せっけい日和

MKデザインスタジオ一級建築士事務所柿本美樹枝のブログです。設計者として、生活者として、多用な視点で綴っています。

太陽光発電と一体の屋根、2023年発売の新商品を訪ねて

2023年09月04日 | 模型・実験・見学・講習・イベント

写真は、モノクロームの Roof-1を乗せた住まい。
当事務所の設計ではありません。
メーカーさんの使用されているモデルハウスです。
(木材の納めなど気になりますが、趣旨が違うのでここでは触れません)
一般の太陽光発電とは違い、屋根と一体化。遠方では区別がつかず。

住まいの設計の中で、大事にするべきポイントは何か?
と、聞かれたら、、、

快適性や居心地など、内部空間の質から、日当たり、風通し、、
収納や使い勝手のこと、水回りの設備、、、など機能面に渡り、
そして、外観のデザインなど、

私が独立した頃は、
ユーザーさんから出る言葉はそんなところでした。

しかし、地球温暖化が叫ばれるようになって、

それが一般的な実感として伴うものになってきて、
また、災害の多発によって、

最近は、
耐震性、断熱性、を最初にあげる方が増えてきました。

以前は、そんな言葉すら、専門家も使わなかったというのに!

私が、建築家協会に入りたての頃、
品格法の等級の話をしたときに、そんな国の縛りには従いたくない!
と、一蹴されたこともあります。(従う必要はなかったですから)

機能よりも、意匠性、奇抜さ、斬新さを求める傾向にありました。
巾木のない家だったり、いかにカッコイイ建築作品を作るか、

を、住宅作家の先輩方は、飲み屋では話すのでした。

巾木がない納めは、確かに素敵だけど、掃除機が当たったら、
壁は傷つくし汚れるけどなぁ、

この方達は、掃除しないのかなぁ。
箒で履けということなのかなぁ、
などど心の中でぼやきながら。。。

メンテナンスのことには、全く触れない面々。

なんとなく、男性中心のそんな空気感から
抜け出したくて、あまり団体の中に入っていくのを
避け続けて、、、今に至りますが(笑)

やっと、機能面やメンテナンスの話を、
堂々とできる時代になったのかなと思います。

当たり前すぎて、本来は、そこは、クリアすべきなのですけれどね。

省エネ法もやっと改正され、カーボンニュートラルも叫ばれ
以前のような意匠優先の住まいは、実はもう時代遅れなのかもしれません。

伝統家屋だから、寒いのは我慢するという発想も
主婦いじめだと思っているので、納得行きません。
(台所の寒さを知らない殿方のおっしゃるところでは!?)

今日は、デザイン性を確保しつつ、太陽光発電する
今年の新商品の屋根材の、メンテナンス性、維持管理、
保守点検、などなど、しつこく質問して参りました。


写真の奥の屋根材が、太陽光発電池付き、手前は、鋼板の屋根材。
近づけば、違いがわかります。

新しい機能は、大好きです。
新時代の匂いがするものも大好きです。

モデルを見学できると知った時は、
すぐに申し込みました。

が、しかし、それがきちんと維持管理できるものなのか、
建主の経済的負担が、きちんと暮らしの中で元が取れていくのか
しっかりと見極める必要があります。


下地との取り付けかた、通気などの納め方もじっくりと伺いました。

若い方は、将来の年老いた生活は、想像し難く
住まいの維持管理の手間も、職人さん不足も
きっと、想像し難いのだろうなと、思いながら

この屋根材を提案するときの、メリットデメリットをしっかりと
自分に落としこみながら、興味のある方には、紹介していこうと思います。

まだまだ、課題も感じましたが、
きっと、この方向性は、間違っていないでしょう。

どんどんとこの方向に行くのではないでしょうか。

なぜなら、HEMS*とセットだからです。
商品だけなら、私も納得できなかったと思います。


タブレットの画面と同じ操作で分かる、電気の見える化

それが、仕組みも一緒に考えているという点が
素晴らしかったですね。

だから、建築関係よりはエンジニアの方が
社員さんには多いようでした。

*「HEMS(ヘムス)」とは、Home Energy Management Service(ホーム・ エネルギー・マネジメント・システム)の略。家庭内で使用している電気機器の使用量や稼働状況をモニター画面などで「見える化」し、電気の使用状況を把握することで、消費者が自らエネルギーを管理するシステム。

インフラを電気だけに頼るのは、防災的にどうなのか?
という点も、もちろんあります。

ただ、都市ガスは、電気がないと使えない。
プロパンなら、むしろ防災には良いんだけどなぁ。。。

などなど、災害時と、平常時の両方の生活を見据えて
その人の暮らし方と、希望、そして地域性に配慮しながら、
時代の方向性を間違えないものづくりがしていきたいですね。


隣接して、工事中のモデル、屋根の一体化がよく分かる。

機能的な面で、一つの提案の形が増えたことは、
喜ばしいことだなと、会場を後にしました。

研究開発、そしてベンチャー起業、
お疲れ様でしたと労いつつ、
業界において、選択肢が増えたことには、感謝ですね。

現地でたまたま、ご一緒した設計の方や工務店さんから、
屋根下地の結露の問題や、職人さんの育成について
子どもたちの施工現場に触れる機会が少ない日本の課題など、
問題点を共有できたのも、嬉しかったですね。

ありがとうございました!


建築基準法の改正は、いつの時代も社会問題の反映。

2023年07月10日 | 模型・実験・見学・講習・イベント


建築事務所に所属する建築士に義務づけられた
3年ごとの定期講習。最後には修了考査があり、
合格しなくてはならない。

その年が、私にとっては、今年。
前回から早くも、3年が経ったということ。

<建築士の倫理観を問う>

もともと、この制度が始まったのが、
構造偽装問題のせいだろうか、、、

テキスト講義では、建築士の倫理観や社会的責任を問う
建築士法の部分がやたらと長い。

そして、今年は、職能としての団体等での学習の推奨と、
資格者としての社会貢献の在り方まで語る内容であった。

建築業界の、なくならない談合や、手抜き工事、
無資格での行為など、問題が後を絶たないからだろうか。。。

当たり前のことなのにと、やや辟易しながらも、
気を引き締めるのだった。

<昨今の法改正、事件性を反映>

建築関係は、毎年のように法改正が行われる。

昨今は、地球温暖化対策に関連して、省エネのための断熱や、
消費エネルギーを抑えるために、効率の良い機械設備の採用が
推奨される省エネ法の改正。関連して義務化。

そして、今回の講義で、強調された昨今の改正が、
事件性が高いものばかりで、思わず、苦笑いである。

世間を騒がせた!?
木造外階段の崩落による事故死。

人の死をもって初めて、法律が整うのである。

そもそも、雨ざらしの外階段を木造で作る!?
というのが驚きであった。
しかも共同住宅で。

亡くなられた方には、気の毒でならない。

私自身は、内部は木造。外部は亜鉛メッキ(鉄骨に錆びない加工をしたもの)でしか、成り立たないものと思っていた。
木造だと、火災のリスクも高まるからだ。

しかし、世の中はまだまだ木造階段が存在するらしい。
(不燃加工など施されていれば良いのだが、、、)

そもそも、外部は石で、内部は木造で作ってきた日本の階段。
木造がダメなわけではなく、適材適所。
それを安易に作ってしまった結果である。

今回は、木造の直通階段における構造の安全性や、防腐措置、
維持管理に至るまで図面を添付することが決まった。

もう一つは、「特定都市河川浸水被害対策法等の改正」
(流域治水関連法)。
熊本の水害でもあったように、川沿いの老人福祉施設が浸かり、
避難できなかった事象の反省でもある。

施設建設の許可をする県の仕事として、
以前は危険な場所でないか、担当者が確認していたそうだ。

それが、現地を見ないで許可したのか、
危険な場所と判断できなかったのか、
被害は、想像力の欠如なのかもしれなかった。

上記2点は、人災なのかも知れず、
自然の原理から乖離した建築のものづくりを
行ってしまっていることが、原因と思えてならない。

それを法で細かく縛らないとならないのか、、、
建築士はそんなに想像力が働かない職能なのか?
と、苦笑いするところは、そこである。

そんなはずはないと思いたいのだが、
効率優先、経済優先の時代が、ものづくりを追い込んでると、
私は思うのだが。

まぁ、過去にも繰り返して来た。

地震のたびに構造の法律が強化されたように。
人はそれを、進歩とも呼ぶ。

それから、テキストの3つめに強調された法改正は、
SDGs観点からも、既存住宅の活用。

空き家の増加も社会問題だが、
住宅の質の向上を、建築関係は導きたい。
が、しかし、法は改正されても、なかなか進まない。

これは、私が思うに、
費用対効果の見える化がなされていないからだと思う。

断熱改修や、断熱サッシの取り替えが
どれだけの効果があるのか、、、建築士が示せていない。

私自身も、知人や身内に提案するのだが、
お金をかけてまで、、、という反応が常である。
(相手からの要望ではなく、おせっかいごととして話した場合)

実感がわかないからなぁ。。。断熱効果なんて。
つくづく、一般の方への説明が難しい。

数値的なもので示しても、ピンと来る人は少ない。
体感しかないのだ、実は。

真冬に、断熱等級の違う部屋で過ごしてみるということでも
やらない限り。

結局、メーカーなどは、光熱費という形で
お得感を示し、設備投資を進めているのが現状だ。

幸い、私のクライアントさんは、
断熱に関しても、とても関心の高い方が多く、
これまでは、基準の最高値で(当たり前として)
提案させてもらっている。
もちろん、費用はかかりますとお伝えして。

どこに予算をかけるかのせめぎ合いですけれどね。
豪華なキッチンやお風呂よりも、シンプルで使いやすくし、

断熱など見えないところには、しっかりと費用をかけて
というやり方に、(写真映えはしないけれど)
住み心地は良い住まいになっているはず。
(そういう感想を頂く)

とにかく、今の時代と、今の社会課題を、
丸々と抱えているのが、建築の世界なのだ。

法改正のたびに業務が増えて、はぁ〜と、ため息もつきつつも、

より質の高い住まい建築=より良い社会

と、心して取り組みたい。


アントニオ・ガウディという生き方

2023年06月26日 | 模型・実験・見学・講習・イベント

サグラダ・ファミリ教会内部:樹木式構造


「好きな建築家は、誰?」

建築の学びの学生の間で、交わされるやりとり。

「最近、何が面白い建築?」

建築学科の、学生の間の日常会話の一つ。

「〇〇の展覧会が良かった!」

興奮気味に、感動を伝え合う仲間たち。

ガウディの建築に触れると、私はあの頃の
キラキラの、そして熱を帯びた学生たちの
建築熱を思い出す。

どこで、何を観るか。アレもコレも欲張りたい。
けれど、資金はなく。。。

一つだけ選べと、言われたたら?の質問に、
私は、迷いなく、「ガウディを観たい」と、答えた。

そして、スペインで実現させた卒業旅行。

今年は、その時の感動が蘇るだろうと、
一番の楽しみにしていたガウディ展が6月から始まった。



東京国立近代美術館で「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
を観てきた。やっぱり、今でも、私の中で、一番だなと確信した。



ガウディ建築に初めて出会ったのは、もう、30年以上前なのに、
いつも新鮮で驚きの連続だ。

TVCMで起用された、「サグラダファミリア」を
見た時の衝撃は今でも忘れない。

これが、建築なのか!?と、息を飲んだ。

そして、本当にこれが建築で良いのか!?
という疑問も湧いた。

造形的で、彫刻かと見紛う建物。

そのスケールも、飛び抜けていて、にわかに信じがたい。
それが、実際にその場に立って、目にした時、
このバルセロナという都市で、スペインの いち地域で
全く違和感を感じなかった。

風土に合った建築というは、確かに存在するのだと
実感したものだ。

スペインの車窓から見た赤土の色も、乾いた大地も。
行き交う人々の笑顔も。全て、ガウディ建築にマッチしていた。

私が、知ったガウディの凄さは、
構造計算のない時代に、自然の摂理を建築に生かしたところだ。

コロニア・グエル協会の地下で見た釣り糸の実験に感動。
そのモデルも今回、展示があり、懐かしい。



ガウディのことは、まだ詳しく知らない学生だろうか。



図面を覗き込んで、

「すげぇ。こんな形、構造計算なんかしてないよな」
「してないでしょ。直感でやってんじゃね?」

という会話が微笑ましい。
(計算、してるよ~。数字上ではなくてね。)と、心の中で呟く。
きっと、実験コーナーに行って、感動するに違いない。

その時代にあって、最先端を行こうとすれば、
自分で試すしかないのだ!

現地スペインで、知ったガウディの知識として感動したのは、2点。
その実験と、誕生日が私と同じで6月だったというところ。←えっ、そこ!?

奉仕の星座なのよねぇ。まさか、同じとはねぇ。

建築の実際の体感としては、
もう、凄すぎて、言葉にはできませ~ん。

カーブを描いている椅子の座り心地の、
柔らかさと包まれるような安心感。

厳かなはずの、協会の中の空間が、なぜか懐かしい感覚。

いつまでも、そこに居ていいよと言ってもらえるような
ずっと感じていたい心地よさ。

手仕事と、人間的なデザインからくる
まさに、人に愛を与える空間と表現しても
決して大袈裟にならない。と思う。

今回の展示で、そこには、
「奉仕の愛」があったのだと再認識した。

技術的には、破砕タイル幾何学
そういったものを建築に初めての取り込んだのが
ガウディとある。




その発想は、きっと、愛情深い思想からきているのだと、
私は思う。(感じるに近いかも)

出てきた形より、形を導き出した根本の
思想や思考に興味がある。

今回の展示で、学生時代のガウディの学びの精神や、
描こうとしていた世界観への理解が深まった。

その点では、確かに、良かった。

でも、やっぱり、映像や模型、図面では、
本物の感動は超えないあなぁと
ないものねだりもしたりして。

ガウディは、浮浪者のような格好で亡くなり、
国葬は、本人の遺言で、行われずとも、
多くの参列者が列を成した最期だったそうだ。

漫画家が、現地で調べたガウディの生い立ち紹介を
建築雑誌に掲載していたものでは
愛した女性との結婚も出来なかったようだし。
(お相手はお金持ちを選んだらしい)

そんなプライベートでは、恵まれなかった生き様は
ガウディを、建築のものづくりに向かわせた
神の悪戯だったのかもしれない。

歴史からの学び、建築の美への探求と実験、諦めないしつこさは理想の追求の証、
奢らないものづくりは、奉仕の精神から。
そして、サグラダファミリア協会に愛を注いだ一生。

これらが、今回の展示で、私の中に、
より深く刻まれたキーワードである。

そしてガウディの言葉の中では、
「人は創造しない。人は発見し、その発見から出発する」という言葉だ。歴史、自然の造形、

購入した図録で、ゆっくり、じっくり、再確認しよう。



展示では、半分ほど撮影かとなっており、
学生さんの学びの場としても、大いに役立つはず。

これから9月まで。建築学生さん以外にも
ぜひ、足を運んでほしい。

詳しくは、こちらをどうぞ。


石川県珠洲市の被災地支援

2023年05月30日 | 模型・実験・見学・講習・イベント

2日目は雨。宿から調査のお宅の移動途中休憩に寄った見附島。
能登珠洲市のシンボル的な風景です。

日曜日と月曜日の2日間に渡り、
石川県珠洲市の被災地支援に、行って参りました。

被災された方々には、お見舞い申し上げます。
(個人のお宅は、OKの方のみ、ブログに掲載します。ほんの一部です)

空き家の造り酒屋の被災の様子


倒壊した建物の解体も進む


ボランティアさんが、片付けを終えた蔵の様子


1日目は、住宅被災調査と勉強会と相談会、
2日目は、調査とボランティアの拠点である
社会福祉協議会のボラセン、
相談会場ともなった、お寺さんの被災状況調査でした。
曳家さんとも合流し、技術的助言。





今回のボランティアは、日本民家再生協会のメンバーとして、
建物修復支援ネットワークの長谷川さん、木村先生と合流。



地域の方々からは、被災の様子、心配ごと、
修復か解体かの悩み相談をお聞きし、

時に、近隣トラブルや、地域の課題なども、話は多岐に及びます。

被災した方々への支援制度や修復事例の紹介の説明会、勉強会には、
NHKの取材もあり、地元の夕方のニュースで取り上げられました。

NHKニュースの写真です




相談では、時に、第三者にしか話せない愚痴や嘆きも引き受けつつ、
2日間で、数棟の調査と慌ただしさは拭えませんでしたが
被災した方の励みになれば、幸いと思います。

片付けも、頑張られたお話を伺いながら、
熊本地震での片付けや土砂の撤去などの作業で
汗をかいたことを思い出しつつ、

群発地震に耐えた能登の伝統家屋の構造的な踏ん張りが、
被災した方々の片づけや生活再建の頑張りと重なり、
感動を覚えました。





しかしながら、同じ課題が繰り返されることに
残念な気持ちにも。それは、「応急危険度判定」への誤解です。

もともとは、2次被害を防ぐための応急危険度判定の赤紙が、
差別やいじめに繋がる、課題。

もうダメなのかと、住み手を落ち込ませてしまう現実。
ダメじゃないのに。

現場と制度の乖離は、熊本地震の前から、
ボランティアの方々から指摘されているのに、
是正が進まないことを、

ボラセンでは共有しながら、
次の活動にどう繋げるか、アイディア出しも行いました。

熊本地震でも、お世話になったボランティアの方とも情報交換し、
次に繋げるアイデアを共有できたことは、
やはり現地入りしないと、見えて来ないことがあると実感しました。

被災地に行くことを、躊躇される方も多くおられます。
でも、来てもらうことのありがたさを、
私は熊本地震で実感しました。

住まいの今後を考えて、被災者は、途方に暮れます。
そして、余震で心身ともに疲れます。

そんな中、建築の技術的助言や、片づけのボランティアさんが
どんなに心強かったか。

皆さま、まだまだ余震の続く中、
どうぞ、二次被害のありませんように。

そして、お疲れの出ませんように。。。

今後も、課題の共有や調査報告のレポートは、
日本民家再生協会の仲間とも共有しながら、
支援を続けていければと思います。

ご一緒した方々、本当にお疲れ様でした。



歴史的建物を訪ねる建物探検旅を、年内に無事に終えて

2022年12月26日 | 模型・実験・見学・講習・イベント


ヘリテージマネージャーの講座を受講していなかったら
出会わなかったかもしれない建築。

故安達謙蔵氏が、別荘として建てたその建物は、
今は、郷土資料館になっています。

正式名称は、「横浜市八聖殿郷土資料館」。

熊本の三賢堂→ 東京の哲学堂→ 横浜の八聖殿
と、年内に巡ることができました。

天井の梁が特徴的。


階段も八角形に添わせて変形


噴水も八角形なら、

門の柱頭も、八角形


建設時代の流れは、

明治42年~哲学大学(現東洋大学)創設者の井上円了氏が
全国巡業で講演や揮毫などで集めた資金で公園を拡張していった
東京中野区の「哲学堂」を参考にして、

昭和8年、安達謙蔵氏によって横浜の「八聖殿」が建てられ、
のちに、昭和11年に、熊本の「三賢堂」が建設されています。

後者の2つの建物が、熊本出身の政治家、故安達謙蔵氏の
「精神修養の場」として開放的な施設として、建てられたものです。

横浜の「八聖殿」は、1階が別荘で、2階が講堂。
8聖人の像があります。圧巻。

当時は、全館空調だったそうです。
天井にグリルも見受けられました。



熊本の「三賢堂」は、熊本ゆかりの3賢人が祀られ、敷地内に
隠宅があります。

なぜ、ここまで訪ねたかと言いますと、
熊本出身で、横浜に拠点を持ち、という点に
私と同じ!と親近感を持ってしまった、ためです。

それから、なぜ、熊本の三賢堂が円形のデザインなのか
謎だったからです。非常に不思議でインパクトの強い建物。

建てた「選挙の神様」と言われた政治家の故安達謙蔵氏。



まさかとは、思いながら、図書館に自叙伝もありました!
昭和35年8月2日発行、新樹社

幼少期に、西南戦争時に巻き込まれないよう
熊本の場所を転々と移られる下りは、
知っている地名も登場し、
その当時の苦労は、想像しがたいものの、
大変だったことは、想像できました。

建物を立てようと思った経緯や
聖人や、賢人を選んだことなども詳しく書かれていました。

残念ながら、自伝には、円形にしたデザイン経緯は、記載なし。
学芸員さんもきっと、当然同じ資料を読み込まれているでしょうから、
それ以上の発見は、ありませんでした。

でも、こうして、建物を訪ねて、
そのモチーフや、思想、作られた経緯を探る「建物探検」旅も
なかなかに、良いなと思いました。

今までは、子育て、介護、様々なことから
机上以外の勉強、出かけていくということが
何年もおろそかになっていました。

今年は、少し、自分を解放すべく
積極的に出かけていこうと決め、少しづつ時間を作っては
様々なところに、プチ一人旅をしてきました。
(時に数人旅)

動きたくても、動けないモヤモヤとした気持ちからの
開放というのは、本当にスッキリします。
ありがたいことです。

自伝を読んだおかげで、建築の資金集めが
呼びかけによる寄付+自己資金という仕組みは、
今でいうクラウドファウンティングさながらですし、

熊本にも建てる予定だからと、横浜の際には
同郷には寄付を呼びかけなかったりなど、戦略も分かりました。

銅像製作の人選選びに至るまで、実にきめ細やかに、
建築プロデユーサーでもある安達謙蔵氏。

さすが、政治家。
人と人をつなげ、そして実行する手腕と心意気。

やはり、政治家は最終的には建築を作りたがるものですが
この方もその一人なのだなと。

ただし、税金をつぎ込む昨今の政治家とは違い
私財ですからね.なかなかできないことです。
(といってもお給料は税金からですから、
出処は、同じかもしれません)

今では、いずれの建物も自治体に寄付され、
公的な運営に委ねられており、地域還元という形をとっています。

ただ、その建築の活かし方が、
両者では違ったことに、少しだけ違和感を覚えました。

横浜の八聖殿は、横浜の海の歴史を伝える場所が必要と
市民からの要求からこの場所が選ばれています。
また、講堂を活かし、歴史の講和なども開催。

熊本では、特に、講義などが行われる様子もなく
窓の開け閉めもされていない様子。

こちらは、八聖殿の窓。スチールサッシが美しい。


後者の方が後に建てられたのに
手入れがされていないのか、古びた印象でした。

建築って、やはり使われてなんぼですよ!

八聖殿は、展示ケースで一部の窓がふさがれたりして、
展示の仕方は、決して上手いとは言えませんが、
放って置かれる施設よりは、断然良いです!

1階の展示は、洋館の中に和のテイスト。


使い方については、いろいろと考えさせられてしまいました。

ここで、すれ違うのは犬の散歩の方ばかりでしたが
周辺の公園緑地も、眺めも素敵な場所でした。

海風を防ぐ松林は、当初のままでしょうか。


高いところにあり、主要道路からは伺い知れません。
そんな不思議な場所も、政治家さんの別荘ならでは。
とは、こちらの学芸員さん。

道路の部分は、以前は海。こんもりとした山の中に八聖殿はあります

以前は、崖の下は海だった話など、横浜の海の変遷をレクチャー頂き、
その点は勉強になりました。ブラタモリ的で面白かった、感謝!

本当に知らないことだらけですね。
街の変遷と、移り変わる歴史的背景と、そこに佇む建築。

時空を超えた感動があるのも、
建築探訪の醍醐味と改めて、感じました。

自分時間を少しだけ取れて、
暮れに満たされた1日です。

余談:
先週末、義母が2度の手術を無事に終えて退院。
まだ、自宅養生と自宅リハビリが必要ですが
なんとか、日常生活が送れるように。。。

そんなこともあって、プチ旅がなかなか出来ませんでしたが
家人が在宅の際に実行。時々は、こうして息抜きも必要と
改めて思います。

皆様も、いろいろなことが起こった一年だったことでしょう。
どうぞ、年末年始、ご無理のありませんように。。。