日本で一番好きな場所と聞かれたら波照間島と答えるだろう。
日本最南端の島。いつだか南十字星と泡波を求めて渡った島。ちょいと思い出話でも。
沖縄の梅雨が明けたころ石垣島からジェット船で港に到着。このあたりは海流が変わる境を通るため波は高く船はジャンプの連続だった。歩いて縦断出来るほど小さな島で野放しの牛達と一緒に島の外周をひた歩いた。夕方になり宿を捜しに島の中心に登ると何処からかこんにちは~!と元気な子供の声。
小学校。金網越しに「やぁ」と返すとグランドにいた子供達が溢れんばかりの笑顔で集まって来た。一目で放浪生活と思うだろう身なりが珍しかったのか。数十の激しい質問責めをかい潜り小さな商店に入ると白髪頭のおばあさんがテラテラ座っていた。
夕食用に食パンを手に取り見れば全面に程よーくカビが・・。「おばちゃんカビはえとるよ」と手渡すと「あーこれは古いさー」といいながらカビの生えたパンをまた商品棚へ。いや、そうじゃなくて・・、と言いかけたがゆるーいこの島の気質このおばちゃんのキャラを裏切ってしまう気がして缶詰を買って「長生きしてね」と店を後にした。
素泊まり二千円の宿を見つけ一安心。宿の人が念願の泡波を飲ませてくれた。味はというと至って普通な泡盛であまり感動はなかった。辺りは暗くなり浜辺から南十字星を眺めほろ酔い気分で宿に戻り一人酒をやっていると誰かがドアをノックする。
開けるとそこには物凄い形相をした若い女性が立っていた。いきなり「何してるんですか!」と言われ「はぁ?」と返す。女性は俺の部屋を覗き込み何かを見つけたとおもいきや「すみません」と頭を下げササッと部屋へ戻って行った。
分けが分からず俺はしばらく考え込み「あっ」と思った。
一瞬のやり取りの結論は多分こう。彼女が部屋を覗き見つけたのは扇風機にハンガーをぶら下げて乾かしていたタオル。ハンガーが風でコツコツと壁にぶつかっていた。木造の民宿で彼女の部屋は隣だったので俺が何やら壁に穴でも空けて覗きでもしてるんじゃないかと思われたのだろう。
次の日、モーニングサービスのコーヒーも飲まずにそそくさと彼女は出て行った。なんとも複雑な気持ちになり「ごめんね」と心で見送った。
空は晴天、歩いて港に向かい、またジャンピングな船に乗っかり子供達に、おばちゃんに、民宿の女将に、島に手を振った。その日からの旅は景色や星空よりも人間模様を見つける旅になった。
そこには二十歳そこそこの俺がいて、ここにはその倍生きてる俺がいて。一番好きな場所のくだらなくも忘れられない思い出。
またいつの日か!