Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

「神保町『書肆アクセス』半畳日記」を読んで

2005-08-23 06:00:01 | 読書録(その他)
東京に来ると必ずと言って良い程、神保町へ足を運ぶ。
もう10年近くのつきあいになるだろうか。

右を向いても左を向いても書店だらけ、ここでしか買えない本を購入できるというのが、足を運ぶ一番の理由になっている。
お隣の秋葉原ほど騒々しくないし、食事も旨い。
歳月の蓄積を経た結果、自分にとって東京で一番馴染みがあって落ち着ける場所になっている。

・・・と書いてきた割には、全部の書店を回りきっていないのが、この町の凄い所でもあると思うと同時に、自分の関心の狭さを物語っている。

話は変わって長年に亘って一つの古書街を歩き回っていると、その人なりの巡回ルートができてくるように思う。
自分の場合、靖国通りの古書店を覗いてから、すずらん通りへ入る。
両者を回ってから白山通りの古書店を覗きつつ、JR水道橋駅へ戻る。
あるいは、明大通りを通ってJR御茶ノ水駅へ戻る行程を取ることが多い。

「古書街」というからには、古書店ばかり巡っているのだろう、と思われがち(現に知人からはそう思われている)だが、「ここでしか買えない本」を求めて新刊書店にも立ち寄ることにしている。
巡回ルートに入っている新刊書店は二カ所。
一つは、鉄道ファンから「聖地」と言われている書泉グランデ。
もう一つは、今回取りあげる「書肆アクセス」である。

すずらん通りで小さな店舗を構えて営業しているので見落としがちだが、この店の中身はなかなか面白く、大手出版社のショールームと化した昨今の新刊書店とは一線を画している。いつ来ても飽きることがない。
例えるならば、我々が幼少時に通った駅前の「本屋さん」という言葉が一番しっくり来る。

本書はそんな「書肆アクセス」の店員さんの日常を描いた日記である。
とはいえ、「日記」と一言で切って捨てるにはあまりにも面白すぎる。
この日記が始まるのは1998年。
自分が神保町という町の輪郭線ぐらいはわかるようになってきたかな・・・と思うようになった頃から始まるが、この時点で店の存在は知っており、巡回ルートに加えていた。

しかし、春、夏、そして冬という限られた時期にしか上京しなかったため、スタッフが交代していた事など気づきもしなかった。
それでもスタッフが変わっても対応の良さ、落ち着いて本探しに集中できる店の雰囲気は変わっていない(この点が書泉グランデ、特に鉄道書コーナーとの大きな違いだと思う。これについては、別の機会で触れるかもしれない)。
棚の本もよく手入れされていて、雰囲気が変わることもない。
何気ないことだけど、それは凄いことだと思う。何故、それができるのか。
その一端が本書を読む事でよく理解できた。
本当に「本が好きな」人が店員をやっているんだなぁ、と。

日曜日がお休みという事を知らずに、ノコノコとやってきて身勝手にも憤慨して帰ったとか、営業時間を忘れた結果、閉店後に店の前で立ちつくした事もあったっけ・・・といった類のイヤな過去を思い出しつつ、それらを帳消しにしてしまうぐらい本書を読むのは大変楽しかった。
本書を読んで、ここが通販を手がけていることを初めて知った。
今度、試してみようと思う。

惜しむべきは、もう少し遅くまで営業してくれてもいいのに・・・という点だが、これは神保町という町自体が早く眠りについてしまうから仕方がないのかもしれない。
それが町の「個性」というものだろう。

ちなみに、本書はもちろん、前回取りあげた「軍艦島の遺産 風化する近代日本の象徴」も「書肆アクセス」で購入したもの。
そういった自分の探求分野と離れた分野の本を手軽に探して買える、というのもココならではの楽しみ方である。

鉄道関係の本は地方の中小出版社からも出ている。そして、その中にはなかなか面白い本がある事はかなり前に取りあげている。
この「書肆アクセス」で地方の出版社が発行している鉄道関係の本を探そうと思ったら、まず入口を入って左側の棚を見るといい。
そこには、大書店では決して見られないような類の本が並んでいる筈だ(「鉄道番外録」などでお馴染みのないねん出版の本はここに常備されている)。

もう少し時間と財布に余裕があれば、もう少し奥へ行ってみよう。
人にもよるが、ここに来ようと思う人にとっては何か面白い発見があるだろう。
店に居れば居るだけ、何かしら買いこんでしまう不思議な魅力のある店がいつまでも営業してくれれば、一介の本好きとして、これに勝る悦びはない。

<データ>
「神保町『書肆アクセス』半畳日記」黒沢説子・畠中理恵子編 無明舎出版
価格1600円(本体)



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