つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

ポーの話

2015年01月18日 18時54分28秒 | Review
 いしいしんじ/新潮社文庫
 
 2008年10月1日初版、2011年5月20日の2刷。かなり変わった作品。推理小説でもなければ時代小説でもない。どちらかというとちょっと小汚いファンタスティックな作品。だからと言って子供向けの作品と言う訳ではない。人によっては難解と言えるかもしれない。最近ではとんとお目に掛からない類のものだ。何でもこの作品は三島由紀夫賞候補になったこともあるとか。

 とにかくいろいろなものが登場する。「ポー」自体が人物なのか、河童なのかウナギなのか、はたまた天使なのか判らないけれども、うなぎ女、天気売り、メリーゴーランド、ひまし油、犬じじ、子供(犬)、少年、埋め屋の亭主と女房、うみうし娘など。いずれも現実離れした個性の持ち主で、主人公ポーとの関わりの中で登場する。主人公ポーが持つ生活感はおそらく著者の生活感と同じ。世の中がこんな風に見えているのかも。
 一貫していることは、413p「見えない相手を、揺れてる透明な水の中に、思いえがけることが素敵。目の前に、くっきり見えているものしか信じられなくなるのが、いちばんつまらないし、いちばん悲しい」という唯心論的志向だ。

 ポーの素直で純粋な目を通して俗世間を見ることで、その裏に隠れた「大切なモノ」が見えてくるような仕組みがある。本当の悲しみ、本当の償い、本当の絆、本当の思い。

 この作品は「川」がとても重要な役割となっている。雨が降り、やがて川を形成し、上流から下流へ流れ下り、やがて海へ流れ込む。しかし、海では盛んに水が蒸発し雲となって山の方へ流れてゆく。まるで輪廻転生であるかのように。そんな暗示がある。ところで、モチーフとしての「川」はやはり隅田川か、それとも木津川か大和川か。いや、やはり万代池なのかな。



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