隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1085.繁殖

2010年08月13日 | メディカル
繁殖
読 了 日 2010/7/19
著  者 仙川環
出 版 社 小学館
形  態 文庫
ページ数 279
発 行 日 2007/12/11
ISBN 978-4-09-408230-2

 

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者の作品はこれで4冊目となるが、僕は順不同で読んでいるので作者の発表順とはならず、作者の発表順ではこれが3作目にあたるようだ。
それはともかくとして、いろいろと題材はあるものだと、感心する。アメリカの医学サスペンスの大家、ロビン・クック氏の一連の作品を翻訳している林克己氏が、クック氏の作品の巻末で述べているように、医学サスペンスの題材を次々と見つけて作品を発表するクック氏に対して関心のほどを示しているのを思い起こす。
同様に我が国の医学・医療ミステリーの分野でも次々と名乗りを上げる作家によって、新しいストーリーが誕生するのは、読者として大いに歓迎するところだ。
大阪大学医学部の医学系研究科修士課程を修了しながら医学の道に進まず、ジャーナリストへの道を選んだ後に執筆活動に入るという、僕にしてみれば変わった経歴とも思われる仙川氏だが、結果としてこうした面白い作品を生み出してくれるのは大いに喜ぶべきことか。

 

 

ところで、本書はカバーの写真からも推測できるように、幼稚園の食事から食中毒が疑える事件が発生する、という発端である。
猛暑日の続く北関東市の、かえで幼稚園の中庭で行われた食事会は、近隣の農家からの野菜や、合鴨農家から譲り受けた合鴨の肉などで、にぎわいを見せながら子供たちも親たちもおいしく食べたのだが・・・。
数人の子供たちに食中毒を思わせる症状が発生して、市立の平井病院に運ばれた。おにぎりが原因かと思われていたが、分析を進めるうちにそうではない疑いが出てくる。
病院の医師や、保健所の対応がかみ合わない様相を示していく。そして、分析結果からカドミウムが検出された。警察の捜査が始まる。入院した子供の内ほとんどが軽い症状で退院する中、一人の少女の病態は依然として重く、回復の兆しを見せなかった。
若い幼稚園の教師と、その恋人である企業の研究員は、カドミウムがどこに潜んでいたのか、毒物の出所の調査に乗り出す。

 

 

境保護問題や、保健所の職員の思惑、意思の正義漢などなどいろいろ複雑な問題がからみあって、事件は思わぬ方向へと歩みを見せる。
少しばかり納得しかねるところも出てくるが、サスペンスあふれるストーリーに、この作者の創作意欲のようなものを感じて、作品を読み続けたいという欲求が深まる。

 

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