隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1083.虚像(メディア)の砦

2010年08月07日 | 社会
虚像(メディア)の砦
読 了 日 2010/7/14
著    者 真山仁
出 版 社 講談社
形    態 文庫
ページ数 511
発 行 日 2007/12/14
ISBN 978-4-06-275925-0

 

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道の本質とは、という命題を抱えながら、テレビという媒体の使命を追求していくディレクターと、それにかかわる人々を描くドラマ。
というような理屈っぽい表現は、この物語の面白さを伝えることはできないだろう。難しいことはさておいて、NHKでドラマ・映画化されたハゲタカシリーズから生まれた新しいヒーロー・鷲津雅彦とは違う形のヒーロー(という言い方は少し違うかもしれないが)が誕生した。
PTBテレビ局で「プライム・ニュース」という報道番組のディレクターを務める、風見敏生(としき)をメインキャラクターとして、角度を変えながらテレビ界を舞台として、マスメディアの実態やそこで働く人々の動き等を描いたドラマだ。
秒単位で動いているともいわれる、テレビ界の内幕はこれまでも各種のドラマや小説他で、語られてきたが、著者の描く世界は「ハゲタカ」にも見られるように、国際的な広い視野から捉えられる。

 

 

この物語には、同じテレビ局内のもう一人のディレクターも並行して描かれる。その名は黒岩宗佑、彼は生活情報局のプロデューサーだが、バラエティ番組いわゆるお笑い番組で視聴率を上げていることから、ミスター視聴率とも呼ばれる敏腕プロデューサーだ。
だが、彼自身次第にその視聴率に縛られて、自分を見失っていく。入社当時に目指した「本当の笑いとは?」と云う命題が忘れ去られようとしていた。
さてそんな中、緊迫の度が深まる中東で、3人の日本人が誘拐されるというニュースが飛び込んできた。
風見は、多極に先駆けるスクープに向けて、万難を排しての努力を傾けるのだが、上司を始めとする各方面からの壁に突き当たる。しかしながら独自の情報収集活動を続ける中で、事件に対する世論の反応は思いがけない方向へと発展する。
誘拐を企てたテロ組織は、派遣された自衛隊の撤退を要求していた。拉致された3人の日本人は、なぜ治安情勢の不安な中東の国へと行ったのか?
政府の対応は?

 

 

月30日(2010年)に召集されて、始まった臨時国会は昨日で閉会したが、予算委員会では、「過去のイラクへの自衛隊派遣」の検証についての質問があり、政府関係者は将来検証を課題とする認識を示したが、本書はフィクションではあるが、数々の問題が提起されて、考えさせられる。

マスメディアの使命はどのように行使されるのか?風見敏生のとった行動は?
一方、娯楽番組を担当する黒岩プロデューサーの「笑いの追求」はどんな結論を導き出すのか? 重い問題を提起しながらも、スピーディーな展開を示すストーリーは、スリリングで眼を離せない。

 

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