滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

木造ハイブリッド24階建てビルの現場を訪問

2024-01-09 01:13:56 | 建築


あけましておめでとうございます。
能登地震の被災地の皆様にお見舞い申し上げます。

昨年は、温暖化の進行や終わりの見えない戦争が続く中、スイス社会では未来への悲観的な雰囲気が漂っているように感じましたが、太陽光発電ブームを始めとしたポジティブな発展もありました。

個人的には、昨年は日本のコロナ規制が緩和された事により、秋口から続々と常連の視察セミナーのお客様たちが戻ってきて下さり、身動きが取れないほどでした。ご参加下さった方々にも、ホスト側の方々共にも、多くの出会いと学びの機会を頂き、心より感謝しております。緑化設計の仕事についても、いくつかの公共空間や複合施設の緑化プロジェクトが竣工し、大型屋上庭園の設計に携わる機会も頂き、充実した一年となりました。

高さ75mの木造ハイブリッドビル
視察がひと段落した昨年の11月中旬に、チューリッヒ近郊の木造ハイブリッド高層建築の現場見学会に参加しました。レーゲンスドルフ駅裏で開発中の新街区Zwattの一部を成す建物で、設計は建築設計事務所ボルツハウザー・アルキテクテン社、木造エンジニアはB2Kolb社、施工は大型ハイブリッドを得意とする大手の木造会社エルネ社が手掛けています。


写真:Boltshauser Architekten展示パネルより

総高75m、24階建てのうち、下3階はコンクリート造で770㎡のオフィスや商業施設が入ります。その上に21階分の木造ハイブリッドの賃貸住宅156世帯が乗っかる形となっています。建物の背骨を成す階段室はコンクリート造。柱と梁は国産のブナ集成材。そして木の梁の上に薄いコンクリートのスラブが敷かれています。外壁パネルも木造です。木とコンクリートを組み合わせたスラブパネルも、木造の外壁パネルも、事前で工場で製造するプレファブパネル構法となっています。


写真:中央の建物が半分ほど建設が進んだ木造ハイブリッド高層ビル

広葉樹集成材のスケルトン構造
この建物で特徴的なのが、国産ブナの集成材を柱と梁に使っている点です。スイスの森林でトウヒに次いで二番目に多い樹種が広葉樹のブナ。伝統的には主に燃料材に使われる事が多かったのですが、8年前くらいから、その強度を活かして大型建築の構造材に利用する動きが広がってきました。



スイスでも森林所有者や木材産業のイニシアチブで国内にブナ集成材工場が作られた事により、国産のブナ材による高層建築が実現できるようになりました。針葉樹よりもずっと細い材で足り、空間を節約できるのが利点です。この建物ではスプリンクラーが設置されているため、美しいブナの柱と梁をあらわしにできています。

写真:フロアを仕切った後の空間。賃貸住宅となる。

1週間でワンフロアを組み立て
工事現場は、約5日でワンフロアが組み立てられており、スピーディーに進行していました。その際にコンクリ造の階段室と木造部分が同時進行で施工されている点が珍しかったです。フロアのパネル組み立てをしている間に、上階の階段室のコンクリを打っているという意味です。(普通は階段室が出来上がってから木造パネル組み立てます。)

写真:建設中の最上階、階段室の建設が同時進行

11月中旬の見学時には、10階くらいまでが組み立てられたところでした。残りもあと3か月程度で上棟する計算です。最終的にはワンフロアあたり8世帯の賃貸住宅が入りますが、見学時には間仕切りのない状態の、スパンの大きな、フレキシブルな空間を見る事ができました。出来る限り同じサイズのスラブパネルを利用できるように空間構成を工夫しているそうです。



構造体からの排出量を26%削減
H1プロジェクトでは、建築設計コンペでの条件が持続可能性・温暖化対策でした。木造ハイブリッド構法を採用する事により、コンクリート造で同じ建物を建設した時と比較すると、構造体の製造による温室効果ガス排出量を26%削減できたそうです。加えて木造の構造体に1500トンのCO2を固定したとの説明でした。



庇部分には日射遮蔽を兼ねた太陽光発電が設置される設計で、屋根と庇からの発電量で電力消費量の4割弱を生産します。地階部分のファサードは版築になるとか。竣工後の姿を見るのが楽しみです。


写真:Boltshauser Architekten展示パネルより

木造高層化を巡る競争は続く
スイスでは、もはや木造6~8階建てくらいまではあまり珍しくなくなった感があります。そもそも高層建築自体が少ないのですが、ディベロッパーや木造会社、建築家やエンジニアたちの木造高層建築への野心はまだまだ尽きず、複数のプロジェクトが国内でも進行中です。


写真: Arbo。大学やオフィスが入る賃借ビル。奥の高いビると手前の中層ビルが木造ハイブリッド。これらの建物もエルネ社が手掛けた。

ちなみに現在スイスで一番高い木造ハイブリッド建築は、ロートクロイツ村のArboです(15階建て、高さ60m、2019)。まだ開発中のものでは、ヴィンタトゥール市内の再開発地に建設予定のRoket(33階建て、100m)が最大規模となります。隣国のオーストリア・ウィーンには世界で二番目に高い木造ハイブリッドのHoho Wien(24階建て、高さ84m、2019)があります。その隣には高さ113mのDonaumarina Towerが計画されています。


写真:Hoho Wien。ホテルが入っている。世界で二番目に高い木造ハイブリッドのビル。


☆ウェビナーのお知らせ☆
2024年1月23日(火)ペーター・シュルヒ教授ウェビナー
「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」

第9回SJSウェビナーのテーマは、建築の脱炭素にとって最も重要なテーマのひとつである省エネ改修です。講師には第2回SJSウェビナーでもお馴染みの、スイスの建築家ペーター・シュルヒ教授(ベルン州立大学建築学部)をお迎えします。

日時       :2024年1月23日(火)、17:00-18:50頃、ZOOM生中継
講演       : ペーター・シュルヒ教授、「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」
参加費    :1000円(学生500円)
お申込み: http://ptix.at/FZ6Cup










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第27回スイスソーラー大賞の受賞作品より

2018-01-24 11:23:17 | 建築

私の暮らす標高840mのスイスの山間の集落では、1月の中旬から庭のマンサクとロウバイが咲いています。谷地の林縁でもヘーゼルナッツの花がもう咲いています。嵐、大雪、大雨、そして例年にないこの温かさ。本当におかしな天気の1月でした。

この1月からは、昨年5月の国民投票で可決されたエネルギー法と関連政令の総改訂が施行されました。日本の福島第一原発事故がきっかけとなって起こった、長い社会的議論の結論がようやく一部実行に移され、少しだけ前進した感じです。

今日のブログでは、第27回スイスソーラー大賞(2017)を受賞したパイオニア建築の中から、私が特に興味を持ったソーラー建築やプラスエネルギー建築(PEB)を選抜して紹介します。

今回の受賞建築・設備からは、建材一体型設備の収まりの洗練が増していること、プラスエネルギー建築が産業建築にも広がっていること、太陽光とヒートポンプの組合せ・連動が標準化してきていること(自家消費率の向上)、地中熱のオルタナティブとしての氷蓄熱への注目の高まり、ソーラー駐車場のポテンシャル認知、といったテーマが感じられます。

 (参考文献・写真提供:Schweizer Solrapreis 2017, www.solaragetur.ch)


【2017年のノーマンフォスター・ソーラーアワードのプラスエネルギー建築3棟】

スイスソーラー大賞の中でも、デザインが得に優れたプラスエネルギー建築(PEB)に与えられるノーマンフォスター・ソーラーアワード。今年は次の3棟が受賞しています。

大賞は、建築事務所バース&デプラツェスの設計によるタミンス村の戸建て住宅。プラスエネルギー度は144%。農村の景観になじむ美しい建物のデザイン、ディーテールでは太陽光発電パネルによる屋根の軽やかな収まりが評価されています。

 

(写真)タミンス村の戸建て住宅 ©Schweizer Solarpreis 2017

優秀賞はマルタ―ス村の小学校・幼稚園の増築。増築部の屋根材に太陽光発電を使うことで、床面積2600㎡近い学校施設全体を108%のプラスエネルギー建築にしています。こちらも屋根設備の収まりの美しさが評価されています。断熱性能は規制基準よりも少し良い程度です。

 

(写真)マルタ―ス村の小学校・幼稚園 ©Schweizer Solarpreis 2017

 もう一つの優秀賞は、私の地元であるシャフハウゼン市のサッカースタジアム「LIPO Park」で、ショッピングセンターやフィットネスセンターも入った複合建築です。「LIPOPark」は、2017年のヨーロッパソーラー賞を受賞した施設でもありますので、もう少し詳しく紹介します。

(写真)シャフハウゼン市のLIPOPark ©Schweizer Solarpreis 2017


【プラスエネルギー度150%、自家消費型のサッカースタジアム】

太陽光発電を搭載したサッカースタジアムは、スイスにも世界中にも以前より数多くあります。そのような中で、2017年冬に竣工したシャフハウゼン市の民間施設LIPOParkが受賞した理由は、スタジアムの東西南北の屋根材として、透光型の太陽光発電パネルが美しく収められており、観客への教育・模範機能が大きいと評価されたためです。設置出力は1.4MW、年1.3GWhの発電量が見込まれています。設備を計画、実現、運用するのは地元のシャフハウゼン州電力EKSで、建物の所有者から屋根部分を30年契約で賃借しています。

作った電気を自家消費している点も特徴です。スタジアム施設の暖房・給湯の熱源であるヒートポンプや照明以外にも、店舗にも太陽光からの電気を直接納入・販売しています。年間収支でのプラスエネルギー度は150%になっていますが、発電と同時に建物内で消費する自家消費率は40%程度(計算値)だそうです。

 

©Schweizer Solarpreis 2017

 

【プラスエネルギー住宅建築の中からの2事例】

景観保全地区でのプラエネ新築:プラスエネルギー部門で今年の大賞に選ばれたのが、こちらのツェル村の三世帯住宅です。私の視察プログラムに定期的にご登場頂いている建築家トーマス・メッツラーさん事務所の設計です。歴史的景観の保全地区となっている立地で、伝統民家のスタイルを踏襲しながらミネルギー・P・エコの集合住宅を新築しています。床面積は560㎡。屋根材として25kWの太陽光発電を用いることで、172%のプラスエネルギー度を達成しています。他の受賞建築と同様に、暖房の熱源は太陽光発電からの電気を自家消費するヒートポンプです。年間収支では1.1万kWhの余剰が出ます。

 

©Schweizer Solarpreis 2017

電力自給率687%の家:もう一つの事例は、プラスエネルギー部門で優秀賞に選ばれたゲルツェンセー村の戸建て住宅です。プラスエネルギー度687%となっており、同賞の受賞建築の中では新しい記録を達成しています。透明感のある美しいソーラー建築で、ミネルギー・P・エコ仕様。こちらも太陽光を使うヒートポンプが熱源です。建物の床面積は250㎡で、電気・熱の消費量は5000kWh。南・北向きの屋根全材が29kWの太陽光発電になっており、3.4万kWhを発電しています。こちら設計はベルン州立大学の教授である建築家のペーター・シュルヒさんの事務所です。

©Schweizer Solarpreis 2017

今年からスイスでは先述した法規改訂により、太陽光発電の設備所有者は、設備からの電気を隣接する敷地にも販売できるようになりました。来年くらいには、こういったプラスエネルギーの住宅や産業建築から、周辺の住宅や施設に電気を販売していく事例も見られるようになりかもしれません。

 

産業分野のプラスエネルギー建築から2事例】

省エネ改修でオフグリッド:プラスエネルギー部門の大賞に輝いたもう一つの建物が、ブルーズィオ村の設備屋さん、カオテック社の社屋です。イタリア近くの日射の豊富な地域に立地する建物で、省エネ改修によるプラスエネルギー化であるという点、産業建築でオフグリッドであるという点において、とても挑戦精神の旺盛な事例です。

70年代の建築を、2016年にミネルギー・Pレベルの躯体と設備に総改修。改修前は電気と熱の総消費量が11.2万kWhであったのを、改修後には電気自動車も含めて2.2万kWhに減らしています。屋根と外壁には40kWの太陽光発電を設置して、2.3万kWhを発電。2017年には小型風力と、21kWhのバッテリーを追加で設置し、社屋をオフグリッド化しました。

 

(写真)カオテック社の社屋。Schweizer Solarpreis 2017

この建物のもう一つの特徴は、太陽熱温水器と組み合わせた氷蓄熱を利用している点です。太陽光発電のうち67㎡は、背面が太陽熱温水器になったハイブリッドコレクターで、年1.2万kWhのお湯を集熱することができます。作った熱は容量1万リットルの氷蓄熱のタンクに充填し、これをヒートポンプの熱源としています。昔、暖房用オイルタンクのあった空間を、氷蓄熱に再利用しているのも面白い点です。このほかに1000リットルの給湯タンクと1500リットルの暖房用タンクを設置して熱を貯めています。

(写真)カオテック社 ©Schweizer Solarpreis 2017

 木造PEB産業建築:もう一つの産業建築の事例は、アルボン市のオイグスター社です。こちらも住宅設備技術の中小企業の社屋です。新築の木造建築で、窓・屋根の建材として透光型の太陽光発電を綺麗に取り入れています。

庇には66kW、南側の窓面に10kW、屋根には81kWを搭載。床面積2300㎡の建物の電気・熱の消費量は5.6万kWh。プラスエネルギー度が156%の産業建築です。冷暖房には地中熱ヒートポンプを利用。余剰は地元の電力会社が買取り、地域産の自然電力として販売しています。オイグスター社では、今後、地域内の現場への移動は電気自動車で行う予定であるため、4つの充電ステーションも配置しています。

(写真)オイグスター社 ©Schweizer Solarpreis 2017

 

【ソーラー駐車場の受賞作品から2事例】

今年の受賞作品の中には2つの駐車場がありました。

スーパーのミグロス:一つはプラスエネルギー部門で優秀賞を受賞した、大手スーパー・ミグロスのアムリスヴィール支店です。スーパーの屋上に84kW、そして駐車場の上に168kWを設置し、プラスエネルギー度135%を達成しています。特に評価されたのは56台分の駐車場の屋根になっている透光型の太陽光パネルです。駐車スペースの日よけになる他、自然光を通すので日中は駐車場の照明が要りません。

(写真)駐車場の日よけとして設置された太陽光発電でプラスエネルギースーパーに©Schweizer Solarpreis 2017

製薬会社のラ・ロシュ社:もう一つは再エネ設備部門で受賞した、製薬会社ラ・ロシュのバーゼル近郊にある立体駐車場です。パークハウスの胸壁の部分に404kWを、屋根に230kWの太陽光発電を設置しています。ファサード設置型ではスイスでは最大規模の設備に入るそうです。発電量は54万kWhで、照明などの自己消費分を除いても、378台の電気自動車で1.2万kmずつ走行できる計算となります。両事例ともに電気自動車が主流となる、未来の自動車交通に備えた賢い駐車場です。

 (写真)外装材などに630kWを搭載するパークハウス。©Schweizer Solarpreis 2017

 

発電設備に見えない外装材としてのソーラーパネルの3事例】

ここ数年、ソーラーパネルに見えない外装材向け製品を利用した事例が、ソーラー大賞でも見られるようになりました。今年の受賞建築の中では特に次の3事例に驚きました。

21階建てビルの外装材:スケール感で驚かされたのは、新築部門で受賞したバーゼル市内のビル、グロースペータータワーです。東西南北のファサード全面が皮膜型の太陽光発電になっており、外壁に440kW、屋根に100kWが綺麗に設置されています。床面積に対する表面積の比が小さいので、ビルのエネルギー消費に占める自給率は28%に留まります。ビルの地下には深さ250mの地中熱採熱管が56本入っており、ヒートポンプと組み合わせて冷暖房。夏の熱を冬まで地中に貯めておく季節間蓄熱が行われています。

 

(写真)バーゼルの高層ビルのファサード材としての利用例。大手設計事務所Burkhardt&Partnerの設計。©Schweizer Solarpreis 2017

マンションの断熱改修での外装材:もう一つは、チューリッヒ市内の集合住宅の省エネ改修の事例です。こちらは全く太陽光発電には見えない、という意味で驚きました。1982年築の集合住宅をミネルギー・Pレベルに改修し、2階分を屋上に増築。床面積を36%増やしたのにも関わらず、電気と熱の総エネルギー消費量を72%減らしています。

外装材には、灰色のガラスで挟まれた太陽光発電を採用。外壁に160kW、屋根に30kWの太陽光発電、加えて15㎡の太陽熱温水器を設置。それにより28世帯の入る集合住宅のエネルギー需要の9割を自給しています。灰色のガラスパネルにより発電量は通常よりも40%減ります。それでも太陽光発電の価格が下がった今日においては、街並みに溶け込ませながら、建物の大きな外皮面積を活用するための一つの手法になり得ます。

(写真)チューリッヒ市内の集合住宅の改修事例。太陽光発電に見えない外装材だが発電する。 ©Schweizer Solarpreis 2017

白い太陽熱温水器と大型蓄熱タンク:三つ目の事例は、毎年のように受賞されているベアット・ケンプフェンさんの設計事務所による、チューリッヒ市内の集合住宅の改修事例です。1970年築の建物をこちらも1階分増築し、床面積を20%増やしながら、建物全体の消費量はミネルギー・P仕様への改修により74%減らしています。東、西、南側に大きな壁面がある建物のデザインを活かして、壁部分に白いガラスで覆われた太陽熱温水器181㎡を設置。同時に不要になった地下駐車場からの排気シャフトのスペースに容量2万リットルの大型蓄熱タンク納め、太陽熱のお湯を貯めています。加えて屋根には35kWの太陽光発電を設置。学生用のワンルーム住居を含む、50世帯もが入る高密度な集合住宅ですが、これらの大胆な改修対策により、建物内で使われる電気・熱の70%を建物上で生産できている優秀な事例です。

 

写真)チューリッヒ市内の集合住宅改修事例。格子状の構造の見える壁の部分が太陽熱温水器になっている。 ©Schweizer Solarpreis 2017

 

スイスのエネルギー戦略2050において、水力が豊富なスイスの場合、発電分野での追加増産分の大部分を担うのは、建物上に設置された太陽光発電とされています。その目標を達成するためには、多様なプラスエネルギー建築の普及が欠かせません。そういう意味で、スイスソーラー大賞の受賞建築は、2035年くらいの当たり前を社会に具体的に示してくれる貴重な事例になっています。

 

(写真)運送会社Galliker社のオフィス・展示場ビル。屋根材として設置した600kWの太陽光発電により166%のプラスエネルギー度を達成。©Schweizer Solarpreis 2017

 

参考文献・写真提供:Schweizer Solrapreis 2017, www.solaragetur.ch


 

お知らせ

●ソーラーコンプレックス社のニュースレター(日本語版)

南ドイツの市民エネルギー会社であるソーラーコンプレックス社のニュースレターの翻訳を行っています。下記から最新号をダウンロードすることができます。

冬号 : http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6989433/546890-830782b5228f301d16d254f7d009235e

 

●冊子「フォーアールベルク州における持続可能な建築」(日本語版)

美しいエコ・省エネ・木造建築のメッカ、フォーアールベルク州における取組みをまとめた30ページの翻訳冊子です。下記から購入することができます。(一冊500円)

ご注文先: 岩手県中小企業同友会  info@iwate.doyu.jp

TEL 019-626-4477


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ファザード材に進出する太陽光発電~コストを回収できる建材として

2014-10-04 08:27:13 | 建築

●ようやく終わった家探し

この夏から原稿の締め切りとエネルギー・環境視察が交互に連続したため、ブログ更新に記録的な間が空いてしまいました・・・。気が付けば早くも10月。厳しい冬が訪れる前の、太陽の温もりが有り難い季節になりました。

 

その間、プライベートでも様々な転機が訪れました。夫の庭園設計アトリエの移転に伴い、この年末に14年間住んだベルン州を離れ、東スイスのシャフハウゼン州に引っ越すことになりました。新しい地域でのスタートが楽しみである半面、見慣れたアルプスの景色や首都ベルン周辺での生活が名残惜しくも感じられます。

 

引っ越しにより、ミューレベルク原発の10㎞圏内での暮らしは終えられますが、東スイスの新居は(遠いとはいえ)4基の原発の風下地域。集落のある小高い山の上からは、天気の良い日には、50㎞は離れたゲスゲン原発とライプシュタット原発の冷却塔からの雲が見えます。北スイスに住んでいる限りは、原発のリスクからは大きくは離れることはできないことを身に染みて感じます。何しろ、原発の50㎞圏で線引きを行うと、スイスは人口の6割が入ってしまうのですから。

 

●家探しの中で出会った様々なエネルギー性能の建物たち

新居探しは、何年も前から行っていたことでした。しかし、スイスでは人口が毎年1%のペースで増えており、なかなか住宅難です。そのような中、私達が望むエコロジー性やコミュニティ、そして自然環境や十分な広さの庭・畑といった条件を満たし、かつ経済的にも現実的な物件というのが、とにかく見つかりませんでした。詳しくチェックした住宅数は戸建てや賃貸100軒以上、実際にはスイス全国で30軒は見に行きました。

 

戦後の中古戸建ても多く見ましたが、省エネルギー改修の費用を考慮すると(将来的に省エネ改修が義務化されるということもあり得ますし)、新築並のコストがかかるようなものばかりです。中には電気暖房が付いた中古戸建てもありました。これらは、脱原発対策の一環として15年以内の交換が今後義務化されますから、一見リーズナブルでも、間もなく熱源の全面交換の費用がかかる建物ということになります。

 

しかしそんな中でも、様々な再生可能エネルギーを使っていたり、パッシブハウスレベルの省エネ性能を持ちながらも、良心的な価格の戸建てや賃貸集合住宅にも、少なからず出会ったことも事実です(これまた、それ以外の条件が合わなかったので残念ながら選べませんでしたが・・)。

 

●知人夫妻が建設したリーズナブルなミネルギー・P・エコの賃貸集合住宅

引っ越し先が決まった後に出会った事例になりますが、先々週には、スイスのパッシブハウス協会の事務局を務めている知人夫妻が経営する不動産会社が建設したミネルギー・P・エコの賃貸マンションが竣工したので、入居前に見せて頂きました。チューリヒから電車で40分ほどの町の駅近くの集合住宅地です。木造4階建て、健康な室内空気と、明るく広々とした空間が素敵な快適住宅ですが、一般住宅と変わらない賃貸価格で驚きました。

 

視察で見学するスイスのミネルギー・P・エコ建築は、都市部の建設組合式住宅以外は、高所得者向けの建物が多かったこともあり、一般市民や若い人でも手の届く賃貸の集合住宅市場に進出してきているのは嬉しいことです。当たり前のように屋根には太陽光発電がついており、熱源には地中熱ヒートポンプが使われていました。

 

出所:Immowerft GmbH/www.immowerft.ch
 

ちなみにこの集合住宅の賃貸価格は、最上階の大きなテラスのついた135㎡の4.5室住居で月2200スイスフラン。居間には蓄熱式薪ストーブが付いています(追加の暖房熱は必要ないため雰囲気用だそうですが)。それよりも小さな96㎡の3.5室住居では月1600スイスフランです。ミネルギーでない新築の賃貸住宅とそう変わらない価格帯です。これらの住宅には、最高の省エネ性能の洗濯機、電磁調理台、食洗機、換気(暖房)が付いています。また、階段室に機械・洗濯室、地下には物置室が付いています。通常の賃貸住宅と異なり、換気・給湯・暖房費は住民が個人で払いますが、「年」で200スイスフラン程度ということで、パッシブハウス(ミネルギー・P)の大きな恩恵を感じるところです。

 

●ミネルギー・P改修されたローマンスホルン町中の賃貸マンション

今年の冬には、東スイスのボーデン湖岸にあるローマンスホルン市の中心街・駅近くの、ミネルギー・P(パッシブハウス)基準に改修されたプラスエネルギー集合住宅が貸しに出されている広告を見ました。太陽光発電パネルをファサード材として使った特徴的な外観で、昨年のスイスソーラー大賞を受けた建物であることがすぐに分かりました。賃貸価格は92㎡の湖の見えるバルコニー付の住宅で月1690スイスフラン、付帯費用(暖房・給湯費用を含む)が100スイスフランと、性能の高さにも関わらず、これまた一般の賃貸住宅と同程度の良心的な価格です。

 

出所:www.solaragentur.ch/Eco Renova AG

 

建物は、1962年に建てられた6世帯集合住宅・店舗建築を2011~12年に総改修・増築し、22世帯の住宅の入る集合住宅に改修したものです。外壁を30㎝程度の断熱材でくるみ、エネルギー効率の高い設備に交換することにより、床面積が増えたのにも関わらず、エネルギー消費量は70%減ったそうです。それに加えて、南・西ファザードとバルコニーには53kWの太陽光発電を仕上げ建材として利用、屋根には26.3kWの太陽光発電と69㎡の太陽熱温水器を設置しています。ちなみに太陽熱温水器からの温水は、高さ7m、容量6万リットルの蓄熱タンクに貯められます。

 

市内の集合住宅の改修であっても、徹底した省エネとファザードのエネルギー生産への利用によって、建物内での消費量(電気・熱)よりも多くのエネルギーを生産するプラスエネルギー建築になっています。施主は不動産会社EcoRenovaで、高度な省エネ・プラスエネルギー改修に特化した会社です。

 

 

●じわじわと増える、ファサード材としての太陽光発電利用

現在スイスの電力生産に占める太陽光発電の割合はまだ1%ですが、ほぼ屋根置き型のみになっています。屋根にとても綺麗なおさまるような施工はかなり普及しています。ですが、近年ではパネル価格が安くなったこともあり、まだパイオニアの領域ではあるものの、上記の事例のようにミネルギー・P建築のファザードに建材として太陽光発電が上手く取り込まれた建築の数がじわじわと増えてきています。他の建材とは異なり、太陽光発電はエネルギーを生産し、短い間で「生産エネルギーとコストを回収できる建材」です。

今日10月3日に発表された、2014年のスイスソーラーエネルギー大賞でもそういった傾向が顕著です。ファザード一体型の太陽光発電を用いた、プラスエネルギー・省エネ建築の受賞事例を、下記のリンクから見ることができます。

http://www.solaragentur.ch/medien

 

ファザード材一体型の利用例と言えば、最近では南ドイツのソーラーコンプレックス社のビルの改修例が思い出されます。9月に総改修後のお披露目会が行われたばかりです。この改修では、中心街にある60年代に建てられたビルでパッシブハウスレベルへの断熱・気密強化を行い、外壁材として東・南・西のファザードに、そして屋上に計90kWの太陽光発電を設置しています。改修では断熱強化、断熱三層窓、機械換気設備、熱橋改修、高効率オフィス機器やポンプへの交換等を行っています。

 
写真:www.solarcomplex.de

ドイツでは(スイスよりも顕著に)太陽光発電の設置コストが安くなり、また電気代が高いことから、太陽光発電の電気を売電せずに、直接消費するタイプの設備が増えてきています。ここでも、作った電気はオフィス内で使い、足りない分はバイオガスのミニ・コージェネ(発電出力5kW、熱出力15kW)で自給、排熱は暖房・給湯に利用しています。そのために5万リットルの蓄熱タンクをこの建物でも地下室に置いていました。

  

とりとめのないブログとなりましたが、最後に、ベルン州の湖水地方で建設現場を見たソーラー温室の写真を貼り付けます。温室の屋根の一部に、日射をを透過するタイプの太陽光発電を用い、日よけにもなっています。温室メーカGysiのサイトを見ますと、こういった太陽光発電を屋根の一部につけて日よけとしても活用した温室は、今日ではそんなに珍しいものではなくなってきているとのことです。

日本では野立ての太陽光発電設備が多いですが、建物一体型や駐車場などの場所の二重利用による太陽光発電もいっそう進むことを期待しています!

 

 

参加者募集

●「MIT-SSS視察セミナー2月1日~7日」

2015年2月1~7日に、MIT社とSSS社の共同主催により、オーストリア西部と黒い森地方、フライブルクにて、森林、木造建築、省エネ、バイオマスエネルギーをテーマとした視察セミナーを開催します。参加者を募集中ですので、興味のある方は、プログラムと詳細を下記リンクよりご覧下さい。

http://www.mit-energy-vision.com/fileadmin/content/MIT-japanisch/Seminar/MIT_SSS_Seminar201502F.pdf

 

 

記事掲載

 

●ビオシティ60号「生命福祉コミュニティ宣言!:福祉の見えるまちづくり 

まちづくりと環境の総合専門誌である「ビオシティ」の創刊20周年+60回記念号が10月8日に販売されます。特集テーマは「福祉の見えるまちづくり」ですが、私は「オーストリア西部の山村地域に見るコンパクトな村づくり」を寄稿しました。アクティブな住民と自治体の取り組みに寄る、コンパクトでエネルギー自立型の村づくりにより、人口1000人規模でも老若男女にとって暮らしやすい、魅力的な村々が育っている様子を伝えています。

http://bookend.co.jp/?p=296

 

●フクシマニュース8月号、9月号

スイスのエネルギーをテーマとした環境団体であるスイスエネルギー財団の月間ニュースレターの一環として、日本における福島第一原発事故のその後の影響について、ドイツ語でニュース報告しています。

8月号:

http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2014/08/20/fukushima-news-august-2014.html

9月号:

http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2014/09/23/fukushima-news-september-2014.html

 

 

●新エネルギー新聞 5号、6号、7号、9

農林社の発行する再生可能エネルギーをテーマとした業界新聞「新エネルギー新聞」(隔週発行)に、欧州ドイツ語圏のニュースと写真を毎月1ページ程度の文量で寄稿しています。6号では、ドイツの再生可能エネルギー法改訂について紹介しています。下記リンクから購読を申し込むことができます。

http://www.newenergy-news.com/

 

●ソーラーコンプレックス社ニュースレター第3号(翻訳)

ドイツの市民エネルギー企業ソーラーコンプレックス社のニュースレターの翻訳版の作成をMIT Energy Visionではサポートしています。下記より、9月号ニュースレターを読むことができます。

http://48787.seu1.cleverreach.com/m/5989726/

 

 

ニュース

 

●スイスの老舗市民エネルギー協同組合ADEV

ドイツだけでなく、スイスでも市民エネルギー協同組合は昔からあり、その数は近年増えてきている。中でもバーゼル近郊に拠点を置くADEVは、老舗の市民エネルギー協同組合で360人の組合員を持ち、9人の職員が働く。20年前の買取制度のない時代から、主に国内での風力、太陽光、小水力の発電設備を、市民出資により実現してきた。これらの設備からのグリーン電力証書の販売も行ってきた。今年の夏には、チューリヒ州立学校の屋根に600㎡の太陽光発電を設置し、24世帯分の電力を発電する。ADEVが州立学校から屋根を賃借して建設した。ADEVでは、これまでにADEVでは10MWの太陽光発電設備を実現している。その中には2013年に高速道路の騒音防止トンネルの屋根に設置された興味深い設備もある。

参照:http://www.adev.ch/de/

 

●ルツェルン州のソーラー屋根台帳

2014年の春からルツェルン州では、州域の建物の屋根のソーラーエネルギー利用(太陽光、太陽熱)の適性や収穫量、CO2削減量および灯油節約量などを調べることができる「ソーラー屋根台帳」を公表している。適した建物の所有者の連絡先を州から教えてもらうこともできる点が、事業者にとっては興味深い。下記リンクからこのソーラー屋根台帳を見られる。スイスではここ数年、多くの自治体でソーラー屋根台帳が実施されるようになった。

リンク:http://www.geo.lu.ch/map/solarpotential/

 

 

●スイスのエネルギー村アルトビューロン

ルツェルン州のアルトビューロン村は、(南ドイツと比べると太陽光発電普及の遅れた)スイスでは太陽光発電がかなり普及している方の村になる。現在、人口991人の村の産業も合わせた年間電力消費量の32%を太陽光発電で生産している。人口一人頭では1.6kWの設置量だ。もちろん屋根置きのみである。特に熱心に設置を進めてきたのが村の2人の企業家たち。木造会社と建設会社の社長2人である。それぞれの企業の屋根に1700㎡と5300㎡のパネルを設置した。さらに村長と村政府も積極的で、公共建築のすべての屋根に太陽光発電を設置。その予算は住民投票により住民から許可された。加えて多くの農家や一般住宅、地元銀行の設置した太陽光発電がある。その他、アルトビューロン村では、地域の森からのチップを用いた地域暖房や省エネ対策も行われている。

出典:Erneuerbare Energien Juni 2014
写真:www.altbueron.ch
 

●スイス:再生可能な熱エネルギーが17.6%

スイスの連邦エネルギー庁が発表した2013年の再生可能エネルギー統計によると、2013年には熱消費に占める再生可能エネルギーの割合が17.6%になった。内訳の中で一番大きいのがバイオマス、その次に環境熱(温度差エネルギー)、そしてゴミの再生可能エネルギー分(ゴミ焼却排熱の半分)が続く。再生可能な熱エネルギーの割合は、1999年以来倍増した。熱分野はスイスのエネルギー需要の半分を占める分野であるため、この分野の大幅な省エネと再生可能エネルギー化は非常に重視されている。

対して電力分野では、2013年の生産量に占める水力の割合が56.6%、新エネが3.4%であった。総最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合は21.1%で、微増している。

参照:エネルギー庁再生可能エネルギー統計、Allianz Atomausstieg

 

スイスの原発、廃炉時期はまだ不明

スイスの環境団体からの連邦核監督局への批判が高まっている。9月1日にはベッツナウ原発一号炉が運転開始45年を迎え、世界で一番古い現役原発の記録を更新し続けている。8月には、ミューレベルク原発の定期検査でシュラウドに新たなヒビが見つかったが、そのことについては再稼働後になって報道された。また7月にはライプシュタット原発で、格納容器に6年前から6つもの穴が開いていたことが分かった。消火器の設置の際に職人が間違って格納容器に穴をあけてしまったのが原因だそうだが、連邦核監督局は6年間も気が付かなかった。

この夏、エネルギー戦略2050関連の諸法案改訂について、国民議会のエネルギー部会での審議がようやく終了した。基本的に長期運転を可能にする法案になっており、廃炉年が現時点では明確でないのが問題だ。2019年の運転終了が決まっているミューレベルク原発以外については、原発運営会社は50年、60年の長期運転を狙っている。エネルギー戦略2050の諸法案は、次の冬に国民議会で決議される。

参照:Allianz Atomausstieg他

 


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ミネルギー・P・エコ基準、クレディスイス銀行の新オフィスが「金のワット賞」に

2013-04-22 22:36:53 | 建築

私の住むベルン近郊にも、ようやく春がしっかりと到着したようで、野原の素朴な花や樹木の芽吹きが目に沁みます。

この2週間は、スイスで普及している有機農業や農村での木質バイオマスの利用、省エネ・木造建築といったテーマの視察が続き、スイスの北東部を縦横に走りました。改めてスイスを走ってみると、ここ2年くらいの太陽光発電の大幅な普及が目に見え、南ドイツにはまだまだ追いつかないものの、やっとスイスのPVも飛躍期に入ったか、と感慨深く思いました。酪農家や産業建築の大屋根一杯に設置された太陽光発電は、つい3~4年前まではまだ珍しいものでしたが、今ではあちこちで見られます。

省エネ建築では、パッシブハウス基準やミネルギー・P基準による木造建築を中心に、7階建てのビルや、ベルン市に現在建設中のカーフリー集合団地などを見学しました。そこで、久しぶりにミネルギー連盟の会長バイエラーさんに会いました。バイエラーさんによると現在、ミネルギーの普及率は住宅分野で25%、産業分野で20%だそうですが、チューリッヒ州の住宅分野では50%にもなるそうです。

それよりも重用なのは、2014年頃に現在のミネルギー基準が、ミネルギー・P基準(スイスのパッシブハウス基準)に底上げされるということ。これは、2014年に州のエネルギー雛形法の改訂が予定されており、その中で現行の建物の省エネ規制基準が底上げされることと関連しています。

4月10日~12日には、南ドイツのフライブルク市で、「第三回エネルギー自立自治体会議」が開催されました。私は残念ながら、最終日の自治体見学ツアーにしか参加できませんでしたが、参加者の話によると会議は非常に盛り上がっていた上、北や東ドイツやスイスからも参加者があったそうです。

私が参加した見学ツアーでは、ミュンスタータールという、黒い森の観光が盛んな山間の田舎町を訪れました。ごく普通の自治体ですが、ごく普通にエネルギー自立を目指し、バランス良く太陽光、バイオマス地域暖房、飲料水発電、風力などに取り組んでいます。中でも風力開発が目下の課題。地元のアジェンダ21から生まれた住民出資の会社が風力開発計画を策定し、適性地を割出していました。現在は、地域の都市公社の協力を得て組合を作り、住民出資を交えて実現していく段階にありました。


●2013年度「金のワット賞」より

さて、今日は2013年にスイス・エネルギー庁による「金のワット賞」を授賞したプロジェクトの中から、いくつか興味深いものについて紹介します。

社会部門では、ジュネーブ州の都市公社(SIG)の節電事業が授賞しました。SIG社は州の決断を受けて、1986年から原子力のない電力供給を行っています。また2008年からは、売上の2%にあたる年5300万フラン(約53億円)を、節電事業「エコ21」に投資。家庭、中小企業、大口消費者向けに、様々な省エネプログラムを実施してきました。それにより、2014年までに125GWhの節電を目指し、これまでに70GWhの節電を達成しています。これはジュネーブ州の電力消費の僅か2%ですが、ジュネーブ州では人口が増え、経済が成長していることを考慮して、良好な成果とされています。

「エコ21」に参加する顧客の、一件あたりの平均的な省エネ対策への助成コストは900スイスフランです。それにより平均4500スイスフランが節電される上、1800フランが地域産業への投資として循環します。SIG社にとっても、高価な発電設備や送電網への投資や外国からの電力輸入が避けられるため、経営的なメリットが大きいそうです。同社は省エネを契約販売するESCO事業にも熱心。顧客に正確な省エネ量を販売するために、IPMVPという国際的に認められた省エネ測定記録方法を導入しています。
http://www.eco21.ch/eco21.html

 

「金のワット賞」建物部門では、クレディスイス銀行のオフィス建築が授賞しました。2012年3月にチューリッヒ市の郊外に竣工したこの建物は、既存オフィスへの増築棟で9階建て、床面積は38000㎡にも上ります。2500人が働くこの建物は、ミネルギー・P・エコ基準で建てられたものとしては最大規模になります。クレディスイス銀行は、2006年から気候保全戦略をスタートし、カーボンニュートラルであることを義務付けています。同社のCO2排出量の4分3がオフィスとデータセンターによるものなので、建物分野での省エネと再生可能エネルギー利用は欠かせない対策でした。

結果、建物は高度な断熱と気密性能を持つ躯体となり、暖房熱需要は70年代に建てられた建物の10分の1となりました。熱源には、データセンターの排熱を活用しています。自然光を上手に取り入れた空間には、周辺の照明に合わせて照明量を自動調整する機能の付いたLED照明も取り入れています。また、エコ基準を満たし、質の高い仕事環境を作るために、環境と健康に害のない建材の利用にも徹底しています。施工現場では、使われている建材、塗料等の検査が定期的になされました。交通に関しても、新しい駐車場を増設せず、チューリッヒ市営交通と協力により、通勤時におけるバスやトラムの運行を充実させたそうです。

http://stuecheli.ch/projekte/detail/uetlihof/

https://www.credit-suisse.com/responsibility/de/environment/

 
建物部門での2件目の授賞は、グリーン・データセンター株式会社の、アールガウ州ルプフィッグにある施設です。このデータセンターでは、2012年3月より、ABB社の高圧直流技術を活用して、20%の節電を達成しています。送電網から1.6万ボルト・交流で届く電気を、380ボルトの直流に転換し、ダイレクトにHP社のサーバーに供給しています。それにより、何度も電圧転換する従来的なデータセンターで生じる転換損失と、転換の再に生じる排熱を冷却するエネルギーが節約されます。グリーン・データセンターの電気代は、年間10億円。その2割が節約できたため、この省エネへの投資は僅か3.5年で回収できるそうです。
http://www.greendatacenter.ch/deCH.aspx


その他、2013年度の「金のワット賞」では、エネルギー技術部門では、このブログでも紹介した熱回収型のシャワー床「Joulia」が授賞。エネルギー技術輸出部門では、世界一省エネ型の紡績機メーカであるリター機械技術社の新しい省エネ技術「suction tube ECOrized」が授賞。交通部門では、スイス郵便バス社の2011年から5年間に渡る「再生可能電力による水素燃料電池バス」の実証運転が授賞しています。

参照:Energeia、2013年1月号他

  

●最近の福島効果~ミューレベルク裁判で住民団体敗訴

遅ればせながら、ミューレベルク原発の安全性と無期限運転許可を巡って、地元住民の団体と運転会社らが最高裁で争っていた裁判についての結果報告です。3月28日に最高裁は、住民団体の訴えを正当とした連邦行政裁判所の判決を覆し、ベルン電力とUVEK(連邦環境交通エネルギー通信省)が裁判に勝ちました。

審議に一年かかったこの裁判の判決の理由は、最高裁は原発の安全性について判断する能力がなく、連邦核安全監督局(ENSI)が唯一の判断を行う能力のある機関だからというもの。原発産業と癒着したENSIの安全性審査に疑いがあるから訴訟されているのに、この理由です。ENSIを唯一絶対、間違いを犯さない規制機関とみなし、中立の第三者機関からの意見も認めない姿勢です。負けた133人の住民団体には、裁判の費用16万フラン(1600万フラン)がのしかかり、グリーンピース経由で我が家にもカンパ要請が回ってきました。とはいえ、ミューレベルク原発を巡ってはまだ数々の訴訟が進行中な上、2014年にはベルン州のレベルで即時廃炉を求める住民投票も行われます。

この判決に調子に乗ったベルン電力の理事ガシェ氏は、国の規制局が2017年までにミューレベルク原発に実施を求める安全対策を行うならば50年以上運転しなければ元が取れず、反対にそれよりも早く運転終了する場合には「事故の確率が減る」ので(!)、規制局が同社に求める安全対策を軽減すべき、と考えているそうです(Der Bund地元誌)。ミューレベルク原発は安全性に関してドイツでは運転許可が得られない代物。それが首都のすぐ脇にあるというのに、ガシェ氏の発言は我が家を含む地元住民にとっては無責任を超えて、正気を疑わせるものです。

国のレベルでは、4月に入ると国会下院の環境都市計画エネルギー委員会(UREK)が、原発の寿命を50年に制限する案を決議しました。これは、原発の寿命を40年に制限し、長期運転コンセプトの提示により最大10年間延長可能にする、という緑の党の議員立法案を審議した結果です。これまでのスイスの脱原発の大問題は、原発の寿命制限がないことでしたので、制限を取り入れることに同意できたこと自体は大きな進歩です。UREKは、内閣にこの案を原子力法改訂に取り込むように要請しています。

とはいえ隣国ドイツでは、1981年以前の原発は既に廃炉にされています。例えば、環境団体のスイスエネルギー財団では、安全性のためにスイスでも原発の寿命を40年に制限することを求めています。また緑の党でも、妥協案として寿命45年を求める国民投票を仕掛けています。(ただしその中で、ミューレベルクについては安全性の問題から、即時の運転停止を求めています。)この国民投票は2014年に行われる予定で、上記のUREK案が対案として投票されます。

政治家たちの脱原発を巡る関心は、今のところ、いかに電力会社への損害賠償額を最小限に済ませるかという点に、そして電力会社側の関心は、いかに少ない安全対策で長く運転するかという点に、集中しているようです。

参照:Der Bund誌、スイスエネルギー財団、緑の党プレスリリース他



お勧めのヴィデオ・写真リンク

 

★映画「第四の革命」が4月22日からインターネットで無料公開(ドイツ語)

少々古いですが、カール・フェヒナー監督作のドイツのエネルギーシフトの映画「第四の革命」のドイツ語版が、4月22日より下記リンクから無料公開されています。寄付金も受付している様子です。http://fairload.de/movie/1/4-Revolution/

 

市民や企業からの出資で製作を進めているというフェヒナー監督の次作「ドイツのエネルギーメルヘン」も楽しみです。下記よりトレーラーが見られます。

http://www.energiewende-hohenlohe.de/index.php

 

★オーストリア、ドルンビルン市に竣工した木造7階建てビルTLC⁻One

構造開発はCREE社、設計は有名な建築家ヘルマン・カウフマンさん。木とコンクリート造のハイブリッドによるプレファブパネル構造方法。パッシブハウス基準を満たす設計。地域の木材を地域で加工した省エネ建築で、ライフサイクルのCO2排出量-90%。施工の様子がヴィデオで見られる(英語)。

http://www.youtube.com/watch?v=AVzfDoKernk

 

★チューリッヒ市に竣工間近の木造7階建てビル「タメディアハウス」

チューリッヒ市に5月に竣工予定の、メディアコンツェルンTamediaの新しいビルは、日本人建築家の伴茂さんの設計する木造7階建ての建物。施工は、東スイスの環境的な木造会社のブルーマー・レーマン社。木造の構造体の接合部に金具をほとんど使っていない。下記リンクの記事から建設途中の写真が見られる。

http://www.blumer-lehmann.ch/cms/img/pool/2013_0102_Mikado_Tamedia_oI.pdf

 

 

ニュース

●ミット・エナジー・ビジョン社の7月セミナー参加者募集!

私も参加しているミットエナジーヴィジョン社では、エコ建築とエネルギーシフトをテーマとした、南ドイツ・西オーストリアでの視察セミナーを、7月13日~20日に渡り開催します。詳しい行程およびお申し込み方法は、下記のリンクからご覧ください。

http://www.mit-energy-vision.com/fileadmin/content/MIT-japanisch/Seminar/MITSeminar201307F.pdf

 

●濱田ゆかりさんの新しい共著本「くさる家に住む」

長年お世話になっている、日本のひと・環境計画代表の濱田ゆかりさんが、2月末に新しい共著本「くさる家に住む~人と人、人と自然が共生する10の暮らし方」(六輝社)を出版されました。私は新著をまだ入手できていませんが、濱田さんの前共著の「健康な住まいづくりハンドブック」は大変勉強になりました。下記リンクから購入できます。

http://www.amazon.co.jp/%E3%81%8F%E3%81%95%E3%82%8B%E5%AE%B6%E3%81%AB%E4%BD%8F%E3%82%80%E3%80%82-%E4%BA%BA%E3%81%A8%E4%BA%BA%E3%80%81%E4%BA%BA%E3%81%A8%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%8C%E5%85%B1%E7%94%9F%E3%81%99%E3%82%8B10%E3%81%AE%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%97%E6%96%B9-%E7%A5%9E%E7%94%B0-%E9%9B%85%E5%AD%90/dp/4897377323

 

●ドイツ:4月18日、原発30基分を再生可能エネルギーで生産

IWR(国際経済フォーラム再生可能エネルギー)によると、4月18日にドイツでは再生可能エネルギー源による発電量の記録を更新した。風力と太陽光発電により、出力36000MW分の電気を発電した。これは30基の原発に相当する。それにより一時的にドイツの送電網では、再生可能電源が従来電源の量を上回った。IWR代表のNorbert Allnoch博士によると、平日日中のピーク時に50%を風力と太陽光が供給するのはドイツでは初めてのことだという。ピーク時の需要は約70000MWなのに対し、36000MWが供給された。

出典:Sonnenseite、IWR

 

●ドイツ:電力市場で4ユーロセントを下回る記録的安値

4月16日のIWR(国際経済フォーラム再生可能エネルギー)のプレスリリースによると、ドイツの電力取引市場で、大型消費者が2015年に供給を受けるベース負荷用の電力価格が初めてkWhあたり4ユーロセントを下回り、3.99ユーロセントとなった。2016年向けのフューチャー価格も3.998ユーロセントとなった。価格低下の理由は、ドイツにおける電力の過剰供給である。ドイツでは、2011年に廃炉にされた8基の原発の発電量だけでなく、2015年と17年に廃炉になる原発の分までも既に代替発電されている。IWR代表のNorbert Allnoch博士は、大手の電力供給会社が再生可能エネルギーの増産スピードを過小評価して、石炭発電の新設により市場を過剰供給状態にしたことを理由に挙げている。しかし、安い電力の恩恵を受けるのは、電力市場で直接仕入れられる大手消費者。一般市民や中小企業の電気料金に上乗せされる賦課金は、市場価格の低下により高くなる。固定価格買い取り制度の賦課金は、電力市場価格と買い取り価格の差額から決まるからだ。

参照・出典:IWR Internationales Wirtschaftsforum Regenerative Energien

 

●スイス:チューリッヒ州電力、1MWバッテリーでピークカット

チューリッヒ州の所有する電力会社EKZでは、1年前よりABB社と協働で、1MW規模のバッテリー蓄電を既存の送配電網に統合する実証実験を行っている。将来的に、分散型の太陽光発電や風力を蓄電することにより、送配電網を安定化させる。バッテリーはチューリッヒ州ディエティコン市にある、州営電力の中圧電線に接続されている。一年目の実験の目的は、バッテリーによる電力需要のピークカットとピークシフトで、期待通りの機能が確認された。2年目の実験の目標は、バッテリーの投入により、送電網への高額な投資を部分的に回避する可能性を検査することである。

参照・出典:チューリッヒ州電力EKZ

 

●スイス:安定した一人頭の電力消費量の推移

2012年度、スイスの電力の最終消費量は前年度比で0.6%増え、59TWhとなった。理由は、人口が0.9%増加したこと、経済が1.0%増加したこと、さらに寒冷な天候により前年度より暖房ディグリーデイ(暖房温度・日数)が11.7%増加したことにある(スイスでは電力需要の10%が暖房熱に利用されている)。これらを合わせると、電化が進むスイスでも、一人頭の電力消費量は安定していると言える。同時に、止まらないスイスの人口増加はエネルギー政策にとっても大きな課題である。2012年は水力の発電量が多く、水力が58.7%を発電、原発が35.8%、その他の電源が5.5%を発電した。ヨーロッパとの輸出入に関しては、2012年度は86.8TWhの輸入に対して、89TWhを輸出しており、2.2TWhの輸出超過だった。

参照・出典:スイスエネルギー庁BFE

 

●スイス:スイス郵便の仕分けセンターに1.5MWの太陽光発電

チューリッヒ近郊、ミューリンゲンにあるスイス郵便の手紙仕分けセンターの屋上に、1.5MWの太陽光発電が設置された。同設備は年150万kWh(330~430世帯分)の電気を発電する。スイス郵便では、20の不動産に同様な設備を設置する計画で、年内に計8設備が完成する予定。20設備の中では、ミューリンゲンが一番大規模なものとなる。2008年よりスイス郵便では、100%再生可能な電力を利用している。その他、郵便配達に4000台の電気スクーターや156台のバイオガス自動車を実用している。2012年からは、国内の手紙郵送で生じるCO2排出量の全量をカーボンオフセットしている。

参照・出典:www.ee-news.ch, Die Post

 

●スイス:エネルギー都市が309自治体に、人口の半分が住む

スイス・エネルギー庁の自治体向けプログラムの代表的なものは「エネルギー都市認証制度」であるが、その姉妹的な存在として、「2000W社会」、「スマートシティ」、「エネルギー地域」といった、重点の異なるプログラムも進行中だ。例えば、2012年にスタートした「エネルギー地域」は、エネルギー自立を目指す地域を国がサポートするプログラムで、現在11地域が参加している。対して、既に25年の歴史を持つのが「エネルギー都市」。交通を含む総合的なエネルギー政策のマネジメントを実施している自治体を認証する制度で、400万人が住む309自治体が参加している。この中には、ヨーロッパの「ヨーロピアン・エナジー・アワード」のゴールドマークを授賞している自治体も24ある。

参照:www.energiestadt.ch


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工場建築:省エネ+PVでCO2フリーの生産プロセスへ

2012-12-23 15:07:32 | 建築

スイスでは毎年のことながら、クリスマス休暇の直前には、多くの人が家族や友人の訪問を喜ぶというよりも、ストレスいっぱいで喘いでいるように見えます。そんな人々の様子と比べて全くちぐはぐなのが最近のお天気で、今日など12度にもなりとても年末とは思えない温かさです。

さて、今日は(やっと)2012年度のスイスソーラー大賞について報告します。今年も10月中旬に、人物・建物・設備の3部門30プロジェクトが、先進的なソーラーエネルギー利用例として、スイスソーラー機関により表彰されました。

建物分野では、新築や改修によるプラスエネルギー建築の表彰が、珍しくなくなりました。表彰された建築部門の16棟の建物のうち、11がプラスエネルギー建築で、106~634%の電熱自給率を示しています。基本は、ミネルギーやミネルギー・Pの省エネ性能の躯体に、太陽光発電と再生可能熱源を組み合わせた建物です。新築戸建てだけでなく、改修物件や小規模な集合住宅から産業建築まで見られるようになってきました。

恒例のスター建築家ノーマン・フォスター卿による「ノーマンフォスターソラーアワード」は、このブログでも紹介した展示場建築の「環境アリーナ」が受賞。電熱の自給率は203%です。クリーン技術の展示場だけあって、技術的な見所は一杯です。高断熱の躯体に加えて、太陽熱冷房、地下水によるフリークーリング、大型蓄熱タンク、地中蓄熱体と地中熱ヒートポンプ、レストランの生ゴミを利用する小型バイオガス・・・等々。屋根面は、スイスで最大の建材一体型の太陽光発電パネルの利用例(760kW)となっています。
http://www.umweltarena.ch/

今回興味深く思ったのは、工場建築での受賞例が増えてきていることです。省エネ対策と太陽光発電の組み合わせにより、中小規模の産業や工業の建築では、電熱の分野で高度な自給率を達成している企業たちがトップランナーを形成しています。この分野でも、スイスソーラー大賞のプロジェクト選定の特徴は、単に設置量の多さだけでなく、省エネ対策と建築への綺麗な収まりを重視しているところです。

特に木工や製材、木造関連の工場の受賞が目立ちます。木産業は大屋根があり、木屑が生じるという点から太陽光、木質バイオマスを利用した電熱自給には最適の条件を備えているのでしょう。今日は、受賞例の中からそういった工場建築を3つ紹介します。

 ●大賞:シェーツ村の木造会社レンクリの新工場

ルツェルン州にある木造会社のレンクリは、省エネ・高層・持続可能な建物づくりのパイオニアです。工場で木造の壁パネルを作り、それを現場で組み立てる構法を採っています。今回受賞したのは同社の新しい工場建築。建物の省エネ性能については、断熱材は壁が18cm(U値0.22W/m2K)、屋根が27センチ(U値0.16W/m2K)、窓が三層断熱ガラス(U値0.98W/m2K、日射透過率58%)となっています。暖房熱需要は9.2kWh/m2年、電力消費は16.7kWh/m2年、生産用機械の電力消費が34.5kWh/m2年です。

この工場建築では、建材として太陽光発電を使っているのですが、東向きと西向きの屋根にそれぞれ137.5kWずつを、南向き屋根に23.1kW、南ファザードに4.9kWを設置しています。合計した年間の生産量は28万5441kWhで、工場と事務所等での電力消費量30万kWhの95%を生産している計算になります。足りない5%の分は、敷地内にある小水力発電でまかなっています。この消費量には、生産用機械が消費する17万2000kWhも含まれます。また、工場や事務所の熱供給は、端材を燃やすチップボイラーで行っています。


写真:Renggli AG / www.renggli-haus.ch

●大賞:シュテーグ村の断熱ガラス工場、ショルガラス社

ヴァリス州に建てられた、ショルガラス社の新しい工場建築も、今年のソーラー大賞に輝きました。高度な断熱ガラスのメーカですから、自社工場の窓ももちろん3層断熱窓です。窓U値は0.80で、日射透過率は55%のものを使っています。外壁の断熱材は16~20㎝(U値0.16~0.18)、屋根は24~37センチ(0.10~0.15)、床は20㎝(U値0.16)と、経済性優先の工場建築とはいえ、優秀な断熱性能です。熱源には空気ヒートポンプを利用。建設時のCO2排出量の削減にも取り組み、建材の輸送を貨物鉄道で行うことにより、トラック輸送を380台分減らしたそうです。

新しい工場の緑化された屋上には、2580㎡の太陽光発電(383kW)が設置され、年50万kWhを生産しています。ガラス生産に必要なエネルギー量73万7500kWhの68%を、太陽光発電で生産している計算になります。大型消費産業での自給努力が高く評価されています。写真は下記リンクから見ることができます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente//G-12-09-24%20Klein-Solarpreispublikation%202012-DEF_Schollglas_kleinste.pdf

●副賞:サンモリッツの木工工場マローツ社の改修

アルプスの高級リゾート地サンモリッツにあるマローツ木造会社は、築1968年の事務所・工場・住宅建築を断熱改修することによって、熱のエネルギー消費量を73.6万kWから31.2万kWに42%削減しました。その上で、建物の屋根面に太陽熱温水器44㎡を設置して、給湯需要の62%を生産(3万kWh)。残りの暖房・給湯熱は、建物内で生じる木屑を燃やすチップボイラーで供給しています。電気については、屋根とファザードに設置した太陽光発電63.8kWが年8万kWhを生産し、建物内の電力需要の7割を供給しています。 サンモリッツの豊富な日射量を活用し、デザイン的にもおさまりが綺麗な省エネ・ソーラーエネルギー改修の好事例です。写真は下記のリンクから見られます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente//G-12-09-24%20Klein-Solarpreispublikation%202012-DEF_Malloth_kleinste.pdf


次回は、ソーラー大賞の設備・人物部門で受賞した工場を紹介したいと思います。年末までに更新したいという気持ちはありますが、出来なかった場合のために、この場でご挨拶しておきます。 2012年に日本や欧州でお世話になった皆さん、そして読者の皆さん、どうもありがとうございました!! 2013年も日本のエネルギーシフトのために、各々の地域から、一人一人が出来ることを実現していきましょう!


ニュース

●スイス:フリブール州農家が運営する森林材ペレット工場
スイスではペレット製造には製材所で生じるおが粉が原料として用いられるのが通常だ。しかし、林業で生じる端材や残材からペレットを作る方法もある。その際、原料を乾燥させるエネルギーの種類が製品の環境性を左右する。フリブール州農家のオスカー・シュヌービュリ氏は、排熱を用いておが粉を乾燥させる製法により、エネルギー消費量の少ない森林ペレット製造手法を開発、高品質なペレットを生産してきた。
今年、新たにこの手法を用いて、4人の農家が共同出資してペレット製造を始めた。工場では、隣接するバイオガス発電設備の排熱を用いて、ペレット原料となるチップを乾燥させている。また、ペレット工場の屋根は太陽光発電パネルで覆われているが、その背面通気層で温まった空気も、チップの乾燥に利用する。こうして乾燥したチップを粉にし、接着剤や水を一切用いずペレット化する。最大で年1万トンを生産できる予定だ。農家たちはBestPelletWarme株式会社を設立し、同社の主要株主になっている。残りの株は地域のエネルギー会社であるGroupeEGreenwattAGが保有する。
出典:www.hier-ist-energie.ch

 ●スイス:下水処理場が地域のエネルギーパークに
スイスの規模の大きな下水処理場では、汚泥消化ガスを利用した電熱併給が普及している。東スイスにある5万㎡を有するモルゲンタール下水処理場では、汚泥消化ガスとバイオマス熱源の組み合わせにより、地域の熱供給センターを建設するプロジェクトが開始した。下水処理場から10㎞の熱供給網を伸ばし、アルボン、シュタイナッハ周辺の建物に熱供給が行われていく予定だ。
汚泥消化ガスをサポートする熱源となるのは、隣接する建物取壊し会社で分別された木廃材を燃料とした2.4MWのチップボイラー。ボイラーと熱供給網への出資は、バーゼル地方のエネルギー会社であるEBM社がコントラクティングで行う。冬の厳寒時のピーク用には灯油ボイラーがサポートする。
このエネルギーセンターでは、汚泥消化ガスによる電熱併給、処理後水からの排熱利用(ヒートポンプ)、木チップボイラー、ピーク時用の灯油ボイラーの4熱源を組み合わせて熱供給が行われていく。この他、下水流の高低差を利用した小水力や太陽光発電も行われている。
出典:プレスリリースEBM

 ●スイス:サンクトガレン都市公社がバイオガス販売開始
スイスでは、数多くの自治体所有の都市公社が、地域の総合的なインフラ供給を行っている。その中には熱、電気、ガス等も含まれる。サンクトガレン市の都市公社は、2013年よりガス販売においても再生可能エネルギーの割合を高める方針だ。顧客は、生ゴミ堆肥化施設で生じるバイオガスを購入することが出来るようになる。
具体的には、2013年からガス顧客は、バイオガス割合の異なる4種類の商品を選ぶことが出来る。全ての顧客に自動的に供給されるスタンダード商品は、天然ガスに「5%バイオガス」を混ぜた商品で、値段はこれまでの天然ガスと同様。「20%バイオガス」の商品はkWhあり1.4ラッペンの上乗せ価格で購入できる。「100%バイオガス」の商品はkWhあたり8.1ラッペンが上乗せされる。対してバイオガスの入らない天然ガスを注文する顧客は、別途注文しなければならない。
出典:サンクトガレン市プレスリリース

 ●スイス:エネルギーパイオニア、ガッサー社長が3MW風車を建設
東スイスのエネルギー・パイオニアとして有名な建材会社社長のヨシアス・ガッサーさん。このガッサーさんが中心となり、ハルデンシュタイン村に、スイス最大規模の風車の建設が始まった。モデルは内陸向けに開発されたVestas社のV112 で、ローターの直径は112m、出力は3MW。このモデルは弱い風でも効率的に発電することができ、毎秒10mの風速で既に最大出力に達する。予想発電量は年4.5GWhで1300世帯分に相当する。2013年3月には試運転が開始する予定。
出典:スイスエオル・ニュースレター Suisse Eole

 ●スイス:エネルギー都市の数が300に、人口の半分が住む
先進的で総合的なエネルギー政策を実施する自治体を認証する「エネルギー都市制度」。現在スイスの人口の半分がそのような自治体に住む。今回第300のエネルギー都市となったのは、チューリッヒ州にある人口1.7万人の町レーゲンスドルフ。同町は、以前より自治体のエネルギー計画を策定し、着実に実施してきた。今後は、居住地の高密度化、建物の省エネ改修、そして交通緩和と自転車・徒歩交通の促進にいっそう力を入れていく予定だ。レーゲンスドルフは周辺自治体とエネルギー地域「Furttal」を構成し、地域単位でのエネルギー自立の方向にも歩みを進めている。
出典:エネルギー都市ニュースレター www.energiestadt.ch

 ●スイス:フリブール州住民が電気暖房交換義務にNo
脱原発を実施する上で欠かせないのが、冬の電力浪費源になっている電気暖房の交換だ。スイスでは州の管轄になっており、州のエネルギー法の改訂によりこれを禁止したり、交換を義務付けたりすることが出来る。今後、多くの州では10年以内に電気暖房を環境に優しい熱源により交換することが義務付けられていく。
しかし、その先駆けとなったフリブール州では、新しいエネルギー法が住民投票において僅差で否決された。原因は電気暖房交換義務について猛反対する建物所有者たちのキャンペーン。同州には6000棟の建物で電気暖房が使われている。同州は来年度、エネルギー法案を再度見直す。脱原発のための重要項目が州別に決議されるという点、それが住民投票で覆されうるという点がスイスの制度では難しいところである。

●ドイツ:ヘッセン州でエネルギー未来法可決
ヘッセン州議会は昨11月20日にエネルギー未来法を可決した。同州が目指すエネルギーシフトを進める法的なツールとなる。法に定められた目標は2050年までに熱と電気の最終エネルギーの100%を再生可能エネルギーで賄うこと。そのために毎年建物の2.5~3%を省エネ改修していくことを定めている。州は模範として、州が所有する建物を2017年までに1.6億ユーロかけて省エネ改修していく。また、地域計画の中で州域の2%を風力優先値として指定する。州としてのモットーは「義務でなく自発性」ということで、「情報提供・アドバイス・助成」対策が中心となる。
出典:ヘッセン州プレスリリース www.hessen.de

 ●ドイツ:再エネで化石エネ輸入を60億ユーロ削減
2011年ドイツは、再生可能エネルギーの生産により、化石エネルギーの輸入代金を60億ユーロ削減できた。環境省が助成した再生可能エネルギーのコスト対効果の調査により分かった。同年にドイツが化石エネルギー輸入に支払った額は、812億ユーロに上る。再生可能エネルギーの生産量が増えるほど、化石エネルギーの輸入代金として国外に流出する富が減る。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関www.unendlich-viel-energie.de

●ドイツ:エネルギー組合設立ブーム、1週間3件
住民によるエネルギー組合の設立が、ドイツでブームになっている。住民が組合を作り、住民出資で再生可能エネルギーの発電設備や熱供給施設を建設、運営するものだ。9割は太陽光発電設備の運営に関わる。ドイツでは今年、毎週3件のペースでエネルギー組合が誕生しており、合計600のエネルギー組合がある。過去3年間でその数は4倍に増えた。ドイツ組合ライフアイゼン連盟らの調査によると、過去数年に設立された500のエネルギー組合には、8万人の市民が組合員として参加、彼らにより8億ユーロが再生可能エネルギーに投資された。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関 www.unendlich-viel-energie.de

 ●ドイツ:農家からの再生可能エネルギーへの出資
ドイツの再生可能エネルギーによる発電容量の11%は農家の所有だ。ドイツの農家連盟によると、農家の再生可能エネルギーへの出資額は過去3年間で160億 ユーロに及ぶ。農村部での出資を支えるのは農業年金銀行で、2012年の上半期だけでも同銀行は、再生可能エネルギーに8.5億ユーロの新規融資を行っている。これは同銀行の総融資額の3割を占める。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関 www.unendlich-viel-energie.de

 ●ドイツ:5人に一人が太陽光発電に投資する意志
ドイツでは今年の10月末までに6.8GWの太陽光発電が設置された。LGエレクトロニックスが依頼した市場調査の結果によると、電気代が17%上がり、kWhあたり30ユーロセントになったことを受けて、市民の3分1が省エネ機器の購入を考えている。また、高騰し続ける電気代から解放されるために、ドイツ人の5人に1人が太陽光発電への投資を考えている。LGエレクトロニックスでは電気代の高騰は、再生可能電力の買い取り制度が原因ではなく、化石エネルギーの高騰が主な原因だと分析している。ドイツでは、設置出力4kWの太陽光発電設備の価格は2006年以来65%下がり、現在7000ユーロとなっている。20%を自家消費すると、年600ユーロの儲けが出て、約10年でコストが回収できる。
出典:LG Electronicsプレスリリース、EE-News

●最近の掲載誌
ビオシティ2012年53号 欧州中部のビオホテル探訪 「シュタイナー農場から生まれたエコホテルとコミュニティ」
http://www.bookend.co.jp/biocity/index.html

Webronza 2012年12月11日 「欧州ドイツ語圏で盛り上がる、地域のエネルギー自立運動」
http://webronza.asahi.com/global/2012121100001.html


Schweizer Energiestiftung „Energie&Umwelt“ 2012年第4号 (ドイツ語)
„Stromsparen in Japan – eine einzigartige Erfolgsgeschichite“
http://www.energiestiftung.ch/files/textdateien/aktuell/magazine/2012_4_eu.pdf

 


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