眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

ラジオ

2014-08-15 | 
僕らは、おんぼろの車に乗り込んで機会を待った
街の高台の霊園の広場
家々の灯りがほのかに揺らぐ
そこが僕らの一等席だった。は缶コーヒーを自動販売機で買った。
ラジオのチューニングをしていた友人が、イライラ爪を噛みながら目盛りを微調整する。そして呟く

「駄目だ、電波が入らない」

そうして、ばたん、と音を立てて外に飛び出た
 
 「なんで電波が乱れてるのさ」

 ポンコツ奴、生意気に。

友人は車のドアを蹴飛ばし、空き缶を暗闇に投げつける
 やめろよ、起きてきちゃうぜ。
僕は車から降りて煙草に火を点ける
 誰が起きるんだ?
  街は眠らないから起きる必要なんかないだろう?
   街は眠れないんだ。

僕のマールボロを一本くすねて彼は一服吹かす

  電波は。
   電波は気まぐれなんだ。
    扱いに手こずるんだ、いつものことさ。

なだめてみせても、彼の怒りは沸騰し続けた
 このポンコツ。
  受信できないラジオなんて。わざわざ高台の墓場まで来たっていうのに。

「受信できないラジオ」

  発せられるメッセージを受信できない
   こんなにも情報が氾濫しているのに

僕らはスピーカーから発せられる音楽に飢えていた
 まるで誰かが、「彼」からのメッセージを待つよう。
  星が澄んだ空気によく見えた

 な、煙草残っているか?
  あと一本きりだ。

僕らは一本の煙草を回し呑みした
 突然、雨がなんの予告もなく優しく降り注いだ
  車に逃げ込んだ僕らは沸けも無く喋り続けた
   
   待てよ
    聞こえるぜ。

友人が話しをさえぎった
 確かにスピーカーから音が流れ始めている
  友人と僕は固く握手した

   フォーレの「シチリアーノ」


  僕らが大好きだった曲だ
   雨が降り注ぐ夜

 街は眠れない

もう一度、彼が呟いた

  まるで自分を諭すかのように

   何時かの風景












コメント (2)
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