「隣の病い」(中井久夫、ちくま学芸文庫)
「賃金、雇用、福祉というが最終的には「暮らしやすさ」「生きやすさ」であり、「公平感」「開かれた社会にある感覚」である。精神科医としては社会的緊張を最低限度に抑えることに眼がゆく。そのために賃金の適正と公平が望ましく、失業率が現状(1988年水準)あるいはそれ以下に抑えられることかも同じく望ましい。社会的緊張は犯罪の増加となって現れるが、ある程度以上の犯罪の増加は警察力によって抑制できない。優秀な人材を集めることが困難になるだけでなく、警察が犯罪に取り込まれるのは治安維持に失敗したいずれの国家にも見るところである。慢性的な低賃金と不安定な雇用は、また社会を担う層にまでアジア的構造汚職を浸潤させる。賃金、雇用、福祉は社会の安全費用として警察力や武力よりもずっと安価で副作用の少ないものである。」
1988年のエッセイの一部だが、著者の20余年たって見通しの確かさにはうなずがざるを得ない。しかし、社会の一層のマイナス方向への深化には、唖然・うんざりである。
「賃金、雇用、福祉というが最終的には「暮らしやすさ」「生きやすさ」であり、「公平感」「開かれた社会にある感覚」である。精神科医としては社会的緊張を最低限度に抑えることに眼がゆく。そのために賃金の適正と公平が望ましく、失業率が現状(1988年水準)あるいはそれ以下に抑えられることかも同じく望ましい。社会的緊張は犯罪の増加となって現れるが、ある程度以上の犯罪の増加は警察力によって抑制できない。優秀な人材を集めることが困難になるだけでなく、警察が犯罪に取り込まれるのは治安維持に失敗したいずれの国家にも見るところである。慢性的な低賃金と不安定な雇用は、また社会を担う層にまでアジア的構造汚職を浸潤させる。賃金、雇用、福祉は社会の安全費用として警察力や武力よりもずっと安価で副作用の少ないものである。」
1988年のエッセイの一部だが、著者の20余年たって見通しの確かさにはうなずがざるを得ない。しかし、社会の一層のマイナス方向への深化には、唖然・うんざりである。