滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ソーラーコンプレックス社ニュースレター2021年夏号

2021-08-24 03:42:13 | お知らせ
 ソーラーコンプレックス社のニュースレター2021年夏号の日本語翻訳版を掲載します。
 同社は、2000年に南ドイツのボーデン湖地域で、市民出資により設立された再エネ専門のエネルギー会社です。
 今号からは、この一年が同社の歴史の中で最高の業績となったこと、そして絶好調の太陽光事業の様子が伝わってきます。

Bilder : www.solarcomplex.de
原文:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/7755702/

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こんにちは

 気候保全に関しては、ゆっくりと、しかし着実に、風向きが変わりつつあります。その際に法廷による判決が重要な、道しるべとなる役割を担っています。

 ドイツの連邦憲法裁判所が、2019年の気候保全法は若者の基本的人権と両立しないため改善されなければならない、という判決を下したことは注目を集めました。

 この法律では2030年までの削減対策しか予定されていないため、気候温暖化の危険がその後の時代、すなわち若い世代に不利になる形で引き延ばされている、と裁判官はしています。

 その時点で2度以下に温暖化を抑えるためにはより劇的な対策が必要となり、それはその時代に生きる人々の自由権を侵害するものである、と。

 オランダにおけるシェル社への判決もゲームチェンジャーになりえます。初めて巨大コンツェルンに対して、パリ協定の目標を遵守し、排出量を2030年までに45%削減することが義務付けられました。

 この判決は象徴的な性格を持ち、企業も人権を尊重し、そのために気候を保全しなければならないということを示しています。

 この二つの判決からは、生きる価値のある未来が、基本的人権として認められるようになってきていることが見えてきます。


感謝とソーラーコンプレックスなご挨拶と共に

フロリアン・アルムブルスター、ベネ・ミュラー、エバーハルト・バンホルツァー


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2020年はソーラーコンプレックスの社史上で最高業績を達成
 
 2020年のバランスシートが無限定適性とされたため、下記をご報告します:

 バランスシートの総額は大きく成長し、6780万ユーロから7080万ユーロになりました。最も大きな項目は固定資産で、5520万ユーロから5990万ユーロに増えています。売り上げは1450万ユーロから1850万ユーロに上がり、税・利子・減価償却(EBITDA)を差し引いた後の利益は31万ユーロから62.3万ユーロに向上しました。

 2020年はこれまでの20年の社史の中で最高業績の年となりました。
経営陣は前年度と同様に資本金への4%の配当を提案する予定ですので、株主には喜んでいただけます。この良好な成果には様々な要素が寄与しました。

 ただ売り上げと成果にとって決定的であったのは、太陽光設備の需要が大幅に伸びた事です。ソーラーコンプレックスはゼネコンとして、主に手工業会社向けに太陽光設備を設置してきました。ソーラー電力のコスト低下は、エネルギー市場を根本からがらりと改革しています。

 今年度もソーラーコンプレックスでは、前年度と同程度の安定した売り上げと成果を見込んでいます。





初の20代設備

 ソーラーコンプレックス社が建設した最初の太陽光設備は2001年5月に稼働した、シンゲン市にあるフリードリッヒ・ヴェーラー・ギムナジウムの18kW設備です。

 この設備は稼働20年を迎え、2022年末には買取が終了します。稼働20年後に再生可能エネルギー法による買取期間から脱する設備は、業界では「20代設備」と呼ばれています。
 
 私たちの初の「20代」は技術的にまだ大変良好な状態で、20年前とほぼ変わらない発電量があります。ですので運転を継続するために、私たちはシンゲン市と電力供給契約を交わしました。

 今後は太陽光からの電力は学校の中で直接消費され、非常にお得な条件でシンゲン市に販売されます。


シンゲン市の市長ベルンド・ホイザーとソーラーコンプレックス社の取締ベネ・ミュラーが、ギムナジウムの屋根の上で電力供給契約に署名。
www.solaroffensive.info  



ソーラー増設戦略は全速力で

 自社の屋根からのソーラー電力が欲しい、という手工業会社からの需要は高止まりしています。私たちは今年の屋根置き設備の目標を7メガワットから10メガワットに引き上げました。7メガワット以上の受注量が既にあるためです。





ソーラーパーク

 2021年の第一四半期には、ガイジンゲン町近くの高速道路沿いに750kWのソーラーパークを作りましたが、このタイプのものはこれが最後になるでしょう。

 将来的なソーラーパークは、買取価格が低下しているため、より規模の大きなものとなる上、再生可能エネルギー法の枠内ではもう売電しません。複数の3メガワット以上のソーラーパークが事前計画の段階にあります。





ソーラー電力ダイレクト

 私たちは新しいビジネスモデルをスタートしました。ソーラー電力ダイレクトです。その際、(建物所有者ではなく)ソーラーコンプレックス社が他者の屋根上の太陽光発電に投資し、ソーラー電力を建物内に直接に供給します。ダイレクトというわけです!

 もちろん系統から購入する電力よりも大幅に魅力的な条件で。投資したくない方、できない方(例えば予算が厳しい自治体など)といった、すべての方に興味深いサービスです。





シュルッフセー村の熱供給網

  弊社にとって最大規模となるシュルッフセー村の熱供給網は竣工しました。完工式がまだですが、コロナ規制が許容次第、ご招待します。





ホイゼルン村の熱供給網

 ホイゼルン村(シュルッフセーの隣の自治体)でも、夏は太陽熱温水器で、冬は木質バイオマスという、同じコンセプトの熱供給網を建設します。

 プロジェクトのためのBプランが役場で策定中です。暖房センターと太陽熱温水器のフィールドに必要な土地は確保しました。このようなチャンスは二度とないため、今、ガラスファイバーの埋設も一緒に行うことが計画されています。





ユングナウ村の熱供給網

 これまでに150件以上の接続契約を結ぶことができました。素晴らしい成果です。熱供給網と一緒にガラスファイバーが埋設され、電線を地中下する予定であることに加えて、一部では水道管の改修も同時に行うため、調整に手間がかかっています。そのため建設開始は2022年に引き延ばしとなりました。コンセプトはシュルッフセー村と同じです。夏は大面積の太陽熱温水器、冬はチップボイラーです。





設計委託

 弊社では下記の依頼主による設計委託に感謝し、協働できる事を嬉しく思っています。
・ドルンハーン市:既存の熱供給網の拡張計画
・シグマリンゲン市:グラフ・シュタウフェンベルク兵舎の用途転換用地における太陽熱温水器の設計
・ボーデン湖水道供給目的連合:再生可能エネルギーによる熱供給設備の計画



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集落のカーボンニュートラル化プロジェクト~裏山の木で地元の職人が作るマッシブな集合住宅

2021-08-01 21:24:45 | お知らせ
 北スイスは雨ばかりの冷夏が続いています。晴れ間が短く、庭や畑に出られない日ばかりで、温室の有難さを実感する日々です。今年の前半は、出版やその他のプロジェクトで息つく暇がありませんでしたが、ようやくひと段落ついてブログに戻ってきました。

CO2法改定案が国民投票で否決
 まず、昨6月13日の国民投票の結果をご報告します。こちらは環境問題の側面からは、とても残念な結果となりました。

 国会で何年もかけて審議された末に、昨年末に決議された改訂版CO2法が、化石エネルギーロビーの総勢力によりレファレンダムにかけられ、51.6 %の否決票で却下されてしまったのです。「富裕層しか車に乗れなくなる」といった、ネガティブ広告が大々的に展開されました。

 この法律は、オイルロビーの代弁者であるスイス国民党を除く、すべての政党が可決を支持していましたが、下記のような不幸な条件が重なりました。これにより既存のCO2法やCO2税は継続できても、2030年までの排出量-50%という目標は達成できない可能性が大きくなりました。

 不幸な条件とは、同じ日に環境関連の投票が三つ重なった事です。他の二件は、農業のエコロジー化に関する国民イニシアチブ案でした。一つは合成農薬の利用を国産・輸入品共に禁止する法案、もう一つは農薬を利用し、産業的畜産を営む農家への助成金を段階的にカットするという法案でした(40%が可決票)。

 しかし、スイスの農家の16%は有機農家ですが、残りは慣行農家ですから、農家と農薬ロビーによる猛烈な反対キャンペーンが農村地域で展開されました。これにより、スイス国民党の支持層が厚い農村地域の住民が熱心に投票した結果、環境関連は全部まとめて否決しようという行動が採られたそうです。

 こういった行動の背景には、2019年の総選挙でフライデイ・フォー・フューチャー運動により巻き起こされた「緑の波」に対する保守派有権者のリベンジもあると言われています。農業のエコロジー化については今後も政策転換のチャンスは多くあるでしょうが、CO2法改訂についてはまったなしです。

 国民の忘れやすさ、巨大な資金力を持つロビー団体による広告力という、直接民主制の弱点をを改めて見る結果となりました。


集落のカーボンニュートラル化プロジェクト

集落のモデルと納屋建替部分の立面図

 そのような中でも、地域の民間レベルでのエネルギーヴェンデは静かに進行しています。私たちが住んでいる集落のカーボンニュートラル化プロジェクトがその一例で、現在、工事が進行中です。

 集落は、村から5㎞離れた山の上にあり、大家さん家族が住むレストラン・ホテル棟と、賃借人が住む農家・住宅棟、それからバイオダイナミック農家(有機農法の一種)の牛舎とチーズ工房の建物群から成ります。ホテル・レストランは、地域住民が大切な人と食べに来たり、企業が会議で使うような料理店となっています。

 これまで集落では、ホテル棟に入る薪ボイラーと太陽熱温水器を組み合わせた熱源から、地下配管を介して、農家・住宅棟に熱(温水)を供給していました。ですが古い薪ボイラーが大気浄化政令(排ガス規制)を満たせなくなった上、頻繁に故障するので、新しい熱源に交換する必要が生じていました。

 同時に、農家に併設する納屋も修繕・改修が必要な状態でした。そのため、この納屋をエコロジカルな木造三階建ての複合建築に建てえ、そこに新しい熱源を設置して、集落に熱供給を行うというプロジェクトが作られました。森に囲まれた集落であるため、建物についても、エネルギーについても、自治体の森林資源を生かした、地域への付加価値創出を最重視した内容になっています。

 新しい熱源には、ベース負荷に小規模なチップ・コージェネで担い、冬期のピーク時には小規模なチップボイラーと組み合わせる設備が計画されています。これに加えて農家の牛舎の上には、大きな太陽光発電を追加で設置する計画です。これらにより集落の住民や事業体が必要とする熱、電力、そして交通の一部も、自給自足+カーボンニュートラル化していきます。

 
集落の建物を結ぶ地域熱供給網のリニューアルの様子


裏山の木で地元の職人が作るマッシブな木造複合建築

 納屋のあった場所に新築される木造建物には、一階が催事場と農家直売店、地下部分には新しいチーズ倉庫と機械室、二階が農家の住宅、最上階が賃貸住宅が入ります。

 この建物を作るための木は、科学的にも長持ちする事が証明されている伝統的な真冬の新月伐採。今年の2月頭の新月時に、300㎥のトウヒが自治体のフォレスターにより周辺の森で伐採され、地元の製材所で製材されました。

 また構法にはマッシブな木造建築が選ばれましたが、特殊な機械は用いず、地元で作れる材(普通の角材や板材)で構成するために工夫されています。

 構造壁は無垢の角材を並べ、その片側に板を斜めに張って固定した、厚さ14㎝のマッシブな壁パネルです。その外側に間柱を立て、24㎝のセルロースと木質繊維断熱材の断熱層が入ります。その外に12㎝の背面通気層と無垢の板材の外壁がつけられます。断熱性能は法規レベルの普通のものです。



壁構造(左手前)と屋根(奥)、スラブ(右)のモデル、出資者用に展示されている

 スラブは板材を寄せ合わせてダボで固定したマッシブなパネル、屋根はラーメン構造のパネルで、こちらはスイスで良く見られる構造です。瓦は古い納屋のものを再利用しています。景観保全地帯に隣接しているので、太陽光発電は牛車の大屋根に設置されます。

 木材の利用量の多いマッシブな木造建築は、木という貴重な資源の無駄使いという意見を持つ専門家は少なくありません。しかし、木材の豊富なアルプス地方の伝統建築様式である校倉建築の流れを汲むもので、私たちの集落のような森に囲まれた地域では有意義な構法です。対して森林の少ない地域では、伝統的に木材を節約的に使用するハーフティンバー建築が多く、それはラーメン構法やハイブリッド構法に引き継がれ、現代木造のメインストリームとなっています。

 木造パネルの現場組立てはこの秋から始まり、内装を冬の間に行い、来年の中頃には入居となるそうです。来年春には完成するので、その後は集落住民で新しい催事空間を運営し、セミナー・イベント等により、地域の「出会いの場」を盛り上げていかねばなりません。


地域住民の出資で建物と設備を実現

 集落をカーボンニュートラル化するというビジョンは大家さんや建築家が持ち続けてきたものですが、熱源を含む総工費は3.5億円。とても大家さん家族だけでは実現できない規模であり、社会的性格の強いプロジェクトです。

 そのため大家さんが土地を提供し、この場所の自然を愛し、ここの有機農家やレストランを応援したいと考える地域の人々が建設協同組合を作り、共同出資して実現することになりました。

 また太陽光発電設備についても、シャフハウゼン州で活動する市民エネルギー協同組合が実現し、そこから電力を集落の住民や事業体が購入する「自家消費コミュニティ」の手法で、計画が進められています。

 建設協同組合の理事は村の村長です。地域の憩いの場であるこの集落が長く存続し続け、エコロジカルな模範となって欲しい、そんな地元の人たちの夢のかけられたプロジェクトです。



お知らせ 

● ビオシティ87号 「オーストリアのエネルギー自立と持続可能な地域づくり」
同タイトルの共著本著者のグループで、専門書の内容を分かりやすく、豊富なカラー写真を交えながら紹介しています。私もエネルギー自立運動の歴史やウィーンで建設が進む新しい街区ゼーシュタットの解説などを寄稿しています。


 
● 8月23日(月)ビオホテル本のオンライン講演会のご案内
中小企業同友会いわて様の主催により、出版を記念したオンライン講演会が8月23日(月)に開催されます。下記からチケットを購入する事ができます。


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● ビオホテル本のインスタグラムを始めました
book.biohotelにて、本では紹介していないホテルや写真も掲載していきます。



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