読書覚書(101121)
2010.11.21
「桂東雑記 拾遺」(白川静、平凡社)
・「孟子は、「春秋に義戦無し」といい、すべての戦争の正当性を否定した。言い訳を加えるような戦争に、本当の正当性があるはずはない。それは、現代の戦争においても同様である。」
・「運動は無限への意志である。到達のない連続性である。それが歴史的生命の世界の実相といえよう。人はみずからの運動によってそれに参加する。出発はそれへの参加である。そして到達は、おそらく永遠のかなたにあるであろう。‥世界は、われわれの知る空間よりも遥かに広い。そしてまた、われわれの知る時間より遥かに長い。空間と時間は交錯し、重畳し、無限に変化し、極微と極大を極め、かつ美しい。歴史的な生命体としての、生きるものの美に満ちている。」
・「漢籍がいま何の存在理由を持たぬとするのは、それを受容する時代精神が貧しいからであり、そのような政策をとるものの、文化への意志が失われているからであろう。現在におけるすべての退廃は、そのような文化的意志の欠如に由来しているものと、私は思う。」
・「歴史よりもはるか以前の時代に神話があったという考え方は、必ずしも正確ではない。むしろ歴史が自覚されたとき、そのような歴史の根拠として、従来断片的な説話として語られていたいろいろな神話的思考が、王朝の神話として組織され、体系づけられていったとみるべきであろう。歴史は、神聖王朝の実現によって、はじめて自己認識の場として自覚的なものとなる。王権の神聖化とその持続への欲求が、歴史的な課題として自己認識をうながすからである。」
・「わが国も早く漢字を用い、その音と訓とを併用する独自の使いかたによって、国語を表記するだけでなく、中国の文献をもすべてよみこなし、国語化することができた。そこにはほとんど血縁のような親縁の関係がある。文字文化を通して、この文字文化圏の親縁を回復したいということが、久しい間の私の願いである。」
・「文字は、名詞や動詞のように具体的に形象化しうるものだけでなく、代名詞や否定詞のように実体のない、観念的な語を表記する方法をも、用意する必要がある。文字として機能するには、その表記の方法の集積かなるのではなく、それ自身の体系によって成立する。それでひとたびその体系化の原理が発見されると、それによってすべての語を同時的に文字化することができる。文字は少なくとも基本的な語彙が同時的に文字化されるのではなくては、文字として機能することができないものである。」
2010.11.21
「桂東雑記 拾遺」(白川静、平凡社)
・「孟子は、「春秋に義戦無し」といい、すべての戦争の正当性を否定した。言い訳を加えるような戦争に、本当の正当性があるはずはない。それは、現代の戦争においても同様である。」
・「運動は無限への意志である。到達のない連続性である。それが歴史的生命の世界の実相といえよう。人はみずからの運動によってそれに参加する。出発はそれへの参加である。そして到達は、おそらく永遠のかなたにあるであろう。‥世界は、われわれの知る空間よりも遥かに広い。そしてまた、われわれの知る時間より遥かに長い。空間と時間は交錯し、重畳し、無限に変化し、極微と極大を極め、かつ美しい。歴史的な生命体としての、生きるものの美に満ちている。」
・「漢籍がいま何の存在理由を持たぬとするのは、それを受容する時代精神が貧しいからであり、そのような政策をとるものの、文化への意志が失われているからであろう。現在におけるすべての退廃は、そのような文化的意志の欠如に由来しているものと、私は思う。」
・「歴史よりもはるか以前の時代に神話があったという考え方は、必ずしも正確ではない。むしろ歴史が自覚されたとき、そのような歴史の根拠として、従来断片的な説話として語られていたいろいろな神話的思考が、王朝の神話として組織され、体系づけられていったとみるべきであろう。歴史は、神聖王朝の実現によって、はじめて自己認識の場として自覚的なものとなる。王権の神聖化とその持続への欲求が、歴史的な課題として自己認識をうながすからである。」
・「わが国も早く漢字を用い、その音と訓とを併用する独自の使いかたによって、国語を表記するだけでなく、中国の文献をもすべてよみこなし、国語化することができた。そこにはほとんど血縁のような親縁の関係がある。文字文化を通して、この文字文化圏の親縁を回復したいということが、久しい間の私の願いである。」
・「文字は、名詞や動詞のように具体的に形象化しうるものだけでなく、代名詞や否定詞のように実体のない、観念的な語を表記する方法をも、用意する必要がある。文字として機能するには、その表記の方法の集積かなるのではなく、それ自身の体系によって成立する。それでひとたびその体系化の原理が発見されると、それによってすべての語を同時的に文字化することができる。文字は少なくとも基本的な語彙が同時的に文字化されるのではなくては、文字として機能することができないものである。」