今日も会社の同僚たちの視線が彼の頭に集まる
わずかではあるが後退している
この確認が社員としての課せられもしない義務になっていた
こうしてこの会社の一日が始まる
次の日もその次の日も、同僚たちの視線は、彼の髪の生え際に集まるのだ
わずかな後退が同僚たちに安心感を与え、職場を円滑にする
しかし、ある日のこと、彼の生え際がかすかにではあるが、確実な前進を遂げていた
目の肥えた同僚たちがそれを見逃すはずはない
厳しい視線を感じてか、彼は自ら口を開いた
「本日、わたくしは髪の毛に手を加えてまいりました」
彼の思いも寄らぬ植毛宣言
同僚たちの目が疑惑から輝きに変わっていった
おかげでこの日の職場も、活気に満ちたスタートを切れたのだ
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