南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

目が不自由でも写真を撮りたい

2007-10-19 00:08:48 | HONG KONG
今日、たまたま用事があって香港のモンコックにの駅のすぐ
そばにあるランガム・プレースに行ったら、写真展をやって
いたのでふらりと寄ってみました。カメラのオリンパスが
スポンサーしていたのですが、近寄ってみると普通の写真展
とは違うようなのです。写真作品の下に、その写真の白黒
コピーのようなものがついていて、点字表記のようなものま
でついています。

しかも作品タイトルはみな日本語。何だろうと思ってよく
見たら、それは日本の『全国盲人写真展』の入選作を展示し
てあるのでした。写真って、目の見える人たちだけのものと
思っていた私には、こういう写真があるというのは驚きでし
た。目の不自由な人たちが、写真展を目指して写真を撮って
いるというその事実を今日初めて知って、自分の不勉強を
反省するとともに、写真ってすごいなあとあらためて感心
したのでした。

目の不自由な人も、光だとか色だとか、その美しさを見て、
記録したい、表現したいと思っているのでしょう。視力を
失った人はなおさら、世界の美しさを自分の目で、もう一度
見てみたいと思っているのでしょう。そしてそれがかなわぬ
ならば、自分の目の代わりに、カメラのレンズでそれを代行
させようとしているのかもしれません。視力を失った人には
もっと深い思いがあるのかもしれませんが。


このチョウチョの写真が最優秀賞の作品でした。
『寛仁親王牌』と記されています。日本の三笠宮のことです。
写真のタイトルは『花にたわむれる蝶』。作者は椎橋義春
さん、66歳、傷害3級、愛知県と書かれています。その下に
「花がゆれている。蝶が花に止まり、花が傾き、蝶がつるり
と落ちそう」と書かれています。傷害3級のこの老人は、
この景色のどこまでを認識できていたのでしょうか?
それを思うと、この景色がとても切なく見えてきます。
この老人は、ここまでの色や形や、蝶の羽根の模様や、細い
足などは見えていなかったのかもしれない。それを今、
全く関係のない自分が、その老人の代わりに見てあげている。
その美しさを代わりに堪能してあげている。自分は目が見え
るだけ幸せなんだと思うと同時に、目が見えないこの椎橋
さんのような人々も、自分の見えないような物までも人に
見せたいという情熱を持っている、ということに感動する
のでした。

この写真展の写真には、おそらく著作権があり、私が
ブログでこの写真を勝手に紹介するのは、著作権に触れる
行為であるのかもしれません。しかし、仮に自分が訴えられ
ようと、このことは誰かに伝えなければと思ったので、著作
権のことはさておき、このブログで紹介しました。関係者
の方がご覧になったらお許しください。

この写真の下のほうに貼付けてあるのが写真の立体コピー
なんだそうです。こういうものがあるというのを私は知りま
せんでした。コニカミノルタの技術なんだそうです。暗い
部分がちょっと盛り上がっていって、指で触って、写真の
中で表現されている蝶とか、花とかの形が認識できるので
す。写真を触覚で感じれるなんて、想像もしませんでした。

私の母は、昨年の三月に亡くなりましたが、晩年は視力を
失っていました。ぼんやりとは見えていたのでしょうが、
どれくらいぼんやりとした感じだったのかはよくわかりま
せん。目が見えるということの大切さをあらためて思います。
だからこの写真展、他人事のように思えませんでした。

先日、My Wifeと東京で、劇団四季の『ライオン
キング』を見にいきました。二階席の真ん中あたりだった
のですが、ちょっと後ろの席に、目が不自由なお客さんが
いたのです。その人は、黒っぽい眼鏡をかけていて、杖を
ついていたのでそれがわかったのですが、目が不自由な人
でもミュージカルを楽しもうとしているという事実に、
感動してしまいました。そういう私も視力が弱いので、
演じている役者の表情はまるっきり認識できませんでした
が、目だけはよい(もとい目もよい)My Wifeは、
表情もよく見えたと言っていました。

さて、この盲人写真展(この盲人って言葉ちょっときつい
気がするんですが)の中で、一番私が気にいった写真はと
いいますと、こちらの写真でした。

『幸わせのシルエット』と題されたこの作品は、三上一雄さん
(60歳)がハワイで撮ったもののようです。傷害一級、
北海道と書いてあります。「わが娘が、ハワイで挙式をあげた
時のひとコマ。」という短いキャプションですが、これには
感動してしまいました。ちょっと目が不自由な60歳の父親、
その前で照れながらポーズを取る娘とその旦那。目は不自由
でも、こんなに幸せなことはないと言っているかのようです。

私も一昨年、ハワイで挙式をしたので、この写真にはとくに
感無量です。優秀賞、日本文化協会会長賞とありますが、
その価値のある作品だと思います。シルエットってところが
またいいんですよね。おそらく作者も光と影を大雑把に認識
されていると思われるのですが、その見え方に近い表現だと
思います。また人物をシルエットにすることに背景の芝部や
ヤシの木や、山にかかった白い雲などの情景が実に鮮やかに
見えています。

この作者の三上さんはどんな人なのか知りませんが、
もし自分も一緒にこの場にいたら「おめでとうございます」
と言って抱きしめてあげたくなってしまいます。

なんてことをつらつら感じたりしたのでありました。

ところで、明日はちょっとまたマカオに行ってきます。