半農・半Xの生活

思いついたことを思いついた時に綴ります。

のど自慢騒動記

2015年03月25日 10時05分47秒 | 日記
齢88歳の父が、地元で行われるNHKのど自慢に出たいが、
どんなものかと相談を受けたのが、1月末だった。数年前に
圧迫骨折した父は、自立歩行は困難で、移動手段が、杖を二
本突くか、歩行器なので、その点が気がかりであったが、本
人の出たい気持ちが強そうなので、自分の人生なんだから自
分のやりたいようにしたらどうだとアドバイスをした。

約2500通の書類審査を通過して250人の予選参加者に
残った父は、予選本番を想定して入念に練習をしていたよう
だ。
もともと、小生と一緒にカラオケをやっても、100点満点を何
回も出す父は、歌にも自信があり、のど自慢に無事出ること
が二月、三月の目標となり、風邪などひかぬように体調管理
もいつにも増して気をつけていたようだ。

そして迎えた予選の日、NHKのど自慢は、本番の前日の土
曜日が予選日となっており、朝から父の介添えと役となった。
普段は滅多に顔を合わせることも無い兄弟三人がかりで父の
面倒を見ることとなった。

予選会は、250人の中から本選に出場の20人に絞り込むのでか
なりレベルは高い。
250人を20人づつのグループに分け、順番に舞台にあがり、本
番さながらに舞台の上で自慢の喉を競うわけであるが、舞台と
客席と一体となって大変な盛り上がりで、おもしろいし、結構
楽しめる。1200人が入る会場も応援者やら観覧者やらで、8割
方埋まり、熱気に圧倒される。
プロ級の人、宴会芸風に盛り上げる人などとにかく楽しいのだ。
のど自慢は、本番よりも、予選が面白いと聞いてはいたが、そ
のとおりであった。

そして、いよいよ父の出番が近づき、父を含む20人が舞台にあ
がり、順番に舞台の中央に出て生バンドの演奏に合わせ40秒に
全身全霊を傾ける。出番を待つ者は後ろの席に座り、曲に合わ
せ、デイレクターが示す振りに合わせ、身振り手振りで身体を
揺らす。付き添いの小生も参加者に混じって舞台上で、盛り上
げることに一役を買うことになった。

いよいよ、父が歩行器に掴まり、舞台中央に進み、番号と曲名
を告げ、歌い出したが一瞬身体が固まる、さすがの父も緊張し
たらしく、出だしのキーが高いのだ、聞いたこともない裏声を
使い、何やらソプラノ歌手状態で、どうやら岡本知高かはたま
た米良美一状態になってしまって、歌い終わった父は、どうや
ら終わった安堵感よりも、やってしまったという落胆の様子。

そして、翌日の本番に出場できる20名の合格者の発表は、夕方
の5時半過ぎ、案の定、父の名前は呼ばれることはなかった。父
は、合格しなくて良かったと一言呟いた。予選会の長い待ち時
間で相当疲労したらしく、仮に本選に出るとすると7時45分
に集合し、本番を経て午後2時頃まで拘束されるため、やはり
高齢の父には、歌唱力は別として、体力力的に過酷かもしれな
い。他にも高齢者が予選会に出場していたが、合格した人はい
なかった。選ぶ側もそのあたりも配慮しているのかも知れない。
想像するに、20人の合格者の内訳は、確実に鐘三つの人を5
人、鐘二つ半の人5人、舞台を多いに盛り上げそうな人5人、
訳あり曰くありげな人5人で選んでいるような気がする。

結果は結果として、母を亡くしてから一年、失意の中にあった
父が一念発起して、のど自慢に挑戦した意欲は敬服に値するし、
頭が下がる思いである。

その夜は、父を我が家に誘い、残念会で慰労し、久しぶりの父
との酒に盛り上がり、普段できない事も経験させて貰い何とも
楽しい1日であった。