つむじ風

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茨の木

2018年06月13日 22時14分18秒 | Review

さだまさし/幻冬舎文庫

 2011年4月15日初版。「茨の木」=茨木(城)で、また面白い小話かと思ったが何の関係もなかった。兄に認知症が発症したというのに、見舞いも無しに、いきなりイギリスへ行くものだろうか、ヴァイオリンがいくら気になったからといってもちょっと唐突な設定のようにも思う。

 モデルは著者が中学生の時に買ってもらったヴァイオリンらしいが、著者のヴァイオリンに対する憧憬が余すことなく描かれている。ヴァイオリンという楽器の価値、楽器としての評価も。スコットランド、ロンドンから北へ、リバプール、マンチェスター、シェフィールドといった大きな町がある。更に北西へ向かうと湖水地方がある。ちょうどマン島の右手。そして、更にその北西にグラスゴー、エディンバラがある。グラスゴーは造船の町、ヴァイオリンの生産地でもあると同時にアメリカ西部開拓のフィドルのルーツでもあった。

 喧嘩をしようと、何をしようと切っても切れないのが家族の絆、ヴァイオリンのRootsを探す旅=自分の家族と向き合う旅、それを確認する旅でもあった。初恋の浅野先生のこと、自分の女房(冴子)のこと、そして旅の間に巻き込まれた響子のこと、その元・夫のこと。ここまで生きてくると悲しいこと情けないことが多すぎて、いろいろなことを知り過ぎて疲れてしまう。いやにリアルで、立ち直るのに時間が掛かるのは致し方ないが、花子の存在だけが救いのような気がしてくるのが不思議だ。