隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1418.油断!

2013年12月08日 | 経済
油断!
読 了 日 2013/11/25
著  者 堺屋太一
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 331
発 行 日 1978/03/25
ISBN 4-16-719301-9

 

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書を買って読んだのは、1988年だから25年前のことだ。
当時49歳だった僕は若いとはいえないが、それでも今と比べれば格段に若かった。著者が此の作品を発表したのはそれよりさらに13年も前の1975年、昭和50年のことだ。1973年の第一次石油ショックの後を受けて書かれたものだろう、とばかり思っていたらこれはその当時来るべき近未来を予測?した物語だった。

ちょうど転職したての僕が勤めた会社・京葉産業株式会社は、千葉県内に十数か所の直営給油所を持ち、加えて数十箇所の販売先に卸し業を営む石油販売会社だった。1973年に起こった石油ショックは、会社のトップ以下幹部社員どころか、現場の社員に到るまで大きな衝撃だった。
そして、その影響は甚大で少なくない被害を及ぼし、先行きに大きな不安を残したのである。
販売先に対する営業部門に所属していた僕は、地方の給油所に思うように軽油等の供給を行えず、販売先の店主から「俺のところを潰す気か!」などという罵声を浴びたこともあった。トイレットペーパーの買占めなどの人々の狂奔、物価の高騰の記憶はいまだに消え去ってはいない(はずだ)。

 

 

それはともかく、会社のトップは石油業の先行きの危うさを危惧して、進むべき道の方向転換を決意した。
企業として参加していたコンサルタントグループの総帥・A氏の指導を受けて、アメリカで誕生して成長過程にあった業態、HI産業(ホーム・インプルーブメント)に目を向けたのだ。
現在ホームセンターD2を全国展開している、株式会社ケーヨーへの転換点である。当時のトップの一人だった今は亡き岡本氏は常々、「石油はメジャー(国際石油資本)が握っている限り、一企業の努力の及ばない範囲だ」と言っていたから、マーチャンダイジング(商品開発の原材料から末端の消費に到るまでの流れを統括して設計デザインすること―日本リテイリングセンターの定義による)によるチェーン展開の可能な新しい業態への転換は、渡りに船だったろう。「災い転じて福・・・」と言ったところか?それは後の結果が示す。

そんな、はるか昔を思い起こさせる本書を、改めて読んでみようと思ったのは、温故知新と言うわけでもないが、やはり年をとって昔を思い起こす心境からか。僕が外房の町大原から千葉市中央に本社屋を持つ京葉産業へと転職したのは、そうした時代、高度成長時代の幕開けを間近に控えた昭和45年のことだった。

 

 

分話が逸れた。いや、そうでもないか。
昔から「喉もと過ぎれば暑さを忘する」といわれるように、危機は遭遇した時点で始めて実感が湧くものだ。石油に限らず、食料にしてもその多くを海外からの輸入に頼るわが国の脆弱性はその頃と少しも変わっていないのだ。
再度の政権交代により、TPP(環太平洋パートナーシップ:Trans Pacific Paartnersip)への参加交渉が早まって、輸出入の環境はどう変わるのだろう? などと僕が心配しても始まらない。われわれ庶民に何が出来るだろう!?
2年前の大震災から受けた教訓が、災害に備えての避難経路の確認から、防災用品の確保、わずかな日数に備えての食材の備蓄?といったことだけか。

本書に理学博士の鬼登佐和子という若い女性が登場する。中東の産油国の間で争いが激化し、戦争にまで発展して、わが国の石油輸入量が3割になった時に、300万人の死者が出ると言う、冷静な予測をするのがこの女性だ。それはあらゆる場合の綿密なデータを下に、計算された予測であることを示している。
浮かれる?社会に一石を投じた本書は、すでにその多くのところを忘れ去っていた僕を、また不安の底に引きずり下ろした。

 

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