙にあたり、投票を行わない場合には、自治体の役場に自ら投票用紙を返還しに行かねばなりません(返還しない場合には罰金がかかります)。投票用紙を返還する時間があるなら、普通の人は投票します。このように投票が間接的に義務化されていると、上記のように「とりあえずノー」という投票行動に繋がるのだそうです。

直接民主制では、一人一人の有権者が、賛成・反対派の錯綜する情報キャンペーンの中から、投票のテーマである法案やプロジェクトについて自分で考えて、判断し、意見を決めることが欠かせません。しかし、誰もが全てのテーマに興味を持つことは難しく、また期待できないのが現状です。こういった経験から、シャフハウゼン州の投票義務には、意外にもネガティブな側面があることを初めて知りました。

このようにシャフハウゼン州では否決されてしまった環境課徴金ですが、6月にはお隣のトゥールガウ州でも環境課徴金を10年間限定で電力に上乗せし、その収入を電力分野での省エネ化とデマンドマネジメント、再エネ促進に用いる法案が州議会によって決定されました。省エネする企業には課徴金が減免、あるいは課徴金が還付される仕組みだそうです。現在、トゥールガウ州以外のいくつかの州でも、このような電力への環境課徴金の導入が準備されています。

国レベルでは、スイスの脱原発と脱化石エネルギーの長期的な戦略であるエネルギー戦略2050が、まだまだ審議中です。この春から上院の環境・都市計画・エネルギー委員会(UREK-S)で意見をまとめているところで、順調に進めば、9月には上院の決議に持ち込まれます。上院では州の声が反映されますが、スイスの場合、州たちが原発を運転する大手電力の所有者です。ですので、10月中旬の総選挙を前にして上院でどのような決議が下されるのか、下院が示した再エネと省エネ推進のための骨太な目標や対策がどの程度受け継がれるのか、やや心配なところです。


 ■ 最近の執筆

ビオシティ誌62号「欧州中部のビオホテル探訪(最終回)」
ビオシティ誌で、3年程続けてきたビオホテル連載が最終回を迎えました。最終回は「地域の農業と観光をエコロジー化するパイオニア経営者の協同体」というタイトルです。是非ご覧になって見てください。ちなみにビオシティ誌62号(ブックエンド社)は再生可能エネルギーの特集号になっています。下記リンクから注文することができます。
リンク: http://bookend.co.jp/?p=379

 
新エネルギー新聞連載
新エネルギー新聞(新農林社)に昨年より毎月ニュース記事を寄稿しています。最近の記事は下記の通り。
・25号「ドイツ:太陽光、成長する自己消費向けビジネス」
・27号「オーストリア:鉄道架線に太陽光電力~電車の動力として自己消費」
・29号「ドイツ:ミュンヘン都市公社~全世帯の電力消費量を自社再エネで生産」
バックナンバーは、下記リンクから注文することができます。
リンク:http://www.shin-norin.co.jp/shop/60_4998.html
           

ソーラーコンプレックス社ニュースレター日本語版 2015年2号
ミット・エナジー・ヴィジョン社ではソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版翻訳に協力しています。下記リンクから日本語のニュースレターをダウンロードできます。http://48787.seu1.cleverreach.com/m/5943192/  


■ ミット・エナジー・ヴィジョン社による中欧視察セミナー開催のお知らせ

滝川薫が共同代表を務めるミット・エナジー・ヴィジョン社では、2015年11月1日~7日にドイツ・スイスでの再生可能エネルギーと省エネルギーをテーマとした、恒例の合同視察セミナーを開催します。プログラムや詳細は、下記リンクからご覧ください。
http://www.mit-energy-vision.com/


ニュースより

●買取制度の課徴金がkWhあたり1.3ラッペンに

2016年から再生可能エネルギーと水系再自然化の推進のために電力料金に上のせされる課徴金額を、kWhあたり1.1ラッペンから1.3ラッペンに値上げすることを内閣が決定した。値上げの理由には、再生可能エネルギーによる発電設備の増加やヨーロッパの電力市場価格の低迷がある。電力消費量が4500kWh の4人家族の世帯では、一年の課徴金額は来年から58.5スイスフランとなる。

スイスの場合、課徴金からの収入は、再生可能エネルギーからの電力の買い取りだけでなく、買取制度の対象外である小型太陽光への助成金、入札式の省エネ助成、地熱プロジェクトへのリスク補償金、省エネを行う大型消費者への減免金、そして水系再自然化の推進に用いられている。

2016年の課徴金収入は8億6400万スイスフランに上るが、用途の内訳では固定価格買取りに5億6400万スイスフラン、小型太陽光助成に1000万スイスフラン、省エネコンペに4100万スイスフラン、大型消費企業への減免に3200万(2015年の2倍!)、水系再自然化に5900スイスフランを占めている。

スイスのエネルギー法では課徴金額に上限が設けられており、現在最大でkWhあたり1.5ラッペンまでとされている。この上限により2008年以来、慢性的な買取待ちのウェイティングリストが生じており、今年7月上旬でリストは4万件の長さに及んでいる。ちなみに、これまでの買取申込み総数は6.2万件である。

ウェイティングリスト解消のために、今年からは小規模太陽光には「買取制度」ではなく、初期投資の3割を助成金する制度が導入され、これまでに約5400件が利用している。10kW以下の設備にはこの選択肢しかなく、10~30kWの設備は「買取」か「助成金」かを選択できる。初期投資への助成金を選ぶ場合、余剰電力は地域の電力会社が適切な市場価格で買いとることになる。だが、実際には大手電力が極度に安価な価格でしか買い取ってくれないといった問題が生じている。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース、KEV財団、Swissolar連盟

 

●ベルン電力:原発会社が地域暖房・熱源会社へ?

スイスで原発を運転する3つの大手電力の中で、唯一、ベルン電力(BKW)のみが脱原発のスケジュールを決定、公表している。同社は、脱原発の決定を機に、新しいエネルギーサービス企業への脱皮を目指して奮闘している。
その一環として、ベルン電力はスイス各地で、再生可能エネルギーに強い中小の熱源・暖房設備分野での設計・施工会社を次々に買収している。現在までに13社をグループ化し、従業員数は合わせると昨年末で200人、売上は6000万スイスフランにのぼる。さらには地域暖房にも進出しており、今年の春にはベルン近郊の自治体で800世帯に熱供給を行う木質バイオマスによる地域暖房網の建設をスタートした。
ベルン電力が地域の堅実な技術を持った中小企業を買収していく様子は不気味でもあるが、これまでの大手電力にはできなかった、きめ細かな地域密着のエネルギーサービスを展開していくための足場を固めようとしているようだ。
ベルン電力は7月中旬に、原発を運転する大手電力3社から成る協会Swisselectricを退会する旨を発表した。それにより原発保持路線を行く他2社と異なり、発電事業者ではなく、エネルギーサービス事業者、送配電事業者としての企業戦略に集中する姿勢をさらに明確にしている。
参照:スイスソーラーニュースレター、BKW社プレスリリース

 


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