眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

小旅行

2014-09-04 | 
存在の正しさを罰した街角で
 僕は羅列される荒唐無稽な詩を口ずさみ
  あの物語を想った
   消失される記憶と自我
    混在した空虚感で僕のお腹が鳴った
     朝からワイン以外何も口にしていなかった

      ふらりと立ち寄ったパン屋の前で
       気難しい店主が両切りのピースを吹かしていた

        パンはありますか?

         質問した僕に店主は苦々しく答えた

          此処はパン屋だ。
           パンがないパン屋なんてないだろう?

            僕はこじんまりとした店内で
             アンパンとデニッシュを買った
              サービスにラスクをくれた女将さんが
               美味しかったらまた来てね、と笑顔を見せた
       
                旅の途中で立ち寄ったパン屋に
                 二度と訪れることは無いけれど
                  僕も精いっぱいのひきつった笑みを作った

                   朝六時に誰もいない公園のベンチで
                    パンを齧りながらワインを飲んだ
                     公園の噴水には水が無かった
                      咀嚼するパンは
                       限りなく孤独に近い味だった
                        まるであの日食い縛った血の味の様に
                         孤独というのは
                          旅人にも土地に移住した者にも平等に訪れるのだ
                           海へと急いだ

                           海岸沿いの灯台の入館料は200円だった
                            コインを窓口で手渡して
                             階段を昇った
                              ちょうど77段目で灯台の上にたどり着いたのだ

                              俯瞰した景色の中で
                               困惑した意識が割れた
                                こんなにも遠くに来たのだと
                                 そう想った

                                 刹那の鼓動
                                  ぴんと伸ばした白線上で
                                   僕は君を想い
                                    君は僕を失くした
                                     戯画された新聞記事の様子で
                                      誰一人真実を語らなかった

                                      重く垂れ込めた空
                                       僕の口から詩が零れた
                                        誰にも届かない筈の祈りの趣で

                                        残暑の折
                                         届くはずの無い手紙をしたためて
                                          空になったジェリービーンズの瓶に入れ
                                           波止場から海へ流した
                                            ピアノの音が聴こえる
                                             僕は僕自身ではなかった


                                             あの夏の日
                                            僕らは酔いどれて
                                           天上から零れ落ちた一滴の涙だった
                                          灯台の上から世界を眺めた
                                         ぽつりぽつりと雨が降り始めた
                                        行こう
                                       此処も僕の場所では無かった
                                      黒猫が僕の足跡をワルツの拍子で踏んだ
                                     僕と黒猫は砂浜を歩いた
                                    誰も存在しえない地平線の果て
                                   孤独を描写したデッサンが
                                  奇妙に生温かった
        
                                 生きているのだ
                                それでも
                               地を這う幻影だったとしても
                              生きているのだ

                             微弱な電波を
                            遠い彼の地の灯台より打電する

                           元気ですか?

                          遠い街角に向けて

                         ぴぴぴ

                       ぴぴぴ

                     打電する
 
                    不条理な模索

                   壊れたこころ

                  たとえ判別されごみになっても

                 打電する

                誰も知らない

               街角の詩













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4 コメント

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俯瞰 (直子)
2014-09-09 04:00:00
仲秋の名月の夜、貴方のことだから、美味しい月見だんごと美しい月を、楽しんでおられることと想います。

わたしも最近、俯瞰の視点についてさまざまなことを考える機会がありました。
その結果、灯台をおりて、地平から海を眺める気持ちが高まりました。

返信する
直子さんへ (sherbet24)
2014-09-10 01:38:25
月明りで月光浴しました。
ウイスキー片手になにも考えずただ月明りに照らされていました。
月明りはなんだか不思議な精神の落ち着きを僕に与えてくれます。

僕は壊れた気球にのってゆらゆらと空から見える暮らしを眺めています。
永遠のピーターパンシンドロームと皮肉に笑われてもそれはそれで僕の生き方なのでどうしようもない事柄の一つなのかも知れません・・・。
返信する
Unknown (直子)
2014-09-10 05:11:49
貴方のことを否定する気持ちも、皮肉に笑う気持ちもわたしにはありません。

わたしの文章を読んだという友人に、もっと心を広く持ち、俯瞰的にと忠告されたので、どうすればそれができるのか、どういう意味なのかをずっと考えて考えて、結果、眠れなくなってます。(笑)

高いところ、早いところ、閉じた場所はわたしにとっては怖い場所です。
勇気を持って恐怖を克服して経験豊富になれば、いつか臆病な自分を笑い話のネタにできるのでしょうね。

でもね、文章を書く上では、それは自分の居場所を、他者に切り売りしてしまうことになるんですよ、たぶん。

詩を大切にしたいならば、どうしようもない恐怖は、無理に克服しなくてもいいんじゃないでしょうか?
作家として、わたしはそう感じます。







返信する
直子さんへ (sherbet24)
2014-09-10 18:42:32
もちろん直子さんが僕を皮肉に笑うことはないと思っています。
街への旅で少々コンプレックスを刺激されたのかも知れません。

「どんなに振り向いてももう其処には誰もいない」
ある人にそう云われました。
もちろん僕の物語は単なる懐古趣味ではないと思っています。僕が表現したいのは原風景の再獲得です。
ただ想い出を物語の鍵にしていることから幾人かの人々にはもっと前を向くように、と忠告されます。
そう云われることは激しく僕のコンプレックスを揺さぶります。

けれどもその僕自身のコンプレックスこそが物語の中心点であることもまた事実です。
それは直子さんの言葉にあるように無理に克服しなくてもいいと僕も思っています。
自分の居場所を宝物にして大切にしていきます。

直子さんは僕の最大の理解者の一人だと想っていますよ。


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