大晦日
朝8時過ぎ薄明るくなった頃、街の市場に出向き食材を求める。
風邪の具合もだいぶ良くなって咳も"ほぼ”止まってきたので順調に大晦日晩餐会準備が進んだ。
いつも申し合わせた時間には現れないことで有名な友人達が約束の”夜9時”を5分ほど回ったころに到着したのは、すっかりお腹が空いていた所為なのかもしれない。
ドイツ人のM,ポーランド人のA、相棒と私の4人はシャンペンを開けてまず乾杯をしてから台所に突入した。
大きな荷物を抱えて鍋まで持参して来た友人Mは早速前菜を作り始めた。(Mは前菜一品とデザート担当)
豚フィレステーキのチョコレートソースかけと付け合わせはかぼちゃとサツマイモのピューレだ。
『これって前菜だよね?』と私が目を丸くして聞いてしまうほど厚切りフィレ肉がこってりとしたチョコレートソースの中で転がっている。
なんにしろもうすでに時計の針は10時に近付いている。お腹の虫は大声で鳴き喚いて暴れていたので、出来上がると早速パクパク平らげてしまった。
少し人心地がついて、今度は帆立貝のバター焼きという順である。
付け合せは湯がいたマンゴールドと紫のジャガイモに人参とジャガイモのピューレだ。紫ジャガイモがあんまり綺麗な色をしているので驚いた。この色ならば他に面白いことが出来そうであるな。。と私の実験魂が頭をもたげたのは言うまでも無いのだが、実験している暇は無いので今回は湯がいて飾りに使っただけだ。
久しぶりにこんなに新鮮な帆立貝を食べたのでそれだけでもう既に大満足だ。
後ろに控えるラム肉料理の前に口直しの"柿と白ワインのシャーベット”を舐めているともうすでに年明けまで後15分となった。
間もなく外が騒がしく花火が上がる音が聞こえ始めて新年に入ったのに気づくという、おっとりした私達は新たに開けたシャンパンの壜を抱え、互いに挨拶を述べて、周りの花火を眺めたり、友人が持参した花火をあげたり、飛んできたロケット花火の殻が私の頭に落ちてきて吃驚したりもした。これは危ない。来年はヘルメットをかぶるべきだと笑って済んだのは幸いで、毎年花火による火災や爆発事故も多く元旦のニュースでは早速花火事故の話題が流れている。家が燃えたり爆竹で手や指がちぎれたりという話がこの大晦日も会ったというから怖い。
そういえばベルギーはテロが怖いと今回花火禁止令、フランスも去年の若者達の騒動もあってやはり花火禁止だったらしい。花火が手に入らないといってベルギー、フランスからドイツに花火を買い付けに来た輩もいたようで、コントロールに遭い没収されたという。それまでしても花火をあげたいんだろうか?
さて、一通り儀式も済んでさて、主菜のラム腿肉である。
腿肉を骨からはずしてディジョンマスタードを塗り、古いパンと干し果物を混ぜ合わせた物を載せ、肉を巻いて糸で縛り数時間寝かせておく。それを程よく焼いて茸とマデイラ酒をベースにしたソースをかけるのだ。
ちょうど良く焼けたラム肉は下手な牛肉などよりずっと美味しいと私は思っている。
しかしこちらでたびたびラム肉(実はどんな肉にも言えることなんだけれど)がすっかりパサパサに料理されて出てくることが多い。そういう料理は一口目は美味しくともすぐに飽きてしまうのだ。
。。。と、そんなことを言いながらも結局は元旦料理となったラム肉料理に舌鼓を打った。
もうこれ以上食べられないよ、といいながらもデザートの入り場所はちゃんと空けて持っている私達だ。
友人Mは大きな焼きメレンゲを作って持ってきていたのだが、その上に梨の砂糖煮、泡立てた生クリーム、溶かしたチョコレートを重ねて行く。
これは何人分だ?
一目見るだけで完全にノックアウト負けしてしまいそうな強さなのだが、メレンゲは大好物でもあることだし、ここまで来たならとことん食い尽くす覚悟とばかりに(なんだか喜びの背後に悲壮感もうっすらと滲む)皿に大きな取り分け匙でドッテッと"それ”を積み上げた。
前菜にチョコレートソースを浴びたフィレ肉、締めにもチョコレートたっぷりデザートを選んだ友人Mの胃袋はいったいどうなってしまっているのか? と私はすでに言葉少なめになりながらも目の前に崩れ落ちかけている甘い山を食べ続けた。
結局9時から3時過ぎまで作ったり食べたり出来た私達は元気という他言葉無しである。これを読んで胸の悪くなった方もいるかもしれない。
いつもなら午前1時が最終電車だが、大晦日は朝まで一時間に2本出ているというので、4時頃外に出てみれば冷たい霧が怪しげにタユタユと忍び寄る。
霧の中では街灯や車のヘッドライトが前を歩く人のシルエットを浮かび上がらせる。影絵劇の様でなかなか面白く、しばらく眺めていて飽きないのだった。
停留所まで友人達を見送り辺りを見回すと、待合所の囲いガラスはすっかり壊され、ビール瓶の破片と共に通路に積もって惨憺たる有様だ。酔っ払った奴等の喧嘩の後なのか、見境無くなった酔っ払いがガラスにぶち当たったのか知らないが困ったものだね。
明け方の電車内はかなり酔っ払いの若者がクダ巻いて咆哮・彷徨していたようだった。
というような具合に2008年に滑り込んだのだった。
生グリーンペッパー、
青唐辛子の微塵切り入り
一口メレンゲ
フランスの山羊チーズ2種と
木瓜とマスタードの
自家製チャツネ
ビターチョコレート、
薔薇胡椒、
ブイヨン、
赤ワイン、
サワークリームからなるソース
をかけた豚フィレ肉と
カボチャサツマイモピューレ
帆立貝のバター焼き、
シェリー、
ブイヨン、
自家製ライム胡椒
バターと
少々の生クリームを
泡立てたソース。
口直しの
柿と白ワインの
シャーベット
しかし、柿の味が
しなかったので残念
ラム腿肉と茸(シメジ、アミガサダケ)ソース
食後の一品