そして先週、ベルン州の議会はようやく新しいエネルギー法案の目玉である電力環境税と建物エネルギー性能表示の義務化を可決しました。ただし、注目されていたエネルギ性能表示で最下ランクの建物に省エネ改修を義務付ける項目については見送られています。
今回可決された電力環境税は、スイスではこれまでにバーゼル・シュタット州でしか導入されていません。とはいっても、ベルン州の電力環境税はバーゼル・シュタット州のそれとは制度がやや異なり、以下の特徴があります。(バーゼル・シュタット州の電力環境税については拙著「サステイナブル・スイス」に詳しく紹介していますので、そちらをご参照下さい。)
・電力料金に1kWhあたり0.5~1.0セントを15年間に渡り上乗せする。一世帯一ヶ月5フラン程度の負担(430円程度)。
・州はそこから年17~34億円の収入が得られる。その収入は、州が建物の省エネ改修を助成する費用として用いられる
・電力消費量の多い企業への対策として、税額は最大で年1000フラン(8.5万円)、課税対象消費量は10万kWhまでとする。
このようにベルン州の電力環境税は、建物の省エネ改修の促進費用に使うのが特徴です。それにより地域の建設産業に340億円の投資が見込まれるため、過半数を得ることができたのかもしれません。ちなみに、スイスの電力には、別途に再生可能電力の固定価格買取制度のための料金も上乗せされています。また、国家的には今後10年間に渡る省エネ改修の助成プログラムが実施されており、その財源として 灯油へのCO2税が用いられています。
今回可決されたもう1つの項目である建物のエネルギー性能表示については、建物の断熱基準が厳しくなる1990年前に建てられた全ての建物の持ち主に対して、10年以内に作成することを義務付け、守らない場合は罰金が科せられるというものです。割合と長い猶予期間を設けているので驚きました。
建物のエネルギー性能表示は、躯体の断熱性能と総エネルギー消費量(一次エネルギー)を示し、A~Gクラスにランキングしたものです。エネルギー性能表示を発行できるのは、州に登録された専門家だけで、価格は450~800フラン(4~7.2万円)。この資格を持っている専門家にとっては、結構な収入源になります。建物のエネルギー性能表示は全国的には昨年8月に導入されましたが、義務付けているのはまだ一部の州だけです。
このように長年の議論の末に導入に漕ぎ着けた、ベルン州の電力環境税と建物のエネルギー表示義務化ですが、早くもベルン州のコンサバなスイス国民党と持ち家主協会が、署名を集めて、住民投票を求めるレファレンダムを起こすことを発表しています。昨年、省エネ改修の義務化を実施した後、すぐにレファレンダムによる住民投票で否決されてしまったニューシャテル州の事例が思い起こされます。
3歩進んで2歩下がるではありませんが、進歩的なエネルギー政策に関しては、直接民主制は亀の歩みという側面も持っています。しかし、ベルン州の電力価格への上乗せ額は僅かですし、税金の用途が持ち家主にも賃貸人にも、建設業界にとっても利益のある分野であるため、住人投票でも可決される可能性は少なくないと思われます。さらには、ベルン州の決定が他の州のエネルギー法案にも影響を及ぼしていくことが期待されます。