滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン州で電力環境税の導入が決定

2010-03-25 16:25:17 | 政策
スイスのベルン州は2035年までに建物ストックのエネルギー消費量を-20%し、暖房・給湯エネルギーの70%、電力の80%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指しており、その目標を達成するための新しいエネルギー法案がここ数年、議論され続けてきました。

そして先週、ベルン州の議会はようやく新しいエネルギー法案の目玉である電力環境税と建物エネルギー性能表示の義務化を可決しました。ただし、注目されていたエネルギ性能表示で最下ランクの建物に省エネ改修を義務付ける項目については見送られています。

今回可決された電力環境税は、スイスではこれまでにバーゼル・シュタット州でしか導入されていません。とはいっても、ベルン州の電力環境税はバーゼル・シュタット州のそれとは制度がやや異なり、以下の特徴があります。(バーゼル・シュタット州の電力環境税については拙著「サステイナブル・スイス」に詳しく紹介していますので、そちらをご参照下さい。)

・電力料金に1kWhあたり0.5~1.0セントを15年間に渡り上乗せする。一世帯一ヶ月5フラン程度の負担(430円程度)。 
・州はそこから年17~34億円の収入が得られる。その収入は、州が建物の省エネ改修を助成する費用として用いられる
・電力消費量の多い企業への対策として、税額は最大で年1000フラン(8.5万円)、課税対象消費量は10万kWhまでとする。

このようにベルン州の電力環境税は、建物の省エネ改修の促進費用に使うのが特徴です。それにより地域の建設産業に340億円の投資が見込まれるため、過半数を得ることができたのかもしれません。ちなみに、スイスの電力には、別途に再生可能電力の固定価格買取制度のための料金も上乗せされています。また、国家的には今後10年間に渡る省エネ改修の助成プログラムが実施されており、その財源として 灯油へのCO2税が用いられています。

今回可決されたもう1つの項目である建物のエネルギー性能表示については、建物の断熱基準が厳しくなる1990年前に建てられた全ての建物の持ち主に対して、10年以内に作成することを義務付け、守らない場合は罰金が科せられるというものです。割合と長い猶予期間を設けているので驚きました。

建物のエネルギー性能表示は、躯体の断熱性能と総エネルギー消費量(一次エネルギー)を示し、A~Gクラスにランキングしたものです。エネルギー性能表示を発行できるのは、州に登録された専門家だけで、価格は450~800フラン(4~7.2万円)。この資格を持っている専門家にとっては、結構な収入源になります。建物のエネルギー性能表示は全国的には昨年8月に導入されましたが、義務付けているのはまだ一部の州だけです。

このように長年の議論の末に導入に漕ぎ着けた、ベルン州の電力環境税と建物のエネルギー表示義務化ですが、早くもベルン州のコンサバなスイス国民党と持ち家主協会が、署名を集めて、住民投票を求めるレファレンダムを起こすことを発表しています。昨年、省エネ改修の義務化を実施した後、すぐにレファレンダムによる住民投票で否決されてしまったニューシャテル州の事例が思い起こされます。

3歩進んで2歩下がるではありませんが、進歩的なエネルギー政策に関しては、直接民主制は亀の歩みという側面も持っています。しかし、ベルン州の電力価格への上乗せ額は僅かですし、税金の用途が持ち家主にも賃貸人にも、建設業界にとっても利益のある分野であるため、住人投票でも可決される可能性は少なくないと思われます。さらには、ベルン州の決定が他の州のエネルギー法案にも影響を及ぼしていくことが期待されます。

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パッシブハウス、ミネルギー・Pに宿泊してみませんか?

2010-03-17 15:21:57 | 建築

 先日、那須に住む妹と電話で話しをしました。彼女は秋に感じの良い新築の賃貸住宅に越したばかりなのですが、なんとこの冬、ストーブのスイッチを入れると室温が3度とか4度とか表示されることが普通にあったといいます。決して安アパートなどではないのですが。これでは仕事で疲れて家に帰ってきても寒くて気がめいります。こんな建て方が新築でまだ許されるなんて、日本では消費者があまりにも守られていなさ過ぎる、と怒りを感じました。で、やっぱり将来は暖かい地方に越したいという妹に、那須地方でも家の建て方さえしっかりしてれば、僅かな暖房で天地の差のように快適になるんだと伝えたのですが、あんまりピンと来なかったようです。

スイスでも、いくら言葉でパッシブハウスやミネルギー・Pの快適性を説明したところで、百聞は一見にしかず、試しに滞在してみるのが一番です(パッシブハウスはドイツの、ミネルギー・Pはスイスのレベルの高い省エネ建築の基準です)。理想的には各自治体の庁舎や学校といった公共建築がパッシブハウスやミネルギー・Pレベルで建てられていて、子供や大人の誰もが日常的に、コンフォート換気の空気の良さや温熱環境の快適性を肌で感じることです。

でも、それはスイスでもまだまだ先の話。各地域に1軒くらいミネルギー・Pの家やらオフィスやらはありますが、誰もがその環境を体験できるわけではありません。そのため、スイスパッシブハウス振興会では、パッシブハウスやミネルギー・Pの住宅を体験できる宿泊施設「お試し住い」モデルを、これまでにスイスの二箇所で実現しています。

「お試し住い」の1つは東スイスの山間のウンターヴァッサー村(Unterwasser)にあるミネルギー・P認証を受けた一戸建ての貸別荘。パッシブハウス振興会の会員が共同出資して建て、運営しています。標高は920m。冬はスキー、夏はハイキングやマウンテンバイクをゆっくりと滞在しながら楽しむのに適した地域です。チューリッヒから電車とバスを乗り継いでもいくと2時間強。5.5室住居と1.5室住居の二種類があります。オンライン予約が可能な以下のサイトでは、平面図や写真が見られます。
★ミネルギー・Pの貸別荘 'Probewohnen'
http://www.probewohnen.ch/plaene.html

「お試し住い」の2つ目は、ライン河を望む風光明媚なシュタインアムライン町にあるB&B(ベッド&ブレックファスト)'Schlafen am Rhein'です。新興住宅地の中にあり、ミネルギー・P認証を受けた木造一戸建ての一室を客室としています。2007年にオープンしたこの宿を営むのはベアトリス&ペーター・スペシャ夫妻。とても親切なご夫妻で、心の篭ったおもてなしが受けられます。ご主人がエコセンターの研究員であるほどですから、建材にも粘土壁やセルロースといった環境と健康に優しいものが選ばれています。オンライン予約可、一泊朝食付きで1人60フランです。自転車の貸し出しも行なっています。宿のホームページでは、竣工までの写真やデータが見られます。
★ミネルギー・PのB&B 'Schlafen am Rhein' (下記は建物施工の写真)
http://www.schlafenamrhein.ch/index.php?option=com_ponygallery&Itemid=41&func=viewcategory&catid=30


また、このモデルとは別に、ミネルギー・P基準やミネルギー基準で建てられている普通の宿泊施設もあります。そのホットスポットと言えるのが観光地のツェルマットで、3つのミネルギーの宿があります。

1つ目は2009年春にオープンしたホテル&レストランのグレーシャーパラダイス。ミネルギー・P認証を受けています。ロープウェイで行かれる標高3883mのクラインマッターホルン展望台の麓にあります。山小屋式の宿泊施設ですが、現代の快適性を備えたモダンな木造建築です。ファザード材として用いられた光発電パネルで生産した電力で、年間収支では暖房・給湯・換気のエネルギーを自給しています。こちらは山頂とはいえ、電線が通じているため、足りない時には電力網からエネルギーを引き出すことができます。
★ミネルギー・Pのホテル&レストラン「グレーシャーパラダイス」
http://www.matterhornparadise.ch/de/page.cfm/aufenthalt/unterkunft/berghuetten

2つ目は2010年3月に一般営業を開始しはじめたばかりのミネルギー・Pの山小屋、モンテローザヒュッテです。標高2883m、写真で見ると氷河を見下ろす絶景。アルミニウムファザードに覆われた水晶のような形の建築デザインも面白いです。写真は下記サイトで見られます。
http://www.tagesanzeiger.ch/zuerich/stadt/Einblicke-in-die-neue-MonteRosaHuette/story/11227378

このヒュッテで特別なのは、電力網から切り離された状況で、ソーラーエネルギーだけで90%の自給自足をするコンセプトです。ベッド数は120床という規模で、レストランもシャワーもある快適な施設です。やはり木造建築で、ファザード材に光発電パネルを使い、敷地にソーラー温水器を設置しています。発電した電気はバッテリーに溜め、昼も夜も使えるようにし、非常時用にはコージェネ設備が設置されています。ソーラー温水器で作ったお湯は、給湯のほか、換気の空気を暖めるのにも使います。上水は、夏の間に融水をひいて地下に溜めておきます。下水は建物内で浄化し、水洗トイレに使います。10%自給していない分は調理用のガスです。

モンテローザヒュッテでは、エネルギー利用効率を上げるためにチューリッヒ工科大学で開発したエネルギーマネジメントソフトを使っています。現在の天候、天気予報、予約状況、建物でのエネルギー利用状況から、最も適した設備の運転モードを制御するソフトウェアだそうで、これを用いてヒュッテの設備をチューリヒから遠隔操作で管理しています。
★省エネ&モダン山小屋Monte Rosa Hütte, 3~9月までオープン
http://www.section-monte-rosa.ch/cabanes_4.htm

ツェルマットの宿泊施設の三つ目は、ユースホステルです。ミネルギー・Pよりも省エネ性能はやや劣りますが、普及型の省エネ建築ミネルギー基準の認証を2004年に受けています。 サイトでは写真が沢山見られます。
★Zermattのミネルギー基準のユース
http://www.jugendherberge.ch/imagegallery.html?&tx_gooffotoboek_pi1[srcdir]=ZER_Zermatt&cHash=c9300d1e91

スイスのユースホステル協会は、環境・温暖化対策として、ミネルギー建築やCO2オフセット、再生可能エネルギー利用に積極的に取り組んでいます。ツェルマット以外にも、ミネルギーやミネルギー・エコ(環境と健康に害のない建材を使ったミネルギー建築)のユースホステルがありますので、予算の少ない旅でも是非お試しあれです。

★Valbellaにあるミネルギー・エコ基準のユース
 
http://www.jugendherberge.ch/imagegallery.html?&tx_gooffotoboek_pi1[srcdir]=VAL_Valbella&cHash=9bd07d273b

★Scuolにあるミネルギー・エコ基準のユース
http://www.jugendherberge.ch/imagegallery.html?&tx_gooffotoboek_pi1[srcdir]=SCU_Scuol&cHash=d1d7884686

ユースホステル協会に登録しているユースでは、ゲストは予約時に宿泊により生じるCO2をオフセットすることができます。オフセットはスイスの非営利オフセット団体「マイクライメート」が行なっています。また2009年からは、全てのユースで100%再生可能な電力が購入されているというから驚きです。

その他にも、スイスには数々の楽しいミネルギーのホテルやエコホテルがありますが、それはまた別の機会にご紹介しましょう。


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スイスの放射性廃棄物の最終処分地候補

2010-03-14 04:31:50 | その他

2月末、エネルギー庁から、放射性廃棄物の最終処分場の6つの候補地について適性が証明されたというプレスリリースが届きました。より正確に言うと、スイスの連邦原子力安全監督局は、放射性廃棄物の最終処分地の実現と運営に責任を負う組織Nagra(放射性廃棄物管理のための全国組合で、原発所有会社から成る)が2008年に提案した6箇所の候補地を検査し、それらが人間と環境に長期間にわたり害がないように、適切な手法で選択されていることを認めたそうです。

6つの候補地域とは、南部ランデン(シャフハウゼン州)、ツュールヒャー・ワインランド(チューリヒとトゥールガウ州)、北部レーガルン山(チューリヒとアールガウ州)、ベュッツベルグ(アールガウ州)、ユラ山脈南麓(ソロトゥルン、アールガウ州)、ヴェレンベルグ(ニドヴァルデン、オブヴァルデン州)。この中から一箇所ずつ、弱~中放射性廃棄物の処分地と高放射性廃棄物の処分地に選ばれます。2011年までに1種の処分地につき二箇所の候補地に絞り、2014~2018年の間にさらに調査を深めた後、最終的な立地が選出される計画です。

高放射性廃棄物の候補地は3箇所、ツュールヒャー・ワインランド地方、北部レーガルン山、ベュッツベルグです。いづれの地域も、高放射性廃棄物の保管に最も適していると考えられているオパリヌス粘土層という海底堆積物から生じた地層があります。しかし、ターゲス・アンツァイガー誌は、連邦原子力安全監督局が、Nagraが考えている構造や保存方法では地下900mで構造的に1万年耐えうるか困難があると予測していることも伝えています。

最終処分地の問題はスイスでも長く、これまでのところ解決不可能のように思われます。Nagraは1972年に設立され、当時は国から原発運転の条件として1985年までに安全な廃棄物処分コンセプトの提出を求められていました。が、未だもって安全な方法も、立地も決まっていません。

その間、様々な紆余曲折や住民の反対運動や投票があり、ついには原子力法が改訂されて、国が安全性の側面から選出した処分地については、(直接民主制のスイスですら)地元の拒否権は認められなくなりました。国民投票での結果は有効ですが、地方の住民投票は効力がありません。国も必死で、2007年からエネルギー庁は、2014~2017年の間に候補地を絞り、今世紀中ごろまでに処分場の運転に漕ぎ着けるために、地層処分のコンセプト案に関して広範囲な諮問に乗り出し、今日に到っています。

環境団体スイスエネルギー基金はプレスリリースで、Nagraが考える地層処分には、梱包容器の素材、保存方法、また浸水防止対策など、未解決な問題が多すぎると指摘します。何といっても最も困難なのは100万年(放射し続けるゴミ)という時間軸。1万年後にはスイスやその言葉が存在するかも分かりません。それをどのように「監視し続け、いつでも回収できるようにし、位置を印付け、抗争や、地震や氷河期といった自然現象から守るのか。」

同団体は、ドイツの処分地AsseⅡの事故に学んで、今最適と思われている方法が間違いである場合に、いつでもゴミを問題なく回収できるような管理方法を要求しています。ASSEⅡでは、12.6万の放射性廃棄物の缶が埋められた処分地が浸水し、陥没の恐れにさらされており、2012年までに37億ユーロをかけて廃棄物を回収しなくてはなりません。その中には28kgのプルトニウムも含まれているそうです。

また「エネルギー&環境」誌の最新号では、オパリヌス粘土層への処分地の実施性について研究する、ユラ地方のモンテ・テッリ・プロジェクトが紹介されています。例えば、オパリヌ粘土層はアルカリ性のコンクリートと相性が悪く、それにより粘土層の性質が変わってしまうので、オパリヌ粘土層と相性の良いコンクリートを探す実験や、コンクリートを使わない建設手法などが研究されているそうですが、答えは出ていません。今のところ絶対に安全な最終処分の方法はまだ見つかっていない、ということです。

昨年末、スイスドイツ語ラジオDRS2の科学番組では、旧東ドイツのルブミン(Lubmin)にある廃炉原発の解体の様子が放送されました。75~90年に運転された原発5基の解体という巨大プロジェクトです。解体を行なうのはエネルギーヴェルケ・ノルド社という国の所有する原発解体の専門会社。細かに裁断された放射性廃棄物は中間保存庫に移され、2015年以降最終処分地に移される予定です。解体作業は1994年から始まりましたがが、今もフルで作業が進められています。

放送によると、圧力容器の解体は特に難しく、放射線を遮る水の中で遠隔裁断できるような作業室が原子炉の横に建設されています。またいくつかの圧力容器は放射能が強すぎるので、解体できるようになるまで50~70年も放置しなくてはならないといいます。そこまで放射線が強くない蒸気ボイラーでも、別室からの遠隔作業で小さく切断できるような装備が作られ、1個を解体するのに6ヶ月もかかるとか。原発一基の解体からの廃棄物の量は1500㎥、費用は7億5000万フラン(約640億円)、気が遠くなりました。

原子力から(おそらく)ほとんど何の恩恵も受けない未来に生きる世代が、私たちの世代が出した危険な毒ゴミの解体や監視を続け、その資金を払い、もしも今日の処分方法が適切でない場合にはそれを回収しなくてはならないというのは、なんと倫理に反したことでしょう。スイスでも、日本でも、安全な処分方法が見つからない以上、捨て場のないゴミを増やし続ける原発を新設しようとするのは無責任です。


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ミューレベルグ原発周辺の放射能汚染

2010-03-09 15:55:34 | その他

人口密度の高いスイスには5つの原発が、割合と集落や町のすぐ近くに建っています。うち首都ベルンから20kmほど西に離れたベルン州のミューレベルグ原発は38歳という高齢原発。昨年末に閣僚は、この原発に無期限運転許可を与えました。1990年代に発見された炉心シュラウドの亀裂が長さ1m以上に成長しているにも関わらず。そして周辺の州が住民投票で反対意志を表明したにも関わらず。2020頃に寿命付きる予定です。

ドイツのクリュンメル原発やイギリスのセラフィールド再処理工場の周辺で癌や白血病の患者が多いのは良く聞くことですが、2009年5月にはミューレベルグ原発でも、風下地域の集落で平均以上に癌や白血病が多いという地元住人の調査結果がニュースになりました。そして、しばらくすると忘れられました。

なぜ住民による調査かというと、公の調査が行われていないからに他なりません。スイスには癌患者登録簿が存在し、26州中14州が参加しており、地域にすると450万人分、人口の62%が把握されています。しかし不思議なことに、原発の立地する3州(アールガウ、ベルン、ソロトゥン)はこの登録簿に参加していないのです。子供の癌については、2007年より全国的な登録簿が導入されています。

原発からの距離と子供の癌の頻度の関連性を証明した科学的な研究としては、2007年末に発表されたドイツの放射線保護庁の依頼によるマインツァー疫学研究所の報告書(KiKK報告書)が記憶に新しいものです。その結果は、原発に近ければ近いほど、子供が癌・白血病になる割合は高くなり、50km離れていても依然としてその割合は高い、また5km以下だと幼児の場合、白血病の割合が倍になる、ということを示しています。ドイツにある全ての原発立地場所に関して言えることで、原発周辺では明確な罹患頻度の向上が確認されました。このテーマに関しては、世界で最も厳密かつ手の込んだ科学的調査であると評価されており、スイスでも1時センセーションを呼び起こしました。

ただし同報告書では、原子力発電所と子供の癌の因果関係は証明されていません。それは原子力発電所から周辺地域に排出される放射線量が許容値よりも低いためです。といってもこの許容値は、大人の男性に害がないとされるレベルに設定されているのだそうです。そのため、医師からなる反原発団体IPPNWドイツ支部(核戦争防止国際医師会議、社会的責任医師会)は、放射線の許容値を胎児に害のないレベルに合わせることを国会に請願するための署名を集めています。

興味深いのは低放射線量の危険性を説くPetkau効果について、メディアやインターネットではほとんど取り上げられていない点です。1972年にカナダのアブラハム・ぺトゥカウ博士はHealth Physics誌の論文の中で、低量の放射線に長期に渡って晒されるほうが、比較的高い放射線量に短時間晒されるよりも、人工皮膜への害が大きいと発表しました。この効果はその後、スイス国内外で、いくつもの研究や動物実験で実証されているそうですが、科学的にも社会的にも無視されているようです。

また原発周辺では、昆虫に奇形の頻度が高いことが、科学画家のコルネリア・ヘッセ・ホネッガー女史により報告されています。女史は18年来、スイスや世界の原発周辺や放射線汚染地の昆虫のフィールドワークから、これらの地域に共通する奇形を持つ昆虫が多いという調査報告を行ってきました。ですが、国内では批判的話題になるものの、このテーマについてフィールドワークを行おうという生物学者もいなければ、同じような条件下で反対を証明する研究も行われてこなかったというのは奇妙なことです。

話をミューレベルグ原発に戻しますと、昨2月中旬には、スイスの健康雑誌Gesundheittippが、ミューレベルグ原発の冷却水であるアーレ川の堆積物や周辺の雪を調査し、他の地域よりもコバルト-60やトリチウムの汚染が明らかに強いという結果を発表して、再び少し話題になりました。コバルト-60の場合、原発上流の川の堆積物は0.1ベクレルが計測されたのに対し、下流の堆積物は5.4ベクレルでした。またトリチウムはチューリッヒ市では4.4ベクレルであるのに対し、原発周辺では15ベクレルが計測されたそうです。同原発を運営するベルン州電力は、トリチウムは原発から発生したものではなく、またコバルト-60もこのような微量では人体に全く害はないと、Der Bund誌にコメントしています。

同誌によると2008年の健康庁の年間報告書にも、ミューレベルグ原発とライブシュタット原発の施設周辺では直接放射能が確認されたが、許容値以下なので健康に被害はない、とあるそうです。しかし国としてそう言い切るならば、原発の立地州に癌患者の登録簿を作成させるくらいはして欲しいものです。そのあたりにも原発産業が、政治を牛耳っているスイスの構造が見えます。


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ソーラーボートで世界一周プロジェクトPlanetSolar

2010-03-07 04:19:45 | 交通
スイスではこの数年来、ソーラーエネルギー時代への移行を加速し、光発電技術の成熟を世の中に証明するために、何人かの冒険家が「世界初」のプロジェクト実現に尽力しています。

例えば、ソーラー飛行機で世界一周するプロジェクトのソーラーインパルス(Solar Impulse)。飛行機に組み込まれた光発電パネルからの電力をバッテリーに充電し、昼も夜もソーラー電力だけで飛行します。現在、飛行機の開発と実験が着実に重ねられていて、今年度にはプロトタイプによる夜間飛行テストの予定。2012年以降には数日間の飛行、そして大西洋横断、世界一周に挑戦するそうです。操縦士は、スイスの有名な冒険家で医師であるBertrand Piccard氏とAndré Borschberg氏。技術的な新境地への命がけの挑戦です。
http://www.solarimpulse.org/
http://www.solarimpulse.org/pdf/japanese.pdf (日本語)

既に成功したものでは、ソーラーボートSUN21号で大西洋を横断したトランスアトランティック21プロジェクトがあります。スイスのボートメーカMWLine社が開発したソーラーボートに、スイス人の冒険家や研究者、環境活動家ら6人が乗船。2006年にバーゼルを出港し、2007年5月には無事にニューヨークに到着。一ヶ月かけての大西洋無寄港横断に成功しました。ボートの大きさは14m×6.6m、重量11トン、モーターの出力は10kW。双胴船の形をしたボートで、こちらも屋根になっている光発電パネルからの電気だけで運行され、バッテリーに充電することで昼も夜も休まず航海。ソーラーボートの海上での実力を証明しました。
http://www.transatlantic21.org/ (英語)

また2007年には、ルツェルンの教師であるLouis Palmar氏が、トレーラに乗せた6㎡の光発電パネルからの電力で走る軽量の電気自動車Solartaxiで世界一周を成し遂げています。5.3万kmを1年半かかけて走っています。といってもこのプロジェクトの場合は、トレーラに載せた光発電パネルからの電力で足りない分はコンセントから充電し、それと同じ分をスイス国内に設置した光発電パネルで生産することでエネルギー供給を解決しています。ですので、搭載したソーラーパネルの電力だけで移動するその他の冒険とは少し異なります。
http://www.solartaxi.com/

そして先月末には、世界最大のソーラーボートPlanetSolarの進水式がドイツのキールで行われたことがニュースになりました。このソーラーボートの目標は、世界一周航海。このプロジェクトを発案・代表し、船に乗船するのは、西スイス・ニューシャテルの37歳の企業家、冒険家で機械技師のラファエル・ドムヤン氏。ユニークな経歴の持ち主で、ソーラー電力で動かされているエコなインターネットサーバー会社HorusNetworkの運営に携っています。船長はフランスの冒険家で始めて大西洋を手漕ぎボートで横断したGeràrd d'Aboville氏です。 http://www.planetsolar.org/index.en.php

ソーラーボートPlanetSolarは赤道の周りを通って、4万kmの距離を、平均時速15kmで、およそ140日かけて航海する計画です。船のサイズは長さ31m×幅15m×高さ6m、重量は60t。やはり双胴船型で、屋根が500㎡(設置出力103.4kW)の光発電パネルで覆われており、双胴の部分にバッテリーが内蔵されています。モータの出力は20kW(239PS)、最大で200人搭載できます。このプロジェクトの実現には、ドイツ企業が多く活躍しています。造船会社はドイツのKnierim造船、搭載される新型のリチウムイオンバッテリーはドイツのHDW社がGaiaAkkumulatorenwerke㈲の協力を得て開発したもの。スポンサーもドイツの企業で、ソーラーエネルギーのパイオニアのImmoStröher社だそうです。

PlanetSolar号は昨2月末に進水式、3月に運転テスト、そして5月にハンブルグ港でお披露目、そして2011年の春、世界一周へと旅立ちます。プロジェクトの開発・実現に到るまで、スイスのCO2オフセット団体Myclimateに依頼して、カーボンニュートラルなプロジェクト運営を行っているところも面白いですね。

ところで、PlanetSolarのホームページには、賛同委員に日本人の堀江謙一さんという海上冒険家が紹介されていました。1985年に既に世界で初めてハワイ島から父島へソーラーボートで1人で渡った方だそうです。皆さんご存知でしたか?私は知りませんでしたが、すごいパイオニアが日本にはいたのですね!

下記のサイトではPlanetSolar号の写真がみられます。
http://www.portal.gmx.net/sidbabhdda.1267522559.32448.cw5ceok61x.71.fhm/de/themen/wissen/bildergalerien/9928376.html

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