散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

様々なキリスト像

2005-09-27 08:00:00 | 美術関係

このところ友人知人の展覧会を訪ねる以外は現代美術の展覧会を鑑賞する事が少ない。何故なのだろう?まあ、そんな時期もあるということだろうか。。。
さて、ケルンのヴァルラフ・リヒャルツ美術館(Wallraf Richartz Museum)へ出かけた。
目当ては“Ansichts Christi – Aspects of Christ”、古代から現代までのキリスト像をテーマ別にまとめて展示しているなかなか興味深い展覧会だ。 ヴァルラフ・リヒャルツ美術館は旧市役所のすぐ近くに2001年に新築されコレクションが移動した。
O.M. Ungersの手による設計である。個人的には今まで見たこの建築家の建物はあまり好きではない。この建築家の手になるある建物のなかに入ると私には”居心地の悪い空間”を感じる。中にとどまる人と建物とのバランスが悪いとでも言ったらいいのか?それは人間と建物のスケールの違いというだけの問題ではない様に思えた。
とはいえしかしワルラフ・リヒャルツ美術館の建物に関しては幾つかの文句はつい吐いてしまったものの、展示室の感じはなかなか悪くない。
ところで建築物と言ったらこの美術館のすぐ斜め前に建っている旧市役所の事を一言書いておかなければいけない。
この旧市庁舎は1407年から1414年に建てられたもので、塔に十字架が無い事から教会ではない事がしれるが、まるでゴシック教会の建物のような趣をそなえている。
                   
この市庁舎は61mの塔を持っており、当時ヨーロッパで一番高い塔であったことは街の自慢の種であった。当時のケルンと言う街が華やかであった事がこれからもうかがわれる。市庁舎の中は1570年頃のルネッサンス装飾。ケルン在住でありドイツ国籍であればここで現在結婚式をすることも出来るそうだ。利用希望者が多くなると問題がおきるのでこの利用者限定の枠が儲けられたのだろう。
残念ながらまだ中には入っていないので報告できないが、なかなか見ごたえがありそうなので見学は次回に回すことにして、美術館に戻ろう。
展覧会の入場券10ユーロ、オーディオガイド3ユーロ。展覧会閲覧料金も高くなったものだ。EU統合後何が変わったといって物価の上昇は目覚しくあまりにすばやく天に向って昇って行くのでこちらの財布は追いつかないばかりか気持ちも追いつかない。
兎に角ドイツマルク時代の倍と言っても言いすぎでない。そんなことでぶつくさ言いながら会場に入った。
                 El Greco
場内に入るといきなりエル・グレコの“キリストの復活”が目に迫る。(実を言うと私はグレコがあまり好きではない。これはおおいに感覚的レベルでおこっていることで、何故かという理由は探らずに、ここではこのまま放っておいて逃げる!)
最初の部屋は“復活”テーマであり、他6つのテーマ別展示である。古代から現代まで様々な形で描かれてきたキリスト像を追って眺めて行く趣向はなかなか興味深い。
                        Paolo Veronese 
ドラマティックさが鼻につくPaolo Veroneseの復活だが、こんな風に描かれるとわかりやすかったのかもしれない。豊かな色彩とマニエリスム的構成で描くヴェロネーゼの絵はイタリア気質見たいなものを感じる。
Claude Mellan ”ヴェロニカの布” 版画。 微妙に線の幅に変化をつけつつ、鼻の頭からうずまき線でキリストの顔は描かれている。ものすごい根気だ。これを描くというのは祈りのようなものであったのではないだろうか。
                       
展示された作品群はこれと言った大目玉(!)があるわけではなかったように思うが、フィリッポ・リッピのキリストの磔刑を描いた小品は小粒の真珠と言う感じ。
ティエポロやデューラーの銅板画はいつ見てもいいものだし、フラ・アンジェリコのキリストの肖像などが並ぶ横に、ピカソの“磔刑”ヨーゼフ・ボイス、イヴ・クラインなど現代作家によるキリスト教との対峙、表現の変化を比較するのはまた面白い試みだとおもう。
もう少し規模が大きかったら見ごたえがあって良かったかもしれないが、そうすると鑑賞者の集中力が持たないのかも知れない。
特別展会場を離れてから常設展もさっと流して見ることにした。
                     
ここには有名なシュテファン・ロッホナーの”薔薇垣の聖母” がある。やさしげな表情、でちょっとおでこが広くて愛らしい口元の聖母だ。
中世宗教画から始まって上の階に上がるごとに時代も進んでゆく。今回久しぶりに見て心ときめいたのはフランツ フォン シュトックとルドンのあまり有名でもなさそうな小品。
シュトックの大蛇を体に巻きつけた挑発的な女の表情がいいし、ルドンの小品の色の輝きは宝石のようで心をくすぐる。マックス・リーバーマンの風景画はさりげなく居間に掛かっていたらいいなあと思う一品だね!などと、そんなこと思いながらも思わず一回りしてしまい、歩き回って棒のようになった足がすっかりいうことをきかなくなりそうだったので切り上げて外に出ようとすると館内の本屋入り口に楽しそうな本がぞろぞろ並んで手招きしているではないか。
まずいなあ。。。見ちゃいけない!止まってはいけない!振り切って走り去れ!という声が頭の中でなり響くし、くたびれた足は早くも出口に向って動こうとしているが、気持ちは本屋に入ってしまいバラバラになった体をどうにか繋ぎ合わせて仕方なく(!?)本屋を一周した。
ヘルマン・ヘッセ編集の“中世物語”。これはヘッセがラテン語から翻訳している信仰がらみ中世の逸話集だ。もちろん購入。(もちろんの意味不明!)鉄の自制心(?)と財布の中身との相談でとりあえず選んだ数冊の本をもう一度棚に納め改めて1冊だけ選んだのだ。(いや、自制心の勝利ではなく、ただくたびれすぎていただけかもしれないけど。)
ふと窓際の飾り棚に目をやると思わず欲しいものが見つけてしまった!
ヒエロニムス・ボッスの絵の中のキャラクターを立体に起こしたフィギュアが並んでいたのだ。背中が卵の殻になった男やら、奇妙な生き物達が立体になっていて大体20から30ユーロほどの値段で買える。なんだか楽しい。う~ん、魅力的だ。
しかしここはぐっと我慢してクリスマスまで待つことにし、ベリベリッと体を引き剥がすようにして本屋を離れ、美術館の出口に向った。 気がついたら喉はからから、お腹はぺこぺこ、足はじんじん、頭はぐらぐら。

Wallraf Richertz Museum, Koeln."Ansichten Christi” 7月1日から10月2日まで。