つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

アントキノイノチ

2018年06月10日 15時09分12秒 | Review

さだまさし/幻冬舎文庫

 2011年8月5日初版、2011年10月31日第三刷。「アントキノイノチ」はアントニオイノキをもじった落語風の小話集か何かだと、読む前に決めつけていた。本文でもそのことに触れた部分があり、著者も気にしていたのかと笑えた。しかし、これは本当にさだまさしが書いたモノなのか、どうも今一つ信じられない。

 当初、お題から「アントニオイノキ」に掛けた落語風のチャラい話かと思っていたが、冒頭いきなり引きこもり風の病気っぽい主人公が出てくる。遺品整理会社の社員らしい。何度も出てくる生々しい「人の死」、痕跡、そして遺品。これはなかなかチャラいどころかとても重いマジな話しだった。

 登場人物を見ていると、人はいろいろなものとぶつかり合い、傷だらけになりながら生きていくものなのだなとつくづく思う。自分では瀕死の重傷、世界が崩れ落ちると思うほどのことが、他の人と比べると、そう考えるのが恥ずかしいような、とんでもない甘えのような、まるでほんのかすり傷になってしまうこともある。そして生きようという勇気が湧いてくる。「アントキノイノチ」は「あの時の命」だった。ラスト、雪ちゃんの告白はちょっと衝撃的。松井との再会は出来過ぎているが。

 著者は本当に遺品整理屋さんを取材し、主人公、松井、山本、菊田という傷つきやすい青春時代を併せて「人生と命」をドラマチックに展開している。忙しい音楽関係の仕事があるのに、よくそんな時間があり、そんなことが出来るものだと感心するし、本当にその多彩な才能を羨ましく思ってしまう。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする