滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

記録的なソーラーブーム

2024-03-05 23:39:22 | お知らせ

写真:地元の中小企業の事業所での典型的な設置例。見えにくいが東西向きの屋根、南北向きの屋根にもぎっしり設置されている。ここでは南外壁にも設置。


スイスは例年よりもひと月早く春が訪れました。早い春の訪れと共に、庭の設計と施工、メンテナンスがいっきに押し寄せてくる感じです。

先週、建築視察に訪れた方が、太陽光発電があまりついていないね、という印象を述べられていました。ソーラーブームですが、確かに太陽光発電は目立ちません。

野立てがほぼなく、設備が建物に一体化されていたり、外から見えないように配慮されているものが多いという理由もありますが、他方ではまだ建物上のポテンシャルのごく一部しか使われていないのも現実です。

というわけで、今日は最近のソーラーブームについて少しご報告します。


スイスは屋根置き太陽光だけで電力の10%
一昨年のエネルギー危機以来、スイスでも電気代が高騰しており、また太陽光発電の発電コストの方が安い事から、太陽光設置ブームの記録が更新され続けています。

その結果、2023年は九州くらいの大きさのスイスでは1500MW以上の設置がありました。そして、電力需要の1割が太陽光で供給されるようになりました。電力消費に占める再エネの割合は65%となっています。

原則として野立ては行わず、屋根や外壁といった建物上への設置、なおかつ自家消費がベースのスイスでも、これだけ設置されるようになったのは素晴らしい発展です。


1人当たりの累積設置容量はヨーロッパで三位
スイスにおける累積設置量は6.2GWですが、その半分以上が過去3年間で設置された事からも、ブームの様子がうかがえます。

スイス・エネルギー庁の太陽光発電担当者ヴィーラント・ヒンツ氏へのインタビュー記事(※)によると、2023年末の人口一人あたりの累積設置容量は、スイスは700Wで、オランダ(1400W)とドイツ(970W)に次いで欧州第三位だそうです。第一位のオランダとは二倍もの差がありますが・・。

また、2023年の1人当たりの新規設置容量については、スイスは180Wとなっており、こちらもオランダとオーストリア(各225W)に次いで第三位となっています。


将来は40%が太陽光発電
昨年は、地域の中小の産業建築の屋根に、自家消費用の太陽光を新設している現場を良く目にしました。実際には、上記のエネルギー庁インタビューによると、新規の設置出力の半分が戸建てに設置され、残りの半分が産業建築・工場や集合住宅の屋根に設置されているそうです。

また、建物上のポテンシャルはまだまだあり、屋根のポテンシャルの85%が未利用、ファサードのほとんどが未利用とのこと。ヒンツ氏は2020代末までには電力消費の25%を太陽光発電で賄うことになるだろうと予測しています。

スイスでは、国による建物上の現実的ポテンシャルだけでも、今日のスイスの電力需要以上の発電量を得られる事が分かっています。また国の気候中立のシナリオでは、電力需要の40%が太陽光発電により担われるとされています。


太陽光施工者が連邦職業資格に
こういったソーラーブームの中、昨年には建物外皮関連の職業の一環として、「太陽光施工者」(ソラトア)が連邦職業資格となりました。蓄電池を含む太陽光発電システムの施工や補修や解体の専門家です。

教育期間は3年間で、職業教育中は週の4日を企業で教育を受けながら働き、1日を職業学校で勉強します。今年から、スイス全国の169社が「太陽光施工者」の職業教育生を受け入れています。

スイスの子供たちの3分2が中学校の卒業後に職業教育制度の道を選びますが、その中で太陽光発電の専門家が職業の選択肢のひとつとなったのも喜ばしい発展です。


ドイツ・ソーラーコンプレックス社でのソーラーブーム
お隣の大国ドイツでも同様のブームとなっており、23年の新規設置出力は約14GWとなりました。

南ドイツの市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社でも最高記録を更新しています。23年は屋根置きで20MW、野立て25MWの合計45MWを地域の市民出資の会社として設置しています。ここでも工場の屋根面に設置した自家消費用の設備がケースが多く、最大規模では7MWという設備もありました。

同社の大型の太陽光では発電コストが約5セントとのこと。電力価格は高止まりしていますので、価格とスピード感においてダントツのメリットがあります。2023年は風力の発電量も多く、ドイツでは電力消費に占める再エネの割合がほぼ6割になりました。

今年もソーラーブームも継続してゆく見込みです。


写真:現在、私達のアトリエがリニューアルを手掛けている工場の屋上庭園でも、屋上緑化と太陽光発電を組み合わせたシステムを施工中。工場での自家消費用の東西向きです。


※参考文献:
- « Ende der 2020er Jahre liefert die Sonne bereits ein Viertel des Schweizer Jahresverbrauchs», Energaia, 21.2.2024
«Ende der 2020er Jahre liefert die Sonne bereits ein Viertel des Schweizer Jahresverbrauchs» | BFE-Magazin energeiaplus | Energiemagazin des Bundesamtes für Energie
- Newsletter 01-2024, Solarcomplex AG, www.solarcomplex.de



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